ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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どうも。
また間を空けてしまいまして、申し訳ございませんでした。

今回は長くなりそうなので、前・中・後の3部編成でお送りしたいと思います。

それでは、どうぞ。


第12話 黒き王の祝福 ━前編━

 ナオミ達と別れ、瓦礫や建造物の残骸で溢れ返った町で、ガイを捜索するシンヤ。瓦礫が崩れて来そうな場所は、なるべく避けて歩くが、足元や頭上にも細心の注意を払う。しかし、いくら歩いても景色は変わらず、辺り一面無惨な光景が広がるだけだった。

 そんな中、どこからか誰かの嗤う声が耳に届く。こんな状況で嗤っていられるのは、正直おかしいとシンヤは思ったが、その声がした方へと歩を進めた。

 その場所もまた、建物の残骸で散乱していたが、他よりかは少々開けている空間だった。

 そこには、仰向けに倒れる黒いジャケットの青年と、青年の傍らでほくそ笑むホスト風の男がいた。

 

「ガイさん……!それに、ジャグラー!」

「ん……?一足遅かったな、草薙シンヤ……」

 

 シンヤは必然的に、倒れたガイを挟んだ状態で、ジャグラーと対面する。

 そのジャグラーの手には、普段ガイが携えているカードホルダーが握られていた。

 

「それは、ガイさんの……!それを返せ!」

 

 シンヤがジャグラーに詰め寄ろうとした時、突然大地が大きく揺れる。何事かとシンヤは咄嗟に身構えるが、その隙にジャグラーは、その場から退散していた。

 ジャグラーを逃がしてしまったことを悔やむが、シンヤはガイをここから移動させることを優先した。

 

 

 

 シンヤがガイを発見した頃、マガオロチにも動きがあった。町をある程度破壊し尽くしたことによる疲労からか、マガオロチは蹲るように動きを止めた。その際、近隣に生えていた御神木を踏み潰したが、マガオロチにとってはどうでも良いことだろう。

 活動停止したマガオロチに対して、ビートル隊による厳戒態勢が敷かれる一方で、ジェッタとシンはその現場を訪れていた。

 立入禁止の看板の影に隠れながら、ジェッタはビデオカメラをマガオロチに向けて、実況を開始した。

 

「……蹲っている怪獣は、依然動きません。また、いつ暴れ出すか分からない怪獣に怯え、東京から逃げ出す人が続出しています……。まさに、怪獣無法地帯……!」

 

 ジェッタの傍らでシンが、タブレット端末が接続された光線銃のようなアイテムを、マガオロチに向ける。

 

「……ちょっと何やってんの、シンさん!?」

 

 シンの行動に驚いたジェッタは、ビートル隊の隊員に気付かれないようにと小声で尋ねる。

 それに答えようと、シンはジェッタに顔を向けた。

 

「何って……。新しく発明した、生態反応分析機です。怪獣に触れなくても、バイタルや脳波が分かるんで~……まずいなぁ」

 

 端末の画面に表示された分析結果を見て、にこやかな表情を浮かべながらも、シンは危機感を露にした。

 ジェッタは、シンの発明品のことだからまた故障したのかと思い、それを発明した本人に聞く。

 

「……使う前から壊れた?」

「いや、壊れてたら良いんですけど……」

「……どうしたの?」

 

 何か言い辛そうにしているシンの様子がおかしいことを察したジェッタは、詳しい事情を更に追及する。

 そしてシンは、分析機を使ったことで判明した分析結果をジェッタに開示した。

 

「バイタルも脳波も、活性化してるんですよ!」

「と言うことは?」

「いつ動き出してもおかしくない!」

「ちょっと静かにして……!」

 

 この結果を受けて、声を張り上げるシンを抑えるジェッタだったが、マガオロチは未だ動かなかった。

 

 

 

 極度の疲弊から、酷く(うな)されるガイ。

 そんな状況で誰かの視線を感じ取ったガイは、うっすらと瞼を開いて、それが誰からの視線なのかを確認する。

 その視線は、ある少女が向けていたもの。悲しげな瞳を向けるその少女のことをよく知っていたガイは、少女の名前を呼んだ。

 

(ナターシャ……?)

