ウルトラマンオーブ ─Another world─ 作:シロウ【特撮愛好者】
作者の個人的な理由で投稿が遅くなりました……。
申し訳ありません……。
オーブのスピンオフ作品のPVを見て「これパワータイプじゃね?」と思った作者です。
それでは、どうぞ。
ある日の夜更け、どこかの湖。
何事もなかった水面に、突如水飛沫が上がる。
それと同時に、夜空に光る何か。月か星かと思えば巨大な怪物が姿を現し、それは怪物の眼球であった。
そこにいたタツノオトシゴのような怪物──水ノ魔王獣 マガジャッパはその半身を水中に沈める。
それはまるで、湯船に浸かる時のようだった。
それから時は流れて。現在、SSPのオフィスではあるトラブルが発生していた。
「ヤバい、ヤバい!ヤバーい!」
ナオミさんが急に叫び始めたのだ。その声の方が聞こえた方を見ると、蛇口の栓を必死に捻る水浸しのナオミさんがいた。だけど水は一向に止まる気配はなく、ただただナオミさんの絶叫が響くだけだった。
「ど、どうにかしてー!」
「もぉー!修理中ですよね!?状況を悪化させてどうするんですか!離れて下さい!」
僕がナオミさんに渡すタオルを準備する中、シンさんが銃のようなものを構えて蛇口に向かって撃つ。すると、その銃から帯状のエネルギーが射出されてあっという間に蛇口ごと水を固めてしまった。
その威力と性能の高さを喜び合う2人。僕は、水浸しのナオミさんにバスタオルを渡す。
「大丈夫でしたか?ナオミさん」
「ありがとうシンヤ君。いやー、一時はどうなるかと思ったよ」
「いえいえ、僕は何もしてませんし……。一応業者さんに連絡しておきます」
(そう言えば……この世界にはクラ〇アンってあるのかな?)
業者さんへ電話をかけようとした時、ふとそう思った。僕の元々いた世界ではTVのCMで見かけることの多かったあの業者さん。安くて早くて安心な、水のトラブルならお任せのクラシ〇ン。でも水道を水ごと固めてしまったから、これは専門外なのかも知れない……。
そんな僕らとは対照的に、1人悲観する男がいた。
普段はあんなに明るいはずのジェッタさんが、パソコンの画面を見つめながら、鼻をすすっていた。どうやら、お涙頂戴な動画を見ている訳ではなさそうだ。
「……もしかして、絶賛炎上中?」
ナオミさん達に倣って、ジェッタさんの後ろからその画面を窺う。
それはSSPのサイトで、先日のウルトラマンオーブを撮影した動画のページが表示されていた。
でも注目すべきなのは、視聴者から寄せられたコメント欄。
こいつの実況いらねー、実況ウザー……。
動画を撮影し、実況をした本人にはどれもキツい一言ばかりだった。
ジェッタさんの目には、涙がしっかり浮かんでいた。
「……泣いてんの?」
「泣いてないって!ちょっとシャワーでも浴びてスッキリしてくる!」
ナオミさんが心配するように話しかけると、急に立ち上がったジェッタさんは駆け足で浴室へと向かった。
(ジェッタさん……、強がってもバレバレですって……)
その後ろ姿を見届けながら、僕はそう思った。
ジェッタさんは自分がそうしたかったからそうしたのに、こうも一方的に叩かれてしまうのが、ネットの怖いところだと思う。
この挫折をバネに、今後とも頑張ってもらいたいものである。
自分のデスクに座ったナオミさんに、シンさんがさっきの銃──スーパー・アブソーベント・ポリマーガン、通称SAPガン──の開発費の相談を持ちかけていた時だった。
「うわぁ~!くっさー!!超くっさ!!ちょっと……」
浴室の扉から出て来たのは、腰にタオルを巻いただけのジェッタさんだった。少し離れた距離からでも臭う、強烈な臭気を纏った半裸のジェッタさんが飛び出して来た!
ジェッタさん本人もこの状況を掴めていないのかパニックに陥り、僕らに近付いて来た!
