ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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第8話 都会の半魚人 ━前編━

 誰もが仕事を終えて、帰路に着く夕暮れ時。町中にそれを知らせる鐘の音が響く。

 北川町のとある魚屋では、この時間にタイムセールとして大安売りを行っていた。

 そしてこの店の店主の源さんこと、戸松源三郎はセールに向けて、商品の乗った笊に半額と書かれた札を差し込んでいく。

 すると日頃見慣れた主婦が、魚介類を買い求めにやって来た。

 

「やっぱ、生モノを買うにはこの時間に限るわね~!」

「勘弁して下さいよ~!そんなお客様ばっかりになったら、魚屋は3日で干上がっちまいますよぉ!」

 

 笑いを交えて会話は弾み、その主婦を皮切りにぞくぞく客がやって来た。

 今日の営業が終了して、営業当初に比べてすっかり重くなったシャッターを下ろして、店主は店じまいの準備に取りかかった。

 今日の営業でも、売れ残りはいくつかあった。その売れ残った魚介類を1つひとつ見比べて、砕いた氷を敷いた発泡スチロールの中に入れる。

 しかし源三郎は適当なものを選んでいた訳ではなかった。この仕事を始めて数十年、そこで培って来た観察眼で新鮮なものだけを選び抜いてゆく。

 源三郎はその発泡を抱えて店裏の倉庫へと足を運び、倉庫内の手持ちのランタンに明かりを灯す。

 その明かりを元に奥へ奥へと進んで行く源三郎は、倉庫の棚の奥からこちらを覗く相貌に気付かなかった。

 色鮮やかな大漁旗で区切られたスペースに到着した源三郎は、手前の旗を外した。

 

「遅くなっちまったな!今日は、良いネタが売れ残ったよ!坊や、腹ペコかい?坊や、坊や~?」

 

 倉庫と言っても、そこはある一種の居住スペースになっていた。そこには子供が遊びに使うような玩具が数点置かれていて、ここに子供が暮らしていることを感じさせる。

 しかし、どうしてこんなところに子供が……?

 それには深い訳があった。

 姿を見せない子供を探して、明かりを片手に呼びかける。その源三郎の背後に、身体中に魚のようなヒレの生えた人影が近付いていた。

 その人影──半魚人は鳴き声を上げて源三郎を脅かす。

 それに反応して源三郎は振り向き、人影の顔を照らす。しかし彼は一切動じず、むしろ笑顔で話しかける。

 

「何だよ、誰かと思って隠れてたのか?全くよぉホントに!はい、これを食べな!坊やは?」

 

 そう言って彼は、先程店から持ってきた発泡スチロールを手渡す。半魚人は、感謝するように頭を下げた。

 源三郎がそう問いかけると、物陰から一回り小さな半魚人の子供が飛び出して来た。そのわんぱくっぷりに、源三郎は笑いながら子供をくすぐる。

 ここにいたのは、ラゴンの親子だった。

 

 海底原人 ラゴン。

 彼らは、2億年前に地球に存在した爬虫類が進化を遂げたものである。性格は基本的に大人しいが、凄まじい怪力を持っている。

 源三郎とこの親子が出会ったのは、数週間前に遡る。

 ある日源三郎がいつものように店じまいをしていた時、この親子はやって来たのだ。

 最初は驚いてビートル隊に通報しようかとも考えた。しかし親子の様子を見ると、どうやら腹を空かせているようだった。

 源三郎はそんな彼らを匿い、食料となる魚を分けていたのだ。

 

「坊や。……はい、お土産だ!」

 

 そう言って源三郎が取り出したのは、漁船を模した玩具だった。彼はこれまでにも様々な玩具をプレゼントしていて、ここにある玩具は全てそれだった。

 それを受け取ったラゴンの子供はよほど気に入ったのか、手足をじたばたさせて喜び出した。

 源三郎とこの親子は、当然言葉は通じていない。

 でも確かに、彼らの間には種族の壁を越えた強い繋がりがあった。

 

 

 

