理事長室の前にやって来た俺達。高坂が扉の前で固まって既に2分くらい経ってるな。
「生徒会室よりも更に入りにくい空気がッ!」
「そんな事言ってないで早く入りなさいよ」
西木野に急かされる高坂。もう南に任せた方が早いと思うんだが。
「よ、よーし…行くよ?」
高坂が意を決して扉をノックしようとしたその時、理事長室から希さんと絵里さんが出てきた。正に神タイミング。
「貴女達…部活動の内容に対する申請は生徒会を通す決まりよ…」
「別に理事長に話があっただけよ」
「真姫ちゃん、上級生だよ」
高坂が西木野を抑える。珍しい構図だな。そんな様子を見かねたのか、理事長が理事長室の中で話す様に促した。
☆☆☆☆
「へぇ…ラブライブ?」
「そうなんです!このラブライブで注目を集める事が出来れば学校に生徒を集められると思うんです!」
精一杯理事長にメリットを伝えようとする高坂。だがそこで絵里さんが黙っているとは思えない。
「予選落ちなんてしたりしたら学校の名前に傷が付くだけです…」
「エントリーするくらいなら良いんじゃない?」
絵里さんの抵抗虚しく理事長に一蹴される。だが絵里さんも引き下がらない。
「なら、今度の期末テストの結果によって決めませんか?」
「と言うと?」
「今度の期末テストで1人でも赤点を取ればエントリーを認めないと言うことで。理事長は前に仰いましたよね?“学校の為に学生生活を犠牲にしてはいけない”と。学生の本分は勉強です。となれば、学力もある程度は保たないといけませんよね?」
気のせいか絵里さんが悪い笑みを浮かべている気がする…ま、まさか絵里さんは高坂が数学が苦手だと知っていてこの条件を!?完全に正攻法で潰しに来やがった!
「そうねぇ…元々赤点の生徒は部活を休んでの追試があるし…条件としては妥当ね。ではラブライブへのエントリーはその条件付きと言う事で。異論は有りませんね?」
「ま、まぁ高坂以外は大丈夫………じゃあ無さそうだな…軽く詰んでね?」
理事長は絵里さんの提示した条件を了承した。高坂の他には矢澤先輩と星空が泣いていた。これは冗談抜きにヤバいかも知れないな。
☆☆☆☆
「勉強してたのに何故俺は公園で園田と絵里さんの気まずい空気に巻き込まれているのか」
高坂達の勉強を見た帰りに偶然弓道部帰りの園田と遭遇。ここまでは良かった。だがその後、校門でμ'sの曲を聴いていた少女と出会う。……これもまだ良いか。ファンなら喜ばしいだけだしな。でもその少女が持っていた音楽プレイヤーに映っていたライブの映像はアップされていた映像とは違う映像だったのだ!
いや、厳密には同じ映像ではあるのだが、音楽プレイヤーに映っていた映像が完全版と言った方が良いだろう。つまりその映像を持っている人間がファーストライブの映像を動画サイトにアップした犯人と言う訳だ。だからちょっと映像を持っていた少女に問い掛けたら…絵里さんにシバかれた。少女は絵里さんの妹だった。映像を動画サイトにアップした犯人は絵里さんだったらしい。
「…ツカサ?話を聞いてるの?どうして亜里沙に声を掛けたのかを聞いてるのよロリコン」
「ナンパで声を掛けた訳じゃないのは分かってるんですよね!?」
「ツカサはロリコンなんですか!?」
「何故そこで真に受け「知らなかったの?ツカサは真性のロリコンよ」絵里さん!?何を言い出すんですか貴女は!?公園でロリコン宣言されたら死ぬしか無いじゃないですか!」
ヤバい、何で俺がロリコン認定されてるんだ!?確かに絵里さんの妹を見た時に『この子将来超美人になるんだろうな』って思ったけど!疚しい気持ちは無い!……無いよな?
「これどうぞ!」
絵里さんの妹…亜里沙…うん。絢瀬(妹)としよう。絢瀬(妹)が缶を渡して来る。有り難く頂戴しよう…ん?
「お、オーディンだと…」
「おでんね。亜里沙、それは飲み物じゃないのよ。だから別のを買ってきてくれる?」
「ハラショー…!」
絢瀬(妹)は絵里さんに言われた通りにまた自販機に向かった。そんな事しなくても良いのに。食べるから。
「頂きます」
「「えっ?」」
おでん缶の蓋を開けて食べる。うん、小腹が空いてたから丁度良い。
「………………ど、動画をネットにあげたのは生徒会長だったんですね。あれが無ければ私達はこうして…」
「や、やめて……別に貴女達の為に動画をアップした訳じゃないわ。貴女達が如何に人を惹き付けられないかを証明したかっただけだから…その計画も逆効果だったけど…」
「俺達からしたら旨味しかない結果になりましたからね……あれ?これ糸こんにゃく入ってないタイプ?」
実際絵里さんは自分の首を絞めた結果になった訳だが…でもまぁ最初のライブであれだけの再生数が出るとは誰も思わないだろう。
「人を惹き付ける事が出来たら…私達の事を認めてくれますか?」
「無理よ」
園田の言葉に冷たく答える絵里さん。
「貴女達スクールアイドルは素人にしか見えないの…一番実力のあると言われているA-RISEも含めて…」
少し申し訳なさそうに俺の事を見ながらも絵里さんは言い切った。
「全員素人にしか見えない」
それは以前俺が生徒会室で聞いた言葉そのままだった。
☆☆☆☆
「さて、最後は高坂の結果を待つだけだが…」
テスト返却日。矢澤先輩と星空は何とか赤点は回避した。後は高坂だけだ。園田が気合を入れて勉強を教えて居たから心配は無いだろう。
そう思った矢先、部室の扉が開いた。
「どうだった!?凛はセーフだったよ!」
「私達の努力を無駄にしてないでしょうね!?」
星空と矢澤先輩が高坂に詰め寄る。星空はそれなりに努力してた気がするが、矢澤先輩は希さんにわしわしされてただけな気もしなくは無いが。
「うん…もうちょっと良い点数だと思ったんだけど……じゃーん!」
高坂が見せたのは53点の解答用紙…ギリギリセーフかよ!!
「これでラブライブにエントリーしに行けるね!早速理事長の所に報告しに行ってくる!」
高坂は理事長室に向かった。理事長に話しに行くのに廊下を走るなよ。
高坂に追い付いた俺達は予想外の言葉を聞いてしまった。
「来年度から新入生の募集を止め…廃校にします」
その場には絵里さんも居た。
赤点なんざ怖か無ぇ!野郎オブクラッシャー!