ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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どうも、長らくお待たせ致しました。
まだ忙しい時期真っ只中ですが、合間に書く事が出来たので投稿します。
では、どうぞ。


第18話 ハードボイルドリバー ━前編━

──渋川一徹の朝は早い。彼の長い1日は、1杯のコーヒーから始まる。

 彼は、科学特捜チーム「ビートル隊」隊員として、日夜宇宙人や怪獣の魔の手から、人々の平和を守っている。

 ある時は宇宙人が関与したと思われる事件現場の捜査、またある時は地球で悪事を働いていた宇宙人「宇宙怪人 ゼラン星人」を追跡……。

 そんな渋川の唯一の弱点、それは──。

 

 

 

 いつものように、SSPのオフィスにやって来た渋川は、ナオミ達3人を前にして椅子に腰掛け、1人娘のテツコとの不仲を打ち明けるのだった。

 

「テツコがさぁ……俺の事イヤって言っててよぉ……最近じゃあ、ろくに口も聞いてくんねぇんだよ!!」

 

 愛娘の話がヒートアップして、思わず立ち上がった渋川を何とか落ち着かせようとして、ナオミ達は渋川を一度座らせた。

 渋川の娘のテツコは現在中学生。つまり、絶賛反抗期真っ盛りと言う訳だ。

 自分も学生時代、両親に対して反抗的な態度を取った事があったナオミには、テツコの気持ちも多少は理解出来た。

 だからこそナオミは、テツコの気持ちを汲み取る姿勢を見せた。

 

「テツコちゃんも、色々あるんだよ……」

「……色々ってなんだよ!?テツコは、まだ中学生なんだよ!悪い道に進まなきゃ良いんだけど……。

 ……なぁ、ナオミちゃん。俺、どうしたらいいかな?」

 

 ナオミの言葉に食ってかかった渋川だったが、自信なさげにナオミに助けを求めた。

 ナオミも内心やれやれと言った具合で、渋川に答える。

 

「しょうがないなぁ……私、事情聞いてみるよ」

「頼むよ……。お前達も、頼む。……あちっ!」

 

 ナオミだけでは無く、ジェッタとシンにも協力を仰いだ渋川は、差し出されていたお茶を一口啜る。そして毎度の如く、その熱さに顔をしかめるのだった。

 

 

 

 しばらく時間を置いた後、ナオミはSSPのオフィスにテツコを呼び、事の経緯を説明した。

 差し出されたお茶を飲んだテツコは、その熱さに顔をしかめるが、ナオミの話を聞いた途端に立ち上がり、声を荒立てた。

 

「あっち……!えぇ?一徹そんな事言ってたの!?バッカじゃないの!?大体あんな父親嫌いになってトーゼンだよ!!仕事でほとんど家にもいないし、いたとしてもゴロゴロしてるかダジャレ言うだけなんだよ!?」

 

 余程渋川の話が癇に障ったのか、テーブルを叩きながら叫ぶテツコを、ナオミ達は何とか宥める。

 ムスっとした表情のまま座り直ったテツコに、ナオミは実の父親を名前呼ばわりする事へのツッコミを入れようとするのだが……。

 

「まぁまぁ落ち着いて……。テツコちゃん、お父さんの事、一徹って呼ぶんだn……」

 

 またテーブルを叩きながら立ち上がったテツコは、驚愕するナオミ達の眼前で、自身の名前への不平不満を言う。

 

「テツコって呼ばないで!!大体一徹の『徹』を取って『徹』子とか、も〜恥ずかしいしちょーダサいじゃん!……私はもうその名前を捨てたの!私の名前は、キャ・サ・リ・ン♡フフッ!」

「「「……キャサリン!?」」」

 

 何とも微妙なネーミングセンスに呆気に取られ、口を揃えてそれを復唱するナオミ達3人。

 ……実は、オフィスの外では渋川がそれを盗み聞いており、これに多大なショックを受けた渋川はがっくりと肩を落とし、とぼとぼとオフィスを去って行った。

 まさか父親にそれを聞かれていたとは露知らず、テツコは更に捲し立てる。

 

「それから、私が悪い道に進むんじゃないかとか言ってるけど……」

 

 テツコは、つい先日の出来事を語り出した。

 それは、彼女が町のとある露天商を訪れた時の事。ずらりと並ぶ綺麗なアクセサリーに見惚れていたテツコは、その露天商を営む好青年「タカヒロ」との何気無い会話を楽しんでいた。

 しかしその最中に渋川が乱入し、自分とタカヒロを遠ざけようとしたとの事。

 

