ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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皆様、ご無沙汰です。
勝手に夏休みをいただき、今回帰って参りました。

今回覚醒するのは、オーブだけではありません。


第17話 復活の聖剣 ━前編━

 全速力でSSPのオフィスから風を切り、ようやく病院前に到着したシンヤ。

 シンヤが自身の両目に意識を集中させると、ギャラクトロンの時と同様の現象が起きた。

 その目に映ったのは、病院の外観からでもはっきり分かる程に、あるフロア一帯だけを包み込んだ黒いオーラだった。

 そこにナオミがいると推察したシンヤは、1分でも早くそのフロアに向かおうとする。

 だがシンヤの行く手を阻むように、道の中央に立ち塞がる者がいた。

 忘れもしないその相手を目の前にして、シンヤは仇敵の名を呼んだ。

 

「やっぱり生きてたんだな、ヨミ……!」

 

 シンヤに呼ばれたヨミは、明確にニヤリと笑ってみせた。

 ナオミと同様ギャラクトロンの爆発に巻き込まれた筈のヨミだったが、外傷は1つも無く、健全な様子でシンヤに答える。

 

「当然。あの程度で死ぬ私だとでもお思いですか?ベリアルの力が如何程か、1度直に手合わせをしたかったのでね」

「手合わせって……!その為だけに、ナオミさんを巻き込んだのか!?」

「……何か問題でも?」

 

 ヨミは悪びれる様子など一切無く、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。

 これを見たシンヤは怒りを通り越して溜め息を吐き、改めてこの敵手と向かい合った。

 

「……今、はっきりと分かったよ。やっぱり、僕とお前は相容れないんだって」

「何を言い出すかと思えば……。光と闇にそれぞれ選ばれた我々が、分かり合えるとでも?」

 

 ヨミのこの一言が皮切りとなって、両者の間には緊迫した空気が流れ始める。

 そして次の瞬間、双方は目にも止まらぬ早さで肉薄し、激しい攻防を繰り広げる。互いに一手先の攻撃を予測し、それを防いではまた反撃のイタチごっこが延々と続いたが、組み合う形で一度両者は睨み合う。

 これだけ荒々しい戦闘を展開しつつも、呼吸を一切乱さぬ余裕のある表情でヨミは、自分と互角に渡り合える程の成長を遂げたシンヤを賞賛した。

 

「……また腕を上げましたね?草薙シンヤ」

「まぁ、ね……。絶対にお前を倒す……!」

「ハハッ、言ってくれますね。──では、存分に楽しませて下さいよ?」

 

 シンヤの威嚇を軽く笑って過ごしたヨミは、より一層口角を上げた。

 それから間も無く、シンヤとヨミによる第2ラウンドが開幕した。

 

 

 

 

 

 B519病室。

 この部屋こそ、今回の事件で重傷を負った夢野ナオミが入院している病室である。

 病室の扉に「夢野奈緒美」の名前を確認した医師は、ゆっくりと扉を引いた。

 彼が室内に入ると、彼女はこちらに背を向けてぐっすりと眠っていた。患者を誤って起こさないように、ゆっくりと歩み寄った医師は、ひそひそと彼女に語り掛けた。

 

「……夢野さ〜ん、診察ですよ……。血圧測りますね……」

 

 眠るナオミに近付いた医師は、彼女の左腕の手首を掴んだ。

 医師に触れられた事で気が付いたのか、ナオミは目を覚ますが、途端に彼女は息を呑んだ。

 

「……?……!?」

「おやぁ……?脈拍が上昇してますねぇ……?少し熱もあるようだ……。恋の病って奴かな?」

 

 医師の正体は白衣を纏ったジャグラーであり、彼はナオミの左腕を自分の顔に引き寄せ、ナオミに迫った。

 目の前の男の行為に恐怖を覚えたナオミは必死に抵抗するが、ジャグラーは彼女の耳元で囁く。

 

「離して……!」

「なぜ、マスコミに真実を公表しない?

