ウルトラマンオーブ ─Another world─   作:シロウ【特撮愛好者】

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メリークリスマス!
作者はいわゆるクリぼっちです……。

オーブのTV本編が最終回を迎えましたね……。
放送が開始した当初は「そりゃないだろ~」と思ったオーブでしたけど、いつの間にかどっぷりはまってました。

それでは、こんな寒い季節に熱いやつです。
どうぞ。


第4話 真夏の空に火の用心 ー前編ー

 強い日差し。

どこかでセミが鳴いている。

 ただいまの気温、40℃。

 町行く人々は誰もが汗だくで、日傘や扇子で暑さを凌いでいる。

 それでも、暑さが去ることはなかった。

 

 場所は町のカフェ。店内は南国をイメージしているのか、装飾やBGMがそれらしいもので統一されている。

 今日は客でいっぱいで、店員もフロアを駆け巡り大忙しだ。それだけお客でいっぱいだと、当然店内に入れない人もいる。

 我らがSSPのキャップ、夢野ナオミがこの店でバイトをしているため、ジェッタとシンもこの店にやって来たのだが……。

 

「てか何だよこの暑さ……!」

「地球温暖化が問題視され、都市部ではヒートアイランド現象が進む一方だと言うのに……。全くみんな呑気なものです……。わざわざ可愛い仲間がバイト先まで遊びに来ているというのに、この仕打ちとは……!」

 

 炎天下のテラスに晒される2人の元に、仕事モードのナオミがお冷やの水を持ってくる。

 

「仕方ないでしょ、店内がいっぱいなんだから……。空いたらちゃんと移れるようにするから。で、何か分かった?」

 

 ナオミが聞いているのは、最近頻繁に発生している怪獣騒動や光の巨人、ウルトラマンオーブについてだった。しかし分かったことは少なく、むしろ突然現れる怪獣達や風来坊の青年──ガイのことなど、世の中分からないだらけとジェッタはお手上げの様子だ。

 ジェッタとシンは渡されたお冷やを一気に飲み干し、おかわりを頼む。仕事モードのナオミはメニュー表を差し出すも、そのメニュー表をうちわ代わりに使われる始末だった。

 

「そういやシンさん、シンヤ君は?」

「あぁ、今日もバイトが入ってたみたいですよ。確か……アイスの移動販売?でしたっけ」

 

 

 

「ん~いや、ラムネか?あ、アイスかな?どっちにしようかなぁ?」

「まだですかガイさん?いい加減早く決めて下さいよ~」

 

 今僕が何をしているかと言うと、ラムネにするのかアイスにするのかをなかなか決めてくれないガイさんへの接客だった。

 いつもこの仕事をしているおじさんがこの暑さでバテてしまって、急遽僕がこの仕事を代理で行っている。

 この暑さだと、やっぱり冷たいものが結構売れる。特に炭酸飲料やアイスクリームが人気だ。

 これまで何人ものお客さん達が、ラムネやアイスを買いに来ていた。そのこともあってか、事前に準備していた品数がどれもギリギリになりつつあった。

 だからこそ、ガイさんは真剣に悩んでいるのかも……。

 

「じゃあラムネ……、いや!やっぱり、アイス!」

 

 悩みに悩んだガイさんが選んだのは、棒のアイスだった。冷たくてシャリシャリで、人気の高いアイスだ。

 ようやく買ったアイスに、ガイさんがかじりつこうとした時だった。

 

「うわぁ!?暑っ!?」

 

 どこからか熱風が吹き荒れ、思わず目を瞑った。

 次に目を開けた時、ガイさんが持っていたはずのアイスが既に無くなっていた。それに驚いているガイさんの様子を見るからに、さっきの熱風でアイスが溶けてしまったのだろうか。

 

「ガイさん!あれ見て下さい!」

 

 空を見上げた僕の目に飛び込んで来たのは、巨大な赤い火の玉だった。それから発せられる熱波の影響で、町の人々は途端に倒れ出した。

 

「熱波襲来、ですか……!?あれは一体……?」

「今度は火ノ魔王獣がお出ましか……!」

 

 そう言うと、ガイさんはオーブリングを構える。だがその右手は、さっきのアイスの棒を持ったままだった。

 しかもハズレの棒だった。

 咄嗟に近くのゴミ箱にきちんと外さずそれを投げ入れる。

 気を取り直していつもの構えを取ったガイさんは、オーブリングを正面に突き出した!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『ジュワッ!』

 

 オーブは火の玉へ向かって飛び立って行く。僕もそれを追いかけようとした時だった。

 

『もしもしシンヤ君!オーブが出たの!』

「こっちでも確認しました!僕はオーブの後を追います!」

『分かった!それじゃあ向こうで会おう!』

 

 ナオミさんからの電話を切り、僕はオーブが飛んで行った方へ走って行く。

 

 火の玉に正面から対峙したオーブは、その手から水を放出する。初代ウルトラマンの「ウルトラ水流」を模した「オーブ水流」である。

 しかし火の玉の熱がオーブ水流を上回り、その効果はあまりなかった。

 次にオーブは「スペリオン光輪」の構えを取るが、いつものとは違って身の丈程の、特大の「スペリオン光輪」を生成した!

