ウルトラマンオーブ ─Another world─ 作:シロウ【特撮愛好者】
前回は(勝手に)冬休みをいただきました。
新年1回目の投稿なのですが、今回創作が難航して全く考えが纏まらず今現在、後編すら手がついておりません……!
投稿予定時間を大幅に過ぎてしまって申し訳ありませんでした……。
そして今回は長い!くどい!
誰が書いたんだこれ……(作者本人ェ……)
それでは始まりま~す……
東京都多摩市北川町。
時刻は深夜を周り、街灯の光はあってもほとんどの住宅は明かりが消えている。
そんな中で明かりが点いているのは、この時間でも営業している居酒屋ぐらいだろう。店内には上司の接待をする者もいれば、友人同士で飲み交わす者もいた。
「おい新入り!牛スジ煮込み、3番テーブルに持っていきな!」
「はい!分かりました!」
「『はい』じゃねぇ!返事は『ガレット』だ!」
「ガ、ガレット!」
そんな居酒屋で僕、草薙眞哉はアルバイトをしていた。
日中のバイトでも十分稼げてはいるけど、滞納に滞納を重ねたSSPのオフィスの水道代やら光熱費の返済は未だ終わっていない。だからこそ、こうして深夜のアルバイトを最近始めたのだ。
この居酒屋「じんの」は店長が一代で立ち上げたお店で、店長の知り合いが数名働いている。つい最近出来たばかりでまだ人数は少ないけど、とても繁盛しているのだ。
厨房から調理を担当している加藤ゴウキさんの力強い声が聞こえた。すぐさま受け取り、お客様の元まで運んだ。
「お疲れ様シンヤ君。ごめんね、ゴウキも悪気がある訳じゃないのよ……」
「あ、ありがとうございます。アリサさん」
休憩時間に入った僕に、オレンジ色のエプロンを着た滝アリサさんが「眼兎龍茶」とパッケージに書かれた烏龍茶を差し出していた。
加藤ゴウキさんと滝アリサさんはこのお店の店長さんの知り合いらしく、オープン当初からの仲だそうだ。それでも男女の関係ではなく、お互いに信頼できる仲間と言った関係のようだ。
(どう見ても、あの2人にしか見えないんだよな……)
アリサさんから貰った眼兎龍茶を飲みながら、何度も2人を見る。何度見ても結局、『ウルトラマンギンガS』に登場する防衛チーム『UPG』の松本ゴウキ隊員と、杉田アリサ隊員にしか見えなかった。それにこのお店の「じんの」という名前も、恐らく隊長の陣野義昭さんからじゃないかと思う。
しかもアリサさんの話によると、今日はシフトに入っていないけど他にも細田ワタルさんや、松本ハヤトさんという人がバイトをしているらしい。
(う~ん……。何でもありなのかね、この世界は)
色々考えて結論付けた僕は、最後に眼兎龍茶をぐっと飲み干してまた作業に戻ろうとした。
すると、店内が急に暗転した。
「何だぁ!?停電か!?」
「な、何も見えねぇ!」
「きゃあ!ちょっと、どこ触ってるんですか!」
店内にいたお客さんは、突然起きた停電にパニックに陥っていた。アリサさん達が落ち着くように必死に呼びかけていた時、どこからか何かが落ちてくるような音が聞こえた。
「今度は何だよ!?」
「僕が外見て来ます!ゴウキさん達は、お客さんをお願いします!」
「お、おい!新入り!」
何も見えない暗闇の中で怯えるゴウキさんにそう言って僕は裏口の方まで走って行き、表の通りに出た。
外に出ると、周囲一帯が真っ暗になっていた。近所の住宅に住んでいる人達の姿がちらほらと見受けられた。やはりその人達も不安げな様子を見せていた。
しばらくしてまた、あの音がした。反射的に振り向いた時そこにいたのは、月明かりに照らされた怪物だった。
「か、怪獣……!?」
夜空に光る5つの目、岩のような巨体。背中には巨大なコイルが生えている。それだけであれが何者なのかはっきりした。
「ネオダランビア……!違う、サンダーダランビアか!」
サンダーダランビア。
