ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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後編です。
それでは、どうぞ。


第8話 都会の半魚人 ━後編━

 倉庫に戻ってしまったラゴンの子供が、戻って来てまで取りたかったもの。

 それは、源三郎から貰ったばかりの漁船の玩具だった。

 水を張った発泡スチロールに浮かせていたそれを取ったラゴンの子供は、一瞬安心する素振りをしたが、近付いて来る地鳴りにハッとする。

 グビラが倉庫を壊すより先に、僕はラゴンの子供の元に到着した。

 

「どうしてこんな危ないこと……!」

 

 僕は最初、この子を叱るつもりだった。

 でも、漁船の玩具を大切そうに持ったこの子を見ていると、そんな気も消えてしまった。

 

「全く……。行くよ!捕まってて!」

 

 その子を抱き抱えて、すぐに外に出ようとした時だった。倉庫が激しい音を立てたと同時に、グビラの鼻先の角が、倉庫の天井を突き破った。

 

 

 

 グビラは容赦なく倉庫の屋根を破壊して、被害を大きくしていく。ドリルの回転で火花が散り、屋根の残骸が逃げるナオミ達に降り注ぐ。

 残骸のシャワーが止み、ナオミは顔を上げたが、途端に呆気に取られてしまう。

 ナオミが見たのは、怪獣の角の上で半魚人を抱き抱えるシンヤの姿だった。

 

 僕が気が付いた時、いつの間にやら外に出ていた。

 しかし、それにしては視界がいつもより広く、向こう側に見える建物の最上階と同じ位置にいた。

 腕の中には、抱き抱えられたラゴンの子供。

 ふとした瞬間に目が合って、僕は笑顔を作ってみせる。

 気を取り直して辺りを見渡すと、青空が広がっている。足元を見れば、灰色の床。それも所々ギザギザで危なっかしい。でもその床の数メートル先は続きがなくて、その下には敷き詰められたかのような倉庫が、行儀良く綺麗に並んでいた。

 その時点で、僕は今、どんな状況なのかを察してしまった。いや、察しなければいけなかった。

 ゆっくりと首を後ろに回すと、白い体表に黒い模様が描かれた怪獣がいて、その青い瞳と目が合ってしまった。

 

「え……?え?」

 

 するとグビラは突然吠えて、金切り音を鳴らして角を回転させる。

 普通なら僕らは、このまま落ちて終わりなのだろうけど、この状況で易々と落ちる訳にはいかなかった。

 これまで感じたことのない危機感を覚えた僕は、グビラの角に乗ったまま両足を最大限駆動して、何とかこの現状を維持する。

 僕は今、『ウルトラマンサーガ』の主人公と同じ状況に立たされていた。

 

「うぉおぉぉぉぉ!?ちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉ!!?」

 

『サーガ』の主人公は、ウルトラマンゼロと同化していたからこそ、高い身体能力を発揮していた。

 でも僕は、言ってしまえば一般人。これが長時間続けば、いずれ体力切れを起こす。つまりそれは、この子の生命が脅かされるということ。

 それだけは何としても避けなければならない。

 そんなこんなで粘り続けていた僕だったけど、グビラは突然角を振り上げる。その勢いで、僕らは大空に投げ出される。

 

「うぉあぁぁぁっ!ああっ、坊やが!」

 

 グビラに投げ飛ばされた時の反動で、僕はあの子を手離してしまっていた。空中でその子を探していたら、グビラが口を開けたまま上を見上げていた。

 その真上を見ると、僕同様に空を舞う半魚人の坊やがいた。でもここからだと手が届かない距離にいた。

 届かない右手を無理矢理伸ばすけど、坊やはそのまま垂直に落下。グビラの口内に吸い込まれていった。

 

「……!坊やぁああああ!」

 

 僕も垂直に落下していくが、僕が落ちたのは段ボールやら何やらが雑に積み重ねられた山の上。背中から派手に激突して、苦痛に顔を歪める。

 運が良いのか悪いのか、丁度僕が落ちたのはナオミさん達が何も出来ずに僕らを見守っていた通路に近い場所だった。僕はグビラに呑まれたあの子に向かって、震える手を伸ばした。

 

「ガアッ……!ッハァ……!ぁ……、坊やぁ……!」

 

 

 

 グビラがラゴンの子供を呑み込んだのを目撃したガイは、咄嗟に物陰に隠れて左手のオーブリングを構える!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『光を越えて、闇を斬る!』

 

 町に現れた青い巨人は、額のクリスタルを発光させてグビラの元に高速で移動する。

 オーブは、顔を上げのけ反った体制から元に戻ろうとしたグビラの角の根元にチョップを当てて、グビラの下っ腹に拳を連続で叩き込む。

 