 

 ガイが瞼を開くと、そこにあの少女はおらず、ただ見慣れた天井が広がっていた。

 自分の側に誰かが座っていることを察知したガイは、その誰かに目を向けた。

 

「あっ、良かった……」

 

 そこには、ガイが目覚めたことに安堵したナオミの姿があった。

 そして自分が、SSPのオフィスにいることを理解したガイはゆっくりと起き上がろうとする。

 

「ありがとう……。もう大丈夫……、うっ、ぐっ……!」

 

 だが、マガオロチとの戦いで負ったダメージのせいで、ガイは思う様に身体を動かすことが出来ない。特に、マガオロチに貫かれた胴体に走る激痛は凄まじく、途端にガイは胴体を押さえて悶え苦しむ。

 

「大丈夫じゃないじゃない……!やっぱり、病院行こ?」

 

 ガイの様子を懸念するナオミは、起き上がろうとするガイを制する。

 しかしガイは、咄嗟にナオミの手を握り、彼女を見つめて答えた。

 

「ホント大丈夫だから……。もう少し……、休ましてくれ」

「でも……!」

 

 大丈夫だとは言うものの、苦しそうに喘ぐガイのことが気がかりでもあり、ふとナオミはガイに尋ねた。

 

「……ねぇ、ナターシャって、誰?」

 

 その問いかけに、ガイはハッとした表情になり、無意識に握ったナオミの手を離す。

 どうしてナオミが彼女の名を知っているのか。それが不思議で堪らなかったガイはナオミから目が離せず、何とか起き上がってナオミに問いかけた。

 

「どうしてその名前を……?」

「無意識の中で呼ぶんだなんて、大事な人なんだね……」

 

 これまで自分が魘されていたこと、その時彼女の名前を呼んでいたことを知り、ガイは多少の情けなさを覚えた。

 ナオミから顔を反らし、ガイは昔のことを思い出しながら、断片的にナターシャのことを話し出す。

 

「……大事な人だった。……助けられなかった。俺を助けてくれたのに……、俺は……」

「もう良いよ、話さなくて。……ホントゴメン、余計なこと聞いて……。何か食べられそう?そうだ、スープ作ろっか?」

 

 ガイの辛そうな横顔を見たナオミは、申し訳ない気分になってしまい、ガイの話を中断させる。

 何とかガイを元気付けようとしたナオミは、以前好評だったスープを作ることにして、キッチンへと急いだ。

 

 

 その際、シンヤが淹れたお茶を啜る圭子とすれ違うが、どうやらさっきの話が聞こえていたようで、圭子は申し訳なさそうにぼそっと呟く。

 

「盗み聞きする気はなかったんだけど……」

 

 怪獣の出現で、町中が混乱するこんな状況でも落ち着いた雰囲気でお茶を飲む母に向けて、地元に帰るよう要求する。しかし、圭子は未だにナオミも連れて帰る予定のようだった。

 そんな母を見て、ナオミは話し出す。

 

「……ねぇ、ママ。私が見る、不思議な夢のこと覚えてる?」

「……あの、巨人が出てくるって言う?」

 

 ナオミの言う不思議な夢とは、光の巨人が登場する夢のこと。子供の頃から現在に至るまで、この夢を見ていたナオミは、その度に圭子に夢のことを話していた。

 ナオミの発言に見覚えのある圭子は、真剣な表情で聞き返す。

 それに頷いたナオミは、自分の今の素直な気持ちを話し出す。

 

「うん……。ここには、その夢の謎を解く鍵があるような気がするの。その謎に、確かに近付いてる気がして……。それに、こんなに夢中になれること、他にないの……!だから……、お願い……!」

 

 SSPのオフィスを見渡しながら、真っ直ぐな想いを圭子に伝えたナオミと圭子の間に、押し詰まったような空気が流れる。

 そんな中、オフィスの階段を駆け上がる誰かの足音が鳴り響き、突如扉が開かれる。

 現れたのはジェッタとシンだったが、何やら非常に焦った様子を見せ、ただいまを言うより先にジェッタが唐突に口を開く。

 

「玉響姫だよ!玉響姫を探そう!」

「えっ!?」

「怪獣がもうすぐ目覚めます!」

「オーブはもういないし、ビートル隊も歯が立たないだろうし……!」

 

 ジェッタがそう喋る中、小振りなアタッシュケースに内蔵された発明品を見つけたシンはジェッタに呼びかける。

 

「準備完了!」

「行こう!」

「あぁ、ちょっと待って……!」

 

 何のことか話が飲み込めないナオミとシンヤは、2人を引き止めようとする。だが余程の緊急事態だからか、2人はナオミを振りほどいて急ごうとする。

 そんな空気を一変させたのは、突然出て来た圭子の号令だった。

 