「うわぁ!臭い!」
「ジェッタさん臭い!臭いですって!」
離れていても臭いのに、近付かれるとその臭気がダイレクトに嗅覚を襲う。ナオミさんやシンさんはその臭いに耐え切れず、
水のトラブルに続いて、僕らSSPを臭いのトラブルが襲った……。
「…………………………」
場所は変わって、銭湯。
入り口には店主の文字で、「臨時休業」を知らせる貼り紙が貼られていた。
それを見たガイは持っていた荷物を地面に落とし、絶句していた。
「……ガイちゃん、すまねぇなぁ……。ご覧の通り、臨時休業なんだよ……」
入り口が少し開き、中から壮年の男性が掃除用のモップとバケツを持ちながら困った顔で出て来た。
「おやっさん……!どういうことなんだよ、一番風呂を楽しみにしてたのに……!」
その男性はこの銭湯「鶴の湯」の店主で、常連のガイとは顔見知りだった。そのため互いに「ガイちゃん」、「おやっさん」と呼び合う仲だった。
「それがよぅ……水が急に臭くなっちまったんだよ、ホラ!」
右手に持ったバケツをガイの顔の高さまで持ち上げて、臭いを嗅がせる。だがガイは表情ひとつ変えない。
それに驚き自分も臭いを嗅ぐが、その強烈さに顔色を変えた。
「えぇ!?臨時休業って……!」
上下ジャージで揃えたジェッタさんと一緒に銭湯へやって来たけど、そこには臨時休業の貼り紙。
ジェッタさんの臭いに、表に出ていた店主のおじさんは鼻を摘まみながら顔をしかめた。
「うわっ、くっせぇ!洗ってねぇ雑巾みたいな臭いだ、お前……!」
左手のモップで、おじさんは自分から離れるようにとジェッタさんを拒む。ジェッタさんはどこか心外だなと言いたげな顔だった。
「臭いが取れないから来たのに、臨時休業って……」
「ん、なんだ。兄ちゃん家の水も臭うのか!?こんな感じか!?」
「うわっ……!」
「くさいっ!」
おじさんはバケツを僕らの方に向けて言う。その臭いはやはりキツかった。
「……ガイさん!」
「よぉ、また会ったな。……それにシンヤも一緒だったか」
ガイさんはジェッタさんの肩を掴んでそう言う。
ジェッタさんは僕にガイさんと知り合いだったのかとひそひそと話して来るけど、近付かれると臭いが……!
そんな僕とガイさんを見比べて、ジェッタさんはガイさんに問いかける。
「ガイさんは俺のこと臭いって……」
「あぁ、これくらいの臭いなら何でもない」
ガイさんはぶっきらぼうにそう答える。
そんな僕らの後ろを、プール帰りの小学生達が駆けて行った。
その先にはプールやコインランドリー、料亭やらクリーニング屋が建ち並んでいたが、そのどれもが「臨時休業」の貼り紙を出していた。
「一体どうなっちまってるんだ……?」
「早くおやっさんの沸かした一番風呂に入りたいからな……。よし、ちょっくら行ってくる!」
ジェッタさんが戸惑いの声を出し、状況を飲み込めずにいた時だった。
ガイさんはどこかに向かって走り出した。
その背中に、銭湯のおじさんが問いかける。
「ガイちゃん!どこに何しに行くんだよ!」
「風呂に入るんだ、一肌脱ぐのは当然だろ!」
ガイさんは振り向いて、キメ顔でそう言うとまた走り出した。
「……うまい。座布団1枚」
「ダメだ……。全然臭いが取れないよ……」
ジェッタさんは全身にスプレーを振りかけて臭いを消そうと試みるけど、その効果は薄い。
シンさんはこの状況の解析を始めていて、1人だけガスマスクを着用していた。
ナオミさんが、冷蔵庫の中の非常用の食料と水を確認するために冷蔵庫を開けると、そこには水が1本あるだけ。
ジェッタさん曰く、シンさんが夜食に消費してしまったらしい。
「すみませんナオミさん……。僕がちゃんと確認していれば……」
「あぁ、気にしないでシンヤ君!大丈夫だよきっと」
少なくともこうなってしまったのは、僕にも責任がある。これからは、こまめに確認しようと思った。
ジェッタさんの臭いに耐え切れなくなったナオミさんは、スライスした生姜や生姜そのものをジェッタさんの身体中に纏わせる。
臭みを取るには生姜が一番とは言うものの、まるでモンスターを退治する勇者か何かのようにも見えた。
「おい、ちょっといいか……。うぇ、くせぇ!ここもか!」
オフィスの扉が開き、渋川さんがやって来た。開口一番に臭いを指摘され、ジェッタさんは不機嫌だった。
渋川さんがやって来たのは、どうやら僕らがこの異臭騒ぎの一件で何か掴んでいるのではないかと睨んだかららしい。
ビートル隊でも、数週間前から似たような現象の調査を行っていたそうだが、臭いの発生する原因究明には至っていないそうだ。
「だから、正攻法じゃない私達を頼ってきたってこと?」
「まぁね。……なぁナオミちゃん、何かネタないかな?」
渋川さんはナオミさんにせがむ。
するとパソコンをいじっていたシンさんが何かを突き止めた。
「見つけました!これです、これ!」
シンさんの一声に、全員の視線がパソコンの画面に釘付けになる。
その画面には、『太平風土記』の1ページが表示されていた。
古い言葉で記されたそれを読めない渋川さんは、シンさんに読むように要求する。渋々了承したシンさんは、そのページを読み始める。
そこにはマガジャッパと呼ばれる魔物の記述があった。何でも、水を臭くしてしまう魔物だったそうだ。
(これはまさか……魔王獣!?だからガイさんは……!)
