ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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どうも。

試験も終わって、ようやく投稿出来ました……。

『絆の力、おかりします!』の最新PVが格好良すぎて、何度も見直してますw

それでは、どうぞ。


第6話 入らずの森 ー前編ー

 某所にて。

 天井から射し込む光が、玉座を照らしていた。だがそこには本来座るべき君主がおらず、玉座の前で2名の異星人が横一列に整列していた。

 彼らは、惑星侵略連合。地球侵略を企む宇宙人達の連合組織である。

 

「──では、状況を聞こう」

「偉大なるドン・ノストラ。タバコを吸う人間は、減少の一途を辿っております……。幻覚タバコ作戦は、中止せざるを得ません」

 

 この場に姿を現さないドン・ノストラの声に、配下のメトロン星人タルデが答える。

 幻覚宇宙人 メトロン星人。

 かつて「ウルトラセブン」と戦った宇宙人であり、巧妙な侵略作戦を立てた。それからの同胞達も至妙な作戦でウルトラ戦士達と数々の戦いを繰り広げてきた。

 メトロン星人タルデは、同胞達の実績もあってこの惑星侵略連合に参加したと思われる。

 メトロン星人タルデの報告を受けたノストラは、どこか嘆くように言葉を発した。

 

「時代は変わったな……。自分の快楽のためには、星を売っても良いと思う奴らばかりだ」

「いっそひと思いに、ぶっ殺してやりますか?」

 

 好戦的で荒っぽい印象を感じさせる、ナックル星人ナグスがノストラに提案した。

 暗殺宇宙人 ナックル星人。

 以前「ウルトラマンジャック」の抹殺を図った宇宙人だ。ジャック打倒のためにデータを徹底的に調べ上げ、鍛え上げた「用心棒怪獣 ブラックキング」と共同でジャックを完膚なきまでに叩きのめし、1度は敗北に追い込んでいる。

 そしてこれまでもこの一族は、様々な謀略でウルトラ戦士達を苦しめて来た。

 そんなナックル星人ナグスを咎めるように、タルデはノストラに提唱した。

 

「だが、地球にはウルトラマンオーブがいます。早く奴を何とかしなければ……」

「誰だッ!?」

 

 ナグスは突然背後からやって来た何者かを察知して、咄嗟に腰の光線銃を構える。

 突然の来客にタルデも驚きを隠せなかった。

 そこにいたのはスマートなスーツを着用した男と、黒い装いの中性的な青年だった。

 

「惑星侵略連合の皆様、お初にお目にかかります。私の名はジャグラー……」

「そして私はヨミ……。ジャグラー様の従者です」

 

 ヨミはそう言うと丁寧に腰を折る。

 彼らの登場に対して、配下の2人ほど動揺せずにノストラは尋ねた。

 

「君達の噂は聞いている。我々に何の用だ?」

「奴は私達にお任せ下さい……」

 

 空っぽの玉座に鋭い視線を向けたジャグラーは、そう呟いた。

 

 

 

 青い空にさんさんと輝く太陽。相も変わらず蝉達がどこかで鳴いている。良い具合のそよ風も吹いていて、絶好の洗濯日和だ。

 天候にも恵まれた今日、ナオミさんは、溜まっていた洗濯物を洗っていた。それも通話をしながら作業をしている。話し相手はどうやらナオミさんのお母さんのようで、お見合いについての連絡だったようだ。ナオミさん本人はお見合い自体受けるつもりは無いようで、断ってほしいとお願いしていた。

 僕はというと、乾いた洗濯物を取り込む作業を手伝っていた。

 SSPのオフィスの下はガレージで、愛車のSSP-7が停められている。その広いスペースには洗濯機があって、今日みたいな良い天気の日は洗濯をしているのだ。

 通話を終えたナオミさんが、乾いた衣類の入った洗濯篭を1つ持ってオフィスに戻ろうとした時。ナオミさんが見たのはステテコ1枚でハンモックに寝転がる、風来坊のだらけきった格好だった。

 

「ちょっと……!何か着てよ……!」

 

 洗濯篭からシャツを1枚ガイさんに渡して、ナオミさんは足早に戻って行った。

 つい先日、このSSPのオフィスに住人が増えた。

 それがこの男、クレナイ・ガイさん。

 以前ガイさん本人から聞いた話によると、かなり長い間この地球を放浪していたらしい。

 そしてその正体は、魔王獣復活を阻止し、この地球を守るために銀河の彼方からやって来た光の戦士、ウルトラマンオーブ!!

