~~音々~
ウルトラマンオーブが3体のゼットンを相手にした時から数日が過ぎて今日は3月1日。いよいよ3年生の卒業式が明日へと迫っていて来たのです。
「あれから自宅の方に杏さんのお父さんも滞在したままと聞きますし、明日の卒業式に参列することは事実のようですね」
財閥のトップが数日連続で休みを取るなんて・・・かなりスケジュールを切り詰めたと思うのです。
「あれは・・・朝比奈先生?」
京も帰ってトリコリの仕事をしなければと家路を急ごうとすると、ベンチに座り込む3年B組担任で英語を担当している朝比奈先生を見かけたのです。
「どうしたのですか朝比奈先生?」
「あっ、1年の・・・えっと・・」
何やら辛そうな顔をしていたので私は朝比奈先生に話しかけると、話しかけるまで私に気づかなかったようで朝比奈先生を驚かせてしまったのです。
「1年C組の大石なのです。辛そうな顔をしていましたけど、どうかしたのですか?」
「いえ・・・別に具合が悪いとか、そういうのではないのよ。ただ初めて担任をしたクラスが明日で卒業しちゃうとなると・・・寂しく思っちゃってね」
「そういう訳でしたか」
流石にそれは私に何とかできることではないのです。
「生徒に心配されるようじゃまだまだだね。ごめんね心配かけちゃって」
「い、いえ。それでは失礼するのです」
今は1人にさせたほうがいいかもしれないと思った私は朝比奈先生に頭を下げて家路を急いだのです。
~~朝比奈~
「はぁ・・・ちゃんと見送ってあげないといけないのに・・・色々と考えちゃうなぁ」
私、朝比奈真香(あさひなまどか)は自分の生徒が明日いよいよ卒業してしまうことで色々と考えてしまっていた。
「他の先生にも聞いてみようかな?いや・・やっぱりやめとこ」
明日が卒業式ということで他の教師たちがドタバタとしてるところをバレないように抜け出してきたカンジだから、今戻るのは難しそう。
「どうかしたのですか?」
「えっ?」
私は声に反応して俯いていた顔を上げると、そこには見知らぬ50代ぐらいのスーツを着た男性が立っていた。
「申し訳ありません。何か悩んでいるような顔をしていたので、つい声を・・・。私は矢的猛というものです」
「はぁ・・・どうぞ」
「では失礼して・・」
立たせているのもあれなのでとりあえず隣に座らせる。
「それで、何かお困りでも?」
「大したことではないのですが・・・私の初めての生徒達が明日で卒業でして・・私はあの子達にとって立派な先生でいられたのかと不安になったり、生徒との別れが寂しくて・・・こう思っては駄目だとは分かってはいるのですが、卒業して欲しくないなどとも思いがごちゃまぜになってどうしたらいいのか分からずここにいたんです」
「なるほど。だからマイナスエネルギーが・・」
マイナスエネルギー?いったい何のことだろう?
「私も40年近く前、中学校の教師をしていたんです。私はわけあって教師ともう1つの仕事という2重生活を送っていたのですが、そのもう1つの方が忙しくなってしまい教師を半年で辞めざる得なくなってしまった」
へぇ、この人も昔教師だったんだ。
「私はそれをずっと後悔していたのですが10年ほど前、偶然にもその中学校の近くまで来る用事があった時に当時私が担任をしていた生徒たちの同窓会に誘われたのです。たった半年だけだったのにみんなは私のことを覚えてくれていて・・・その時は本当に嬉しかった」
半年だけなのにこの人はそこまで生徒に慕われていたんだ。
「矢的さんは生徒さん方の思い出に残る方だったんですね」
生徒さん方と言っても40年近く前と言っていたしその人達は私よりかなり年上なはず。もしかしたらうちの高校の生徒にその生徒さん方の子供がいるかもしれないぐらいかな。
「貴方は1年もの間、生徒たちの担任だったんですから貴女もきっと生徒たちの思い出に残っているはずです」
「私は自分の生徒達に何かを残せたかと言われると・・・何も残せてないと思うんです」
「何かを残す残さないで考えてしまうと、途中でいきなり辞めてしまった私は生徒に何も残してあげてないことになりますね。なんせ私は途中で辞めてしまったのだから。残すべきなのは物ではなく、想いです」
「想い・・」
「大丈夫。生徒のことをそこまで思っている貴女ならきっと生徒達の思い出の先生になれているはずです」
そう言った矢的先生は立ち上がって私に一礼をすると公園を去っていってしまいました。
「みんなの思い出に残るような立派な先生かぁ」
あの人の言う通り・・・本当にそうなれてたらいいんだけど。
~~音々~
トリコリへと帰宅後、私はすぐさま喫茶店の仕事を始めたのです。
「兄さんは先日買っていたPCのパーツを組みあげていますし、瑠々さんは本日はお休みですか」