 外から聞こえる怪獣の雄叫びと、腹の底まで響くような足音。

 突如現れた怪獣の仕業で、北川町全土が灼熱の地獄と化した。

 SSPのオフィスに取り残され、おまけに瓦礫に挟まれて身動きの取れないナオミ。どこからか何かが燃えた臭いがして、危機感を覚えたナオミはひたすら手を伸ばす。

 

「助けて……!誰か……!」

 

 弱々しい掠れた声で救いを求めるが、ここには自分しかいない。一貫の終わりを痛感したナオミは瞼を閉じた。

 だが何者かが現れ、ナオミの行動を制限していた瓦礫を退けて、彼女の身体を抱き抱える。

 それが誰なのか気になったナオミは瞼を開く。

 そこでナオミが見たのは、かつて自分を殺そうとした男の邪悪な笑みだった。

 ジャグラーに新手の危機感を覚えたナオミは離れようとするが、しっかり捕まってしまっていて逃れることも叶わない。

 必死に抵抗しようとするも、顔を反らすことしか出来ないナオミの耳に飛び込んで来たのは、あの風来坊の声だった。

 

──大丈夫だ、俺がナオミを助ける。

 

 その声にハッとしたナオミは、顔を上げる。

 そこにいたのはあの男ではなく、クレナイ・ガイだった。

 ナオミを抱き抱えた状態のまま、天井を突き破り飛び上がるガイ。

 その突然のことに驚いたナオミは悲鳴を上げて──。

 

「ウワァァァァァッ!!」

 

 夢から目覚めた。

 目覚めたナオミは辺りを見る。そこはいつもと変わらないSSPのオフィスで、火事も起きていないどころか、瓦礫もない。

 そして自分が右腕を高く上げていたことに気付き、スッと降ろす。

 少し離れたところでジェッタとシンが昔懐かしいブラウン管のテレビを弄っていて、また別の場所にはハンモックに寝そべる風来坊、自分の側に尻餅を突いたまま、驚きの表情で固まった青年がいた。

 

「どうしたのシンヤ君!?」

「イ、イエ……。何デモ……ナイ、デス」

 

 そう言って首を振るけど、シンヤの顔は一切動いてはいなかった。むしろ、言語すら危うい状態だった。

 それを見かねたジェッタが、ナオミにどうしてこうなったのか経緯を語り出す。

 

「……キャップがうなされてたから、シンヤ君が声かけてたんだよ。それなのに、キャップがあんな声で叫ぶから……」

「えぇ!?ご、ごめんシンヤ君!」

「アハハ……、オ気ニナサラズ……」

 

 やはり、首を振るだけしかアクションを取れないシンヤへの謝罪の言葉を連ねるナオミ。

 そんなナオミに、シンがこんなことを聞き出した。

 

「夢を見ると言うことは、熟睡出来ていないということです。またいつもの夢ですか?」

「……違う。今までのと似てるけど……。違う夢」

 

 いつもの夢というのは、光の巨人が現れる夢のことだ。

 しかしその夢ではなかったため、そう言ってナオミはハンモックで寝ているガイをチラリと見た。

 

 すると、ジェッタ達がこれまで弄っていたブラウン管にニュースが映し出された。

 報道されていたのは、魚が姿を消したというニュースだった。近海ではここ数日の間で、魚が全く捕れないということが続いて起きていた。

 この事態を受けて、沿岸警備命令も発令されたとのことだった。

 

「海で何かあったの?」

「外来種が群れで漁場に紛れ込んで来たか……。あるいは……」

「腹ペコの怪獣が現れた!」

「また怪獣!?」

 

 テレビを前にして、ナオミさん達は話し合っていた。

 僕はと言うと、頭を振ったり頬を叩いたりして、さっきの状態から切り替えようと頑張っていた。

 テレビの調子が悪くなってしまったのか、ジェッタさん達はテレビを叩いていた。

 

「何で、のこのこ怪獣が現れるようになっちゃったのかな?」

 