……何て言っても、こんな格好じゃ説得力に欠けるのだが。

 

「んー。ん?今日のラッキーカラーはブルーか~」

 

 ナオミさんの話を聞いているのかいないのか、はっきりしない返事をしたガイさんは、読んでいた雑誌の1ページに注目した。

 僕も内心やれやれと言った感じで、ナオミさんの後を追った。

 ここに住むようになってから、ガイさんはいつもこんな具合で過ごしている。本人としては悪気はないのだろうけど、何と言うか……図々しいなぁと思ってしまう。

 僕だってここに住ませてもらっている身だけど、せめて何か手伝ってくれればいいのに……。

 でも、地球の平和のために戦ってくれているのだ、あまり非難するのは良くない。

 気を取り直そうと首を横に振って、階段を上ろうとした時、階段を上る渋川さんに出会った。

 僕に気付いた渋川さんは、僕が話しかけるより早く話しかけてきた。

 

「おぉ、シンヤ君。ナオミちゃん達いたかな?」

「はい、みんなオフィスに揃ってますよ。今日はどう言ったご用件で?」

「今日は、お前達に見てもらいたいものがあってな……」

 

 

 

「そこを拡大してくれ」

 

 渋川さんが持ってきたのは、クワガタムシを捕まえた子供が2人写ったある1枚の写真だった。

 でも注目すべきポイントはそこではなく、背景の青空だった。シンさんがパソコンにそのデータを取り込んで、渋川さんの示す1箇所を拡大する。

 そこには、落花生のような形の「何か」が飛んでいる瞬間が写り混んでいた。

 

「これは……!」

「空飛ぶ円盤だ!」

「綺麗に撮れてんな~」

「そうですね……。ってガイさん!ステテコ1枚でうろうろしないで下さいよ……!」

 

 いつからそこにいたのか、ガイさんは腕組みをしながら写真を眺めていた。でもその格好は先程と全く変わらず、逞しい上半身を晒したままだった。

 それに照れたのか、ナオミさんはジェッタさんの方へ移動して、この写真の詳細を尋ねる。

 

「ちょっと、この場所は?」

「ここはな、市民公園に隣接する小さな森だよ。行政の管理地域で立ち入り禁止なんだけど、ここはな、昔から妙な噂があってな……」

「妙な噂……?」

「何ですか、それ?」

 

 そう僕が聞くと、シンさんが急に立ち上がる。その手には懐中電灯を持って、まるで驚かせるように、顎の下を照らしていた。

 

「その森は、さる高貴な方のお墓だと言う言い伝えがあります。江戸時代から『入らずの森』と呼ばれ、誰も立ち入らないんです」

「先輩から噂聞いたことある!入った人は、誰も出てこれなくなるって!」

 

 シンさんの解説を聞いたジェッタさんが、急にハイテンションになる。

 そのテンションに引き気味なナオミさんは、冷静に対応する。

 

「出てこれなくなるって……。100m四方位しかないみたいだけど……」

「これこそ現代のダーク・ゾーンだよ!調査しに行こう、キャップ!ガイさんも一緒に……」

 

 ジェッタさんが上がったテンションのまま、ガイさんに話しかけようと振り向いた時には、既にガイさんはいなくなっていた……。

 

「また消えた……」

 

 

 

 場所は変わって、僕らSSPと渋川さんはその現場に到着した。そこには、写真の子供達がいた。

 

「こちらが、情報をくれたダイキ君とケンジ君だ」

 

 僕らが挨拶をすると、ダイキ君とケンジ君は元気良く返事をしてくれた。

 

「SSPのサイト、時々見てます!」

「ほとんどガセばっかりだけど、たま~に面白いよね」

 

