ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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どうも。

※今回は「ウルトラマンオーブクロニクル」第5章「ルサールカより愛を込めて」の内容を多く含みます。



第16話 忘れられない場所 ━前編━

──時を遡る事、1908年。東欧諸国に位置する辺境の地・ルサールカ。生まれ育った故郷を離れて、この地で孤独に暮らす少女がいた。

 彼女の国では現在内乱が勃発しており、それを避ける為に彼女の父親は、戦火の届かぬこの土地に愛する娘を疎開させたのだった。

 

 その生活がしばらく続いたある日の事。

 ルサールカの森で薬草を摘んでいた少女は、突如出現した光の巨人と、巨大なモンスターの激戦を目撃した。

 少女の身の丈を、遥かに超える巨体を誇る金色の怪物──「宇宙戦闘獣 (スーパー)コッヴ」は両腕の鋭い鎌と額から発射する光弾で、巨人を確実に追い込んで行く。

 目の前で繰り広げられる光景に、信じられないと言わんばかりに少女は言葉を失う。しかし少女はなぜか、巨人の勝利を心の底から祈っていた。

 多大なダメージを負っているにも拘わらず、巨人は勇猛果敢に立ち向かい、壮絶な戦いの末に辛くもこの強敵を打ち破る。勝利を掴んだ巨人は力尽き、ルサールカの森の外れで姿を消した。

 

 少女は、巨人が消えた場所まで一目散に駆ける。

 森の外れに到着した少女が発見したのは、樹木にもたれ掛かる、傷だらけの青年だった。

 少女は青年の元に近付き、口元に水を運ぶ。青年はその水を一口飲んだ。意識はあるらしく、少女は心から安堵した。

 瞼を開いた青年は精悍な顔立ちだったが、その表情にはやや戸惑いの色が浮かんでいた。

 少女は青年が誰で、一体何者なのかと尋ねる。

 

 

 

 これがナターシャ・ロマノワと、後にクレナイ・ガイと呼ばれる青年の、運命的な出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャラクトロンの一件で瀕死の重傷を負い、一時は危うい状態に陥ったものの、奇跡的に意識が回復したナオミ。

 立場上、彼女の部下に当たるジェッタとシンは、順調に回復に向かっているナオミを見舞いに、彼女が入院している病院を訪れていた。

 横一列に並んで通路を歩く2人だったが、何かを思い出したシンが、唐突に口を開いた。

 

「……あ、ジェッタ君。分かっていると思いますが、キャップの前であの話は……」

「分かってるって、ガイさんの事でしょ?」

「もう、だからその名前は禁止!キャップだって一応、女子なんですから……!」

 

 呆れ気味に返答するジェッタと正反対に、慌てる素振りを見せるシン。

 彼が言っているのは、あの日の出来事だ。

 ナオミが意識を取り戻した直後、ガイが自分達の前から何も言わずに去ってから、早くも数日が経過しようとしていた。

 今日ここにいないシンヤは、いつガイが戻って来ても良いようにと、SSPのオフィスでずっと留守番をしているらしい。

……あの日シンヤの激情を間近で見たジェッタは、未だに彼とのわだかまりが解けておらず、同じ場所にいると何だか気まずくなってしまうのだ。

 

 そんな事があった為に、2人はナオミの前では「ガイ」と言う言葉を極力使わないようにと制定したのだが……。

 

「あーもう、こんな時にガイさん、ホントどこ行っちゃったんだろ……」

「だからそれは禁止……!」

 

 それでもやはりジェッタの口からは、ガイの名前が零れ出す。

 これを咎めるシンだったが、ここは病院。あまり大声は出せない為、全て小声での注意となった。

 やがてナオミの病室前に達したシンは、またジェッタが口を滑らせないようにと釘を刺した。

 

「この部屋に1歩でも入ったら、『ガイ』って口に出すのは禁止ですよ。絶対に言わない、良いですね?」

「……分かった!」

 

 改めて誓いを交わしたジェッタとシンは、病室の扉を開けたのだった。

 

 

 