『ウォオォォォ!リャアァッ!』

 

 そして、溜め気味に右の拳をぶつける。

 その一撃はグビラにかなり効いたようで、グビラの目尻に涙が浮かぶ。

 ようやく元の体制に戻れたグビラは、背中から潮を吹き出す。その勢いで、先程呑まれたラゴンの子供が潮に乗って吐き出された。

 自由落下するラゴンの子供を、オーブは掌でキャッチする。その一部始終を見ていたナオミ達は歓喜した。

 ナオミ達と向き合ったオーブは腕をゆっくり下ろし、地面に手を着くと軽く握っていた手を開く。

 そこからは、無事に救出されたラゴンの坊やが現れる。ラゴンの親は、しっかりと子を抱き締める。ナオミ達も駆け寄って、親子の再会を祝福する。

 その後、ナオミの号令で全員がその場を離れる。

 道中、ナオミ達は段ボールに埋もれるシンヤを発見。ラゴンの子供の無事を知ったシンヤも、涙を流してその子を抱き締めたという。

 

 ラゴンの子供を助けることに成功はしたが、まだグビラを撃退した訳ではないオーブは、改めてグビラに戦いを挑む。

 グビラの背に飛び乗って打撃を与えるが、今のオーブはスピードに特化した姿。これと言ってダメージを与えられず、逆に振り落とされてしまう。

 鼻先のドリルを回転させながら、グビラはオーブに突撃。鼻先を掴んでこれを回避したオーブだったが、グビラの怪力がそれを上回りマウントを取られる。

 自身の顔面に向けられたドリルを顔を反らすことで回避するが、依然としてドリルの回転は収まろうとしない。

 力を振り絞り、片手で何とかグビラの刺突を抑えるオーブは、すかさずオーブスラッガーランスを召喚する!

 

『グォオォォッ……!オーブスラッガーランスッ!』

 

 ランスの穂先をグビラの鼻先に引っかけて、力の限り押し込む!

 そのままグビラはのけ反った状態で町を転がり、体制を立て直す。

 それよりも早く、オーブはタイプチェンジ能力で姿を変える!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 仁王立ちでどっしりと構えるオーブは、体制を立て直したばかりのグビラに挑発するように手招きをする。これに腹を立てたグビラは、砂埃を巻き上げてオーブにドリル攻撃を仕掛ける。

 だが、オーブの狙いはそこにあった。

 

『シャットダウンプロテクト!』

 

 そう言うとオーブは、伸ばした右腕から念力の渦巻き状の光線をグビラ目がけて照射。その光線を左腕も使って分割し、相手を球状の膜で覆う。それを念力で空中まで持ち上げると、グビラを包み込んだ巨大なシャボン玉のようにも見えた。

 この技は初代マンの「ウルトラエアキャッチ」と「ウルトラアタック光線」、ティガの「ミラクルバルーン光線」を合わせたもので、オーブはグビラを陸から遠ざけるためにこれを使用したのだ。

 飛び立ったオーブは、シャットダウンプロテクトで閉じ込めたグビラを彼方の水平線まで運び去って行った。

 それを眺めていたナオミ達一向だったが、源三郎が去って行くグビラに向かって叫ぶ。

 

「もう、人間のいるところに来るんじゃねぇぞぉー!」

「来るんじゃねぇぞー!」

 

 彼に倣ってかシンも海に向かって叫び、そこにいた全員が微笑んだ。

 

 

 

 後日。

 ラゴンの親子を乗せたSSP-7が、川沿いの道を走っていた。

 別れの時が、やって来たのだ。

 

 そして到着した川の畔で、坊やがはしゃいでいた。僕らはそれを、源三郎さん達から少し離れたところで眺めていた。ジェッタさんは相変わらずビデオカメラを回しているけど、誰1人として彼らに水を差すことはしなかった。

 そうしていると、ラゴンの坊やが源三郎さんに抱き付く。きっと僅かな時間だっただろうけど、姿の全く違う彼らの心は怪獣と人間の垣根を越えて、確かに繋がったのだと僕は確信した。

 

「おじさん、捕獲しなくて良いの?」

「ビートル隊が怪獣を攻撃するのは、市民を守るためだ……。危険のない、絶滅危惧種を捕まえるためじゃない」

 

 ナオミさんが渋川さんに問いかけて、渋川さんはそれに答える。するとラゴンの坊やがやって来て、渋川さんの手を取って引っ張って行く。その微笑ましい光景には、僕も笑顔になった。

 それを見ていた僕に、SSP-7の側にいたガイさんは唐突に問う。

 

「そうだ、シンヤ。ケガはもう良いのか?」

「えぇ。まだ少し痛みますけど……」

 

 今回の一件で無茶をした僕は、結構なケガを負った。でもあんな高さから落ちたと言うのに、骨折に至るケガはなく、ナオミさん達からは少し不振がられた。

 人間の身体って、案外頑丈に出来ているのかも……?

