IS 〜バイクと名人とSchoolLife〜 作:無限の槍製
7月6日(木)AM11時00分
「では、現状を説明する」
旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷に、俺たち専用機持ちと教師陣が集められた。
照明を落とした室内に、大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。
「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『
いきなりの説明で面食らってポカンとしてしまう。頭の悪い俺でも分かったこと。つまり『軍用ISが暴走したからお前達で止めろ』ということだ。
正式な国家代表候補生なのだから、こういった事態に対しての訓練も受けているであろう他の専用機持ちの表情は真剣そのものだった。
「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手をするように」
「はい」
早速手を挙げたのはセシリアだった。セシリアは目標ISのスペックデータを要求した。セシリアをはじめ代表候補生の面々と教師陣は開示されたデータを元に相談をはじめる。
しかし、俺はその話について行けなかった。正直情けない。
「この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回のみだ」
「一回のチャンス……つまり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
山田先生の言葉に、全員が俺を見る。これには流石の俺にも理解できた。つまり俺の零落白夜で落とすしかないのだ。零落白夜なら目標を一撃で仕留めることができるはずだ。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。無理強いはしない」
………悪いな千冬姉。実戦なら誰よりもしてきた。命のやり取りを。それこそISのような絶対防御も持たないクウガで。それに比べたら、一撃当てればいい簡単な仕事だ。
「俺がやる」
「………そうか。では織斑にはエネルギーを全て攻撃に回してもらう。となると織斑をそこまで運ぶ役が必要になるわけだ。現在、この専用機待ちの中で最高速度が出せる機体は……」
「はいはーい!それなら箒ちゃんの紅椿が最速だよー!!」
いきなり底抜けに明るい声が響き渡る。そして声の主が天井から現れる。この状況でこんなに明るいのは……言うまでもなく束さんだ。
「紅椿の装甲展開を調整して……ほいっ、どんなもんだい!」
「これが……紅椿、第四世代型ISの装備か」
「そうだよ!あ、第四世代型機体ってのは『パッケージ換装を必要としない万能機』という、現在の凡人さんたちじゃ辿り着けない机上の空論のものだよ」
全てのISには『パッケージ』と呼ばれる換装装備を持っている。単純な武器以外にも追加アーマー、増設スラスターなど。その種類は豊富で多岐にわたる。
それを必要としないISが第四世代。そしてそれを作り上げる束さんはやはり天才だ。
「………」
「さてさて、どうするかなちーちゃん?ファイナルアンサー?」
「………紅椿の調整にはどれくらい時間がかかる」
「7分あれば余裕のよっちゃん」
「千冬姉!まさか箒をいきなり実戦に出すのか!?」
「織斑先生だ。では本作戦を織斑、篠ノ之の両名で行う。作戦開始は30分後。各員、準備にかかれ」
千冬姉が手を叩くと、それを皮切りに教師陣はバックアップに必要な機材の設営を始めた。
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7月6日(木)AM11時25分
「暇だね〜キリヤん」
「………そうだな」
今現在本音たちの部屋で待機中。他の女の子はISの運用試験がなくなったからと遊んでいる。まあ部屋から出なけりゃいいんだ。別に遊んでたっていいだろ。
「なんだかバタバタしてるみたいだよ〜?」
「………そうだな」
「……何かあったのかな?」
「………そうだな」
「………キリヤんはエッチ」
「…………」
「「「そうだなって言わないんだ!?」」」
どうも頭の中をチラつきやがるあの顔。昨日今日と嫌な顔を連続で見てしまった。
まず、昨日のガドルとダグバ。ガドルの圧倒的威圧感とダグバの何考えてるか分からない雰囲気は独特すぎて変に体が強張ってしまう。
