IS 〜バイクと名人とSchoolLife〜   作:無限の槍製

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最終決戦!


第82話 一夏 〜GAMEはここで終わらせる〜

12月27日(火)AM11時26分

 

聖都大学附属病院

 

とある病室に木綿季はこの3日間毎日通っていた。病室のネームプレートには九条桐也の文字。ダグバとの戦いの後奇跡的に一命を取り留めた桐也はすぐに病院に運び込まれ治療を受けることになった。

 

「………」

 

「やっほー木綿季さん」

 

「本音ちゃん……」

 

「まだ、起きないんだね…」

 

病室にやってきたのは本音。彼女もこの3日間病室に通っている1人だった。

 

本音の言う通り桐也はあれから目を覚ましていない。峠は越えたらしいが容態が急変する可能性もゼロではなかった。

 

「初めて彼が仮面ライダーになった時、ここまで戦いが激しくなるなんて思ってなかった。未確認もバグスターもそれなりに倒して、それなりに平和な生活を送れるって思ってた」

 

「でも、現実はこの有様。高校生が背負っていくような宿命じゃないよね」

 

「彼が怪我をするたびに思った。今すぐにでもベルトを取り上げて普通の高校生に戻すべきだと」

 

「でも桐也は変身した時点で普通じゃなくなってる。小さい頃からの責任をずっと感じてるような人だもん。きっともう一度ベルトを手にしてたよ」

 

「今でも覚えてる…彼が初めて変身した時のこと。私を助けてくれた……あの頃から誰かのためになりたいって思っていたのね…」

 

「その時から目の前の出来事から逃げないって決めたんだろうね…だから臨海学校の時も逃げなかった……」

 

誰よりも面倒ごとを嫌い、誰よりも逃げることを嫌った。誰よりも楽することを優先し、誰よりも他人を優先した。嘘に塗れた桐也だが友人達の前で見せた笑顔は本当の笑顔だったはずだ。

 

「……今日なのよね…」

 

「さっきすれ違ったよ。私には何もしてあげられないから、『いってらっしゃい』ってだけ伝えたよ」

 

「私は何も言えなかった……傷だらけの親友が目の前にいて辛いはずなのに…笑顔で『行ってきます』って…」

 

木綿季の瞳から涙が溢れる。木綿季の拳に力が籠る。何も出来ない自分の無力さに腹が立つ。ただ待つことしか出来ない、祈ることしか出来ない自分が嫌だった。

 

「悔しいよね……でも待つことしか出来ないなら…せめて笑顔で迎えてあげようよ。帰ってきた時に『ああ、帰って来れたんだ』って思えるように」

 

「そうね……本音ちゃんは強いわね…」

 

木綿季のそれがどういう意味なのか……恐らく全てを分かった上での『強い』なのだろう。

本音は木綿季とは違い仮面ライダーに変身できる。しかし彼女の力ではダグバには勝てない。それは本音自身が1番分かっている。

 

戦う力があるのに待つことしか出来ない。それでもそれが自分に出来ることならと、自分に言い聞かせて。

 

「帰って来てね……一夏…」

 

 

一夏が病院を出ると外は一面雪景色だった。昨日の夜にかなり降ったようだ。

一夏は病室から持ってきた爆走バイクガシャットをキメワザスロットホルダーに装填しレーザーレベル2を召喚する。

 

「一夏!」

 

バイクに跨りヘルメットを被った一夏の元へ箒が走ってきた。息を切らしながらも駆け寄ってくる。

 

「はぁ……はぁ……行くのだな…」

 

「…ああ」

 

「…………行くなとは言わない。仮面ライダーがそういうものだと分かっている…分かってしまった………お前がどういう奴なのかも分かっている…………だが、必ず帰ってきてくれ」

 

箒は一夏に白いブレスレットを渡す。それは待機状態の白式だった。

 

「私に…私たちに出来るのはこれが精一杯だ……本当に不甲斐ない」

 

「いいんだ。ありがとう、俺の為に」

 

一夏はブレスレットを身につけバイクのエンジンをかける。

ふぅ、と息を漏らす。このまま進めば生きて帰れる保証はない。でもここで立ち止まればみんなの明日の保証はない。

 

「……いってくる」

 

「……いってらっしゃい」

 

雪降るこの日、この時、箒に見送られ一夏はかつての学び舎へと向かった。

 

 

雪が少し残る砂浜。デートスポットとしても有名な場所だが今は一夏以外人がいない。

ここはIS学園が見える場所でも有名だった。しかし今見えるのはIS学園があった人工島の成れの果て。そして全てが終わる場所。

 

「………変身」

 

静かに呟いた一夏の体は黒い闇に覆われ、やがて黒い目のクウガへと姿を変えた。学園を崩壊へと導いてしまった究極の闇の力。あの時と違うことと言えば、

 

「………」

 

明確な行動理由が定まっていること。右腕につけたブレスレットが光り一夏の背後に白いレールガンが現れる。決戦仕様に仕上がった白式には大幅な改造が施され代表候補生達の専用機、その最大戦力が搭載されている。

 

レールガンから放たれた荷電粒子弾は海を裂き、人工島に着弾した。最大火力を吐き出したレールガンは役目を終えたのかゆっくりと砂浜に横たわる。その砂浜に一夏の姿はなかった。