「そのようですね」
それでも今日はまだ平日なので私と木村、ウールさんとサァラさんの4人もいるだけでも十分マシなのです。
「というか平日に喫茶店の店員が4人もいるのはむしろ多いのでは?」
あくまでも店の手伝いをしている私と正規という扱いのウールさんとサァラさんだけで何とかなるのではないですかね?人件費のことを考えると・・・。
「木村はどう思います?」
「え、えと・・・もしかして僕いらないんですかね?」
木村はバイトをクビになってしまうのを心配しているように焦っていたのです。
「えぇ・・・。薄々は気づいてましたよ。瑠々さんやウールさんとサァラさんがトリコリで仕事をするようになって『あれ?僕どんどん存在感が無くなってきてるんじゃないかな?』とは思ってました。いえ、気づいていましたよ」
「安心してください。存在感がないのは最初からなのです」
「・・・ハハ・・」
何故か木村が燃え尽きたように真っ白になったのです。
「さらっとキッツイこといいよるなぁ。音々やん」
SSPの依頼もなく暇だからという理由でここに来ていた愛さんは「あちゃ~」とでも言うように声をかけてきたのです。
「やっぱり音々やん気づいてないんやね」
気づいて?いったい何のことなのですかね?
「もういっそ言ったるけ。あんなぁ木村は音々やんのこと・・・」
「わぁぁぁぁっ!!ストップ!ストップです!」
愛さんは何かを教えてくれようとしていると復活した木村はその口をふさいだのです。
「音々さん!なんでも、何でもありませんからぁ!!」
「・・・?まぁ、何でもないのなら良いです。安心して欲しいのです木村。何もバイトをクビにしようなんて思ってないのです」
「いやぁねぇ、木村が心配しとるのはそっちちゃうんよ」
そっちじゃないというのはどういうことなのです?と尋ねようとするとお客さんが1人入って来たのです。
「いらっしゃいませ」
「ほう、ここが喫茶トリコリか」
入って来た50代ぐらいのスーツの男性はこの店の口コミを聞いてやってきたようなのです。
「あれ?もしかして貴方は・・・」
店の奥から出てきたガイさんはちょうどカウンター席に座ろうとしている男性の横顔を見るなり驚くと、その男性もガイさんに気づいて横を向いたのです。
「やぁガイ君」
「お久しぶりです矢的先生」
「せ、先生?」
ガイさんは今この男性のことを先生と呼んでいたのです。
「お兄さん。知り合いなん?」
「この人はウル・・・矢的猛先生。マイナスエネルギーの第一人者なんだ」
第一人者ということは学者さんということなのですね。
「マイナスエネルギーとは何なのです?」
「マイナスエネルギーというのは人間の負の感情から発生しているまだ完全には判明していない未知のエネルギーで、それに誘われるように怪獣が現れたり強くなったりするんだ」
矢的先生はマイナスエネルギーのことを分かりやすく簡潔に教えてくれたのです。
「知らなかったエネルギーなのです!もっと研究のことを聞かせて欲しいのです!
「研究?」
何故か矢的先生はきょとんとした反応をしたのです。
「あれ?学者さんなんですよね?」
「いいや、僕は学者じゃないんだよ」
「えっ・・?」
先生と呼ばれていたのでてっきり学者さんかと思っていたのです。
「矢的先生は確かにマイナスエネルギーの第一人者だけど元中学教諭で今はまぁ・・・とある組織の隊員なんだよ」
「隊員ですか」
ガイさんは礼堂さんのときのように矢的先生のことを曖昧にしたのです。それに先ほど『ウル・・・』と言いかけていました。もしかしてこの矢的先生という方も礼堂さんと同じくウルトラマンなのではないでしょうか?
「ところで矢的先生はどうしてこちらへ?」
「あぁ、この辺りでマイナスエネルギーを感知してね。念のために調査に来たんだ」
なるほど。今回は調査なのですか。
「こちらで起きている様々な事件に感知こそしているが・・・他のところでも色々あってね、兄弟の多くが動いていてこちらにこれないのが現状だ」
兄弟?
「大丈夫です。ここにはオーブがいます」
ガイさんは自信を持ってここにはオーブがいるから大丈夫だと言い切りました。すると矢的先生は安心するかのように頷きました。
「いつか見た迷いが消えているようだ。ならここはオーブに任せて大丈夫なようだ」
「ところで先ほど兄弟が動いていると言ってましたが・・・どういうことなんですか?」
「またべリアルが活動を開始したようだ。ゼロも動いているが・・・ジードという謎の存在も動き出したようなんだ」
べリアルやゼロ、それにジードなどという単語が聞こえてきました。おそらくは人物を差す言葉なのだと思いますが・・・コードネームなのです?
