ウルトラマンオーブ ─Another world─ 作:シロウ【特撮愛好者】
うーん、どうにかこの調子が続けば良いのに……。
作者が愚痴を少々零しつつ、後編です。
爆散したギャラクトロンの残骸から、全身に重傷を負ったナオミが発見された。
担架に乗せられ運ばれる意識の無いナオミに、必死に呼び掛けるジェッタ達と渋川の声が、救急搬送された病院に響き渡る。
──キャップ……!キャップ!!
──ナオミちゃん!死ぬなよ!頑張ってくれよ!俺よぉ……義兄さんや義姉さんに、どんな顔して詫びりゃ良いんだよ!?
変身が解除され、人間としての姿に戻ったガイは、ボロボロの身体に鞭打って立とうとするが、かなり体力を消耗している為に終始肩で息をする始末だった。
そんな中脳裏を過ぎるのは、涙を浮かべてこちらを見つめるナターシャや、これまでの長い旅路で出会ったかつての仲間達の姿だった。
「ぐっ……!くっ……!ううっ……!」
それでも立ち上がったガイは、足元に落ちていたウルトラマンベリアルのカードを見つけてそれを睨んだ。
……この力のせいで、俺はまた──!!
「ぐうっ……!!」
怒りと憎しみを乗せた拳を、ベリアルにぶつけようとするガイだったが、その拳はベリアルを捉える事無く、すぐ側の地面に激突した。
……元はと言えば、これはベリアルでは無く、この力を制御出来なかった自分自身が全ての原因なのだ。ベリアルを憎むのは、それこそお門違いと言うもの。
この行為に空しさを感じたガイはゆっくりと立ち上がり、ベリアルをじっと見下ろす。
その後ガイは僅かにナオミの気配を感じ取り、これを辿り彼女が搬送された病院まで、疾風の如き速さで向かった。
病院のベッドで横たわるナオミの傍らに、彼女が意識を回復させるのを、じっと待つジェッタとシンヤが腰掛ける。
その病室の外では、渋川と惣一がナオミの担当医と会話を交わしていた。
「相変わらず、意識不明の状態が続いております。病院側としても最大限の努力をしたのですが……。後は、本人の頑張り次第かと」
そう言って深々とお辞儀をして去り行く医師に、会釈をする渋川と惣一。
その直後に、ナオミの母親から彼女の事を任されていた渋川は、今回の一件を彼女に伝えるべく、重い足取りで屋上へと歩いて行った。
そんな渋川を見送った惣一は、同じく病室の外にいたシンの元に歩み寄る。この事件で彼もまた、心に深い傷を負っており、椅子に座ったまま頭を抱えて蹲っていた。
惣一はシンの肩を叩き、隣に腰掛ける。
泣きそうになるのを必死に堪えるシンは、弱々しく独り言を並べた。
「……科学で平和は作れない。作れるのは暴走する怪物だけなんです。だから……、リセットするしかないのかも知れません。生命を奪い合う生態系は、確かに間違いなのかも……!」
シンの頭を過ぎるのは、地域一帯の生態系を破壊したギャラクトロンの姿。
鼻を啜りながら喋るシンの言葉を聞いた惣一は、じっくりと考え抜いた末に、励ましの言葉を投げ掛けた。
「──機械と同じ頭で考えたらそうかもな。だがな、シン君。機械は体温は測れても、想いの熱さは測れねぇ。……人間は違うだろ?
人は……人の想いの強さに共感出来る。なぜか分かるか?」
「……心が、あるからですか?」
「そうだ……!俺達にはハートがある。だから大自然は争ってるんじゃなく、支え合ってるんだって分かる!
──シマウマが増えれば、草原が消えちまう。だからライオンがシマウマの数を減らす!」
惣一が持ち出した食物連鎖の例え話の続きを、シンは断片的にだがしっかりと紡ぎ出す。
「ライオンが死ねば、大地に還り、その大地に、草が生え……」
「その草を食べて……。シマウマが育つ!!