 

 

「よお、随分な挨拶だな」

 

ダグバが立っている場所は雪が積もった旧アリーナ。大部分は崩壊しているが一部分だけ真新しい破損部分が存在した。ゆらゆらと燃える瓦礫を踏み砕きながら一夏は姿を現した。

 

「究極の闇の力……俺も手に入れたんだ。これで俺とお前は似たもの同士により近づいたってわけだ」

 

「………」

 

「俺はな、他の奴らと違ってお前らの言う『未確認生命体』としての姿を持たないんだ。アイツらと同じグロンギなのにな」

 

ダグバがゲーマドライバーを身につける。

 

「最初はどうしてって思ったけど、それもどうでもよくなった。結局は俺もグロンギ、姿が変わらないだけのお前らにとっての『未確認生命体』」

 

ゲーマドライバーにガシャットギアデュアルを装填する。

 

「そしてお前も同じ『未確認生命体』だ。クウガは俺たちと同じなんだよ」

 

レバーを開く。ダグバは仮面ライダーパラドクスに変身する。赤と青の装甲は白と金に変化し背中のダイヤルは消失し金色のマントのような装飾が装備される。

 

「グロンギでありながらリントの姿をし仮面ライダーになった俺。リントでありながら仮面ライダーを名乗り、クウガ…グロンギになったお前。俺たちはどっちつかずな半端者だが過程は違えど究極の闇を手にした。だから似たもの同士なんだよ」

 

「………」

 

ここまで一夏は一言も言葉を発していない。それが究極の闇に呑み込まれたが故か、それとも別の理由なのか。

ダグバもこれ以上は意味を成さないとゆっくりと歩き始める。

 

「……」

 

「……」

 

一夏も歩き始め、お互い拳が届く距離で止まった。

 

「……」

 

「…来いよ」

 

ダグバがそう言った瞬間、一夏の拳がダグバの顔面を捉えた。続け様に膝蹴り、肘打ち、アッパー…更に右手に双天牙月、左腕にパイルバンカーを装備し攻撃を加える。

 

「やる、なぁ!!」

 

3撃目を加えたところで双天牙月は砕け、パイルバンカーはダグバの真正面からの拳の前に敗れた。

 

「こっちの番だ」

 

反撃と言わんばかりにダグバの攻撃が一夏に炸裂していく。

 

ここで今の一夏とダグバの違いと言えば、一夏の体はクウガに『変化』しているのに対しダグバはパラドクスを『纏っている』状態。お互いに究極の闇に到達したとは言え装甲のアドバンテージは確かに存在している。

 

「ハハッ!心が躍るなぁ!!」

 

ダグバの拳が一夏の、クウガの肉体を抉り取っていく。鮮血な雪を赤く染め、返り血を浴びたダグバも徐々に赤く染まっていく。

 

「まだ終わりじゃないだろぉ!!」

 

「……」

 

フラフラになりながらもダグバの渾身のパンチを頭で受け止める一夏。骨の折れる音が2人の間で響きダグバは僅かに顔を歪める。

 

その隙に一夏は蒼流旋と夢現をクウガの力で強化しダグバを刺し貫いたまま壁に突き立てる。封印エネルギーが流れ込むがダグバは一夏を蹴り飛ばし武器を引き抜く。

 

「ッ…アァハァァ……心が沸る…楽しいなぁ!!」

 

ダグバの傷口からダバダバと血が流れる。それは一夏も同じだった。通常の人間ならば致死量の血を流しながら立っている。それは同時に一夏がもう普通の人間には戻れないことを意味していた。

 

「お前も…楽しいだろ?…誰にも邪魔されずお互いに全力の殺し合い!ここまで心が躍って沸るゲームは存在しない!」

 

狂ったように笑いながら左の拳に炎を灯すダグバ。

 

無言で立ち上がるもフラフラな一夏。

 

勝敗はほぼ決まったも同然。ダグバはそう確信しながら一夏の元へ突進していく。

一夏も雪片弐型を手にするが力が入らず落としてしまう。

 

「楽しかったぜ……一夏ァ!」

 

そしてダグバの拳が一夏を、

 

「ッ!!」

 

貫くことはなかった。

 

紅い花弁が舞い散る。雪の上に落ちるとソレは消え、代わりに鮮血が雪の上に落ちた。

 

「お前との戦いは…何も楽しくねぇよ………」

 

一閃。空裂を手にした一夏がダグバの胴体を斬り裂いた。その時、一夏…クウガの瞳は赤く光っていた。

 

「ハハッ……さいご…の…さい、ごで……」

 

「……」

 

ダグバが絶命したと同時にクウガの姿から一夏の姿に戻る。それと同時に膝から崩れ落ち地面に倒れ伏す。もう体は動かなかった。雪片を落とした時点で限界は迎えていた。

 

「……桐也…箒………」

 

大事な友達、そして大事な愛する人の未来を、笑顔を守るために、一夏は限界を超え伝説を塗り替えた。

 

「……………」

 

ゆっくりと瞳を閉じる。5分間の最後の戦い。その場に最後まで立っている者は居らず、音が消えたその場にはただただ雪が積もるのみだった。


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