 ジェッタが差し出したタブレットに映し出される、古ぼけた白黒の動画を直視するナオミ。

 どこかの森で起きた謎の大爆発をフィルムに収めたその映像は、20世紀の初頭に撮影されたものであった。

 この映像が一体何なのか疑問に思ったナオミは、動画のタイトルを読み上げて、ジェッタとシンを問い質した。

 

「『ルサールカ大爆発』……?」

 

 それを尋ねられたジェッタはナオミに対してしどろもどろに説明を開始するが、所々で突然シンが声を上げて妨害をした為、重要な内容が頭に入って来なかった。

 シンがなぜこのような行動に出たのかと言うと、先程取り決めた約束が影響していた。意味合いは違えども、ジェッタの説明中に何度か「ガイ」と言う単語が登場した事で、それを誤魔化す為の妨害だったのだ。

 やがてジェッタも音を上げて、説明を放棄してしまった。

 

「あー、もう俺ダメだぁ……!」

「何が何だかよく分かんない!3行で要約!」

「あぁもう、シンさんやって!」

「!?えぇっ、えっとー……」

 

 動画の説明を押し付けられ、タブレットを受け取ったシンは戸惑いながらも気を取り直し、ルサールカで起きたこの事件の概要を説明した。

 

「1908年に……ルサールカで起こった大爆発は……原因不明とされており、人類史上最大のミステリーの1つです……!」

 

 何とか「ガイ」と言う単語を入れず、尚且つ簡潔な説明で概要を伝えたシンを、ジェッタは拍手で褒め称える。これを聞いたナオミも十分に理解出来た様子で、何度も頷いてみせた。

 更にシンはその映像を見た上での考察を、ナオミに語り出した。

 

「……ギャラクトロンの爆発を見て、推察したんです。もしかしたら、当時のルサールカでも、同じような事が起こっていたのでは無いか、と」

「……どういう事?」

「つまり、ルサールカにも、オーブのようなウルトラマンが存在し、怪獣や宇宙人と戦っていたのでは無いかと……」

 

 最後に仮説ですが、と付け加えてシンが説明を終えた直後、ナオミは繰り返すようにルサールカの名を唱える。

 

「ルサールカ……」

「……ルサールカが、どうかした?キャップ?」

 

 ナオミの何気ない呟きに反応したジェッタが、反射的に尋ねる。

 これにナオミは、自分でも半信半疑と言った具合に返答したのだった。

 

「うん……。何か、聞いた事があるような気がするのよね……」

 

 ルサールカの地名をどこで聞いたのか。それを思い出そうとして、天井をじっと見つめるナオミ。

 ナオミの疑問に答えを見出したのは、どこからか聞こえた女性の声だった。

 

「それ……。私のひいお婆ちゃんの故郷よ」

 

 その声が聞こえた方角を、訝しげな目で見つめるナオミ。

 声がしたのは病室の入り口。そこに立っていたのは、サングラスを装着し上下黒のスーツで固めた2人組だった。見た目はさながら、アメリカを舞台にしたSF映画に登場する、黒ずくめの男達だ。

 彼らが一体何者なのか、ナオミには見当が付いているようだったが、ジェッタとシンはお互いの顔を見合わせ声を揃えた。

 

「「……誰!?」」

 

 終始無言を貫いて歩を進める2人組の内、髭面の方と向き合ったナオミは、未だこの黒ずくめの正体に気付いていないジェッタとシンの為にも、彼の身元を明かした。

 

「……おじさん、ママ。何やってんの?」

 

 そう。彼らの正体は、ナオミの実母である夢野圭子と、ナオミの叔父に当たる渋川一徹であった。

 以前彼女は、何かと物騒な事件が多発している東京からナオミを連れ戻しに遥々上京したのだが、伝説の大魔王獣の復活やら何やら一悶着あって、結果的には娘が東京に残る事を認めたのである。

 

 変装していたのが圭子と渋川だと知り、ジェッタとシンは驚きを隠せなかった。

 娘のツッコミを受けてサングラスを外した圭子は、同じようにサングラスを外した渋川にそれを預けて、鼻の下に貼り付けていた付け髭を躊躇無く剥がす。その想像を絶する痛みに、圭子は思わず顔をしかめる。