……決して争ってるんじゃねぇよ。この
「
勢いを付けて立ち上がった惣一は、シンに背を向けながらも熱く語り続けた。
──ついでながら皆様は、『ガイア理論』なるものをご存知だろうか。
地球と云う1つの星と、地球に生きる総ての生物が互いに結び付き、環境を構築する事を一種の「巨大な生命体」として考える憶説の事だ。
この説が提唱された1960年代当初は別の名称もあったが、後にギリシャ神話の女神「ガイア」を由来に持つこの名前となったとされている。
惣一が語っているのはまさしくこの事であり、この意味を理解したシンを見つめて、惣一は精一杯の想いを込めて、改めて彼を鼓舞するのだった。
「だからよ、シン君……!頭じゃなく、ハートで物事を見ろ!あのロボットには見えなかった世界を、見据え続けるんだ!うん!?」
惣一の励ましにシンは、これを忘れないように、何度も何度も頷いた。
「……はい。大丈夫と思うんですけど……はい。
ちょっと落ち着いて……。……?はい」
その頃、屋上で通話を続けていた渋川の脇を、一陣の風となったガイが通り抜けた。渋川はそれに一瞬気を取られたが、何でも無かったかのように、また通話相手に話し続けた。
ガイの勢いはこれに留まらず、廊下の椅子に座っていたシンと惣一の眼前を素通りした。
その2人がこれに気付いて顔を上げたのと同時に、誰かが廊下を走る音と、惣一を呼ぶ声が彼らの耳に届いた。
「社長……!」
「おぉ……。どうした、何があった!?」
惣一の元に駆け付けたのは、彼が製作所を任せた筈の芝尾だった。
その彼が慌てた様子で駆け寄って来た為、余程の一大事が起きたのでは無いかと身構える惣一は、芝尾の肩を掴んで一体何があったのかを尋ねた。
芝尾は息を整えつつ、涙ぐみながら惣一に説き始めた。
「墜落したゼットビートルのパイロット……。無事でした……!」
「……ホントか!?」
「うちのバネが……!緊急脱出装置用スプリングが、パイロットを救ったんですよ、社長……!」
「良かった……良かった!!うん!!良かったなぁ……!」
惣一が芝尾を慰める一方で、ナオミがいる病室の前に立ったガイは、意を決して扉を開いた。
そこには横たわったナオミと、彼女にタブレットを向けて語り続けるジェッタ、少し離れた場所で彼らを見つめるシンヤの姿があった。
「『ネバー・セイ・ネバー』……。諦めないんじゃ無かったの?キャップ……」
ガイがやって来た事に気が付いたのか、シンヤがガイの名を呼ぶ。その声や表情には、心苦しさが滲み出ていた。
「ガイさん……」
ジェッタもまた、たった今駆け付けて事情を知らないであろうガイに、ナオミの現状を語り出した。
「キャップ……意識戻らないかもって……」
ジェッタが席を立った直後、入れ替わる形で椅子に腰掛けたガイは、眠ったままのナオミの左手を握り締める。そんなガイに続いて渋川や惣一、シンが病室にやって来た。
ナオミの手を握ったまま目を瞬かせて、ガイはぽつりと呟いた。
「──俺は、オーブを許せない……」
彼がこのように言うのも、無理は無い。
闇の力を制御出来なかったせいでナオミは傷付き、また大切な人を守れずに戦いに巻き込んでしまった事への自責の念が、ガイの心に暗い影を落としていた。
その一言にシンヤは動揺を隠せず、思わずガイの名を呼んだ。
ガイの発言を聞いたジェッタもまた、その意見に賛同する姿勢を見せた。
「ガイさん……!」
「俺も……。オーブは味方だって信じて来たのに……」
これを聞いたシンヤは衝動的にジェッタの胸倉を掴み、わなわなと震えながら、場所を弁えずに怒号を飛ばした。
「……ジェッタさん、そんな言い方無いじゃないですか!オーブは……ウルトラマンは、今まで僕らを助けてくれたじゃないですか!なのにっ、それなのに……っ!