 それを思い切り投げて直撃させるが、やはり決定打にはならない。

 すると今度は体を紫色に輝かせて、火の玉の周りを高速移動する。高速移動で分身をいくつも作り出し、必殺光線を全方位から集中砲火させる!

 

『スペリオン光線!』

 

 やがて光線を撃つのを止めたオーブだったが、火の玉には以前変化が見られなかった。

 するとオーブのカラータイマーが点滅を始めた!

 

「エネルギーの消耗が激し過ぎたんだ……!」

 

 これまでのオーブの戦いを思い出した僕は、そう結論付けた。

 あの姿のオーブはバランスの取れた形態で、光線技も応用の利くものばかりだ。

 今回の戦いでは、その光線技でエネルギーを多く使い過ぎたために、いつもよりカラータイマーの点滅が早いのだ。

 一度着地したオーブは思い切り大地を蹴り、火の玉へ向かって飛ぶ。そして巨大な円状のバリア「スペリオンシールド」を自分と火の玉の間に作り出し、そのまま宇宙に向かって飛んで行く。

 

「まさか大気圏外まで押し戻す気ですか、ガイさん!?」

 

 宇宙まで火の玉を押し出したオーブだったが、カラータイマーの点滅がだんだん早くなり、やがて点滅が止まった……。

 

『グァァ……』

 

 力なく地球に墜落したオーブ。落下した場所には盛大な砂埃が立ち上がった。

 

「ガイさん!!」

 

 それを目撃した僕は、その場所まで全速力で駆けて行った。

 

 

 

 大地に落下したオーブは変身が解かれ、クレナイ・ガイの姿に戻っていた。その姿になっても負ったダメージは深く、仰向けで荒く呼吸をしていた時だった。

 自分の元に歩み寄る人影。その顔を見た途端に、ガイはその相手の名を呼ぶ。

 

「がぁっ……。ジャグラー……ッ!」

 

 左手で頭を抱えたジャグラーはガイの顔を覗き込むように腰を屈めて口を開いた。

 

「何をしている……?こんなものじゃないはずだ……」

 

 姿勢を正したジャグラーは、ガイの左腕を踏みつける。その痛みにガイは顔を歪めるが、ジャグラーは決して止めるつもりはない。

 

「お前は選ばれた戦士なんだろ?なぁ?光の戦士……」

 

 そう言うと右手でガイの胸ぐらを掴み、自分の顔の高さまで持ち上げる。ガイは先程の戦いで蓄積したダメージが原因で、反撃する気力もなかった。

 

「どうした?もっと俺を楽しませてくれ……」

 

 ジャグラーは右手だけでガイを後ろに投げ飛ばす。ガイは近くの建物に激突し巨大なクレーターを建物の壁に刻み込み、そして地面に落ちた。

 

「あまり時間はないぞ……」

 

 

 

 僕が落下現場に到着した時、そこにいたのは倒れているガイさんと、マガバッサーの時に出会ったあの男性だった。

 

「ガイさん!……あんた、あの時の!」

「おや?お前に会うのは、マガバッサーの時以来だな?」

 

 飄々とした態度を崩さないその男は、邪悪な笑みを浮かべている。

 何より心配なのはガイさんだ。気を失っているだけかも知れないけど、さっきのダメージもあるはずだからだ。

 

「……これもあんたがやったのか?」

「そうだ……。と言ったらどうする?何の力もない地球人が」

「ふざけんなッ!」

 

 そう言ってその男性に殴りかかるも、素人当然の僕の攻撃など当たる訳がなかった。

 慣れた手つきで攻撃を回避する男性。カウンターを仕掛け、その攻撃が僕に届こうとした時だった。

 世界がスローモーションのようにゆっくりと動き出した。それなのに僕の体はいつも通りに動く。僕が捉えたのは、丁度男性のカウンターが僕に直撃する手前だった。咄嗟にそれをガード。カウンター返しの回し蹴りが男性に当たった。

 それには男性も驚きを隠せない様子だった。

 対する僕自身も驚いていた。この間のようなことがまた起こるとは思っていなかったからだ。

 

(何だ?まるで……自分の身体じゃないみたいだ)

 

「っ……!そうか、お前がヨミが言っていた奴か」

 

 ヨミ。彼のその一言で思い当たるのはあの青年だった。

 この間のマガグランドキングの時、僕を襲ったあの怪しげな青年。

 ガイさんから名前を聞いていた、僕らの──敵。

 

「やっぱりあいつも、あんたの仲間なのか」

「……話は終わりだ。お前のその光は、俺には眩し過ぎる……」

「僕の……光?」

「1つだけ教えてやるよ、俺はジャグラー……。ジャグラスジャグラーだ」

 

 そう言った男性──ジャグラーは一瞬姿を変えた。その姿はまるで甲冑を纏ったかのようで、瞳は蒼く光っていた。

 僕がそれに驚いて何も出来ないでいると、ジャグラーは黒い霧となって消えてしまった。

 