僕がそう考えていると、ナオミさんは何かに感づいたようだった。
「じゃあ、突然水が臭くなった怪奇現象の原因って……」
どこかの湖にて。そこでは、マガジャッパが未だに湯船もとい湖に浸かっていた。
『♪~』
すると、どこからかメロディが聞こえた。マガジャッパはその音に反応し、聞こえた方角へ顔を向ける。
そこには、オーブニカを奏でるガイの姿があった。
「やはり、魔王獣マガジャッパか……」
ガイを認識すると、マガジャッパは鳴き声を上げる。
「大自然を風呂替わりか……?おいお前ッ!ちゃんとかけ湯してから入れッ!マナー違反もいいとこだぞ!!」
よほど風呂に入りたかったのか、ガイはマガジャッパに吼える。
……それにしてもこの男、実に庶民的である。
それを聞いたマガジャッパは、勢い良く立ち上がる。それと同時に、汚水の飛沫も立ち上がる。
マガジャッパは、鼻先から強烈な水圧「マガ水流」をガイに向かって放つ!
それを間一髪でかわすガイ。更にマガ水流を撃ち出すマガジャッパ。飛び込み前転の要領でかわすが、受け身を取れずガイはダメージを負ってしまう。
その勢いで、ガイはオーブリングを手放してしまった。数歩先に落ちたオーブリングだったが、それを拾うことは叶わなかった。
なぜならそれを拾ったのはガイの因縁の相手、ジャグラーだったからだ。
渋川さんの無線に、湖に怪獣が出現したと連絡が入った。
以前異変のあった地域の近隣にも、湖があったかどうか、シンさんが渋川さんに言う。
「あったと思うが、それがどうかしたか?」
「これまで異変があった地域の湖を結ぶと、ある一定の大きさ、深さのある湖を移動していることが分かるんです」
「まるで、温泉巡りですね……」
僕がそう呟くと、シンさん達も頷いていた。
「よぉし……、『湖のひみつ』ね……!」
そのネタを、早速ジェッタさんがSSPのサイトで更新する。
どこかで聞いたことのある言葉だったけど、今はそれどころではなさそうだ。
調査に行くにあたって、シンさんがジェッタさん専用に脱臭グッズで急遽作成したプロテクターを纏わせる。その見栄えは、先程の生姜の鎧よりも遥かに良かった。
「すげぇじゃん、シンさん!」
「さすが天才。これで臭い対策もばっちりね!」
「すごくヒーローっぽいですね!」
そんな様子ではしゃぐ僕らSSPを見かねた渋川さんが口を開く。
「行くなって言っても聞かないのは分かってる。でも、ナオミちゃん達だけじゃ危険だ。俺も一緒に行く」
「じゃあ情報も共有ね、ギブアンドテイクってことで。
よぉ~し、Something Search People、出動!」
「「「おぉー!」」」
「お、おぉー!」
渋川さんは戸惑いながらも、僕ら3人に混じって声を上げた。
場所は再び湖の畔。緊迫した空気が、ガイとジャグラーの間に漂う。
そんな2人の後ろを、マガジャッパは湖を縦断してまた別の場所へ向かって行った。
オーブリングを握るジャグラーは、それを本来の持ち主に渡すように持つが、手放す様子は全くなかった。
「随分と不甲斐ないな……。大切なものだろ?……取り返してみろよ。こいつも、昔のお前自身も」
「……昔も今も、俺は俺さ」
「フフッ…、かっこいいなぁ……。他のウルトラマンの力を借りなきゃ変身出来ない男が」
面倒くさそうに頭を掻いたガイは、間髪入れずにジャグラーに殴りかかる。それをヒラリとかわすジャグラー。左フックをガード。更に繰り出されるガイの攻撃に、的確なカウンターを決めていく。
「俺は本気のお前とやり合いたいんだ……」
「疲れるよ、それは!」
今度はジャグラーが動き、一撃を喰らわせようとするが、即座にガードしたガイに阻まれる。
「こんなもんか?今のお前は?」
「くっ……!」
そんな切迫した状況でも、ジャグラーはガイへの挑発を止めない。再び互角の殺陣が展開するが、ガイはジャグラーの左腕に膝蹴りを当てる。その勢いでジャグラーの持つオーブリングは宙を舞い、ガイはそれを的確にキャッチした。