そして今日の篠ノ之束。あの見下した感じ……どうも好きになれない。気分が悪くなる。
「はあ……名人たちは大丈夫なのか?」
「なら、見に行こうぜ?」
今のは男の声だ。そして昨日聞いた声でもある。
「ここだよ、お前の真上」
天才を見るとダグバが天井から顔を覗かしている。他の女の子たちは驚きからか声が出せないでいる。当然だ。いきなり天井から男が現れたら女の子にとって決して気分のいいものではない。
「ガドルが外で待ってる。後でな」
「………どうしても、戦わなくちゃいけないのか」
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7月6日(木)AM11時30分
「来い、白式」
「行くぞ、紅椿」
全身が光に包まれ、ISアーマーが俺たちの体に装備される。それと同時にPICによる浮遊感などで全身の感覚が変化する。
「じゃあ箒、よろしく頼む」
「あ、ああ」
作戦の性質上、移動の全てを箒に任せる形になるので、まあ仕方なく背中に乗っかる形になってしまうのだ。仕方なくだ。仕方ないんだ。
そんなことを考えていると、オープンチャンネルから千冬姉の声が聞こえる。
『織斑、篠ノ之、聞こえるか』
「「はい」」
『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ』
「「了解」」
『それと篠ノ之。お前は専用機を使い始めてからの実戦経験はゼロだ。突然、なにかしらのトラブルが発生するとも限らない。そうなった場合はすぐに離脱しろ。他の専用機持ちを向かわせる』
「わ、分かりました。頭にいれておきます」
うーむ……箒のやつ緊張してるな。これは俺が出来るだけサポートしてやらないと。いざとなったらクウガで戦う。これぐらいは覚悟しとかないとな。
『では、最後に。必ず生きて帰ってこい。いいな!』
「「はい!!」」
『では、作戦開始!!』
箒は俺を背負ったまま、一気に上空300メートルまで飛翔した。その速度は瞬時加速と同じか、それ以上。ハッキリ言って数値以上じゃないのか?
更に上昇する紅椿は、ほんの数秒で目標高度500メートルに達した。
「目標の現在位置を確認。一気に行くぞ一夏!」
「ああ、頼む」
紅椿を加速させる箒。その速度はさっきよりも速い。展開装甲の名にふさわしく、脚部及び背部装甲が開き、そこから強力なエネルギーを噴出させる。
そして数分…いや数秒か。思ったよりも早くに目標を発見した。
ハイパーセンサーの視覚情報が目標を映し出す。まず気になったのは一対の巨大な翼。資料によると大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システムだそうだ。
俺は雪片弐型を握りしめ、合図を待つ。
「加速するぞ!接触は10秒後だ!」
「……ああ」
10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……!
行ける……!!
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「織斑くん、篠ノ之さん、目標への接触まで後10秒!」
「……いよいよか」
「お、織斑先生!!」
「!?なんだ布仏!今は自室で待機だと!「キリヤんが!キリヤんが!!」……!?」
「大変です織斑先生!浜辺で九条くんが未確認生命体と交戦中です!」
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「ぐああっ!!」
もう何度目か。またしても砂浜に叩きつけられる。スナイプレベル3のアーマーは既に半分が破壊され、仮面も割れて自分の顔が少し見えている状態だ。
「仮面ライダー、やはりその程度か」
「舐めんじゃ……ねえ!!」
立ち上がりガドルに殴りかかる。拳はガドルの肉体に叩き込まれるが、奴に効果はない。全身が今までの未確認生命体とは段違いに硬く、力も圧倒的にこいつの方が上だ。
「くそっ!うらあっ!!」
「ぬるい。全てがぬるい。このぬるい攻撃でやられるあいつらは、やはり下その程度だったというわけだ」
「そう言うなよガドル。あいつらも上に上がろうと必死だったんだろ?」
「負けては意味がない!勝ってこそ全てを得るのだ」
自分が攻撃している間もそのおしゃべりな口を閉じる気はないらしい。だったらコッチで塞いでやる。
『バンバン!クリティカルフィニッシュ!!』