『ウルトラマンダイナ』に登場した宇宙球体スフィアが他の生物や物体と融合し、自身が核となることで誕生した「スフィア合成獣」のネオダランビアによく似た怪獣だ。全身の電気発生器官が特徴的で、その名の通り電気を用いた攻撃を得意としている。
その影を目撃した住民の方々は、悲鳴を上げながら逃げ出す。逃げると言っても逃げ場などなく、ただひたすらにサンダーダランビアから距離を取ろうと必死に走るだけ。
その騒動を聞き付けた「じんの」のお客さん達も、店から飛び出し逃げる。さっきまで結構酔っ払っていた人達も、すっかり酔いが覚めたようでしっかりとした足取りで走っていた。
そんな中で1人、転んでしまった中年男性がいた。すぐにその人の元に駆け付けた僕は、その人に肩を貸して走り出す。
サンダーダランビアもそれに気付いたのか、僕らだけを狙い出す。ゆっくりと近付きながら、僕らとの距離を詰めてくる。
「俺のことはいい……!俺を置いて、あんちゃんだけ逃げろ!」
「何言ってるんですか!諦めないで下さい!」
「このままじゃ、2人ともやられちまう!だから……!頼むよ……!」
「……!」
僕が肩を貸していたおじさんが、急に弱音を吐き出した。何とか勇気付けようとするけど、おじさんは完全に心が折れていた。
そんなおじさんに向かって、全力で声を上げる。
それと同時に暗い空の彼方から、力強い声が聞こえた。
「『諦めるなぁ!』」
僕らに迫っていたサンダーダランビアの巨体が、突然倒れる。サンダーダランビアの倒れた轟音の後に砂煙が上がり、何かが着地する音がした。砂煙が晴れた時、『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン』が現れた!
「オーブッ!」
オーブはゆっくり立ち上がって僕らの方を見る。僕と目があったオーブは静かに頷くと、サンダーダランビアに向かって行った。
「新入りぃー!大丈夫かー!?」
「ゴウキさん!この人、足を怪我しているんです……!」
「何ぃ?……よっしゃあ!俺に任せろッ!」
僕らがオーブを見つめていた時、戻って来たゴウキさんがやって来た。どうやら他の人達は無事に避難することが出来たようだ。
僕が事情を説明すると、ゴウキさんは自分よりも重いはずのおじさんを1人で背負う。
「1人で大丈夫ですか!?僕も手伝いますよ!」
「ハハッ、心配すんな!先輩に任しとけ!」
そう言い残すと、ゴウキさんは全速力で来た道を戻って行った。
僕は、オーブの戦いを見守るべく近くの建物の階段を上り始めた。
『オリァッ!』
オーブは接近戦で優位に立っていた。サンダーダランビアはその大きさ故に、あまり俊敏には動けなかったのだ。サンダーダランビアの攻撃を素早くかわして、逆にカウンター攻撃を的確に決めていた。
身体を赤く輝かせたオーブは、重い正面蹴りを喰らわせて敵との距離を取る。
このチャンスを見逃さず、一気にたたみかける!
『スペリオン光輪!』
紫に光る円盤型のエネルギーを、サンダーダランビアに向かって投げる。その光輪は真っ直ぐサンダーダランビアに飛んで行き、直撃する。
……はずだった。
『なっ!?』
サンダーダランビアに直撃する寸前で、スペリオン光輪が砕ける。それに驚いたオーブに対して、サンダーダランビアはしてやったりといった様子で、ご満悦だった。
「亜空間バリアか……!」
僕には今のタネが何なのか、心当たりがあった。
スフィア合成獣は一部の例外はあっても、大抵は亜空間バリアという特殊なバリアを展開することが出来る。その強度は個体によってバラバラだけど、頑丈なものなら光線技も通用しない強度を誇る。これには、スフィア合成獣と戦ったウルトラマンダイナさんも苦戦した。
サンダーダランビアは、ネオダランビアの亜種に当たる怪獣だ。やはり、亜空間バリアを使うことが可能だったのだ。
『「中々やるな……!じゃあ、これでどうだ!」』
まさかの事態にも動じずに、オーブは新たな姿に変わる!