 その一方でナオミは、裏で片付け作業に追われる渋川の姿を覗き見て、呆れながらに責めた。

 

「もー、おじさんも止めてよ……」

「この人止められないの、ナオミちゃんが1番良く知ってるでしょ……!」

 

 ナオミの指摘に小声で答える渋川だったが、圭子の帽子を手渡されて、また片付けを始めた。

 そんな義弟を尻目に、圭子は改めてナオミにルサールカについて語り出した。

 

「だからルサールカってのは、私のひいお婆ちゃん……つまり、あなたのひいひいお婆ちゃんが生まれ育った場所なのよ」

「そっか、だから聞いた事あったんだ……」

 

 少し前に生まれた疑問が解消されたナオミは、納得した表情を見せる。

 続いて圭子は、持って来ていた荷物の中から1つの人形を取り出す。それは本来SSPのオフィスに置いてある筈のマトリョーシカ人形だった。

 これはナオミも予想外だったようで、圭子と渋川に顔を向ける。

 

「……え?」

「SSPのオフィスから持って来た!」

「これ、そのお婆ちゃんの幸運のお守り。だからナオミが東京に出る時、持たせたんじゃない」

「だからって、病室にまで持って来なくても……」

 

 渋川と圭子の話を聞いたナオミは、2人に面倒をかけてしまったと思うのと、わざわざそれを持って来る必要があったのかと考えてしまう。

 しかし圭子は手近な椅子を引き寄せ、ナオミの傍に腰掛けてからも話を続けた。

 

「だけど……お婆ちゃんは、このお守りのおかげで……動乱の時代を生き抜き、日本で幸せな余生を過ごしたそうよ?今回の事故で、瀕死だったナオミが奇跡のぉ、V字……!回復を果たしたのも、このお守りのおかげだったりして~って、ママ思ってんのよね~……」

 

 渋川と一緒に両腕を上げて「V」を作った圭子は、マトリョーシカ人形を見つめて意味深な言い回しをする。

 これまでの話を聞いていたジェッタ達だったが、なるべく彼女の機嫌を損ねるような表現を避けて、圭子らが来てから感じていた疑問を、シンは圭子に問い掛けた。

 

「……それにしても、お母様はどうしてそんな珍妙な仮装をなさっているのですか?」

「だぁって、マスコミがしつこいんだもん!」

「マスコミ!?」

 

 圭子が窓の外を指差したのと同時に、窓辺にいたジェッタとシンは外の様子を伺う。

 圭子の言う通り、病院の外には数多くのテレビ局のカメラやら、撮影用の機材等がセッティングされており、中にはマガグランドキングが引き起こした大規模な地盤沈下を始めとした怪事件を報道し続けて来た「TKBニュース」のレポーターの姿もあった。

 今回の事件。暴走していたとは言え、オーブはゼットビートルを撃墜させ、そればかりか一般人であるナオミを巻き込み重傷を負わせてしまった。

 そのことから世間ではオーブを批判する声が高まり、オーブは味方では無く、怪獣や宇宙人と同じ人類の敵ではないのかとの声が多数上がるようになっていた。

 どうやらまだ、ナオミが意識を取り戻した事は彼らには公表されてはおらず、そのおかげでナオミはこうして無事に過ごせているが、圭子らに取ってはいい迷惑と言う訳だ。

 

「マスコミのヤツら……ナオミちゃんから、オーブを批判するコメントを引き出そうとしてるんだよ……」

「ウチにもいっぱい押しかけてるって。パパもすっかり参っちゃってるみたいで……」

「そんな……」

 

 ナオミは身の回りで起きている事態を重く受け止めて、愕然とした。

 ジェッタはナオミを見つめて、彼女が今回の事故をどう思っているのかを問う。

 

「……キャップは、オーブが憎くないの?」

 

 ジェッタからの問いにナオミは少し考える素振りを見せ、考えを纏め終えた彼女は、オーブの行いに理解を示す発言をした。

 