ガシャコンマグナムでガドルの顔にゼロ距離射撃。もくもくと煙をあげるガドルの顔。しかしその顔には傷一つなかった。とことんふざけた野郎だ。
「だったらこいつだ!」
『バンバン!ジェット!クリティカルインパクト!!』
クリティカルインパクトを発動する。しかしアーマーが壊れているため発射までに時間がかかってしまう。この間にやられてもおかしくなかった。だが奴は攻撃してこなかった。
「お前の全力……受け止めてやろう」
「そうかよ……後悔するなよ!これが自分の全力だ!!」
限界を超えた一撃がガドルめがけて放たれる。それに対しガドルは、
「ふん!」
拳一つで打ち消した。自分の、俺の全力をたった一回の殴りで打ち消したのだ。こんなの……無理ゲーすぎるだろ。
「少しは期待したのだが……ダグバ、終わらせてもいいか」
「勝手にしろよガドル。俺はISのほうを見てて手が離せない……っと、向こうも終わったな」
次の瞬間、海の方で稲妻が走り、空で爆発が起きた。距離的には少し離れた場所だがここから爆発が見えるあたり、相当の規模のものだ。いったい誰が向こうで戦ってるんだ。
「白いのと紅いのが落ちたな。残ったのは銀色か」
「白と…紅……一夏……箒………!」
「行かせると思うか?」
エネルギーが尽き、変身が解除された俺の首を掴んで放り投げるガドル。当然変身していない状態で俺は地面に叩きつけらるわけだ。つまり滅茶苦茶痛い。一瞬息が出来なくなった。それに意識が朦朧とする。視界がぼやける。だがガドルが歩いてくるのは分かった。それと同時に複数の足音が聞こえる。それぞれに何か言っているのも分かる。そして、
みんながガドルにやられるのも、ハッキリと分かってしまった。
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崖の上から見る黒い影。それはゲンムだった。腕を組みながら浜辺で行われている戦いを見る。
セシリアがブルー・ティアーズで攻撃するが、全てをガドルに潰され、自身のアサルトライフルも破壊されてしまう。
鈴が二本の青龍刀で攻撃する。しかし一本を海に放り投げられ、一本を完全に破壊されてしまった。
シャルロットは暴走しながらパイルバンカーで攻撃する。しかしパイルバンカーを装備した左腕のアーマーを引き千切られ、逆にガドルにパイルバンカーを叩き込まれる。
ラウラもジョーカーで戦うも、AIC、プラズマクロー、更にはクアトロマキシマムドライブまでも通用せず完敗した。
その中でゲンムはある一点、桐也のことを直視していた。
なんとか立ち上がった桐也は爆走バイクと新しいガシャットをベルトに装填しレバーを開く。通常ならレベルアップするのだが、レーザーはレベルアップしなかった。
何度も何度も繰り返すがレベルアップしない。ゲンムにはその理由がすぐに分かった。
爆走バイクのガシャットレベルが上がっていないのだと。
桐也はスナイプ、つまりバンバンシューティングばかり使っていた。おかげでガシャットレベルはそれなりに上がっていた。
しかし爆走バイクはレベルが2に上がって以降、全然使っていなかった。つまり2で止まっている状態だ。ならばガシャットを二本使うレベル3以降には変身できるはずがないのだ。
しかし桐也は焦りのあまりそのことを忘れていた。
「こまめにレベルを上げておけば……こんな悲劇にはならなかったかも知れないぞ」
やがて専用機持ちは全員が敗北し、桐也もガドルの拳の前に倒れてしまった。
これでガドルの前に立ちはだかる者はいなくなった。と思われた。
しかし、立ちはだかる2人の姿があった。
織斑千冬と花家タイガだった。
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業務連絡
今回の『銀の福音』撃退作戦。結果は失敗。負傷者を多数出す結果となってしまった。
セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ。4名は重症、及び専用機の破損。
九条桐也、篠ノ之箒。2名は意識不明の重体。
織斑千冬、花家タイガ。2名は軽症で済んだ。
織斑一夏。彼は篠ノ之箒を庇う形で、福音の攻撃を受けてしまい、
死亡。
ああーもう少ししっかり書きたい。しかし俺にはそこまでの力がない。みんなすまない。本当はもっと凄いバトルがあったと、みんなで想像しといてくれ。
次回、臨海学校最終決戦開始!までいけばいいかな
ではSee you Next game!