「ジャックさん!」
【ウルトラマンジャック!】
「ゼロさん!」
【ウルトラマンゼロ!】
「キレの良いヤツ、頼みます!」
【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!
ハリケーンスラッシュ!】
『オーブスラッガーランスッ!』
ハリケーンスラッシュに姿を変えたオーブは、専用武器の『オーブスラッガーランス』を召喚し構える。
サンダーダランビアは甲高い雄叫びを上げ、オーブを威嚇する。しかしオーブはそれにも怯まずに特攻。槍の穂先を突き立てようとした。
だがサンダーダランビアの背中のコイルがスパークし、そこから電撃が発せられる。その放電はオーブスラッガーランスの先端に直撃。それを伝って高圧の電流がオーブに流れ込む!
突如流れ込んできた電流への対処が出来ず、オーブは得物を手離してしまう。それに伴って、オーブスラッガーランスは消滅した。
それからは一方的な展開が続いた。
これまではオーブが有利に事を進めていたが、形勢逆転。サンダーダランビアが電撃を帯びた触手を伸ばしてオーブを痛め付ける。最初の放電が効いているのか、オーブはまともに動くことが出来ずにいた。次第にオーブのカラータイマーが点滅を始める。
勝機を見出だしたサンダーダランビアは、両手の触手でオーブを縛り上げる。必死に抵抗をするオーブだったが、これまでで最大威力の電流がオーブを襲う!
『ウォアァァァ!!』
痛々しいまでの絶叫を上げるオーブ。それを眺め、サンダーダランビアはほくそ笑む。
『クッ……!』
最後の力を振り絞ったオーブは頭部のスラッガーにエネルギーを集中させ、刃型の光線『オーブスラッガーショット』を放つ。その刃はサンダーダランビアに直撃せず、両手の触手を切断することに成功した。
触手を斬られたサンダーダランビアは混乱するが、その怒りの矛先をオーブに向ける。
満身創痍で立ち上がるオーブだったが最早立つだけの気力もなく、すぐに膝を付き姿を消した。
オーブが消えたのを見届けたサンダーダランビアも、役目を終えたかのように、ゆっくりとその姿を闇夜に溶け込ませていった。
「ガイさん……!」
僕はオーブとサンダーダランビアが姿を消した後、オーブが消えた場所まで全速力で駆けて行った。
怪獣がいなくなってしばらくすると、町に明かりが灯り出す。でもその明かりは昨日よりも少なく、怪獣被害の規模の大きさが窺えた。朝になればもっと詳しい情報が入ってくるとは思うけど、目撃者は時間帯もあってかそこまで多くはない。
荒れ果てた町でガイさんを探し始めて、およそ数十分経過した。辺り一面が暗く、身の回りに何があるかも分からない。
そこで、スマホに搭載されているライトの機能を使う。このライトの明るさも中々のもので、あるとないとでは大違いだった。
周囲を照らして歩いていると、近くで呻き声がした。その声が聞こえた方にライトを向けると、仰向けで倒れるガイさんを見つけた。
「ガイさん!まさか……どこかにケガを!?」
「いや……、身体中が痺れて、動けねぇんだ……」
「そんな……。とにかく、ここを離れましょう。オフィスまで連れて行きますから」
「あぁ……、頼む……」
倒れるガイさんをゆっくり立ち上がらせて、肩を貸す。全身が痺れて、歩くこともやっとなガイさんは足を引きずるようにして歩く。それを少しでも補助できるように、ガイさんの歩幅に合わせ時間をかけて僕も歩き続けた。
別の場所では、オーブとの戦闘で負傷したサンダーダランビアが傷を癒していた。だがその最中、黒ずくめの不審な人影がサンダーダランビアに歩み寄っていた。