 

 

「何だよこれ……!」

 

 SSPの3人が目の当たりにしたのは、地面に出来た巨大なクレーターだった。その光景に息を飲んでいたが、ナオミが不意にオーブがどこに行ったのかと言う。彼らが周囲を見回すと、見慣れた青年の影を2つ見た。

 

「ガイさん!シンヤ君も!」

「皆さん!ガイさんが……!」

 

 シンヤの側には、うつ伏せで倒れたガイの姿があった。

 全員で駆け寄り呼びかけるが、反応が返って来ない。

 

「おい!かまいたち……いや、お前達もいたか!おい……ガイ君じゃねぇか!」

「渋川さん……!ガイさんの反応がないんです」

「何?」

 

 渋川はガイの左胸に耳を当てて、心臓が動いているのかを確認する。

 

「大丈夫だ。とにかく運ぶぞ!」

 

 そう言われたSSPのメンバー達は、寝たままのガイを持ち上げて運び始めた。

 その上空をヘリが飛んで行く。ヘリから見た地面のクレーターは、巨人が倒れたかのような形をしていたという……。

 

 

 

 SSPのオフィスまでガイさんを運び、横に寝かせる。

 看病を僕とナオミさんで行い、ジェッタさんは病院への電話、シンさんはガイさんの荷物から身元の分かるものを探していた。

 

「連絡先や、身元の分かるものは何1つありませんね~」

「すごい汗……!」

 

 眠っているガイさんの顔や首に、ものすごい量の汗が浮かんでいた。ナオミさんは、ガイさんのおでこに乗せたタオルを絞ろうとした。

 

「僕がタオルを絞りますから、ナオミさんはガイさんの汗を拭いてあげて下さい」

「う、うん。分かった……」

 

 僕がガイさんのおでこのタオルを手に取った瞬間。

 そのタオルはまるで熱湯で絞ったかのような熱さだった。

 

「暑っつ!!」

 

 思わず後ろにいたジェッタさん達に、そのタオルを投げてしまった。シンさんはタオルをキャッチしてしまい、その熱の洗練をまともに受ける。ジェッタさんは直接触った訳ではないけど、腕に少しかすっただけで驚いていた。

 ナオミさんが汗を拭き取ろうと、濡らしたタオルでガイさんに触れた瞬間。

 タオル越しに、その熱が伝わった。

 

「何?この熱……!」

 

 ナオミさん達がそれに驚いている時、僕には少し思い当たることがあった。

 

(そう言えば……。セブンさんも高熱にうなされたことがあったっけ……)

 

 それは「ウルトラセブン」の終盤、ウルトラセブンことモロボシ・ダンを90度近い高熱が襲った時のことだった。度重なる戦いで蓄積した疲労が原因だったけど、それでもセブンさんは最後まで戦い抜いたのだった。

 

(ガイさんも……オーブも、僕らを守るために戦ってくれてるんだよな……)

 

 未だに眠るガイさんを眺めて、僕はそう思った。

 ジェッタさんによると、どこの病院も熱中症の患者でいっぱいとのことだった。

 そのためガイさんを、しばらくここで休ませることになった。

 

 

 

──どこかの森の奥深く。

 メロディを奏でる自分と、笑顔でハミングをする少女がいる。

 俺達は、その平穏な日々が続くと思っていた。

 その日々を…俺が壊してしまった。俺自身の強大な力が原因で、俺はあの娘を──

 

 

 

「う、うぅ……」

 

 絞ったタオルを、僕がナオミさんに手渡した時だった。ガイさんが微かに声を出したのだ。

 

「何?どうしたの……?」

 

 ナオミさんが、ガイさんのおでこに置いたタオルを換えようと手を伸ばした瞬間。

 ガイさんの右手が、ナオミさんの手を掴んだ。

 

「いきなり何……って熱っ!」

 

 まだ熱が下がっていないのか、ナオミさんはガイさんの手をほどこうとする。でもそれは男女の力の差。ほどくことが出来ない。

 後ろのジェッタさん達が、冷やかすようにそれを眺める。別にそんなんじゃないとナオミさんが弁解するけど、2人は止める気配がない。

 その騒がしさが聞こえたのか、ガイさんは目を覚ました。

 

「あっ……。良かった、気が付いて」

「ここは……?」

「僕達のオフィスです。大丈夫ですか、ガイさん?」

「シンヤもいたのか……。そうか、俺はアイツと戦って……」

 

 情けなさそうに顔を覆ったガイさんは、無理矢理起き上がろうとする。それを僕らが抑える。

 

「じっとしてなきゃダメですよ、熱もあるんですから……」

「俺に構うな……!」

 

 起き上がろうとしたガイさんだったけど、まだそこまでの気力はなかったようで、また仰向けに寝転がった。

 

「何よ、助けてもらってその言い方……。ってもしもし、もしもーし!」

 

 気付くとガイさんはまた眠っていた。でも今度は、寝息も安定していた。

 そのガイさんの態度に、ナオミさんは呆れた。




後編に続きますよ~。

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