 ダイキ君がそう言ってくれたからか、ナオミさん達は嬉しそうな表情をするけど、ケンジ君のストレートな物言いに、表情がだんだんと引きつっていった。特にジェッタさんは、カメラを持っていない方の手に力を込めていた。

 そんな3人の前に移動した僕は、ダイキ君達と目線を合わせて、この子達が今回提供してくれた情報について、改めて聞いてみた。

 

「君達が、UFOを見たの?」

「僕は見てないけど、友達のお兄さんの友達が見たって!」

 

 ダイキ君がそう教えてくれたけど、友達のお兄さんの友達……?う~ん、何だかとってもややこしい……。

 それからダイキ君達は、この森について教えてくれた。

 昔、ある中学生がこの森で肝試しをして、その最中に、白い服を着た女の姿を見たとか……。

 

「この森には、絶対UFOや幽霊がいるんだよ!」

 

 子供ながらの無邪気さで、ダイキ君達ははしゃぎ出す。

 

「UFOなのか幽霊なのか、はっきりしてほしいですね……」

「どっちでも良いじゃんか、何か撮れれば俺達にとっては大成功だよ!」

「まぁ、そうですけど……」

 

 僕が呟いていると、ジェッタさんも若干テンションが上がっていているようだった。

 それを肯定すると、今度は渋川さんが話し出す。

 

「とにかく調査は早い方が良いな。この辺りは行政の再開発地域に入ってるからよ」

「どういうことですか?渋川さん」

「もうじき、この森が消えるってことだよ」

「消える……?」

 

 振り返ると、「ここは再開発事業用地です」と赤文字で書かれた看板を見つけた。

 どうやらこの森を壊して、新しいビルを建設する予定らしい。

 例え小さな森だとしても、地球の環境を身勝手に変えてしまうのはどこの世界でも同じみたいだ……。

 

 

 

 シンヤ達は知らなかったが、この森には惑星侵略連合の基地が隠されていた。

 その基地で宇宙人達は、カードゲームに勤しんでいた。

 カードゲームと言ってもただのカードゲームではない。彼らの行っているカードゲームは、怪獣の力を宿したカードを用いたポーカーだった。

 

「再開発だか何だか知らんが、調査が入ればこの基地の存在が知られてしまうぞ……?俺達の方が人間に侵略されるとは、どういうことだぃ!」

「ここから見る夕焼けは綺麗だ……。この自然を壊すとは、本当に人間と言うのは傲慢だな」

 

 ジャグラーは、正面に座るナグスとタルデに視線を向ける。ナグスは人間への苛立ちからか机を叩き、タルデは地球の夕焼けの美しさを賞賛する。ヨミには今回のポーカーでディーラーを頼んだ。だからなのか、ヨミは全員を眺めながら終始ニコニコしていた。

 

「おっと、いただきだ!風属性のフォーカードだ!」

 

 すると動きがあった。ナグスが手札を全て明かしたのだ。

 そこにはアントラー、ノーバ、シルバーブルーメ、メルバ、リトラの5枚が揃っていた。何の繋がりも無いように見えても、アントラーを除いた4枚は風属性。つまり、フォーカードだ。

 フォーカード。「クワッズ」や「フォー・オブ・ア・カインド」とも呼ばれる。トランプで例えるなら、同じ数字もしくは同ランクのカードを4枚揃える役のこと。この怪獣カードの場合は、属性または同ランクのカードを揃えることで成立する。

 これには誰も敵わないと詰んだナグスは上機嫌だったが、それに待ったをかける男がいた。

 

「ちょっと待った……。レッドキング、エレキング、キングゲスラ、キングオブモンス、キングジョー……。キングのファイブカード」

 

 ジャグラーの手札にはその5枚が揃っていた。

 ファイブカード。ワイルドカード──いわゆるジョーカーと呼ばれるカードを使用する「ワイルドポーカー」では最強と呼ばれる役で、同じ数字のカード4枚+ワイルドカード1枚の組み合わせで成立する。

 その大番狂わせには、ナグスもタルデも驚きを隠せなかった。

 

「そんな手アリかよ!?おい、ディーラー!お前……コイツが勝てるようにイカサマしやがったな!?」

 