「……サンダーダランビア。貴様には少し、試したいことがあってな……」
そう言うと青年は、右手をサンダーダランビアに向けてかざす。すると、青年の掌から黒い波動が放たれる。それを浴びたサンダーダランビアは絶叫するが、瞬く間に身体の修復が終わっていった。
(なるほど……。ヤツが強くなれば、私の力もわずかに増幅しているのか……。)
その掌を見つめて、何度も拳を開いたり閉じたりを繰り返した青年は、怪獣の甲高い咆哮を聞きながら踵を返した。
「実験は成功、か……。……さて。これからもっと面白くなりそうだな……」
青年はそう呟くと、これまで堪えていた笑いを一気に爆発させた。ただその笑い声は、愉悦に満ちた奇妙な笑い声だった。
[──本日未明、北川町を中心とした一帯で、原因不明の大規模な停電が発生しました。
近隣住民からは、『闇に光る目』の目撃証言が多く寄せられており、最近頻発している怪獣騒動が関連しているのではないかと言う声もあります。
北川町では以前にも停電が発生しており、今回の一件が関連していると見て現在調査が進められています。
本日は番組内容を一部変更して、本日未明に発生した停電事故の速報をお伝えします……。]
翌日の朝。SSPのオフィスにメンバー全員が揃った後、ジェッタさんはスマホのワンセグ機能でニュース番組を視聴していた。そのどれもが、深夜に発生した停電の報道ばかりでそれぞれ似たり寄ったりな内容の番組だらけだった。
「うわぁ……。どのニュース番組で取り上げてるのも、夕べのことばっかりだよ……」
「確か夕べ、シンヤ君はこの時間帯バイトだったっけ。……もしかして遭遇したりしちゃった?」
「えぇ、まぁ……」
「嘘ぉ!良いな~。その瞬間撮れたら、俺達SSPの注目度うなぎ登りだったのに~」
ジェッタさんは何度も番組を切り替えていたけど、ついに骨が折れたのか、ワンセグを切ってスマホをデスクに置いた。
ナオミさんがふと夕べのことを思い出し、僕に問いかける。僕が答えると、ジェッタさんは惜しいことをしたと言いたげな雰囲気で溜め息を付いた。
それを咎めるように、ナオミさんがジェッタさんを注意した。
「そんなこと言わないの。でもこれじゃ、夜安心して眠れないかも……」
「またこんなことが起きるって考えると、確かに恐ろしいですね……って、うわぁぁ!僕のパソコンのデータが飛んでる……!」
これまで平然を保っていたシンさんが突然悲鳴を上げた。よほど大切なデータが入っていたのか、データの復旧作業を血眼になって取り組み始めた。
「こっちでも問題アリ……か」
「そう言えばガイさんは?まだ寝てんの?」
唐突にジェッタさんから声をかけられ、慌てながらもそれらしいことを伝える。
「えっと、朝から調子が悪いとのことなので、まだ寝てます」
「そっか。でも意外だなぁ。ガイさんでも体調崩すことあるんだ」
「そりゃあ、誰だってそういうことあるでしょ」
ジェッタさんとナオミさんが納得しているのを眺めて、僕は内心ホッとした。さすがに「夕べ怪獣と戦って、そのダメージを癒している」……とは口が裂けても言えないからだ。
するとオフィスの扉が急に開かれた。僕らのオフィスに来る人なんて、この人に決まっている。
「ヘイヘイヘーイ!今日も来たぞー!」
「おじさん!忙しいんじゃないの!?」
「そう言うことは、言いっこ無しだよナオミちゃん!……ところで、お前らの方で今回の事件の調査は進んでるか?」
「やっぱりそれが目当てか……」
ビートル隊の渋川さんがやけに高いテンションで入って来るなり、いつものように僕らに情報の提供を依頼する。
その態度に呆れるジェッタさんだったけど、渋川さんは少しムッとした表情で反論する。