 ナオミさんがふと、そんな疑問を掲示する。

 それに対してジェッタさんは、世界の終焉が始まった、とネットで騒いでいることを説明する。

 シンさんはどの異常気象も、1つひとつを見れば観測史上類例がない訳ではないと言う。でもそれが同じ年に同時多発するのは、自然界のバランスが崩れている証だとも言った。

 

「地球は、アンバランスゾーンになってるってこと?」

 

 ナオミさんがそう言うと、ジェッタさんがそれをサイトの見出しに使おうと提案する。

 するとこれまで眠っていたはずのガイさんが、突然話し出す。

 

「怪獣だって、人間の前に出て来たかねぇはずだ」

「あれ、起きたんだ」

「アヒルみたいな声に、安眠を妨害された……」

 

 ガイさんが言っているのはきっと、さっきのナオミさんの絶叫のことだろう。それを指摘されたナオミさんは少し不貞腐れるけど、ガイさんの発言に疑問を持って問いかける。

 するとガイさんはナオミさん達を見据えて、こう告げる。

 

「ちょっと歩き回っただけで攻撃してくる危険な生き物が生息してる場所に……、誰が好き好んで踏み入ってくるんだ?」

 

 その指摘には、ナオミさん達も思わず黙りこむ。

 このガイさんの一言は僕ら人間にも、怪獣にも言えることだ。藪を突つけば蛇が出て来ると知っているから、誰だって手を出さない。

 それはきっと、怪獣だって同じなんだ。

 これまで多くのウルトラ戦士達の戦いを見てきた僕は、そう思わずにはいられなかった。

 

 場所は変わり、ラゴンの親子の住む倉庫。

 普段は外に出てはいけないと、源三郎に止められているのに、ラゴンの親は大漁旗を頭に被り、慌てた様子で倉庫の外に出てしまった。

 誰かに見られていないかを気にして、住宅街を走るラゴン。しかしそれは余計に目立ってしまって、目に留めた近所の主婦が、ビートル隊に通報をしてしまった。

 

 

 

 源三郎の魚屋では、今回のニュースの影響による打撃をまともに受けてしまっていた。

 魚屋だと言うのに、店頭に全くと言って良い程に魚が並んでいないのだ。

 魚を買い求めにやって来た主婦も、この現状を良く思っていない様子だ。

 

「あらぁ?お魚が全然捕れないって、ホントなのねぇ!」

「冷凍モノの値段も、高騰しちゃってて……」

「怪獣が海の魚、ぜーんぶ食べちゃったって聞いたけど?」

 

 この主婦もあのニュースを見ていたようで、何気なく話題を振るが怪獣が魚を食べると言うことに心当たりがありすぎる源三郎は、笑いながら誤魔化そうとする。

 

「そりゃ、おっかねぇなぁ!」

「そりゃあ怪獣だもの!おっかないわよ、ねぇ?」

 

 その主婦は後から来た他のお客に聞くが、その相手は源三郎が良く知る怪獣、ラゴンだった。

 思っても見ない来客に源三郎はまさかと驚いたが、それ以上に主婦が驚愕していまい、その悲鳴は近所の住宅街まで届いた。

 それは運悪く、市民からの通報を受けて周囲のパトロールをしていた渋川の耳にまで届いてしまった。

 

 

 

 

 

 この緊急事態に、源三郎はラゴンと自分を店に残して、シャッターを降ろした。

 そして源三郎は、ラゴンが来店した理由を問い質す。

 

「何やってんだよもう……!出歩いちゃダメだって言ったろ!?」

 

 怒り半分に呆れながら声を細めて、ラゴンを叱る。

 ラゴンは困り果てた様子を見せるが、急に手足をじたばたと動かし始める。

 ラゴン親子は源三郎と言葉が通じないために、日頃からこのように身ぶり手振りで、自分が今どう思っているのかを伝えていた。

 

「坊やが?……何?」

 

 その動作から、ラゴンの坊やに何かあったのかと思ったが、やはりそれだけでは伝わって来なかった。

 ラゴンはその動作に続いて、ぐったりとしたポーズを取る。

 

「坊やが……、病気か!?」

 