 ウルトラマンオーブには失望した。奴は人類の敵であり、この星から排除すべきである。

 あなたがそう言えば、人類は一斉にオーブを敵視する。奴は一巻の終わりだ……!」

 

 そう言いながらぐいぐいと距離を詰めてくるジャグラーを押し退け、ナオミは強く叫んだ。

 

「……っオーブは敵なんかじゃない!きっと、自分の力の大きさに苦しんでるだけ!あなたはなんでオーブの事を憎むの?……一体、何があったの?」

 

 ナオミの強い眼差しに、軽蔑の態度を取ったジャグラーは彼女に背を向ける。そんなジャグラーの背中に、ナオミは更に問い掛けた。

 

「もしかして、ガイさんの行方も知ってるんじゃ……?」

「アイツはあなたの事を置いて逃げ出した。そんな男の話はどうでも良い」

「どうでも良くなんかない!……きっと、私達には言えない、深い事情があるんだと思う。ガイさんは……必ず帰って来る」

「フンッ……、ずいぶんと肩を持つじゃないか。──試してみるか?」

 

 ナオミの口からガイの名が出て来た事で、ジャグラーは一段と難色を示す。

 しかしナオミの返事を聞いたジャグラーは、冷酷な笑みを浮かべた後にどこからともなく蛇心剣を引き抜き、振り向きざまに彼女の顔面スレスレの宙を斬った。

 目の前の光景に怯えるナオミだったが、自分の傍で何かに亀裂が走った音を聞く。

 ハッとして脇を見ると、そこには曾祖母のお守りのマトリョーシカ人形があった。しかし、触れていない筈の人形が倒れ、床に落ちた拍子に最後の小さな人形を残して、全ての人形がいつの間にか斬られてしまっていた。

 言葉の出ないナオミだったが、魔人態としての本性を曝け出したジャグラーを目撃して、思わず後ずさった。

 怯えるナオミを一笑したジャグラーは、蛇心剣を構えてナオミを襲う。

 

「フフッ……次はお前の番だ……!ハッ!!」

 

 ジャグラーは振りかぶった蛇心剣でナオミを斬りつけようとしたが、彼女が悲鳴を上げたと同時に現れた光によって一瞬動きが止まってしまう。

 ジャグラーの魔の手からナオミを救い、彼女を抱き抱えた光が徐々に弱まる。

 そこにいたのは、遠いルサールカの地から颯爽と駆け付けたガイに他ならなかった。

 

「……遅かったな。あと少しであの世行きだったぞ?」

 

 気絶したナオミを両腕で抱えるガイは、背後から語り掛けてくるジャグラーを一切顧みる事も無く、光の速さで病室を後にした。

 魔人態を解いたジャグラーは、そんなガイを見てほくそ笑んだのだった。

 

 

 

 ナオミが次に目を覚ました時、そこは現在休工中の工事現場の事務所のようだった。それを証明するように、周囲には赤い三角コーンや黄色と黒のロープ等が纏められていた。

 それ以外にもナオミは、自分の身体に見覚えのあるジャケットが、掛け布団のように掛けられていることに気が付いた。

 彼女がゆっくりと上体を起こすと、その傍らには数日前にいなくなった筈のガイが座っており、咄嗟にナオミはガイの名を呼ぶ。

 

「ガイさん……」

「ナオミ……。すまない……」

「……えっ?」

 

 開口一番に自分への謝罪の言葉を述べたガイに戸惑うナオミだったが、ガイは尚も語り続ける。

 

「俺のせいでまた巻き込んじまって……。大切なマトリョーシカも……この通りだ。

 これ以上大切なものを傷付けたくないのに……。俺といるとみんな不幸になる……」

 

 既の所でナオミを救ったガイはその際に、現在自分の手の中にある小さなマトリョーシカ人形を拾い上げていた。

 しかし自分がナオミを巻き込んでしまった事が原因で、彼女の大切な人形は、最後の1つを残して壊されてしまった。

 それを握り締め、悔恨の念に駆られ自己嫌悪に陥った今のガイには、これまでの勇猛さは微塵も無かった。

 そんなガイを叱咤するように、ナオミはすっくと立ち上がり、彼の元に歩み寄る。

 

「勝手に決めないで……!

 ……あなたが何者で、どんな秘密を抱えているのかは分からない。……けど、一緒にいるって、私が自分で決めたの!……あなたの事、信じてるから」

「ナオミ……」

 

 自身を見上げるガイと目線を合わせるようにしゃがんだナオミは、ガイが握っているマトリョーシカ人形についての説明を始めた。

 

「……それ、ママが病室に持って来てくれたの。祖先のお婆ちゃんが残した、幸運のお守りなんだって。……最後の1つは、ガイさんが持ってて」

 

 ガイの手を握って人形を託したナオミに、ガイはやや訝しげに尋ねる。

 

「どうせ中身は空っぽなんだろ……?」

「違うよ?……最後の1つには、『希望』が残されてるの」

 