 するとナグスはジャグラーを指差しながら、これまで平然としていたヨミにいちゃもんを付ける。

 しかしヨミも臆することなく、ナグスに言い返す。

 

「はて?私はディーラーという立場上、皆様には公平に対応していたつもりだったのですが……」

 

 あらぬ疑いをかけられたと言わんばかりに、ヨミは弁解する。そんなヨミを庇うように、ジャグラーは口を開く。

 

「どうやら、私の部下がイカサマをしたと思われているようですが……。どのみち皆さんのようなのんびりした侵略ゲームでは、まぁ居場所を追われるだけでしょうね」

「何だと……テメェッ!」

 

 苛立ちがピークに達したナグスは、腰に携行した光線銃を引き抜き構える。

 しかしそれよりも早く、ジャグラーがどこからともなく取り出した蛇心剣をナグスの首元に突き付ける。

 

「……面白い。あなたの銃と私の剣……、どちらが早いか勝負してみますか?」

「ぐっ……。冗談だ」

 

 ジャグラーの鋭い眼光に気圧されたナグスは、大人しく銃をしまう。ジャグラーもそれを見届けて、剣を下ろした。

 しかし……。

 

「例え冗談だったとしても……」

「ッ!?」

「ジャグラー様に武器を向けたことには、変わりはないですよ?」

 

 ナグスは背筋が凍えるような感覚を覚えたが、その感覚は即座に首筋に集中する。

 いつの間に後ろに回り込んだのか、ヨミが小太刀の刃を首筋に当てていた。ナグスは視線を横に反らすと、氷のような眼差しのヨミと目が合った。

 ナグスに助け船を出したのか、それともヨミを咎めようとしたのか、ジャグラーが静かに話し出した。

 

「ヨミ……。お前も武器を下ろせ」

「……承知致しました。……ですが、次はありませんよ」

 

 最後にそう言って、ヨミはまたディーラーとしての役割を果たすべく、怪獣カードの束をシャッフルし始めた。

 

 

 

「おーい、気ぃ付けろよ!」

「霧が濃いですね……」

「霧すごくて全然見えないんだけど……」

「どーもこの森は地磁気が乱れてますね~」

 

 森に入ってからしばらく経って、僕らは林の中をずんずん進んでいく。どこからともなく霧が立ち込めて来て、僕らの行く手を阻む。

 するとシンさんが持ってきた発明品が何かを察知したように、アラームを鳴らした。

 

「どうしました、シンさん?」

「見て下さい。この地下には、いくつも空洞があります。4世紀頃の円墳に酷似しています」

「と言うことはこの森に、古墳が眠ってるってことか?本当かよ?」

 

 謎のアンテナとタブレットを接続したシンさんの発明品に、みんなの視線が集まる。タブレットの液晶にはここら辺のマップが映し出され、僕らのいるポイントがサークルで表示されていた。

 そのサークル周辺一帯が水色に光っていて、シンさんはこれを円墳のようだと言っている。

 その報告に、渋川さんはとても懐疑的だった。

 シンさん達が周辺の探索を開始して、僕もそれに混ざろうとした時だった。

 ナオミさんは、ある1箇所を見つめていた。

 

「……?」

「ナオミさん……?」

「いや、あれ……」

 

 

 

「監視カメラが、人間の姿を捕捉しました」

 

 時を同じくして、惑星侵略連合の基地。

 ナックル星人ナグスの手下の黒服が現れ、ナグスに報告をした。

 ナグスは右手をかざして空中にディスプレイを展開する。

 そのディスプレイにジャグラーも視線を向ける。すると、ジャグラーにとっては馴染み深い連中の姿を見た。

 

「ほぅ……。奴ら、ウルトラマンオーブの仲間ですよ」

「6人か……」

「6人?5人じゃないか?」

 

 タルデが人数を数えて声に出すが、ナグスはタルデの数え間違いを指摘する。ナグスの瞳には、その場に地球人が5人いるようにしか見えなかったからだ。

 すると、先程自分の首筋に刃を当てた男がその補足をするように発言する。

 