 すると今度、ラゴンは店にある魚の絵を指差して、それを食べる動きをした。

 しかしそれでは、自分が魚を食べたいのかと源三郎に受け取られてしまう。

 ラゴンはまた自分の子供を表現しようと手足を動かし、それに続けて魚を食べる動作をした。

 この動作から、源三郎はラゴンが何を伝えたいのかを理解した。

 

「坊やに、魚を食べさせたいのか!」

 

 それを知った源三郎は魚を取りに、保冷庫のある店の奥へと急いで行った。

 待つことしか出来ないラゴンは、源三郎の背中を見つめるが、店の外から聞こえるシャッターを激しく叩く音に仰天した。

 

 

 

『町の魚屋に、半魚人が現れた』

 

 それを知ったナオミさんは、一目散に現場へ急行した。

 急な事態にジェッタさん達は準備に手間取ってしまって、僕だけがナオミさんを追って現場にやって来た。

 到着した時には既に人だかりが出来ていて、そこにシャッターを叩きながら叫ぶ渋川さんを見つけた。

 

「おい!この店の中に、半魚人のような怪獣がいると言う目撃者がいる!シャッターを開けなさい!おい!」

 

 その人混みを掻き分けて、ナオミさんがシャッターの前に辿り着く。そして渋川さんと同様にシャッターを叩き始めた。

 

「お願いします、開けて下さい!」

「ナオミさん……!お店の人に迷惑ですよ!」

 

 何とかナオミさんの元に追い付いた僕は、ナオミさんを抑えようとする。僕らに気付いた渋川さんも、ナオミさんを追い返そうと必死になる。

 ナオミさんは、半魚人がいるなら下がる訳にはいかないと更に反抗する。

 そんなナオミさんの肩を掴んで、渋川さんはナオミさんにいつものように告げる。

 

「おい待て、おい……!お義姉さんからも、危ないことしないように見ててくれって言われてるんだよ!」

「ママは心配し過ぎなの。もう子供じゃないんだから!」

「子供のことを心配しない親なんていないって……!な?お母さんの気持ちを分かってやれよ!」

 

 渋川さん達の会話が一段落しそうになった時、2人の近くにいた主婦達がブーイングを飛ばして来た。

 

「ちょっとあんた達、何話してんのよ!」

「そうよ!早く怪獣を何とかしなさいよ!」

 

 これが呼び水になったのか、周囲の人だかりが渋川さんに殺到する。

 その場にいた人達を落ち着かせようと、渋川が説得を始めたのと時を同じくして、その後ろを源三郎達がこっそりと去ったことに誰も気付いてはいなかった。

 

──ただ一部を除いて。

 

「遅れたよ、もう……!」

 

 ようやく現場に着いたジェッタ達が見たのは、渋川を取り囲む大勢の人の群れだった。ジェッタは何とか撮影を試みるが、その人達に阻まれて撮影することが出来なかった。

 すると、左手に何やら奇怪な発明品を持ったシンがジェッタを呼び止める。

 

「ジェッタ君ちょっと……!アレを撮った方が良いと思います……!」

 

 その発明品からはアラームが鳴っていて、シンが指差す方角を見たジェッタは瞳を輝かせた。

 

 こっちの人だかりでは、渋川さんとナオミさんが口論を始めた。

 安全確保のために下がるよう指示する渋川さんに、意地でも下がらないと主張するナオミさん。この2人を仲裁しようと、僕が間に入ろうとした時だった。

 ジェッタさんとシンさんが割り込んで来て、ナオミさんを下がらせる。

 ナオミさんは、ここで下がったらスクープなんて物に出来ないと俄然やる気の様子。

 でもジェッタさんがビデオカメラで撮影した映像を見た途端に、目の色を変えて3人一緒に走り去った。

 その出来事に全員呆気に取られていたけど、僕はナオミさん達の後を追うことにした。

 

「渋川さん、僕もこれで……。ちょっと!?どうしたんですか!?」

「おい、お~い!……そんなに下がんなくても良いと思うけどなぁ……」

 

 

 