「あのなぁ、俺達ビートル隊だって頑張ってんだぞ?それでも手がかりがないから、最終手段としてお前らに協力を依頼してるんだ。それに、お前らの腕を信頼してる人達だって少なからずいるんだからな」
「どうだかね~……」
「こいつ信用してねぇなぁ……。とにかく!何か……頼む!この通りだ!」
ジェッタさんのリアクションに一瞬表情を暗くした渋川さんは、改めて僕らに依頼を申し込んだ。手を合わせながら頼んでいることから、その本気度が伝わって来る。
渋川さんに返事をしたのは、血眼のシンさんだった。
「そんなこと言われても……。僕らにも情報が全くなくて、お手上げなんですよ……」
「えぇ……、マジかよ……。せめて、目撃者に話を聞けたら良いんだけどな……」
「あ……!渋川さん、いますよ!目撃者!」
落胆する渋川さんを見ていた時、僕の脳裏にあるアイデアが閃いた。
「……という訳なのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「えぇ、ご心配なく!」
SSPのオフィスには、「じんの」のゴウキさんとアリサさんがやって来ていて、渋川さんに昨晩の様子を互いに思い出しながら話していた。
サンダーダランビアが出現した地域は、現在立ち入り禁止となっていた。ゴウキさん達からすれば、1日でも早く営業を再開させたいと言う心境だったから、今回渋川さんに協力することにしたそうだ。
そんなこんなで話し合いが終わり、渋川さん達3人が立ち上がった。
「ご協力感謝致します」
「いえいえ。今度は是非とも、お客様としてお越し下さい。お待ちしております」
「はい、ではまた近い内に」
アリサさんが丁寧な口調で渋川さんに語りかけ、2人はきれいなお辞儀をしてオフィスから去って行った。
僕は2人にお礼を言おうと思い、2人の後を追った。オフィスの扉を開けて外に出た時には、2人は丁度階段を降りきったばかりだった。
「ゴウキさん、アリサさん……急なお話を受けてくださって、ありがとうございました」
「気にしないで、困った時はお互い様でしょ?」
「アリサさん……。そうだ、ゴウキさん。夕べのおじさんは、あの後大丈夫でしたか?」
「おう!きっちり避難させたぜ!」
「こう言ってるけど、戻って来た時はものすごく息切らして大変だったのよ?」
「アリサ……!それは言わないでくれって頼んだじゃねぇか!」
その情けなさそうなゴウキさんのリアクションに、僕とアリサさんは笑い声を上げた。釣られてゴウキさんも笑い出す。
「まぁ、この事件が解決したらまたうちに来いよ、シンヤ!」
「……!ガレット!」
ゴウキさんが差し出す右の拳に、僕もまた拳をぶつけてグータッチをした。
「こちら渋川。民間人の情報提供により、今回の停電事故は怪獣の仕業である可能性が浮上した。各自、厳重に警戒されたし。報告は以上」
僕がゴウキさん達を送って帰って来た時、渋川さんは通信機で本部に連絡を入れていた。しばらくした後、また本部から連絡が入った。通信機から聞こえる声に表情を一切変えず、渋川さんは会話を終えた。
どうやら本部の方針で、怪獣を撃退する作戦を決行することになったそうで、渋川さんは本部に急遽戻らなくてはならなくなった。
いつも通りの爽やかな笑顔を残して、渋川さんは急ぎ足で帰って行った。
時が経つのはあっという間で、時間は既に夕方。町中に街灯がぽつぽつと灯り始めた。
いつも通りならこの時間帯には、まだ遊んでいる子供達が少なからずいるのに、今日の町には人は誰もいない。毎日うるさいくらいに走っている自動車も皆無。みんな何かに怯えるように、静まり返っていた。
