さて、背後から感じる視線をどうしようかと思考を巡らせる。視線を無視して生徒会室へ向かうか、ここで視線の正体を掴む事に挑戦するか…。
「……とりあえず顔だけでも見てみるか。走ってついてくれば、目的は俺って事で確定だな…」
そうと決まれば全力で廊下を走る。廊下を走るな?そんな物は知らん!気味の悪い視線に耐え続けるよりも教師に怒られる事を選択した方が幾らかマシだ。そしてやっぱりストーカー紛いもしっかりとついてきている。やっぱり結構足が早いな。
廊下の曲がり角で足を止めて待機する。ここで捕まえよう。
「さて、ご尊顔を拝みましょうかね」
足音が近づいてくる。走ってるな。
「そおいっ!」
曲がり角を曲がろうとした人影を捕まえた。すると、捕まえたと同時に悲鳴があがる。
「に゛ゃー!?」
猫?いや、明らかに人だった。オレンジ色のショートヘアー。制服のリボンの色は1年生の物だった。ストーカーの犯人はこの猫モドキだろうか?
「は、放すにゃ!この変態!」
「初見で変態呼ばわりは失礼過ぎるぞ猫モドキ」
「誰が猫モドキにゃ!凛には星空凛って名前があるにゃ!」
「俺にも綺羅ツカサって名前がある」
「かよちんを拐かす変態は変態で充分だにゃ!」
バタバタと暴れながら抗議する猫モドキ基、星空。しかし身長が少し低いせいで、ぶら下げられた猫状態だ。
「つーか、かよちんって誰だ?」
「かよちんはかよちんだにゃ!」
あっ、バカだコイツ。高坂と似たタイプだ。
「ニックネームで言われても分からんぞ猫モドキ」
「また猫モドキって言ったにゃ!かよちんは小泉花陽!そんな事も知らないで彼氏面するとは片腹痛いにゃ!」
「誰が小泉に対して彼氏面してるって?小泉と交流なんて殆んど無いぞ?」
「えっ?」
俺の言葉を聞いてピタリと動きを止めた猫モドキ。とりあえず、大人しくなったので下におろした。
「えっ?じゃねぇよ。誰からそんなの聞いた?」
「この前夕方に2人で歩いてたのを見たってクラスの子が…」
「偶然会って、時間も遅かったから送って行っただけだ」
「そ、そのまま送りオオカミしたのかにゃ!?」
やっぱりコイツバカだ。
「そんな訳あるか…本人にも聞いてみろよ。否定するだろう」
「かよちんは内気だから否定するに決まってるにゃ!姑息な事を!」
「それを言ったら話しは平行線だろう。スクールアイドルについての相談って言うか、話しはしたが疚しい事はしてない」
「スクールアイドル?やっぱりかよちんはスクールアイドルやりたいのかな…?」
スクールアイドルと聞いた途端に星空が考え込む。自分の事の様に真剣に考えているのがよく分かる。
「やりたい事があるなら迷わずやるべきだとは思うんだけどな」
「うん。凛もそう思うにゃ!かよちんは可愛いし、アイドルにずっと憧れてたし!」
「なら、お前が背中を押してやれ。友達ってのはそうだろ?」
「……もしかして、変態…いや、ツカサ先輩は友達居ないのかにゃ?」
「………」
無言で目を逸らした自分は悪く無い。
「……ぼっちだにゃー…」
「………と、とりあえず、小泉の事は頼んだぞ。じゃあ、生徒会に行かないといけないから失礼します」
「動揺してる…可哀想にゃ」
星空の言葉は無視して生徒会室へ向かった。泣いてないからな?大丈夫だからな?