 魚屋を離れしばらくして、僕はナオミさん達がどこに行ったのか、辺りをキョロキョロと探していた。

 

「どこ行っちゃったんだろ……」

 

 ここでも僕の土地勘の無さが災いして、僕は迷子になっていた。

 気が付けば商店街を離れて、広い通りに出ていた。日が照って出来た影を歩く、涼しげな格好の人がちらほらと見受けられる。

 一旦落ち着こうと足を止めて深呼吸を始めたと同時に、周辺のマンホールの蓋が突然飛び出した。蓋が外れた箇所からは、凄まじい勢いで水柱が上がる。

 僕の足元にもマンホールがあって、危険を察した僕は咄嗟に離れる。それと同時にマンホールの蓋が宙を舞う。

 

「ふおっ!?……何だよこれ……!」

 

 突然の異常事態に、僕以外の通行人もパニックに陥っていた。だが男の子の頭上から、マンホールの蓋が落ちて来ていた。

 それに気付いた男の子は、頭を押さえてしゃがみこむ。それでも、直撃は避けられない。

 

「危ないっ!」

 

 飛び出した僕は、子供の元まで走る。

 そして子供を抱き抱えて、脇に転がる。

 数秒前まで子供がいた場所には、マンホールが落ちて出来た窪みがあった。

 荒くなった呼吸を無理矢理押し止めて、子供の安否を確認する。

 

「……大丈夫だった?ケガは、ない?」

「……うん、ありがとー!」

 

 子供は元気に返事をしてくれて、その返事に僕は笑顔で答える。

 しばらくするとその子の母親がやって来て、僕はその子を預ける。

 

「じゃあね、バイバイ」

「バイバ~イ!」

 

 母親に抱えられた男の子にお別れをして、僕はまたナオミさん達の捜索を再開した。

 

 

 

 源三郎の後を追って、ある倉庫に辿り着いたSSP一行。薄暗い倉庫の中を、懐中電灯で照らして進む。

 この倉庫に入ってから、シンの発明品の「UMA探知機」の反応が強くなりだした。

 どうやらこの探知機は、シンが小学4年生の時にツチノコを探そうと作ったものらしい。今回はそれを、半魚人を探すのに使用していた。

 半魚人にだんだんと近付くに連れて、探知機の反応が大きくなる。ようやく本物の半魚人と対面出来ると、ナオミはやや興奮気味に言う。

 シンは探知機を頼りに、どこに半魚人がいるのか色んな方角を向く。そして探知機が、今日一番の反応を示す。だが目の前には積み重なった段ボールの山。

 つまり……。

 

「後ろに何かいます……!」

 

 シンがそう言い、3人はゆっくりと振り向く。

 そこにはまるで人間とは思えない、全身にヒレや水かきのある半魚人がいた。

 

「「「っ!ワァァァァァ!」」」

 

 その驚きの光景に、ナオミ達とラゴンはバラバラに散開した。

 その中でシンは、倉庫の最深部に逃げ込んだ。

 そこでシンは大漁旗が掛かれた、不自然に盛り上がった狭いスペースを見つけた。震える手を伸ばして、恐る恐る旗を引っ張る。

 そこにいたのは、ついさっき見た半魚人よりも小さな半魚人だった。

 

「子供の半魚人!?」

 

 これには驚きを隠せなかったシンだったが、別の場所から飛び出して来た源三郎にはよりいっそう驚いた。

 

「待ってくれ!病気なんだよ、乱暴なことはしてあげないでくれっか……?」

「病気ですか!?ちょっと見せて下さい……!」

 

 そう言ってシンは、どこからともかく聴診器を取り出して装着する。

 

「君は、獣医か!?」

「子供の頃の夢、第1位は平和を守るスーパーロボットの開発、第2位はタイムマシーンの発明、第3位は、獣医でした。……ちょっと口開けて下さ~い」

 