「Something Search People、出動~!フゥ~!」

 

 それはSSPが出動する度にナオミが命じる号令だったが、今の号令は一昔前のスーパースターのようなポーズを取った圭子が、上機嫌な掛け声をオマケに付けた、これまでのとは少し違ったものだった。

 これにはナオミも絶句したが、圭子を心配そうに見て問いかける。

 

「ママ……、何してんの……?」

「あれ……?間違ってた?」

 

 何かおかしかったのかと、圭子はジェッタ達とナオミの顔を交互に見比べて同意を求める。

 だがジェッタは、社交辞令気味に圭子に答えた。

 

「いえ、バッチリです!」

「じゃあ、出動!」

 

 これに頷いたジェッタ達は足早に駆け出して行ったが、何とこれに圭子も続こうとする。

 母を巻き込む訳にいかないナオミは、圭子の腕を掴んで引き止める。

 しかし圭子は不思議そうな顔でナオミに尋ね、続けて話し出す。

 

「ダメ……!ママはここにいて!」

「どぉしてぇ~?何であなたがこんなに夢中になってるのか、ママも知りたいの。……ナオミは、ガイ君についててあげなさい?OK?」

 

 そう言い残して圭子は、ジェッタ達の後を追った。

 自分はこれからどうしようかと迷ったナオミは、ガイをチラリと見る。

 ナオミと目が合ったガイは頷いて、ややぶっきらぼうに答えた。

 

「……俺は大丈夫だから」

「僕が見てますから、大丈夫です。ナオミさんも行って下さい」

 

 これまでほぼ蚊帳の外だったシンヤが留守番を買って出たことで、覚悟の決まったナオミは、ガイに掛け布団をかけて念入りに釘を刺す。

 

「……大人しく寝ててよ!?絶対だからね!」

 

 ナオミが出て行ったのを確かめたガイは、すぐさま跳ね起きて自分も出かける支度を始めた。

 布団の側に畳まれていたジャケットを小脇に抱えて、右腰に目を向けた。だが、いつも身に付けていたはずのカードホルダーがそこにないことに驚愕する。

 奪われたカードホルダーの中には、ガイが力を借りてきたウルトラ戦士達のカードが6枚収められている。それがないと言うことは、現状ウルトラ戦士の力を借りなければ戦うことの出来ないガイにとってかなりの痛手だ。

 誰の仕業なのか見当が付いたガイは、その相手を探しに行こうと立ち上がる。

 だが立ち上がったのはガイだけではなく、愛用のリュックを背負ったシンヤがガイに進言した。

 

「ガイさん、僕も行きます……!いえ、連れてって下さい!お願いします!」

「シンヤ、お前……」

「きっとヨミも現れます。その傷で、あの2人を相手にするなんて危険過ぎます!」

 

 ガイはシンヤの真摯な眼差しから、この非常事態を招いたことへの罪悪感と、それ以上に自分を助けたいと言う強い意志を感じ取った。

 その熱情に根負けしたガイは、軽く溜息を吐いてシンヤに答える。

 

「分かったよ……。でも、危ねぇと思ったらすぐ逃げろ」

「逃げませんよ。僕がここにいるのは、ガイさんを救うためですから」

 

 互いに向かい合ったガイとシンヤは、そう言葉を交わして出発した。

 

 

 

 圭子も加わったSSP一行は、打倒マガオロチの切り札になるかも知れない玉響姫を探しに、入らずの森を訪れた。マガオロチの出現で、以前立ち寄った時とは全く地形が変わってしまった森の散策を開始して、数分が経過した。少しでも捜索の足しになればと、シンが持参した発明品を使う中、ジェッタはくたびれつつも森中に向かって叫ぶ。

 

「玉響姫〜……!助けて下さ〜い!出て来て下さいよ〜……!」

「ダメです、全く反応がありません……」

「ここじゃないのかな……?」

「でも、ここじゃなきゃどこにいるって言うの……?ウワァーッ!」

 

 ジェッタとシンに続いて、普通に歩いていたハズのナオミが、突然悲鳴を上げて転んだ。毎度毎度転ぶナオミを、呆れながらも心配してジェッタ達が駆け寄る。何とか自力で起き上がったナオミは、自分が何に躓いたのかを確認しようと振り向く。

 その足元には、大きな石が転がっていて、よく見れば何やら文字が刻まれていた。

 それに見覚えのあったナオミ達は、それが玉響姫の石碑の破片であることを突き止めた。辺りを見回せば、石碑の破片はあちこちに散らばっていた。すぐさまナオミ達は、その石碑を復元すべく破片を集め始める。