「……分かる気がするのよね……オーブの気持ち。あの時……私、自分が何をしてるのか分からなかった。オーブにも、同じような事が起こってたんじゃないかな。何か、巨大な力が彼を支配していたのかも……」

「……それは、マスコミの前では言わない方が良いな。ナオミちゃんの身に、危険が及ぶ事になるかも知れない」

「えっ……?」

 

 これを聞いた渋川は、ナオミにその意見は口外しないようにと指摘をした。

 渋川の言う通り、それ程まで国民のオーブに対する怒りの声が高まっている……と言う事だ。

 ジェッタ曰く、本日も国会議事堂前で「オーブを許すな」と言うデモ行進が行われているとの事。

 渋川が言うには、ビートル隊内でもウルトラマンオーブに対する批判の声が高まっており、次にウルトラマンオーブがビートル隊の前に姿を現した時、彼を攻撃する事になるかも知れない……と言う段階にまで至っているらしい。

 重苦しい空気が立ち込め始めた病室で、これを破るのはやはり彼女だった。

 呆れながら椅子から立ち上がった圭子は、SSPのオフィスに立ち寄った際に言葉を交わしたシンヤの事を思い浮かべながら、全員を非難した。

 

「あーやだやだ……。みんな忘れっぽいのねぇ~?あのウルトラマンに、散々助けてもらったんじゃないのさ!草薙君の方が、よっぽど人間出来てるわよ?」

「……いや義姉さん。ナオミちゃんは、命を落としかけたんですよ?」

「でも生きてるじゃない!ナオミだけじゃない。一徹さんのとこのパイロットも、無事だったんでしょ~?あのウルトラマン、日頃の行いが良いんじゃな~い?」

 

 娘と同様にウルトラマンオーブへの一定の理解を示し、誇らしげに腕組みをして直立不動の姿勢を取った圭子は、再び椅子に腰掛けて、向き合ったナオミを賞賛した。

 

「過去の恩を忘れないのは、人として、大事な事。ママ、あなたと草薙君が誇らしいわ!」

「ママ……!」

「……でもね?ガイ君の事はすっぱり忘れなさい」

「───え?」

 

 圭子が発したまさかの一言に、横になっていたナオミは思わず上体を起こして食い付いた。

 対するジェッタ達は、これまでタブー扱いにしていたガイの話題があっさりと登場してしまった事に慌てふためき、圭子が話を続けるのを止めようとする。しかし圭子の口は塞がらず、お得意の饒舌を披露し続けた。

 

「こぉーんな大事な時に、頼りにならない男なんか絶対ダメ!!……ママね、最初からガイ君の事、気に入らなかったの!」

「……あ、あのねぇ!私と彼は何でも無かったn」

「皆まで言うな~!!……ママはちゃ~んと分かってます。あなたがガイ君の事を想ってるって」

「……はぁ!?」

 

 ナオミの反論も全部分かっていると言わんばかりに遮り、ガイとナオミの関係を間違って解釈したまま、圭子は窓際のジェッタ達の元に歩み寄って更に続けた。

 

「若い娘はねぇ?み~んなガイ君みたいな、掴み所の無い男に惚れるもの!だけど?退屈でも、地に足付いた男と一緒になった方が幸せなの。ねぇ、一徹さぁ~ん?」

「えっ!?そこで、俺に振るんですか!?」

「もういっその事、草薙君なんて良いんじゃない?あの子も結構良い男よ~?」

 

 自分が言いたい事を言い続ける圭子にナオミは、早く地元に帰るよう食って掛かるが、ジェッタとシンが安静にするようにと抑える。

 この2人だけではナオミを抑えられず、遂には渋川も参戦して彼女を落ち着かせようとした。

 

「……もぉ~!Something Search People、全員退場ーっ!!」

 

 いよいよ我慢の限界を迎え、声高らかに全員の退室を宣告したナオミは、掛け布団を頭の上まですっぽりと被ったのだった。

 

 

 

 

 ナオミの病室を後にして、病院の待合室に出た圭子は、外の景色をじっと見つめていた。

 そんな彼女の元に渋川は近付いて、先程の行為の真意を問い質した。

 