 それを聞いた源三郎は安心して、シンの手助けとしてラゴンの子供の口元を照らす。

 その様子を見たナオミとジェッタも、その狭いスペースに集まる。

 ラゴンの子供は、シンに抵抗してじたばた暴れる。

 それを物陰から目撃したラゴンの親は、子供が乱暴を受けていると誤解して、シンに襲いかかろうとした。

 その寸前で、シンはラゴンに動かないように指示を出し、続けて子供の足元を暖めるように依頼する。

 ラゴンはシンの言葉を理解しているようで、子供の足元に巻き付けた大漁旗を上から擦って暖めようとする。

 しかし子供は泣き出し、一向に泣き止む気配がない。

 困り果てた源三郎はこう呟いた。

 

「音楽を聞かせれば落ち着くんだけどなぁ……!いつもラジオを聞かせてるからねぇ?」

 

 源三郎の指摘は間違いではなかった。

 ラゴンは音楽を好む性質を持っていて、彼らも例外ではなかったのだ。

 それを聞いたジェッタは、ナオミに何か子守唄を知らないかを尋ねる。

 一瞬戸惑いを見せるナオミだったが、1つ心当たりのある曲を思い出し、鼻唄を奏でる。

 その音が聞こえたのか、これまでじたばたと動いていたラゴンの子供が動きを止めて、耳を澄ませる様子を見せた。そこでナオミは鼻唄ではなく、その曲を歌い出す。

 

『♪~』

 

 それを聞いた子供は、すっかり調子が良くなったようだった。

 それに安堵したナオミ達を、大きな揺れが襲った。

 

「何!?急に……!」

「おい!ここは危険だ!早く避難しろ!」

 

 どこから駆け付けたのか、ナオミ達の後ろにはガイがいて、外に出るよう呼びかける。

 それに従って外に出たナオミが目撃したのは、地中から飛び出た怪獣の姿だった。

 

「ナオミさん!ガイさんも……!ってあれは、グビラ!」

 

 海沿いの倉庫の通りに立ち尽くしていたナオミさん達を見つけた僕の目が捉えたのは、鼻先の角が鋭いドリルのようになった怪獣『深海怪獣グビラ』だった。

 倉庫からは、ジェッタさん達やラゴンの親子が飛び出て来たけど、それに反応する時間が惜しかった僕はガイさんの元まで走った。

 

「ガイさん!……まさかグビラが……!」

「あいつが魚を……!」

「あぁ。海の魚を喰い尽くして、陸上の海産物を狙ってるんだ」

 

 ここにいた全員の視線がグビラに集中する。

 するとグビラの瞳が一瞬キラッと光り、こっちに向かって前進を開始した。

 それに愕然としたナオミさんが1人でに言うが、ガイさんが冗談交じりに答える。

 

「何で真っ直ぐこっちに……?」

「美味そうな魚がいると、気付いたのかもな」

 

 ガイさんが振り向いた視線の先には、あのラゴンの親子がいた。

 魚屋のおじさんとシンさんが、声を揃えて冗談じゃないと言う。

 そしてガイさんは、ラゴンに向かって走り出す。

 

「早くその親子を隠せ!俺は奴の注意を引いてみる!」

 

 ガイさんの自己犠牲を受け取った僕達は、少しでもグビラから離れようとする。

 でも、ラゴンの子供が足を止めて引き返してしまった。

 

「待って!そっちはダメぇ!」

 

 叫びながらナオミさんも引き返そうとする。

 その前に僕が飛び出して、振り向き様に告げた。

 

「僕が連れ戻します!だから、皆さんは早く!」

 

 そう言って僕は全速力で倉庫に戻る。

 でも倉庫には既にグビラが到達していて、どれだけ急いでも間に合わない。

 

(こんな時、もっと早く動ければ……!)

 

 僕がそう強く思った時。

 カバンの中にあるはずのカードが1枚、目の前に現れる。そのカードを見て、僕はそれの使い道を理解した。

 

「力を借ります……!ネクサスさんッ!」

 

 するとカードが光の粒になって、僕の周囲を取り囲む。そして僕は、ウルトラマンネクサスの基本形態『アンファンス』が使用する高速移動「マッハムーブ」で一気に加速した。




後編に続きます。

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