IS 〜バイクと名人とSchoolLife〜   作:無限の槍製

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今回から究極の闇の章でございます。つまり…そういうことさ


第68話 究極の闇の章 苦笑いのHERO

10月1日(日)PM05時33分

 

「妹……ですか?」

 

「そう、名前は更識簪ちゃん。世界で一番可愛い私の妹よ。あこれ写真ね」

 

そう言って見せられた写真には、どこか陰りのある少女が写っていた。

 

「妹って、その……ちょっとネガティブっていうか、暗めの子なのよ」

 

「ま、まあ……なんとなく……イメージつきますけど……」

 

「でも実力はあるのよ!だから専用機持ちなんだけど………専用機がないのよ」

 

楯無さんが言うには簪……さんは日本の代表候補生なのだが専用機がまだ完成していないらしい。

というのも彼女の専用機の開発元は倉持技研、つまり俺の白式と同じところなのだ。どうやら俺の白式の方に人を回してしまったらしく、そのせいで未だに完成していないという。

 

「って俺のせいじゃないですか!すいません!!」

 

「ああ、いや全て君のせいじゃないよ?倉持技研も全員白式に回して簪ちゃんの専用機を疎かにして…………むしろ向こうを潰すべきかも……」

 

バキバキと指と首を鳴らす楯無さん。シャレにならないのでやめてください。

 

「それで、妹を頼むってどういう意味ですか?」

 

「うん、ここ最近の事件を踏まえて、各専用機持ちのレベルアップを目的とした全学年合同タッグマッチをやろうと思ってね。そこで簪ちゃんと組んで欲しいの」

 

「はぁ、まあいいですけど」

 

「勿論箒ちゃんと組みたい気持ちはあるだろうけどここは私の顔に免じて…………え?いいの!?」

 

「え?ああ、はい。専用機持ちのレベルアップが目的ですよね?だったら組んだことのない人と組んだ方が自分のレベルアップに繋がると思いますし」

 

「………いぢがぐぅん!!!」

 

涙を滝のように流しながら飛びかかってくる楯無さんを避ける。いつもはマイペースなのにこうも頼み込んでくると調子が狂うような………。

 

「それじゃあ、妹さんには俺から誘えばいいんですか?」

 

「うん、よろしくお願いね。あの子気難しいところがあるけど、優しい子なの。出来ればタッグマッチ後も仲良くしてあげて」

 

 

 

 

と楯無さんと約束したのがだいたい約2週間前。

 

 

10月16日(月)PM00時19分

 

食堂

 

「ダメだぁ……全然進展なしだぁ……」

 

アレから2週間。俺は今日も簪さんをタッグマッチに誘った。結果は『嫌』とのこと。ていうか初日に誘ってからずっと断られてるの辛い!

 

「うへぇ……ここまでくると辛いを通り越して無の境地にたどり着きそう……」

 

「何を唸っている一夏」

 

「ああ……ラウラとシャルか……いやまぁ色々となぁ」

 

「大体は知ってるよ。4組の簪さんをタッグマッチに誘おうとしてるんでしょ?」

 

俺の正面に座るラウラとシャル。確かタッグマッチ、ラウラはシャルと組むらしい。鈴はセシリアと。箒は意外にも楯無さんと組むらしい。楯無さんが箒を誘った時、木刀を突きつけられたらしい。そりゃ修行中に後ろから近づいたら突きつけられるでしょうに……

 

「ここまで物事が上手くいかないのも珍しいな一夏」

 

「うん。やっぱ直球すぎたのかな……専用機が出来てないの俺のせいだし……そんな俺がタッグマッチ誘ってきたらそりゃ断るよなぁ……」

 

「元気だしなよ一夏。ほらカマボコあげるから」

 

「ここで油揚げをくれないあたりシャルはキツネうどん好きだよなぁ……」

 

因みに俺はチキン南蛮、ラウラはかき揚げうどんだ。

 

「少しずつ攻めればいいのではないか?搦め手は戦場でも必要になるからな」

 

「うん……そう思って今日の別れ際にお昼誘ったんだよ……中々来ないから先に食べてるけど」

 