その町を僕らのSSP-7だけが走っていた。
「今日こそはしっかり収めるぞー!」
「僕のパソコンのデータを飛ばした恨み……!思い知らせてやりますよ!」
「2人とも少しは落ち着きなよ…。あぁシン君、しっかり前見て!」
静かな町とは打って変わって、車内はとてもにぎやかだった。助手席でビデオカメラのバッテリーの確認をするジェッタさん、データの復旧作業で疲弊しきった表情で蛇行運転を繰り返すシンさん、その運転で悲鳴を上げるナオミさん……。
ちなみにガイさんはまだ目覚めなかったために、机に簡単な料理や水を置いて寝かせたままにした。そしてもう1つ、置いてきたものがあった。後は、ガイさんがそれに気付いてくれるのを願うだけだ。
手頃な建物を見つけた僕らは近くの駐車場にSSP-7を駐車させて、屋上へ上った。
「さぁ、どっからでも来ぉい!撮影準備は出来てるぞ!」
「そう言って出て来たらどうすんの……っ!?何!?地震!?」
ジェッタさんの力強い声が町中に響き渡り、ナオミさんが呆れ気味に突っ込みを入れようとした時。突然足元が揺れ始めた。広い屋上には寄りかかれる物などなく、僕らはその場に小さくしゃがみ込んだ。
それから間もなくして大地が盛り上がった思えば、恐ろしい雄叫びを上げてサンダーダランビアが地中から飛び出した!
「ホントに来たぁー!?」
「あれ見て下さい!ビートル隊のゼットビートルです!」
シンさんが指差しをした方角に見え始めたのは、銀のボディに青いラインが走る複数の戦闘機だった。
あれがビートル隊の『ゼットビートル』だ。これまでも活躍はしていたけど、大抵はオーブが怪獣を倒した後にやって来たり、あまり実力を振るうことがなかった。でも今回はオーブが現れるよりも前に登場した。ビートル隊もいつでも発進出来るように準備をしていたことが伺える。
ゼットビートルはミサイル攻撃を開始するが、サンダーダランビアの亜空間バリアに阻まれて、失敗した。反撃するサンダーダランビアは背中のコイルに電気を溜め、一気に放つ。解き放たれた電撃は、発信源を中心としてドーム状に広がり、身の回りを飛び交っていたゼットビートルの大半を撃墜する。
(全方位に向けての放電!?いつの間にそんな技まで……!)
今の技には、さすがに驚きを隠すことが出来なかった。
そもそもあんな攻撃を使えることなど、思っても見なかった。そんな中、ある1つの考えが浮かんだ。
(まさかサンダーダランビアが……進化したのか!?)
──命あるものは、常に前に進みます。昨日までのデータなど……。
ふとした瞬間に、
その可能性はなるべく考えたくはなかったけど、そうとしか思えなかった。
「何だよ今の……!あぁっ!カメラ壊れたぁ!何で?何でだよぉ!」
今の電撃の余波がこっちにも届いたのか、ジェッタさんのビデオカメラが故障してしまった。
被害はそれだけでは留まらず、先日の二の舞になってしまう。辺り一面が暗い闇に染まる中で、怪獣の眼光だけが煌々と輝いていた。
SSPのオフィス。
家主のいなくなった部屋で、ガイは覚醒する。瞼を上げると、月に照らされていたことに気付いた。これまで身体中にまとわり付くような不快感を生んだ痺れはすっかり消え去り、スムーズに起き上がることが出来た。
(今まで、ずっと寝てたのか……)
多少寝ぼけながら頭を掻いていた最中に、自分がどうしてこうなったのかを思い出す。すぐに行動を起こそうと立ち上がるが、机の上に置いてあった料理を見つけた。
少しでも腹の足しにしようと急いで口に運ぶ。その机の上には料理以外にも、2枚のカードが置かれていた。
(シンヤのやつ……!ありがたく使わせてもらうぜ!)