 ナオミの言う『希望』が一体何なのか、皆目見当も付かなかったが、ガイは小さな人形をじっと見つめたのだった。

 

 

 

 場所は変わり、ナオミの入院している病院。

 ビートル隊本部より連絡を受け、足早に去る渋川を追うジェッタとシンだったが、先程彼から聞いた耳を疑うような話について追究した。

 

「それ……!本当なんですか!?」

「あぁ。ビートル隊は、オーブを攻撃対象に指定した」

「早急過ぎます!オーブが敵と決まった訳では……」

 

 ビートル隊によって正式に下されたその決定に、反論の姿勢を見せる2人だが、それに納得していないのは渋川も同じ。

 歩みを止めた渋川は、人々の平和を守る立場にいる自分ならではの言葉を、2人に説き始めた。

 

「俺だってそう思ってるさ!

 ……だけど、これ以上犠牲が出るのを……黙って見過ごす訳に行かない。

 ……いいか?何かを守るって事は、何かを傷付ける覚悟を持つって事なんだよ!……まぁ、俺が言えた事じゃねぇけどな……」

 

 渋川が最後に言葉を濁したのは、異星人によって怪獣に変えられてしまった、かつての幼馴染に対して引き金を引けなかった出来事を思い出したからだろう。

 あの時渋川は、あと一歩のところで決心が揺らいでしまった事が原因で、町への被害を余計に大きくさせてしまった。だからこそ、次こそはその二の舞を踏む訳には行かないのだ。

 辛い現実を突き付けた渋川は、再び急ぎ足で2人から離れて行った。

 その背中を見つめるジェッタとシンだったが、ジェッタは不意にぽつりと呟く。

 

「……何かを守る事と、傷付ける覚悟。それって、オーブも一緒なんじゃないかな?

 オーブだって、何かを守る為に、何かを……傷付けながら闘って来た。正義にだって、光と闇の面がある。そういう事なんじゃないかな……?」

 

 これまでのオーブの闘いを振り返りながら、ジェッタはシンに語り続ける。

 オーブは、自分達を守る為に時には自ら傷付き、またある時は多くの人々を救う為に何かを傷付けながら闘った。

 渋川の言葉を聞いたジェッタは、正義の持つ二面性を、今回改めて痛感したのだった。

 彼の言葉を受け止めたシンにも、思う所はあったのか何度も頷いて見せたが、突然愛用のスマホが振動した。

 それは病院関係者からの電話であり、咄嗟に電話を取ったシンが聞いたのは、入院していた筈のナオミが、病室から忽然と姿を消したとの緊急連絡であった。

 

 

 

 

 ナオミが病室からいなくなった事を、ジェッタとシンが知った頃。

 この騒動の中心的な立場にあるナオミは、作業台の上に腰掛けたまま、背後の離れた場所に座っているガイに問い掛けた。

 

「……ねぇ。ガイさんはオーブの事、どう思う?」

「何だいきなり……」

 

 ナオミからの唐突な問いに、ガイは下を向いたままぶっきらぼうに答える。

 ガイの言葉を聞いたナオミは、数時間前の病室で自分を襲ったジャグラーの言葉を思い出しながら、自分の意見を述べ始めた。

 

「あの男が言ってたの。……世の中には、オーブを非難する人も多いけど……だけど、私はオーブを信じてる。

 ギャラクトロンを倒した時、確かにオーブは私の事を傷付けた。けど、今こうして無事でいられるのは、オーブのおかげ。……例え、世界中の人が敵になっても。私は、オーブに救いの手を差し伸べたい」

 

 話の最中に振り向くナオミだったが、対するガイは自分と目を合わせようともしない。それでもナオミは、ガイを見ながら語り続ける。

 ナオミが自分の意見を言い終えた直後、顔を上げたガイと目が合った。

 自分に向けられた視線に言葉を詰まらせてしまったナオミは、身体をずらし膝を抱えて座り直す。

 その直後彼女は、ある言葉を呟くのだった。

 

「……『握った手の中、愛が生まれる』」

「……何だ、それ?」

「ママが言ってたの。祖先のお婆ちゃんの遺言なんだって。そのお守りを残した、ルサールカ出身のお婆ちゃん」

「……ルサールカ?」

 

 ナオミの口から出たその一言に、言葉を失ったガイは呆然とした。

 そんなガイの変化に気付くことも無く、ナオミはあの曲を奏で出す。

 

『♪~、♪~……』

 

