IS 〜バイクと名人とSchoolLife〜 作:無限の槍製
9月4日(月)PM04時50分
畳道場
「行きますよ」
「いつでもどうぞ?逃げも隠れもしないわ」
楯無さんが言い終わる前に踏み出す。こういうのは速攻で片付けるのが賢い戦法だ。とにかく、まずは小手調べだ。
ガラ空きのボディに1発パンチを叩き込む。正直女子を殴るのはどうかと思うがなりふり構ってらんない。
「いやん。女の子のお腹は殴っちゃダメなのよ?」
「今の俺は貴女を仮面ライダーとして見てます。なら問題ないでしょう?」
「そう、その考えが正解」
「!?」
一瞬で壁に叩きつけられた。何が起きた!?あの人は何もしていないぞ。だからといって俺が勝手に吹っ飛んだわけでもない。
「まずは一回……今のタネ明かしは後でしてあげるから、迷わずヘナチョコパンチを打ち込んできなさい」
楯無さんが挑発する。人を馬鹿にするわ、悪口は言うわで正直最悪だ。でも…………この人は本気だ。本気で俺を鍛えるつもりだ。
考えを巡らせる。千冬姉よりも仮面ライダーに変身している分圧倒的に強い。なら無闇にに攻めても効果は無いはず。ここは一度楯無さんの出方を見ても問題はない。
「来ないのなら、こっちから行くよ」
『ガシャコンソード!』
手にしたのは剣。キリヤんのガシャコンスパローと同じ様にボタンが二つ。刃の形はまるで炎を思わせる。
「はあっ!!」
いきなり目の前に急接近される。早すぎる!ドラゴンフォームでもここまでのスピードは出せない。
楯無さんは大振りに剣を振り下ろす。まるでガードしてみろと言わんばかりに。なら完璧にガードしてやる。剣の扱いなら俺だって少しは自信がある!
「超変身!雪片弐型!!」
タイタンフォームに変身し、タイタンソードで受け止める。いや受け止めれるはずだった。
楯無さんの剣はタイタンソードをいとも簡単に打ち砕き、更には鎧にまで傷をつけた。冗談キツイぜ。
「一夏くん。今の、私がもう少し踏み込んでいたら死んでいたわよ」
生徒会室にいた楯無さんとは違う。本気の警告だ。例えお遊びでも、この人は本気で殺しにくる。常在戦場とはよく言ったものだ。
楯無さんがバックステップで距離を取る。俺の足元にはタイタンソードから雪片弐型に戻った剣……だったものが転がっている。流石に精神的にキツイ。剣で勝負ならと思ったが、どうしたものか。
「まだやる?」
「当然ですよ」
「そう、頑張る男の子は素敵よ…………奥の手、見せなさい」
その言い振りだと多分1時的に変身できるアレを知っているみたいだな。今までマイティとペガサスでソレが発動したけど、多分タイタンとドラゴンでも可能なはず。
でも俺の脳裏に、『もしもの事』がよぎる。アレは強すぎる。あんなデカかった狼野郎を撃退することができたんだ。この部屋、いやIS学園を半壊させることは可能なはず。その力をここで使ってもいいのか?
「安心しなさい。『もしもの事』は起こさせないから」
「……読心術でもあるんですか?」
「あら、図星だったの?」
首をかしげる楯無さん。不思議とムカつかなかった。たった二回しか攻撃を食らってないが、なんとなく本能が伝えてくるのだ。彼女ならなんとかしてくれる、と。
意識を集中させる。何となくコツはつかめている限界まで意識を集中させ、倒すべき相手だけを考える。視界に捉えるのは目の前の仮面ライダーのみ!
「………超変身」
タイタンフォームの銀色の鎧が紫に染まる。金色のラインが入り、全身に力がみなぎる。成功したようだ。あとはここからどうするかだけど…………っていうか楯無さん、あんまり驚いてないな。ちょっとショックだな。
呼吸を整える。落ち着け、何も変身しているだけで中身は人間だ。しかも女の子だ。攻略法は必ずある!
「本気だね………」
「…………」
俺の無言に、楯無さんも無言で応える。射撃で倒す覚悟で……決めるしかない!
相手よりも早く仕掛ける!