☆☆☆☆
「遅かったわねツカサ?何か…あったみたいね。どうしたの?」
「何か“自分に絶望した”って顔になっとるよ?」
生徒会室に入ってからノータイムで会長と副会長に心配された。顔に出てたらしい。
「……会長は俺の事をどう思ってます?」
「えっ!?…えっと…それは…」
会長が即答出来ない…まさか…
「頑張れエリチ!勇気を出して告げるんや!」
勇気を出さないと言えない事…やっぱり…
「私はす「やっぱり会長も俺の事をコミュ障ぼっちだと思ってるんですね!うわー!」…えっ?」
恥も外聞も無くマジ泣きした。
☆☆☆☆
「落ち着いた?どうしたのよいきなり…」
「すびまぜんでじた…」
急にツカサが泣き出すから驚いたわ。普段は感情を表に出さないから…本当に私や希みたいに不器用なんだから…
「それにしてもコミュ障ぼっち…まぁ人付き合いが苦手で友達も少ないのは間違ってないけど、そんな風に言われたら確かにウチも辛いなぁ…南さんと星空さんもエグい事を言うなぁ」
「いえ、俺の性格が悪いんですよ…ひっぐ…」
「もう…よしよし…大丈夫よ。貴方は少し不器用なだけ。周りとの距離が分からないだけよ」
「でも他人にあんまり興味が湧かないんです…何か自分以外の人間なんて、訳の分からない“ナニか”って感じで…」
完全に卑屈モードに入ったわね。初めてこの状態のツカサを見たのはツカサが音ノ木坂入学してすぐの時だったかしら。普段は隙の無い立ち居振舞いをしているけど、一度崩れると脆くて繊細なのよね。ツカサにはお姉さんが居るらしいけど、大変なんじゃないかしら。
「会長、何を笑ってるんですか。俺が泣いてるのが面白いですか!?人が真剣に悩んでるのにッ!」
「ち、違うの!別に貴方を笑った訳じゃないのよ!の、希も何とか言ってあげて!」
「人の不幸を笑うなんて…エリチ酷いやん!」
「ちょっと希!?」
しまった、フォローを求める相手を間違えた!この状況で希がまともにフォローしてくれる筈が無かったわ…
「と、とりあえず、細かい仕事は終わってるから、目安箱を見ましょう!」
強引だけど、話題を変えるしか無いわ!賢い可愛いエリーチカに似合わない強引なやり方だけど、他に方法が思い付かないんだもの。助けてお婆様…
☆☆☆☆
「じゃあ、1枚目…『最近学校の近くで不振な人を見掛けます。マスクにコート、サングラスの怪しい出で立ちです。腹パンしても良いですか?』」
「これは普通に学校側から注意喚起してもらいましょうか」
「そうやね。返事は…危険だから腹パンはやめましょうって書いとくね」
何とか平常心に戻ったツカサが答えてくれた。希もちゃんと応対してくれている。良かったわ。
「じゃあ次ね…『剣道の大会で優勝した高坂さんが我が剣道部を退部してしまいました。結局園田さんも弓道部ですし…なので代わりにツカサ君を剣道部に下さい』……剣道の大会で優勝したのも廃校を止める為だったわね…」
「そうですね。まぁ優勝したにもかかわらず、生徒は増えなかったんですけどね。しかも優勝したのは個人戦だからあんまり学校には関係無いのは確かですよね。チームとして強いなら生徒は増えるかもしれませんけどね」
「この投書を見る限りは他力本願やし…弓道部は兎も角、剣道部はあんまり部として質が良くなくなってるかもしれんね…」
確かに希の言う通りかも知れないわね。音楽の盛んな音ノ木坂だったけれど、最近は成績も良くない…だからこの状況なの?私じゃ何も出来ないの?
「とりあえず、貸出しはしませんって事で…会長?どうかしましたか?」
「え…?な、何でもないわ…次に行きましょう!」
「エリチ…」
心配そうに希が私を見る。大丈夫。まだ学校説明会でこの学校の魅力を伝えれば希望はあるわ。
「えーっと…『生徒会ってぼっちの巣窟なんですか?』………なんてタイミング…別にぼっちじゃないわよ!」
「へへ…やっぱりコミュ障でぼっちなのか俺は…」
「そんな事は無いで!ウチらがおるやん!エリチも!それにμ'sの皆だって友達やん!」
必死にツカサを慰める希。あれ?私もなんだか悲しくなってきた。
「ふふ…そうよね。私も希とツカサ以外に親交が深い人なんて居なかったわ。自己紹介の時も素っ気ない態度を取って…孤高を気取ってこのザマよ。賢い可愛いエリーチカ…ふふ…」
「エリチまで壊れた!?もうウチだけじゃ収集つかんよ~!」
☆☆☆☆
気が付いたら生徒会室が暗い空気に包まれていた。会長はホワイトボードに向かってブツブツ言ってるし、副会長は机に突っ伏して微動だにしないし…
「………μ'sの練習見てきますね」
屋上行ったら西木野と小泉と星空が新しく加入していた。何があったし。
大事な瞬間に立ち会えないコミュ障特有のスキル。
目安箱に入っている投書の内容を募集します。詳しくは活動報告にて。宜しくお願いします。