まずはちょっとしたスキンシップから。と思ったけど……来なきゃスキンシップもクソもない。そうこうしてるうちにご飯が少なくなってきた。

 

「はぁ……今日も進展なしか……」

 

「いや、そうでもないかもしれんぞ」

 

ラウラはフッと笑う。俺が後ろを振り返るとそこにはうどんを持った簪さんが立っていた。

 

「……お、おまたせ…………」

 

「…………ハハッ……待ってたよ。さ、座って座って」

 

4人席のテーブル席。反対側はラウラとシャルが埋めているため隣に座ることになるが大丈夫だろうか……

 

「はじめましてだよね。私はシャルロット・デュノア。フランスの代表候補生だよ」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む」

 

「あ……えっと…………更識簪……です。2人のことは…………よく知ってる……」

 

疾風のシャルと切り札のラウラ。その噂は4組にまで届いていたらしい。

 

「無理に誘ってゴメンな簪さん。でも来てくれて嬉しいよ。ありがとな」

 

「え、えっと…その……タッグマッチは………」

 

「まあ今はそのこと置いとこうぜ。早く食べないとうどん伸びちまうぜ?」

 

「う、うん……」

 

簪さんはうどんの上に乗ったかき揚げをつゆの中に沈めている。これはまさか、

 

「貴様!まさかかき揚げベチョ漬け派の人間かッ!!」

 

「やっぱり食いついたよラウラ」

 

「え、ええっ!?こ、これは……た、たっぷり全身浴派……」

 

「あ、新しい派閥だとぉ!?」

 

かき揚げサクサク派のラウラは血相を変えて食堂のカウンターに向かった。数分後帰ってきたラウラはうどんを手にしていた。かき揚げ付きで。

 

「貴様にサクサクかき揚げの美味さを教えてやる!食え!!」

 

「え、えぇ……」

 

明らかに困惑している簪さん。これはラウラを止めるべきなのか否か。変に止めに入ると俺まで攻撃をくらいそうだ。

 

「まあまあ落ち着きなよラウラ。簪さん困ってるよ?」

 

ここで救世主シャルロット!まさに慈愛の女神だ!

 

「ところで簪さん…………このベチョ漬けかき揚げもどうかな?」

 

まさかの悪魔シャルロット!これには俺もメンタルやられちゃう!ていうかいつのまにかかき揚げを!?

 

「おいおい2人とも、簪さんが困ってるだろ?簪さんも無理に食べなくてもいいからなってもう食ってるッ!!?」

 

「ん…………お、おいひい…………よ?」

 

明らかに口に詰めすぎである。急いで水を簪さんに差し出す。ゴクゴクと飲みなんとかなった。

 

「2人とも……好きなものを押し付けるのは良くないぞ?節度を守ろうな?」

 

「す、すまん……つい……」

 

「ごめんね簪さん……」

 

ショボくれた2人を見つめながら簪さんはうどんとかき揚げを食べる。その時いったいどんな味がしてどんな気持ちだったのか。俺はとても気になった…………。

 

◇ーーーーー◇

 

大体2週間前ぐらいから、織斑くんは私に話しかけるようになった。内容は月末に行われる専用機持ちのタッグマッチ。その日の朝にタッグマッチの話を聞き、その日のお昼休みに織斑くんから誘われた。

 

「俺とタッグマッチ組んでくれ!」

 

直球も直球。断られることを知らない勢いで誘ってきた。私自身、専用機がないことで様々なイベントを欠席している。もちろん今回のタッグマッチも欠席しようと考えていた。織斑くんも私に専用機がないことは知っているはずだし、それに何故いきなり誘ってきたのか………疑いやすい私は何か裏があるのではと考え、

 

「……嫌…」

 

断った。

 

 

それからも織斑くんは私を誘い続けた。

 

「簪さん!」「ヘイ!そこの彼女!」「お嬢さん、俺と話を」「簪様、話を聞いてくださいませ!!」

 

その度に私は断り続けた。どうしてここまで執着してくるのか、疑問とイライラが溜まっていった。

 

「せ、せめてさ!今日の昼食堂で飯食おうぜ!少しだけでもお喋りをさ!?」

 