最後にコップの水を飲み干したガイは、オーブリングを構え、2枚のカードを読み込ませた!
「ガイアさん!」
【ウルトラマンガイア!V2!】
「ビクトリーさん!」
【ウルトラマンビクトリー!】
「大地の力、お借りします!」
【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!
フォトンビクトリウム!】
凶暴性を増したサンダーダランビアは、叫びながら町を蹂躙し続ける。ゼットビートルは果敢に挑むものの、亜空間バリアに阻まれ撃墜されるの繰り返しだ。
打つ手なしと思われたその時だった。
『ウォラァァッ!!』
サンダーダランビアが何者かに殴られる。
不意打ちを喰らわせた豪腕の巨人は、轟音を響かせて町に降り立った。
「おぉ!ウルトラマンオーブ!」
「待ってましたー!」
『ずいぶん待たせちまったな、後は任せな!』
両腕を構えて突き進むオーブ。サンダーダランビアはそれに対して電撃で迎え撃つが、攻防一体のフォトンビクトリウムの岩乗なボディには傷1つ付くことはなかった。
相手の放電をノーガードで凌いだオーブは、巨大な拳を最大限活かした接近戦で攻め立て、ボクシングのコンビネーションのように左右の拳を全力で叩き込む。
『これで決める!フォトリウムエッジッ!!』
頭部のクリスタルから光の刃を解き放ったオーブだったが、その時サンダーダランビアにも動きがあった。
オーブの攻撃を当然のように亜空間バリアで防いでいたが一向に割れることがなく、次第に強度が増していくようにも見えた。
そしてサンダーダランビアが吠えたと同時に、オーブの『フォトリウムエッジ』が打ち消された。それに追い討ちをかけるが如く、サンダーダランビアが変貌した──!
全体のシルエットは肥大化。背中から更にコイルが数本生え、下半身は「ダランビア」のような複数の巨大な足となって、これまで黄色く発光していた器官が紅く光り出した。
その変貌を目の当たりにしたオーブ。驚愕で何も出来ないでいると、足に巻き付かれていた触手で持ち上げられ、宙吊りになってしまう。
『「馬鹿な……!この姿の俺をこんな軽々と……!」』
これまで使用したフュージョンアップ形態の中でも、この姿はダントツの重さを誇っていた。その重さこそ、この姿の攻撃力と防御力の高さを証明するもの。だが今となっては、まるで指で摘ままれているような状態だ。
勝ち誇るサンダーダランビア改め、ネオサンダーダランビアは、本数の増えたコイルから強大な電力を起こし、触手を伝わせてオーブに電流を流す。
『グアァァァァァッ!!』
長い時間電流を受けたオーブのカラータイマーの点滅がだんだん早まる。更に宙吊りのまま、頭を地面に叩きつけられる。そこにあったのは戦いではなく、ただの暴力そのものだった。
もう見ていられないと、ナオミさん達は視線を反らす。
抱きしめたカバンに力を込めて、泣きそうになっても僕は決して目を背けることはしなかった。
その時僕は、カバンの中のカードホルダーが光を放っていたことに気が付かなかった。
新たに「ネオサンダーダランビア」というオリジナル怪獣を登場させました。そのまんま過ぎですかね。
アナウンサーとか渋川さんの話し方がホントに違和感だらけになっていると思いますが、ご了承下さい…。
ゲストキャラの名前の由来は、「役者さんの名字」+「演じたキャラ名」です。今後もゲストキャラは出していきたいなと考えてたりします。
隠れサブタイは、ものすごく分かりやすいと思います。
後編はお待ち下さい…!何とか頑張ってみます!