「少し離れたところに、白い服の女がいますね」

「女……?そんなのいないぞ?」

 

 やはり何度見直しても、ナグスにはその白い服の女は見えなかった。

 

 

 

 目の前に現れた白い服の女の人を直視していた僕とナオミさんだったけど、その人はすうっとその姿を消してしまった。

 

「……ッ!」

「キャップ?シンヤ君?どうかした?」

「そこに、白い服の人が……」

「僕も見ました……!」

 

 ナオミさんが、さっきの人がいた場所を指差しながらみんなに説明する。僕もナオミさん同様、頷きながら話す。

 渋川さん達もその方を見るけど、何も見えていないようだった。

 

「いや?俺には何も見えないけど」

「でもいたんですよ……!本当です、信じて下さい……!」

 

 

 

「消えたッ!?どういうことだ!」

「おいおいおい、気味の悪いこと言うなよ……!」

 

 白い服の女が消える瞬間を見たタルデが動揺していると、ナグスは急に立ち上がり両手で自身を抱き上げる。

 ──この瞬間、ジャグラーとヨミは内心ほくそ笑んでいた。

 

「……奴らを空間幻惑装置で、この森に閉じ込めろ!久し振りの人間狩りだぁ……!」

 

 そんなことも知らないナグスは部下に指示を出し、意気揚々と出ていった。

 

 

 

「あれ?」

「故障ですか?」

 

 森の探索を続行していた途中で、シンさんの発明品の液晶が突然映らなくなってしまった。僕らが駆け寄って画面を見ても、やっぱり真っ暗だ。

 不思議そうな顔で機械の向きの方角を変えたシンさんが、突然息を飲んだ。

 

「ハァッ……!」

 

 僕らもその方を見ると、森の奥から赤い目の宇宙人とその手下のような黒服が現れた!

 

「お前は……ナックル星人!?」

「侵略宇宙人か!」

 

 僕が咄嗟にみんなの前に出ると、すかさず渋川さんがビートル隊隊員が所持する拳銃「スーパーガンリボルバー」を構えて飛び出す。

 ナックル星人は、右手に持っていた光線銃の一撃で渋川さんのスーパーガンリボルバーを破壊する。

 

「渋川さん!」

「バカめ!そんな貧弱な銃で、俺に敵うと思うか?」

「SSP、総員退避~!」

 

 危機を察したナオミさんの号令で、全員が一斉に駆け出す。いつ後ろからやって来るか分からないナックル星人達に警戒しながら、時々後ろを見て走る。

 すると先頭を走っていたナオミさんの足が止まる。何事かと思ってその視線の先を見ると、ナックル星人達が待ち構えていた。何度も逃げるけど、その度にナックル星人達は待ち伏せていた。

 何度目かの逃走で体力を消耗していたナオミさんが、何かにつまずいて転んでしまった。

 

「う、うわぁぁぁ!」

「ナオミさんっ!大丈夫ですか!?」

「痛ったぁ……。ってこれ……!」

「これは……、石碑?」

 

 ナオミさんが転んだことに気付いたジェッタさん達が戻ってきて、僕らに駆け寄る。ナオミさんはその石碑を示し、それにシンさんが食い付いた。その石碑に刻まれていた一文を読み上げたシンさんは、これがすごい発見かも知れないと声を上げた。

 

「それより早く逃げないと奴らが……!ほら来たって!」

 

 ジェッタさんが叫んだ時には、既にナックル星人達が接近していて、僕らは石碑のことも忘れて一心不乱に駆け出した。

 

「おい!どうなってんだよ!?逃げても逃げても、待ち伏せされてるぞ!?」

「まるで、空間全体が歪められてるみたいです……!」

 

 渋川さんとシンさんが走りながらこの状況を話し合う。

 シンさんが言っていた「空間全体が歪められている」と言うのは、きっとその通りだ。そしてそれを操っているのは、きっとナックル星人もしくは別の宇宙人の仕業に違いない。

 

「そろそろ終わりにしようかぁ?」

 

 走り続けて体力の限界に達しつつある僕らに、ナックル星人の光線銃が火を吹いた。

 足元に発射された光弾の火花に驚いた僕らは、ほぼ同時に尻餅を突いた。

 