「せっかく噂のタカヒロさんと仲良く話してたところだったのにぃ〜!あ、でもでもでも!私にだけ、ネックレスもくれたし?まだチャンスあるかも〜?みたいな?」

 

 そう言ってテツコは胸元から、タカヒロから貰ったと言うネックレスを取り出した。

 青い鉱石を荒く削り出したようなそのネックレスは、お世辞にも女性向けのそれとは言い難い見た目ではあったが……。

 これまでの話を聞いた上でジェッタは、渋川を擁護する。

 

「まぁまぁ……。お父さんも、父親らしいとこ見せたかったんじゃないのかなぁ、テツコちゃんn……」

「キャ・サ・リ・ン!!……そもそも、あの人は父親としてどころか、仕事だってろくな事してないって!」

 

 またテツコと呼ばれた事に腹を立てたテツコは、年上である筈のジェッタに食らいつく。

 そして彼女の何気無い一言で閃いたナオミは、テツコにある提案をする。

 

「……そうだ!明日丸1日お父さんの事、尾行してみない?そうすればお父さんの事、見直すはず!」

「それは良いかも知れませんね、キャップ!僕も、渋川さんの仕事については興味があったので!」

「ん〜……!絶対ヤダ!!」

 

 これにはシンも賛同したが、肝心のテツコが乗り気では無く、返事を渋ってしまう。

 すると、そのタイミングで、今まで出かけていた2人組が帰還した。

 

「フンフンフ〜ン♪」

「ただいま戻りました〜……。全くもぉー、ガイさんってば、なんでこんなに鯛焼き買うんですか……あぁ、ちょっと、1人で全部食べないで下さいよ?」

 

 帰って来たガイとシンヤがそれぞれ両手に持っていたのは、箱詰めされた鯛焼きが幾つか入った大きめの袋だった。鼻歌を交えて上機嫌なガイとは裏腹に、半分呆れ気味な雰囲気を見せるシンヤ。

 その2人を見たテツコは色めき立ち、ナオミに彼らが何者なのかを尋ねる。

 

「……ねぇねぇ、誰あの人達!?」

「あぁ、うちの居候みたいな事してるクレナイ・ガイさん。そして向こうが、草薙シンヤ君。

 ガイさん、シンヤ君。こちら、おじさんの娘さんのテツコ……」

「キャサリンと申します!よろしくお願いします、ガイさん、シンヤさん!」

 

 小上がりで1人鯛焼きを食べるガイと、それを見守るシンヤの元に駆け寄ったナオミは、2人にテツコを紹介するが、テツコはそれを押し退けて自分からキャサリンと名乗った。

 それを聞いたガイはテツコに握手を求め、シンヤは鯛焼きを勧める。

 

「……渋川のおっさんとこの?おぉ、どうもキャサリン」

「こちらこそよろしく、キャサリンさん。あ、鯛焼きお1ついかがです?まだまだ沢山ありますし。もちろん、皆さんの分もありますからね〜」

 

 シンヤのその声が呼び水となったのか、ジェッタ達は小上がりに殺到し、自分が食べる鯛焼きを選び始めた。その傍らテツコは、ナオミにある条件を掲示した。

 

「……私、ガイさん達が行くなら、行っても良いかなぁ〜……なんて♪」

 

 テツコの面食いな一面にナオミは言葉を失ったが、気を取り直してガイに頼み込んだ。

 

「……ガイさん、シンヤ君。一緒に行ってくれる?おじさんの尾行」

「僕は一向に構わないですけど……」

 

 その話を聞いたガイは、関わりたくないと言いたげに顔を伏せて、鯛焼きを食べ続ける。

 しかしジェッタにしつこく付き纏われ、ガイは思わずうんざりとした表情を浮かべた。

 

「ガイさん!遂に分かったんだよ、オーブの正体が!思い出してよ……!オーブが消えた直後に、必ず渋川さんが現れたでしょ?」

 

 ジェッタは、これまでオーブが闘いを終えた直後に、爽やかな笑顔で手を降りながらこちらに駆け寄って現れた渋川の姿を回想する。

 その話を、まるで馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情で聞いていたガイだったが、ジェッタは調子に乗って更に喋り立てた。

 

「間違い無い……!渋川さんがオーブだったんだよ!渋川さんを尾行すれば、オーブに変身する瞬間を見られるはず!こんなチャンス無いよ、行ってみよ?ねぇガイさん!ね?