「ジード?」
どうやらジードという相手のことはガイさんも初耳だったようなのです。
「ひとまずそちらはゼロに任せるとして・・・先日オーブはゼットンにライブする集団と交戦したそうだね」
「はい。何やら主の命令で動いていたようですが・・・」
「その主について伝えるため、君を探していたんだ」
イマイチお二人の会話が良く分からないのですが、先日のゼットンに指示をしていた相手の正体を伝えに来てくれてたようなのですね。
「コードネームは『Z』。その全貌は把握してきれていないが、バルタン星人の遺伝子操作で誕生した突然変異体のようだ。別の宇宙から宇宙を転々としてゲーム感覚で星を壊している危険な相手だそうだ」
矢的先生・・・随分と情報通なのです。やはりこの人もウルトラマンなのでしょうか?だけどもし仮に矢的先生がウルトラマンだとしてその情報をガイさんに伝える理由とは何なのでしょうか?
「とにかく『Z』には気を付けてくれ」
そうガイさんに忠告した矢的先生はトリコリを後にしていきました。
~~朝比奈~
翌日、いよいよ卒業式当日となり覚悟を決めて生徒を見送ろうと学校へと赴こうとしていると・・・事件が起きた。
「何かしら?あれ?」
校門の前から見える校舎からは何やら黒い靄が溢れ出ていた。それは私だけに視えている幻覚というわけではなく、生徒達にもそれが見えていて騒ぎになっていた。
「火事?」
「でも焦げ臭くはないぞ?」
生徒達は火事かと予想しているようだけど、焦げ臭いニオイはしないし、炎のようなものも見えない。だけど一教師として念のために校舎から生徒を離れさせないと・・。
「みんな!確認するまで校舎から・・・きゃぁっ!?」
校舎に近づかないでと生徒達に呼びかけようとした途端、校舎の方から突風が巻き起こった。私は何事かと思いながら振り向くと黒い靄が集まって怪獣へと変化した。
~~杏~
「学校の辺りに怪獣が!ガイさん!!」
卒業式のために学校へと向かおうとすると、その方向に怪獣がいたことに気づいたので私はすぐさまガイさんを呼びました。
「どうした?・・・あれは硫酸怪獣ホーか」
怪獣を見たガイさんはすぐにその怪獣が何なのかを見抜きました。
「ホーとはどのような怪獣なのです?」
「硫酸怪獣の名の通り、あいつが流す涙は酸になっていて危険なんだ」
「なるほど。でもあの怪獣は何処から現れたのです?地面から出てきたり、空から降って着たりしたら何かしらの衝撃が響くはずなのですよ」
それらしい衝撃波伝わってこなかったのに現れたのは何故なのです?
「昨日矢的先生が言っていただろ。マイナスエネルギーで出現する怪獣もいるって。あいつはマイナスエネルギーの塊なんだよ」
あの怪獣がマイナスエネルギーの塊。その場にいきなり現れたので衝撃がなかったのですね。
「マイナスエネルギーか・・。音々!学校に行くときは気を付けろよ!」
「ちょ、ちょっとガイさん!?」
学校に行くときって・・・学校の近くに怪獣がいるのに登校できると思ってるのですかね?