さっきまでと違う早さに一瞬驚いたのか、楯無さんは距離を合わせるために半端下がる。俺自身タイタンフォームでここまで動けることに驚いている。
「もらった!!」
「勝利を確信するな!名人!」
一瞬聞き覚えのある声が聞こえた。その声の主を探す前に、俺の拳は楯無さんに避けられた。すかさず楯無さんはガラ空きのボディに蹴りを叩き込んできた。一瞬呼吸ができなくなる。そのまま前のめりに倒れそうになる。
畜生……ここまでだってのか?……
「だからって、敗北を認めるなよ。諦めはお前には似合わねえぞ」
「……………だよな」
やっと声の主がわかった。包帯グルグル巻きのキリヤんがいつのまにか畳道場に来ていた。
そうだ、ここで諦めてたまるか!
一歩踏み出し、倒れるのを阻止する。それとほぼ同時に右拳に力を込める。キツイの1発、かましてやるか!
「せりゃあああああっ!!!」
俺の拳は雷をまとっていた。最後の力を振り絞って楯無さんめがけてもう一度右ストレートを叩き込む。今度は確実に入った!
「うん、君は凄いよ」
でも楯無さんの声が後ろからした。俺は確実に楯無さんに右ストレートを叩き込んでいるはずなのに。まさか…………偽物!?
俺がそれに気づいた瞬間、俺の体は空中に浮かんでいた。そして意識を失う前に聞いたのは『タドル!クリティカルスラッシュ!!』というキメワザの音声だった。
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「柄にもなく、本気の本気出しちゃったか………」
最後の一夏くんの攻撃。アレは予想してなかった。例え桐也くんが応援しても、そこから立ち上がる王道展開なんて想像もしてなかった。何故ならその時の蹴り、アレはキメワザを使用してたからだ。
一夏くんは集中しすぎて聞き逃してたのかしら?
「私も考えを改めないとね」
一夏くん、一瞬右側の紫の瞳が黒く染まっていた。アレはよくない兆候だ。私がなんとかしないと…………。
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9月4日(月)PM10時45分
医務室
耳に優しい鼻歌を聴きながら、俺は瞳を開けた。暗い部屋に月明かりが差し込んでいる。
俺が起きたのに気がついたのかその人は俺の前に顔を寄せてきた。
「起きた?」
「…………たて……なし…さん?」
「うん、このままでいいわよ。まだ体辛いでしょ?」
頭を撫でられる。うーん、妙に柔らかくて心地いい、しかもいい匂いのする枕だこと…………いやこれ膝枕か。普段の俺なら何かしらツッコミを入れるところだけど、正直そんな元気もない。
「この体制のままでいいから聞いてね。まだ辛いと思うけど、明日から特訓を開始するから。手始めにISの操縦ね。一夏くんには……ってもう聞いてないわね」
◇
9月7日(木)PM04時10分
第三アリーナ
「一夏くん、スピードが落ちてるわ。もっと集中しなさい」
「はい!」
あの決闘以降、自分で言うのもアレだが少しは素直になれた気がする。楯無さんという今の俺では絶対に変えられない壁が、今の俺を作っているのかもしれない。
俺は今、マニュアル制御の訓練を行っている。
昨日シャルとセシリアが『シューター・フロー』でサークルなんとかをやってくれた。射撃型の戦闘動作を何故俺がするのかというと、第2形態で獲得した荷電粒子砲のせいだ。
連射できない、俺の狙撃能力はお察し……いやペガサスフォームなら話は別だけど、あれ限定的に力を使ってもかなり体力を消耗するからあまり使いたくないんだよな。
とまあ、とにかく射撃戦には向いてないのだ。だからあえて近距離で叩き込む。言葉で表すと簡単そうに見えるのが困る。
「うん、最初よりはかなり良くなってるわね。それじゃあそこから瞬時加速してみようか。シューター・フローの円軌道から、直線軌道にシフト。敵の弾幕を突破して、ゼロ距離で一気に決める!」
「わ、分かりまし………うわあっ!?」
意識を瞬時加速に切り替える。しかしシューター・フローを途中で止めてしまった。結果制御を失って俺は壁に頭から突っ込んだのだ。すんごい痛い。
「こらこら、瞬時加速のチャージをしながらシューター・フローも途切れさせないの」
「難しいですね………すいません、大丈夫です。もう一回お願いします」
「うん、頑張る子は大好きよ。でも一夏くん、今頭から突っ込んだでしょ?念のため少し休憩しましょ」