 キャップ〜、ガイさんも行くって〜!」

 

 ガイの事情も聞かずにゴリ押しを続け、ほぼ強引に丸め込んだジェッタによって、明日の渋川の尾行にガイとテツコも参加する事となった。

 ナオミ達が盛り上がる一方で、ガイの表情は曇るばかりだった。

 

 

 

 そして後日、予定通りに渋川の尾行を決行するSSP御一行+α。しかも、各々が身元が割れないよう変装をする程の徹底ぶり。ガイに至っては、普段と何ら変わらない恰好だが。

 時々後を付けているのがバレそうになる一幕もあったが、何とかバレる事無く尾行を続ける事が出来た。

 いざ尾行をしてみたものの、特に目立ったのは、渋川が数々の女性ばかりと話をしていたという事。メイドや女子大生、主婦にキャバ嬢風の女性等々……。

 それらを目の当たりにしたテツコは父親に失望し、ナオミ達の元から離れようとする。

 

「もぉー信じらんない!あのバカ親父……!」

「ちょ、ちょっとテツコちゃん!?」

「もう2度とその名前で呼ばないで!!」

 

 ナオミの制止を振り切って、テツコは足早にその場から去って行く。それを止めようと、ナオミはテツコの後を追った。

 

 

 

 

 

 ナオミ達の元から離れ、付近の公園が見渡せる高い広場で1人佇むテツコ。思わず溜め息を吐いたが、突然差し出された瓶ラムネの冷たさに驚く。

 テツコが後ろを向くと、ラムネを差し出しているガイとシンヤがそこにいた。

 ガイからの差し入れを受け取り、一口。

 するとテツコの視界に、公園で仲が良さそうに遊ぶ親子の姿が飛び込んで来た。

 

「……子供の頃、あの人は、平和の為に頑張ってる、カッコいい人なんだと思ってた。ヒーローだって、信じてた。……フフッ、バカみたい。何言ってんだろ私……」

 

 昔の事を思い出しながら、テツコは独り言のように呟くが、途端に我に返って誤魔化すように笑ってみせた。

 そんなテツコを諭すように、ガイは意味深な言葉を投げ掛ける。

 

「……太陽は沈んだら見えなくなる。でもね、見えないだけで、地平線の向こうでは、ずっと輝いているんだよ」

「……何、それ?」

「見えないところで輝いている光もある……ヒーローなんてのはそんなもんなんだよ」

「分かんない……言ってる事、分かんないよ……」

「いつか分かるさ、キャサリン?」

 

 そう言うとテツコの肩を軽く叩いて、ガイはその場から去った。

 シンヤと2人きりになったテツコだったが、直後にナオミの声が聞こえた為、そちらを向いた。

 

「テツコちゃーん!ここにいたのね!お父さんが廃工場に入って行ったんだって!もう一度見てみよう?そうしたらきっと、お父さんの勇姿が見られるハズ!……ね?」

 

 テツコは、自分達と離れた場所から叫ぶナオミの声を聞いたが、どうすべきなのか決断に迷いが生じてしまう。

 そんな中で、シンヤが口を開く。

 

「……誰かを守りたいと思う心。単純な事だけど、それがヒーローにとって、一番大切な事です。渋川さんは、誰よりもそれを良く知っている人です。だからキャサリンさん。もう少しお父さんの事、信じてみませんか?」

 

 その言葉が後押しになったのか、テツコは父親の後を追う事を決めた。

 

 

 

 一足先に廃工場で待っていたジェッタらと、シンヤ達が合流した。

 到着が遅れた事を謝ったナオミはジェッタに咎められたが、すかさずシンが現状を報告する。

 

「さっきから男の人と揉めてて……。あ、あそこです!」

 

 シンが指差した方角を、身を隠しながらシンヤ達も見ると、渋川が若い男性を問い詰めている最中だった。

 

「……観念しろ!お前一体、何企んでんだ!?」

「いや、違います……!」

「嘘付け!俺はなぁ、お前の正体は分かってんだ……!」

 

 離れた場所から聞こえる声だった為、何を話しているのか聞き取りづらい状況ではあったが、その男性がタカヒロだと理解したテツコは物陰から飛び出す。

 

「さ、最悪……!」

 

 ナオミ達の制止も聞かず、テツコは大声を上げながら渋川の元へと駆け出した。

 

「止めて!!タカヒロさんに何するつもり、このバカ親父!!」

「テツコ!?お前、どうしてここに来た!!」

 

 最愛の娘の登場に驚きを隠せない渋川ではあったが、テツコはこれまで溜めていた怒りを爆発させて、父親にぶつけた。

 