 その直後、ガイは自分の手の中に、僅かながら違和感を覚える。

 咄嗟に視線を向けると、今まで握り締めていた筈の小さなマトリョーシカ人形が、斜めにすっぱりと切られていた。恐らく、病室でジャグラーが振るった斬撃の余波で壊れていたのだろう。

 しかしその中に、古ぼけた小さな写真が1枚収められている事に気付いた。

 ガイは丸められていた写真を取り出し、それに何が写っているのかを見る。

 その白黒写真には108年前の自分、そして自分と背中を合わせて微笑む少女の姿が写されていた。

 

「ナターシャ……!!」

 

 その写真はかつて、ルサールカの森でとある1人の写真家が自分達の為に撮ってくれた、唯一の写真であった。

 自分が死なせてしまった筈のナターシャの写真が、なぜこの人形に収められているのか。

 ガイは、自分が招いたあの忌々しい過去を思い出しながら、その理由を推し測る。

 

(君はあの爆発に巻き込まれ、死んだんじゃ……)

 

 まさかと思ったガイは、写真から目を離してナオミを見つめる。

 そしてナオミが奏でるメロディを聴いた事で、その考えは確信に至った。

 

(ナオミは……ナターシャの子孫……!)

 

 それに気付いてすぐ、ガイの瞳から涙が零れた。

 今にして思えば、思い当たる節は幾つもあった。

 ナオミがあの日作ってくれた、特製きのこスープの味に、自然と懐かしさを覚えた事も。

 彼女が小さい頃から見続けていたと言う、光の巨人の夢も。

 そして何より、彼女がどうして、異国の子守唄を知っていたのかという事も。

 これで全ての辻褄が合ったガイは写真を見つめて、ナターシャとの思い出を振り返った。

 

(ナターシャ……。君はあの惨劇を生き抜いて、生命を繋いでいたのか……!!)

 

──これから語るのは、ガイの知らない真実。

 ウルトラマンオーブとマガゼットンの戦闘に巻き込まれてしまった、ナターシャ・ロマノワ。

 しかし彼女は何者かによって救われており、森の外れに置き捨てられていた所を村人に助け出され、町の病院に収容されたのだ。

 彼女が退院した後、故郷の国の動乱がルサールカの地にまで及んだ事で、ナターシャは単身日本へと亡命。通訳の日本人男性・夢野氏と恋に落ち、ナターシャは彼の実家である造り酒屋に嫁いだ。

 しかし、それでもナターシャはガイの事を忘れる事が出来なかった。彼との思い出の品は、1枚の写真だけ。

 そこで彼女は、その写真をマトリョーシカ人形の中にしまい込んで、最後の1つは開けてはいけないと子や孫に言い聞かせた。

 それに不満そうにする子供達にナターシャは、その代わりとして、彼らに幸せになれるおまじないを伝えた。

「握った手の中、愛が生まれる」──と。

 

 ガイは今もまだメロディを奏で続けるナオミを、涙を流しながらぎゅっと抱き締めた。困惑するナオミにただ一言、「ありがとう」と呟いて。

 抱擁を解いたガイはナオミの両肩を優しく握り、彼女を自分と向き合わせると、ある依頼を申し込んだ。

 

「……ナオミ、頼みがある。今のメロディ、今度オーブが現れたら、歌ってやってくれないか?……オーブを救ってやって欲しい」

 

 状況がほとんど飲み込めず戸惑っていたナオミだったが、ガイの様子を見て、余程重要な依頼なのだと理解した上で首肯をした。

 すると、突如として雷鳴が鳴り渡る。

 ガイとナオミがその方角を見ると、上空に赤黒い渦が生じていた。その渦は、かつてマガオロチが出現した際に発生したものと酷似していた。

 それを目撃した事で、ナオミは何とも言いようの無い不安に駆られる。

 そんなナオミに、ガイはナターシャの時と同じように、オーブニカを彼女に手渡した。

 

「ナオミ……。これを持っていてくれ。俺は必ず、帰って来る。必ず……!」

 

 ナオミの姿だけを一点に見つめるガイの瞳には、いつも通りの強い意志が宿っていた。

 すぐさま駆け出そうとするガイを呼び止めたナオミは、彼が貸してくれたジャケットを差し出した。彼女からジャケットを受け取り、しっかりとそれを身に纏ったガイは、あの渦を目指して駆けて行った。

 ナオミは遠ざかって行くガイの背中を、ただじっと見つめるのだった。




後編は、夕方に。

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