「もうダメだ……!」

 

 ジェッタさんが諦めかけていた時、僕ももうダメだと思い始めていた。

 それでも、それでもまだ諦め切れない自分がいた。

 ナックル星人から目を反らしたナオミさんは、林の間を見つめていた。僕もそれに習って横を見ると、さっきの女の人が手招きをしていた。

 

「あ、あの人……!こっちにおいでって……!行ってみよう!」

 

 今度はジェッタさんにも見えていたようで、あれが幽霊だと言い怖がる様子を見せたけど、ナオミさんが駆け出したのを見て後を追い始めた。

 その道をずっと走り続けていたら、いつの間にか森に入った場所まで辿り着いていた。

 

「抜けた……!」

「おい!来たぞ!」

 

 森から出られて安堵したのも束の間、ナックル星人達まで森を抜けていた。

 

「よっと……。どうやって幻惑装置を振り切った?まぁいい……。行け」

 

 ナックル星人が黒服に指示し、僕らも逃げようとするけど、行く手をそれぞれ阻まれてしまった。

 

「お前らもう袋のネズミだ!」

 

 万事休す。そう思った時、渋川さんが笑い出した。

 

「ハッハッハ……!ッハッハッハッハ!この私の柔道5段、空手3段の腕前を見せる時が来たようだな……!おいお前達、危ないから下がってろ!」

「渋川さん……!」

 

 渋川さんがこれまで見せたことのないかっこよさで、ナックル星人に挑む!呼吸を整えて、(謎の)側転を繰り出してナックル星人に殴りかかる!

 しかし現実は非情だった。

 

「おらよっと!オラァ!もういっちょ!」

 

 逆にナックル星人に掴まれ、頭突きを3発喰らって僕らの元に戻ってきた。

 

「全然ダメじゃん……!」

「強ぇよ、あいつ……!」

 

 ジェッタさんがそれに呆れて渋川さんに言うが、渋川さんは情けない声で答える。

 今度こそダメかと思った瞬間。あのメロディーが聞こえた。

 

『♪~』

「何だ、この曲はァ……!頭が痺れる……!どこだ!?あそこだッ!」

 

 それを聞いたナックル星人とその手下は頭を抑え始める。このメロディーがどこから聞こえるのか周囲を見渡したナックル星人は、ある建物を示した。

 そこにいたのは、帽子を深く被った風来坊だった。

 

「お前は誰だァ!!」

「お前みたいなゲス野郎に、名乗る名前は持っちゃいねぇ!」

「ナメた口利きやがって……!俺は宇宙最強の……!」

 

 そう名乗る前に、ナックル星人に飛び蹴りが炸裂した!

 その飛び蹴りを喰らわせた本人はゆっくりと表を上げた。

 

「ガイさん!」

 

 その姿を確認した僕は、思わず前に飛び出した。

 

「シンヤ!お前も下がってろ!」

「いえ、加勢します!ガイさんはナックル星人を!僕は、この黒服達を!」

「あんまり無茶すんなよ!」

 

 ガイさんはナックル星人の光線銃の弾丸を素手で弾き、相手に蹴りとアッパーのコンボを与える。

 僕はというと、黒服2人を相手取っていた。ここでも以前の現象が起こり、黒服達の挙動1つ1つがはっきり見えた。その打撃を受け流し、逆に黒服達を沈めていく。

 

「いいから早く逃げろッ!」

「ここは、僕達が食い止めます!」

 

 僕とガイさんの戦いを物陰から見つめていたナオミさん達に、逃げるよう促すガイさん。

 それを受けてか、ナオミさん達はさっさと駆けていった。

 

「やっと現れたな……。オーブ」

 

 この戦いを眺めていたのは、ナオミ達だけではなかった。

 ジャグラーは1枚の怪獣カードを構えて、ダークリングに読み込ませる。

 

【アリブンタ!】

 

 地面に撃ち込まれたカードは、あるべき姿へと変貌する!

 土砂を巻き上げ現れたのは、「大蟻超獣 アリブンタ」だ!