 

 ラゴンの親子を撮影していたジェッタさんが何かを決意したのか、ビデオカメラの撮影を中断した。今回はちゃんと全部撮れていたのに、である。

 その行動に、僕はジェッタさんの優しさを感じ取った。

 

「『恵みを分け合える方法はきっとある』……か」

 

 僕がそう呟くと、またやって来た坊やがナオミさんに何かを頼むようにジェスチャーをする。それを見たシンさんは、ナオミさんにまた歌って欲しいのではと推測する。それには坊やも激しく頷いていた。

 ナオミさんは少し戸惑っていたけど、源三郎からも頼まれて、後には引けなくなっていた。

 

 そして、ナオミさんは歌い始めた。

 

『♪~』

 

 その曲は、どこか懐かしさを覚える雰囲気でもありながら、寂しさも兼ねたメロディだった。

 この曲に、これまでは見守るだけだったガイさんがナオミさんの元に歩み寄り、歌っている最中のナオミさんにその曲について尋ねた。

 

「その曲……、知ってんのか?」

「……うん。何でかな……?ずっと前から、知ってる気がするの」

 

 ガイさんに尋ねられるとは思っても見なかったのか、ナオミさんは自信なさげに答える。しばらく沈黙が続いた後、ナオミさんはまたその曲を歌う。

 でも今度は、ガイさんが懐から取り出したオーブニカの演奏も組み合わさり、綺麗な旋律が生まれた。

 

『『♪~、♪~』』

 

 ナオミさんが歌い終えたと同時に、ラゴンの親子は手を繋いで水の中に消えて行った。

 それを見つめるナオミさんの横顔を、なぜか直視するガイさん。今の曲が何か関係してるのだろうか……。

 ガイさんの視線に気付いたナオミさんが、ガイさんの顔を見る。咄嗟に顔を反らしたガイさんは、誤魔化すようにナオミさんに告げた。

 

「……先に帰ってる。夕飯はピザで良い」

 

 そして僕の目の前を通過して、ガイさんは帰って行った。

 ガイさんがどうかしたのかナオミさんに聞こうと僕が駆け寄った時、源三郎さんもやって来てこう言った。

 

「ピザも良いけど魚も喰え!……そう言っとけ!」

「……はい」

 

 源三郎さんに苦笑いで答えたナオミさんは、離れて行くガイさんの背中をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「(……どうして、ナオミがあの曲を知ってたんだ?だって、あの曲は……)」

シンヤ「……イさーん!ガイさーん!コーナー始まってますよ~!」

ガイ「……」

シンヤ「……ええっと、ガイさんから返事がないので、今回は僕が1人で進行したいと思います!

 さぁ今回紹介するのは、これです!」

 

【ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!】

 

シンヤ「今回、オーブが使用した技の説明をしたいと思います。

 今回使ったのは『シャットダウンプロテクト』。初代ウルトラマンさんの『ウルトラアタック光線』と『ウルトラエアキャッチ』、ティガさんの『ミラクルバルーン光線』の複合技です。

 次は、それぞれの技の紹介です。

 ウルトラアタック光線は、『ウルトラマン』第31話『来たのは誰だ』にて使用。必殺のスペシウム光線が通用しないケロニアを倒しました。他にも、復活したアントラーを一撃で倒したことから、ウルトラマンの最強技とも呼ばれることもあるとかないとか。

 ウルトラエアキャッチは、いわゆるウルトラ念力の一種で、第25話『怪彗星ツイフォン』で2代目レッドキングを空中に固定、分裂させた八つ裂き光輪でトドメを刺すまでの繋ぎ技として登場しました。

 ミラクルバルーン光線は『ウルトラマンティガ』第12話『深海からのSOS』の対レイロンス戦で、パワータイプにタイプチェンジしたティガさんが繰り出しました」

 

シンヤ「……やっぱりガイさんの反応が薄いな。

 では今回は、この辺で失礼します。

 次回はオリジナル回!次にオーブは、どんな姿に変わるのでしょうか?お楽しみに!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

シンヤ「何で最後だけ出て来るんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪獣保護団体が保護したのは、突如飛来した宇宙怪獣。

 何ぃ!?この怪獣、妊娠してるのか!?

 俺達SSPが招待されてやって来た怪獣島で、俺を待っていたのは──!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『慈愛は再び』。

 繋がる力は、心の光!




……いかがだったでしょうか。

次回のオリジナル回。
もうどの怪獣が出るのか、どの姿が出るのか既にバレバレですが、待っていて下さい。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第6話『沿岸警備命令』です。

では……ノシ

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