そう言って渡してきたのはスポーツドリンク。冷たすぎない丁度いい冷たさ。俺はそれを一口飲むと、少し気になっていたことを聞いてみる。
「そういえば楯無さん。キリヤんと虚さん、最近よく一緒にいるのを見ますけど、まさかあの2人」
「そ、桐也くんのコーチをしてるのよ虚ちゃんは。彼女自身彼に思うところがあるみたい」
「まあのほほんさんのお姉さんですし。なんとなくわかる気がします」
「最初は仲が悪かったのよあの2人。桐也くんは特訓サボるし、虚ちゃんは鬼教官すぎるし。相性は最悪だったの」
「その口ぶりだと最近は違うんですか?」
「ううん、今も相性は最悪よ。でも相性が最悪でも付き合い方ってものがあるの。一夏くんもあるんじゃない?嫌いな人とか怒りやすい人とペアを組むとき、どうすれば自分に面倒ごとが起きないかって考えること」
ないと言えば嘘になる。確かにわかる気がする。怒りやすい人と組んだ時、どうすれば相手は怒らずにすむのか。多分人はそれを考えるのが嫌だから、親しみやすい仲の良い人としか組まないのだろう。
「桐也くんってば、そういうことばっかり頭が回ってるって虚ちゃん言ってたわ。でも最初に比べたら桐也くんも虚ちゃんも楽しそうにしてるわ」
それは何よりだ。そういえば最近キリヤんと話をしていない気がする。日常的な挨拶はするけど、会話という会話を全然していない。今度会ったら色々聞いてみよう。
「俺も負けてらんないですね。楯無さん、続きお願いします」
「あら、流石男の子。もう元気になったのね。いいわ、やりましょうか」
どのコーチよりも分かりやすく優しい反面、どのコーチよりも厳しい。そんな楯無さんの指導はまだまだ続く。
◇
9月7日(木)PM06時50分
俺は疲れた体を引きずりながら、部屋のドアを開けた。
「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」
テレレレレレレッ。やせいの たてなしさん が あらわれた。
どうする?
戦う=敗北決定、てかそんな元気ない
ご飯にする=食堂で食べるから必要ない
お風呂=今風呂に入ったらそのまま永眠しそうだから今はパス
わ・た・し=俺には箒がいるから絶対にダメだ
とにかく状況を整理する。現在地、一年生寮。俺の部屋の前。表札に織斑の字を確認。うん、何も間違っていない。今のは夢か幻だろう。いくらなんでも裸エプロンの楯無さんがいるなんてありえない。
そう思いながら、再度ドアをあける。
「お帰り!私にします?私にします?それともほ・う・き・ちゃん?」
「箒でお願いしますッ!!」
「はーい!箒ちゃん、オーダー入りましたー。テイクアウトでーす!」
「何を言ってるんですか楯無さん!!」
「あ、箒いたんだ。てかなんで2人とも俺の部屋に?」
「うん、今日から私、ここに住もうと思ってね!いやぁみんなに自慢できるなぁ。まだ2人しか女子が泊まってない一夏くんの部屋で寝泊まり。いやん獣に襲われちゃう!」
俺は混乱でまともに思考回路が働かない。どうせ生徒会長権限でこれを可能にしたんだろう。なんなんだこの人は!てか生徒会大丈夫か!?
「まあ、寝泊まりするのにやっぱり彼女さんの許可は必要かなって。だから箒ちゃんを呼んだのよ」
「勿論断ってくれたよな!?」
「いや、別に構わんが」
「へあっ!?おいおいそりゃないぜ箒!」
「私は、お前が他の女に手を出すなどとそんな心配はしておらん。私はお前を信じているぞ一夏」
「いやん!あり得ないほどのリア充オーラが私の心に傷をつけていく〜」
ぐわ〜、とその場に倒れこむ楯無さん。あ、裸エプロンじゃなくて水着エプロンだったのか………箒が水着エプロンなんかしてたら本気で襲いかねんぞ。
「とまあ、これからよろしくね一夏くん」
「はあ………面倒ごとだけは起こさないでくださいよ」
「分かってるわよん!はあぁぁ楽しみねぇ!」
いや絶対分かってないよこの人。
ライジングタイタンフォーム登場!しかも剣を使わない。まるで弓を使わないアーチャーだ。そして片目が黒く染まる。この作品でのライジングフォームの完成形はまだ登場しません。今のところのライジングフォームは全て未完成です。
本妻の余裕からか楯無さんを一夏の部屋に泊まるのをOKしてしまう箒。これがまさかあんなことになるなんて!
ではSee you Next game!