ジャグラーと向き合ったガイだったがそこにはジャグラーの姿はなく、その代わりに背後から嫌な気配を感じ取る。
「完全には錆び付いてないようだな……」
いつの間にかガイの後ろを取っていたジャグラーは、そう言い残すとどこかに去って行った。
それを見送ったガイは、マガジャッパの後を追った。
現場に到着した僕らSSPを出迎えたのは、巨大な怪獣と周囲に充満した強烈な臭気だった。
「しかし、ひでぇ臭いだな!」
その臭いを例えるように、ナオミさんはおばあちゃん家の裏庭にいたシマヘビやアオダイショウの臭い、ジェッタさんは洗ってないザリガニの水槽の臭い、シンさんは有機溶媒のビリジンをより強烈にした臭い、渋川さんは洗わないで放置した柔道着を詰め込んだカバンを開けた時の臭い……等とそれぞれが違った例えをした。
「とにかく、臭いですーっ!!」
するとマガジャッパが森林を薙ぎ倒しながら、僕らの前を横切った。その時の臭いは今までより強烈で、その場にいた全員が嘔吐くほどだった。
「間違いない、あれが臭いの原因だ!」
「これが怪獣の臭い……貴重な瞬間です……」
「いやあれが臭いだけであって、全ての怪獣が臭いとは限りませんよ……!」
臭いを堪えながらシンさんが感心するけど、すかさず僕がツッコミを入れる。
そんな僕らに目もくれず、マガジャッパはズンズン進んで行く。
「あの怪獣、今度はどこの湖に移動するか予測が付く?」
ジェッタさんはシンさんにそう聞く。すぐさまタブレットを使って予測した結果、次に向かうところは湖ではなくダムだという予測が出た。そのダムは、東京都の水源を多く担っているダムだった。
これを放っておけば日本だけではなく、やがて世界中の水まで影響を及ぼすことが懸念された。
「よぉし、本部に連絡を入れる!ナオミちゃん達はここまでだ!これ以上は危険だから、引き返せ!」
それを知った渋川さんは、何としてでもそれを食い止めるべく、自分の役割を果たそうとする。
それでもナオミさんは、自分達の商売だからと言って食い下がる。渋川さんはナオミさんをなだめようとするけど、突然ジェッタさんが声を張り上げる。
「スクープだけの問題じゃない!
……そりゃ時にはバカやったりして、怪獣出現を面白可笑しく記事にしてるけど、真面目に書いたって誰の目にも触れないじゃんか!……だけど、俺達がこうやって追跡取材をして、リアルタイムで更新することで、炎上しても拡散さえすれば……!1分でも1秒でも早く怪獣から避難出来る人がいるかも知れないだろ!?
それに……。銭湯の平和を取り戻して、綺麗さっぱり洗い流したいんだよ……!」
「ジェッタさん……」
ジェッタさんのの熱意にはさすがの渋川さんでも折れたようで、最後まで僕らに同行してくれた。
「もう少ししたら、本部の隊員達が現着する!」
「それまでの間、侵攻を食い止められれば……!」
「僕に任せて下さい!これを怪獣の頭上に向けて撃って下さい!」
そう言うとシンさんは、持って来ていたSAPガンを渋川さんに手渡す。
当初は戸惑っていた渋川さんだったが、しっかり狙いを定めて球状のエネルギー弾を発射する。
マガジャッパの頭上で爆散したそのエネルギー弾の効果は抜群で、その体表を固めることに成功した。
「ワーオッ!よぉし、もう一発浴びせてやるか!おい!よく見とけよ!」
それを見て機嫌を良くした渋川さんは、SAPガンを担いだままマガジャッパに接近する。
一方のマガジャッパは機嫌を損ねたようで、何か攻撃を仕掛けるような素振りを見せた。
「渋川さん!その先は危ないです!」
渋川さんを止めようと必然的に後を追う形になった僕に向かって、マガジャッパが鼻先から強烈な水圧を放った。
「ギャーッ!」
「うわぁぁ!」
渋川さんへの攻撃の巻き添えを食らった僕の耳には、ナオミさんの絶叫が聞こえていた。
「おじさーん!シンヤ君ー!」
いかがでしょうか。
後編に続きますよ。