 しかしナオミは、圭子が何か別のことをしていたことに気付き、恐る恐る尋ねる。

 

「ママ?……何してるの?」

「何って、お花の種を蒔いてるのよ。この前ね?珍しいお花の種を買ったの。すっごく綺麗なお花が咲くのよ〜?」

「でも、今そんなことしてる場合じゃないでしょ?」

 

 すると圭子は、ナオミを無視して近くにいたジェッタを呼び止めて、水を持ってくるように指示する。

 ここから水道のある入り口の公園までは、かなりの距離があるために、ジェッタも困惑する。だが圭子は、そんなジェッタを急かして、すぐに公園へと向かわせた。

 この圭子の態度に、ナオミも限界を迎えて腹を立てる。

 

「ジェッタ……!もう、ママいい加減にしてよ!こんなことするために来たんじゃないんだって……!」

「そんなにカリカリしな〜いの。ほら、あなたも手伝って!はい!」

 

 それでも圭子のペースは一切変わらず、花の種が入った袋から種を適量取り出し、ナオミに差し出す。

 それを受け取り戸惑うナオミをじっと見つめて、圭子は語った。

 

「大地は……、生命を待ってるのよ。

 ……どんなに破壊されても、大地は諦めないの。いつだって、新しい生命を育てようって、待ち構えてるのよ……」

 

 受け取った種と圭子を交互に見比べて、キョトンとしたナオミ。

 するとシンが、ある程度集まった石碑の破片から磁気反応を感知した。これを復元すれば、玉響姫が復活するかも知れないと、ナオミ達は僅かな希望を見出した。

 ちょうどジェッタも戻って来て、ナオミ達はまた石碑の復元を開始した。

 

 

 

 一方ガイとシンヤは、ジャグラーを探して町中を歩き回っていた。ガイは傷が痛むようで、時々休憩を挟みながら探していたが、成果は皆無。

 シンヤがガイに肩を貸しながら、高架下に差し当たった時、ジャグラーは彼らの眼前に現れた。

 

「探し物は……。これですか?」

 

 いかにもわざとらしく、ガイのカードホルダーを見せびらかすジャグラーの隣には、シンヤの予想通りヨミが不敵な笑みを浮かべていた。

 飛び出そうとするシンヤを制したガイは、ジャグラーに1歩ずつ近寄る。対するジャグラーもまた、ヨミを後ろに引き下がらせる。

 カードホルダーを持つジャグラーの右腕を掴んだガイは、ジャグラーを威嚇する。

 

「返せ……!」

 

 ガイとジャグラーの間を切迫した空気が漂い、途端に2人は戦闘を開始した。

 ガイの腕を強引に振り解き、胴体目がけてボディーブローを狙うジャグラー。だがガイはそれを防ぎ切り、反撃の右腕を振るう。しかしジャグラーは、横に逸れることで回避、その隙にガラ空きになったガイの腹部に、膝蹴りを叩き込む。

 マガオロチ戦のダメージが、特に集中している腹部への一撃は、想像を絶する痛みとなってガイを襲う。喰らった拍子にガイは、身体を曲げて倒れる。不運にも、倒れた先には手すりが取り付けられていて、ガイは手すりに派手にぶつかる。

 

「……何かお前かっこ悪いよ」

 

 その体たらくを見たジャグラーは、ガイを見下しそう呟くと、倒れたガイの顔を覗き込むように屈み、ガイを挑発する。

 

「お前ホントかっこ悪いからさぁ……。せめて自分の負けを認めて、俺の勝ちを讃えろよ」

「ふざけんな……!」

 

 その挑発に怒りを滲ませて立ち上がるガイを、ジャグラーは更に嘲笑う。

 

「負け犬の遠吠えってやつか?」

 

 それと同時に大地が揺れ始め、付近のビルの向こう側に、再び活動を開始したマガオロチが見えた。

 

「始まった……。ガイ、死なずにこの星が滅ぼされるのを、たっぷり見物してくれよな」

 

 マガオロチがまた大暴れする中、ジャグラーはガイに背を向けたまま、捨て台詞を吐いてヨミと共に消えた──。




…いかかでしょうか。

中編は今作オリジナル要素なので、ツッコミどころ満載かと思われます。
ですが現在執筆途中なので、気長に待っていただければ幸いです…。

皆さんに1日でも早くお届け出来るよう頑張りますので、今回はこの辺で…。


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