「……義姉さん、何であんな事を?ガイ君がいなくなって、1番ショックを受けてるのは、ナオミちゃんなんですよ?」

「……あれが、ナオミの為なのよ」

 

 窓の外を眺めたまま、圭子はそう答える。

 

 その頃病室では、マトリョーシカ人形を手に取ったナオミが、特製マッシュルームスープをガイに振る舞った、あの日の事を思い出していた。

 

──それは……あなたと同じね。幾つもの別のあなたが、あなたの中に隠れてる感じ……

──最後の1つを開けてみれば……結局、空っぽだって分かる……

──最後の1つは開けちゃダメなんだって、パンドラの匣みたいでしょ……?

 

 ほんの数ヶ月前の出来事だと言うのに、今では何十年も昔の事のように思えてしまう。それ程までに、彼と過ごしたこの数ヶ月が、キラキラと輝いていたのだと改めて痛感したナオミは、マトリョーシカ人形をじっと見つめて、独り言を並べた。

 

「……ガイさん、あなたは、だぁれ?どこにいるの……?」

 

 ここでは無い世界のどこかにきっといるガイに思いを馳せて、ナオミはただ窓の向こう側の世界を目に焼き付けた。

 

 

 

 今もガイの事を思っているのは、ナオミだけでは無い。

 SSPのオフィスで1人きり、ガイの帰還を待ち続けているシンヤ。いつの間にか眠っていたようで、自分が今横たわっている事に気付く。

 ゆっくりと上体を起こしたシンヤは、現段階で最後に覚えている記憶を思い出す。

 渋川と圭子がここを訪れて、ナオミにマトリョーシカ人形を持って行くと言っていた。そして自分は2人にお茶を差し出して、圭子と少し語り合った。詳しい中身は朧気だが、確か自分は、彼女にこう言ったのでは無かっただろうか。

 

──オーブが危険視されるのも分かります。

 でもウルトラマンはこれまでずっと、僕らの事を守ってくれたんです。

……例え、ウルトラマンが世界中から敵視されるような事があったとしても……味方が僕だけになったとしても、僕は彼の味方であり続けたい。

……そう、考えてます。

 

 それから2人がオフィスを立ち去る時に、圭子から何かを差し出された筈。そう思ったシンヤは、ズボンのポケットから2つ折りになった小さな紙を見つけた。

 それにはどこかの住所らしき文字が書かれており、これを見てシンヤは、圭子が何と言っていたかを思い出した。

 

──草薙君の名字って、今時結構珍しいじゃない?この前聞いた後、私ちょっと気になっちゃって。だから調べてみたのよ〜。

 はいこれ。もし忙しいなら、後ででもそこ行ってみたらどうかしら?何か分かるかも知れないわよ?じゃあねぇ~♪

 

……こう言っては何だが、圭子は空気を読まずにその場の空気を掻き乱す事に定評があり、その一方で時々勘の鋭い一面を垣間見せるのだ。

 彼女が残したこのメモ書きも、いつか役に立つかも知れないと思ったシンヤは、それを財布の中にしまい込んだ。

 

「ガイさん……いつになったら帰って来るかな」

 

 シンヤは、ガイが愛飲していた瓶ラムネを幾らか備蓄していた。彼がいつ帰って来ても歓迎出来るようにする為だ。しかし今日もガイが帰って来る気配が無い為、蓄えていた瓶ラムネを1本取り出して、そのビー玉を押し込んだ。

 シンヤには、この瓶ラムネにもガイとの思い出がたくさん詰まっていた。ビー玉を押し込めばシンヤはいつも失敗し、その度にガイに笑われた。最近は成功する事も多くなったが、その全てが大切な思い出だ。

 いつもガイが陣取っていた小上がりに目が行ったシンヤはそこに上がると、中央に置かれていたちゃぶ台に突っ伏す。

 すると、突如発生した強烈な睡魔がシンヤを襲う。抵抗する事も無く、睡魔に身を委ねたシンヤは、ぐっすりと眠り始めた。




シンヤ君がヒロイン風になってしまった……。
だが、後悔はしていない。

続きは後編、夕方に投稿(予定)です。

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