 

「怪獣だ……!」

「怪獣じゃない……!『超獣』アリブンタだ!」

 

 ジェッタが怪獣だと声を上げたが、ジャグラーはすかさずツッコミを入れる。

 大蟻超獣 アリブンタ。

 かつて「ウルトラマンエース」と死闘を繰り広げた「異次元人 ヤプール」の配下のエージェント「ギロン人」が、ヤプールから拝借した超獣だ。

 超獣とは、怪獣を超える力を持つ生物である。その力は凄まじく、ヤプールが復活する度に超獣も現れ、何度もエースを始めとしたウルトラ戦士達を苦戦させてきた。

 アリブンタは、口から何でも溶解する強力な蟻酸を放射する。それを浴びた空き家が文字通り溶けた。その側を走っていたナオミ達も危うく巻き込まれるところだった。

 何とかSSP-7の元に辿り着いたナオミ達は乗り込もうとするが、この場にいない人達を探す。

 

「ガイさんとシンヤ君はどこ?」

「そう言えば渋川さんは?」

「あ、あれを見て下さい!」

 

 シンの呼び声に釣られて、シンが指差す方角を見たナオミとジェッタが見たのは、円盤が空に浮上する瞬間だった。

 

「UFOだ!撮って、撮って!」

 

 その決定的瞬間を逃す訳にはいかないと、ナオミ達はガイ達を探すことを忘れて円盤の撮影を開始した。

 

 

 

 ナックル星人達を退けたガイとシンヤは、アリブンタと円盤のそれぞれを見つめる。

 

「ガイさん、相手は超獣、一筋縄ではいかない相手です。油断しないで下さい!」

「超獣か……。あぁ、任せな!」

 

 左手に持ったオーブリングを構え、ガイは戦うための姿へと変わる!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 町に降り立ったオーブは、いつものファイティングポーズを取って名乗りを上げた!

 

『俺の名はオーブ!闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 オーブの登場に高揚するSSP。

 そして白い服の女が、オーブを見つめていた。

 

「あそこに白い着物の女性の幽霊が!ほらあそこです!」

「そんな一編に撮れないって!」

 

 シンがその女の存在に気付いて、オーブを撮影するジェッタのカメラの向きを無理矢理変える。

 それに対してジェッタは必死に抵抗し、オーブを撮り続けた。

 

『オォーッ、シャアッ!』

 

 しばらく睨み合いが続いていたが、先に動いたのはアリブンタ。オーブに向かって行くが、がら空きの胴体に蹴りを入れられ、すかさず繰り出されるチョップを喰らう。負けじと鉤爪を振るうが、後ろ回し蹴りで弾かれ宙を斬る。

 オーブはアリブンタを掴んでそのまま押し倒す。だが、逆にマウントを取られてしまう。肉薄するアリブンタを蹴り飛ばして何とか体勢を整える。

 するとアリブンタは反撃で、蟻酸をオーブの顔面に吹きかける。オーブであっても蟻酸を浴びせられてはたまらなかったのか、脇に転がって蟻酸のシャワーを回避した。しかしあれを浴びたからか、顔を押さえ出す。

 その隙を逃さなかったアリブンタは、両腕から火炎を放射する。直撃する寸前でオーブは脇に飛び、何とか避けられたが火炎は周囲を焼き、その一帯で爆発が起こった。

 勝ち誇るように鳴き声を上げるアリブンタに向き合ったオーブは、改めて超獣の恐ろしさを痛感した。

 

『害虫駆除は、大変だぜ!』

 

 そう言い放つとオーブの身体が輝き、オーブはその姿を変えた!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

『紅に、燃えるぜ!』

 

 巨大な角を持つ紅の巨人に変化したオーブは、炎を全身に纏って現れ空中に飛ぶ。

 それを迎撃しようとアリブンタは鉤爪に火炎を集中させる。

 だがオーブもまた、両腕に炎を纏わせてアリブンタに特攻。両者が衝突した時、火炎同士がぶつかり爆風が起こる。その爆風で、アリブンタの火炎は鎮火された!

 

『これが、爆風消火ってヤツさ!』




後編に続きます。

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