「一徹の事、1日中尾行してたのよ!!……仕事もろくにしないで、女の人とイチャイチャしてさ!!今度はタカヒロさんをこんなところに呼び出して、何するつもり!?……もう一徹なんて、父親だと思ってないから!!」

 

 そう言うとテツコは、タカヒロを庇おうと思い、彼に近付こうとする。

 だが、それを止めたのは他でも無い渋川だった。

 

「止めろ!その男に近付くな!」

 

 ジタバタと暴れるテツコを抑えようとする、渋川とナオミ達。

 その一方でタカヒロは、唐突に口を開いた。

 

「回収したヤセルトニウムを返して貰おうか」

 

 その口調に、これまでの好青年のような雰囲気は無く、氷のような冷徹さだけがそこにあった。

 聞き覚えの無い単語の登場に、戸惑いながらテツコはそれを聞き返した。

 

「ヤセルトニウムって何……?」

「おい……お前ら下がってろ!!」

 

 テツコ達を制する渋川に対してタカヒロは、どこからともなく取り出した大きな青い石を片手に語り出す。

 

「フフッ。付けていれば、みるみる痩せる魔法のパワーストーン『ヤセルトニウム』。まさか自分ノ生体エネルギーガ奪ワレテ、コノ母体石ニ吸収サレテイルトモ知ラズニサァ……地球人ハ本当ニ愚カダ……!」

 

 次第にタカヒロの声が変わって行くのと同時に、タカヒロの姿も人間の姿から、昆虫の複眼のような顔を持つ宇宙人へと変わる。

 その正体を見たシンヤは身構えた後に、タカヒロの真名を看破する。

 

「お前は、シャプレー星人!!」

「その通り……!そうさ、俺の名前は『シャプレー星人カタロヒ』さ!」

 

 本性を見せたタカヒロ改めシャプレー星人カタロヒは、厭らしい笑い声を上げる。

 

 暗黒星人 シャプレー星人。

 暗黒星雲にあるシャプレー星からやって来た宇宙人で、かつて『核怪獣 ギラドラス』を操りウルトラセブンと闘った宇宙人である。

 

 その姿を見て悲鳴を上げたテツコを見たカタロヒは、思い出したかのように彼女に狙いを定めた。

 

「そうだ、お前にも付けてたんだったなぁ……。エネルギーを吸い取ってやる!オラッ!」

 

 カタロヒが、右手に握るヤセルトニウムの母体石を正面に突き出すと、テツコが首に掛けていたネックレスが光る。テツコのネックレスも、ヤセルトニウムだったのだ!

 ネックレスから放たれたテツコの生体エネルギーが、母体石へと吸い込まれて行く。一通りエネルギーを吸い切られたところで、テツコは力無く倒れ込む。

 

「テツコ!おい……テツコォ!!」

 

 倒れたテツコの元に真っ先に駆け寄り、顔色の悪くなった彼女を抱き抱える渋川を、カタロヒは輝きを放つ母体石を手にしながら嘲笑う。

 

「ハーッハッハッハ!この星は、まさに俺の人間牧場さ!石に吸収されたエネルギーで、こんな事も出来るんだぜぇ……?いでよ、ベムラーッ!!」

 

 天高く掲げられた母体石が輝くと、青い閃光と共に土砂を巻き上げて、「宇宙怪獣 ベムラー」が召喚された!

 ただこのベムラーは通常の個体とは違い、ヤセルトニウムが吸収したエネルギーによって強化された個体だった。その証拠として黒みを帯びた体色に青い背びれ、頭部の2本の角が最大の特徴だ。

 進行するベムラーは角を発光させると、口から「ハイパーペイル熱線」を放つ。熱線が着弾した一辺には、巨大な爆発が起こった!

 ナオミ達一行とは別行動を取っていたガイは、ベムラーの姿を目撃した。

 

「そんな事だろうと思ったぜ……!」

 

 ガイが視線を逸らすと、そこにはテツコを抱き抱える渋川の姿があった。

 

「……ナオミちゃん。テツコを安全な場所に。

──俺の……俺のたった1人の娘を……っ!絶対に許さねぇ!!」

 

 渋川は、ぐったりとしてしまったテツコをナオミ達に預ける。

 最愛の娘に手を出し、何より彼女の純情を蹂躙したカタロヒと対峙した渋川は上着を脱ぎ捨て、スーパーガンリボルバーを構える!

 

「渋川のおっさん、後は頼んだぜ!」

 

 それを見たガイはカタロヒの相手を渋川に任せ、自分はベムラーに挑むべく、オーブリングを構えた!




後編をお待ちくださいませ。

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