そして今日。いつも通り話しかけてきた織斑くんは最後にこう言い残した。

タッグマッチの誘いを断り続けた私がお昼ご飯の誘いには乗るのは如何なものかと思ったけれど、ここはキチンと私の気持ちを伝えて、織斑くんには諦めてもらおうと私は食堂へと向かった。

 

そこで待っていたのは織斑くんと1組のデュノアさん、ボーデヴィッヒさんの3人だった。2人がいるのは予想外だけどここは私の気持ちを伝えないと。

 

しかし織斑くんはタッグマッチの話は今は置いとこうと言った。散々私を誘って来たのに今はその話はやめようと言ったのだ。

挙げ句の果てにデュノアさんとボーデヴィッヒさんからかき揚げ攻撃をくらった。

 

 

10月16日(月)PM19時47分

 

分からない。彼が何を考えているのか。何故私を誘うのか。誰かに言われたから?それは誰?何も分からなかった。自分の心さえも。

 

「…………アニメでも……観よう…」

 

ルームメイトに迷惑がかからないようにするためにイヤホンを付け携帯の液晶でアニメを観る。少し前に流行ったストロングマンだ。

 

「はぁ…………明日も…誘われるのかな……」

 

このセリフも、何回目か分からなくなった。憂鬱なままみるアニメはどこか面白くなく、そして退屈だった。

 

「あ、それ少し前の特撮アニメじゃん!俺それ好きなんだよ」

 

「うん……特に主人公が……カッコいい」

 

「あの決め台詞だよな!天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!悪を倒せと俺を呼ぶ!」

 

「正義の使者!ストロングマン!!……え?」

 

勢いでストロングマンの決め台詞を言ってしまったが……

 

「な、なんで部屋にいるの!?」

 

「ん?いやノックしたら同室の子が良いよって。あとタッグマッチの参加申し込み今日までなんだよ。俺も今思い出してさ」

 

アハハと笑う彼は能天気そのものだった。

 

「でだ。これが最後の頼み。俺とタッグマッチ、一緒に出てくれ!」

 

そして頭を下げる彼は真剣だった。

 

「……ハッキリ言うと、君を誘ってくれって頼んできたのは楯無さんだ」

 

「お姉ちゃんが……」

 

「そこで君のことを聞いた……専用機がまだ完成してないこと、そのせいでイベントを欠席してること……その時にさ、楯無さんの頼みなんて関係ないって思ったんだ」

 

「え?………どういう」

 

「だって、俺のせいで簪さんがイベントに参加出来てないんだ。だったら俺は君を助けたい。困ってる簪さんを助けたい」

 

いつにも増して真剣な彼の瞳には困惑している私が写っていた。だってそうだ。今までこんな台詞言われたことがない。

 

「貴重な高校1年の思い出が全然ないとか……そんなの……なんか嫌なんだ」

 

「………なんで……織斑くんが…嫌なの?」

 

「…俺誰かの笑顔を見るのが好きなんだ……笑って平和に過ごしてる日常が好きなんだ。だから君にも笑顔でいてほしい……っていう、まあ俺の自己満足なんだ」

 

照れ臭そうに苦笑いする織斑くん。その顔は私の好きなヒーロー物の主人公によく似ている。異形の姿になってもみんなの笑顔を守る為に戦ったヒーローに似ていた。

 

「貴方は……そんな理由で…貴方の貴重な時間を潰したの……」

 

「簪さんと話出来たのも、貴重な時間で思い出だ!」

 

どうして貴方はそこまで眩しい笑顔を私に見せるの……そんな顔見せられたら………縋りたくなるよ…

 

「………私と組むと…勝てる確率は……低くなるよ」

 

「勝ち負けより……戦ったかどうかだ。俺はそれが大事だと思うぞ」

 

「……ホント……ヒーローみたい…」

 

「完全無欠のヒーローじゃないけどな。最低でも手が届く範囲は助けたいんでね」

 

「……じゃあ……助けて…くれる?」

 

「ああ!」

 

私は、差し出された織斑くんの手を握った。彼の手は大きくて暖かった。




簪が攻略されてしまった!早い!早すぎる!
というわけで次回は打鉄弐式の組み立てと……

ではsee you next game!

因みにかき揚げはたっぷり全身浴派です。

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