……謝れ。今すぐ、今すぐオーブに謝れよ!!」
数多くのウルトラ戦士の戦いやオーブの戦いを、この場にいる誰よりも近くで見守って来たシンヤにとって、ジェッタの発した一言はまさしく地雷だった。
滅多に感情を露にする事が無いシンヤの激情に、ジェッタを含めた全員が圧倒される。
しかし、これには売り言葉に買い言葉。ジェッタも負けじとシンヤを掴み返して吠える。
「……っじゃあ何だよ!?シンヤ君は、キャップがこんな事になったのに平気だってのかよ!!」
「2人とも、少し落ち着いて下さい……!」
ジェッタとシンヤの仲裁に入ったシンだったが、それでも2人の言い争いは終息しない。
これを止めたのは、年配者である渋川だった。
「いい加減にしろ、お前らっ!ここ病院だぞ……!それに、俺達がどんなに声荒らげたってなぁ……!ナオミちゃんが今すぐ目ぇ覚ます訳じゃねぇんだ……!」
この言葉を受けてシンヤとジェッタは落ち着きを取り戻し、納得のいかない表情を浮かべながら互いの拘束を解いた。
一部始終を見守っていた惣一は、この場にいる全員に向けて語り出した。
「──科学と同じだ。強力なパワーを作り出した途端、破壊と暴力に呑み込まれてしまう。そんな闇に、制御が利かなくなる。
自分の闇ってのはな、力ずくで消そうとしちゃいけねぇんだ。逆に抱き締めて……電球みたいに自分自身が光る!そうすりゃ、ぐるっと360度、どこから見ても、闇は生まれねぇ」
それを聞いたガイは、ナオミの手を握る自分の両手に顔を寄せて目に涙を溜めた。
するとナオミの瞼がゆっくりと開き、傍にいたガイの名を呼んだ。
「ガイ、さん……?」
「ナオミ……」
目を覚ましたナオミにジェッタ達は息を飲んだが、言葉を発さずにガイとナオミを見つめる。
朦朧とする意識の中、状況が飲み込めないナオミは天井を一点に見つめながらガイに尋ねた。
「わたし……どこで、なにしてるの……?」
この問い掛けにガイは、ナオミの手を離さずに、泣くのを堪えながら答える。
「病院で……。俺が手を握ってるよ」
「とても……あったかい……」
そう述べて再び瞼を閉じたナオミは、眠りに就いた。
それを見たガイは咽び泣き、落ち着きを取り戻した直後にナオミを見つめて、彼女に別れを告げる。
「俺は消える。……また逃げたんだと、思ってくれても良い。今の俺は……あんたの側にはいられない」
そう言い残して病室を去って行くガイ。
誰も彼を追おうとはせず、その背中をただじっと見つめるだけだった。
──彼を除いては。
「ガイさん!!……また、帰って来ますよね?」
しばらく時間を置いてからガイの後を追い、何とか追い付いたシンヤ。
呼び掛けにも応じず背を向けたままのガイに叫ぶが、彼は足を止めただけで、こちらを振り向く事は無かった。
肩越しにシンヤを見たガイはぽつりと呟き、シンヤと別離した。
「……悪い」
それを聞いたシンヤは、年甲斐も無く号泣しながらガイの背中に届くような大声を上げた。
「……僕、待ってます!ガイさんが帰って来るのずっと……!ずっとずっと、待ってますから!」
本来の風来坊に戻ったガイは、歩を緩める事無く進み続けた。彼がどこに向かうのか、それは彼にしか分からない。
荒れ果てた大地に、乾いた風が吹き付ける。
数時間前まで、ギャラクトロンとの死闘を繰り広げた焼け野原に戻ったガイは、ずっと回収されずに砂に埋まったままのベリアルのカードを見つめて考えを巡らせた。
(闇を抱き締める。そんな強さを……俺は見つけられんのか……?)
砂に塗れたベリアルのカードを拾い上げ、再びホルダーに収納したガイは、己自身と向き合う為に「あの場所」へ向けて歩みを進める。
地面に残されたガイの足跡も、吹き抜ける突風が運んだ砂利によって次第に埋もれていった。
「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」
シンヤ「……中々ショッキングな展開が続いてますが、今回も僕がナビゲーターを務めさせていただきます。
さぁ、今回紹介するのはこの方です!」
【ウルトラマンネクサス!】
シンヤ「『受け継がれてゆく魂の絆』ウルトラマンネクサスさん。数あるウルトラ作品では珍しく、主人公が最終話まで変身しない事でも有名な方です。
基本形態である銀色の『アンファンス』から、第二形態の『ジュネッス』へと二段変身。襲い来るスペースビーストや、全てを裏で操る黒幕『アンノウンハンド』に立ち向かいました」
シンヤ「ネクサスさんは、自身が選んだ『
その他にも『ウルトラマン
シンヤ「しかし物語のシリアスな設定や、放映当時の新聞に取り上げられてしまう程のホラー要素等々、あまり子供受けする作品ではありませんでした。
僕個人としては苦難や苦悩の果てに、誰かに背中を押される立場だった主人公が、やがて誰かの背中を押す1人の人間として成長する過程を描いた、所謂王道的な作品だと感じています」
シンヤ「ガイさんが負った心の傷は、とても深いです……。でもガイさんならきっと、また戻って来てくれると僕は信じています!」
シンヤ「次回も見てくれよな!」
失意の俺の前に、新たな脅威『合体魔王獣 ゼッパンドン』が現れる。
だが、俺はもうあの力は使えない。
あの闇の力に頼れば、きっとまた同じ過ちを……!
次回。
『ウルトラマンオーブ ─Another world─』
『忘れられない場所』。
……いかがだったでしょうか。
小舟惣一を演じた木之元亮さんの演技力もあって、惣一さんの言葉1つ1つがとても重みのある名言となっている14話と15話。
この機会に是非、もう一度見直してみてはいかがでしょうか。
隠れたサブタイトルは、『ウルトラマンG(グレート)』第13話(最終回)『永遠(とわ)なる勇者』でした。
ではでは皆さん、また次回ノシ