「まぁ調査のために学校の方には行くのですが・・・」
~~ガイ~
「ガイ君!」
「矢的先生!」
俺がホーの出現に気づいてホーへと向かおうとすると、矢的先生と遭遇した。
「ホーという怪獣がマイナスエネルギーの集まって生まれる怪獣ということは知っているか?」
「はい。ですのでマイナスエネルギーの発生源を止めなければホーの力は増すばかりで・・・生憎俺にはその発生源に心当たりはないので」
マイナスエネルギーとなるとコスモスさんとギンガさんの浄化する力を合わせた姿で行くのが妥当か。だけどアレはあくまで癒しがメインでマイナスエネルギーを祓えるかっていったら怪しいところだ。
「だけどまぁ、これで行くしかないか」
幸い今回はマイナスエネルギーの専門家である矢的先生・・・ウルトラマン80さんがいる。
「待ってくれ」
俺はオーブリングを取り出してフューチャーエスぺシャリーへと変身しようとすると矢的先生が呼び止めてきた。
「どうしたんですか矢的先生?」
「発生源は既に分かっている。君はホーの対処に向かってくれ」
発生源が分かっていたのか。だけど俺じゃあそこまでマイナスエネルギーを取り込んだホーを倒すのは難しそうだな。
「それと・・・私はその都合でおそらく戦いには参加できないだろう。なのでかわりにと言ってはなんだが、私の力を使ってくれ」
そう言った矢的先生はスティック型のアイテムを取り出す。地球人としての仮の姿である矢的猛から本来の姿であるウルトラマン80さんに戻るためのアイテム、ブライトスティックだ。
「オーブ、君にこれを・・・」
ブライトスティックから発せられた光がオーブリングへと集まると・・・その光は1枚のカードになった。80さんの力が宿ったカードだ。
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
「ホーは任せたぞ」
そう言い残した矢的先生はホーとは真逆の方角へと向かって行った。
「それじゃ行きますか。・・・80さん!」
『ウルトラマン80』
俺はさっそくウルトラマン先生ことウルトラマン80さんのカードをオーブリングでリードする。
「コスモスさん!」
『ウルトラマンコスモス!』
そして同じく浄化の力を扱う事を得意とするコスモスさんのカードも続けてリードする。
「安らぎの心、頼みます」
『フュージョンアップ!』
『ウルトラマンオーブ!フルムーンサクシウム!』
80さんとコスモスさん、2人の癒しを与える戦士の力をお借りした俺は胴体がコスモスさんのように青く手足と頭部が80さんのように赤くなっている姿、フルムーンサクシウムへと変身した。
「光を伝う心の輝き」
~~音々~
「光を伝う心の輝き」
胴体が青く手足が赤い姿で現れたオーブは手の平をホーへと向けながら腕を×字に重ねながら口上を述べました。
「ダァッ!」
ホーの放った火球を手の平に広げた小さ目のバリアで空へと受け流したオーブは少しずつ距離を詰めていくのです。
「シュゥァ!」
飛びかかるように両腕を振るってきたホーの攻撃を前に足を一歩進めながら左に避けたオーブは掌底で一撃をお見舞いしたのです。ですがホーにそれはあまり効果的ではなかったようなのです。
「サクライトバリア!」
至近距離で放たれた火球に対してオーブは即座にバリアを張って対応したのです。先ほどの小さ目なバリアとは違い、今度のバリアはそれなりの大きさだというのにたった一撃でそのバリアがヒビ割れてしまったのです。
「広げたのでバリアの強度が下がったのでしょうか?」
いや、オーブのことなのでそれはなさそうなのです。むしろオーブはバリアを強めているはずなのです。そう考えるとやはり・・・
「ホーが少しづつ強くなっているということなのですかね」
この短時間でホーが更に強くなっているということなのです。オーブの攻撃を見切ったからというよりはそもそもなスペックが上がったかのように。
「ホーという怪獣はいわばマイナスエネルギーの塊だ。マイナスエネルギーを発生源から止めなくてはならない」
「矢的先生!」
「確か君はあの喫茶店にいた娘だね」
昨日トリコリに来ていたガイさんの知り合いという方らしいですが・・・この人もやはり怪獣に詳しいのですね。
「はい。大石音々なのです。それで発生源というのは・・・?」
「マイナスエネルギーは人の負の感情から発生するエネルギー。学校の卒業式という行事には喜びだけでなく別れを惜しむ悲しみの感情も溢れる。その中でも負の感情を一番抱えていそうだった君達の高校教師である朝比奈先生が発生源ではないかと予想していた」
朝比奈先生が発生源。・・・いえ、予想していた?
「過去形ということは違ったということですか?」
「どうやら違ったようだ。まったく・・・以前にも同じ現象が起こったばかりだというのにこの可能性を考慮していなかったとは・・」
そう言った矢的先生は少し先に見える私達の高校・・・天ノ川高校へと視線を向けたのです。
「まさか・・・そうなのですか?」
「長く大切にされたものには心が宿る」
聞いたことがあります。日本で長く伝わる伝承に長く大切にされたものは付喪神という神様になるというものがあるのです。
「つまり今回は付喪神となった学校が生徒の卒業を寂しがったからホーという怪獣が誕生したということですね」
「惜しい。6割方正解だが・・・少しだけ違うね」
「少し違うとは?」
「あの学校は叶えてあげようとしているんだ。朝比奈先生の『生徒達が卒業して欲しくない』という願いを」
学校が・・・朝比奈先生の願いを?
「学校が私の願いを?」
偶然聞いていた様子の朝比奈先生は学校が自身の願いを聞き入れていたことに驚いた表情になっていたのです。
「マイナスエネルギーと怪獣を断ち切るには貴女が今抱いている感情を乗り越えるべきかと」
~~朝比奈~
私が・・・負の感情を乗り越える。
「つまり朝比奈先生が生徒の卒業を乗り越えなければならないということなのです?」
「・・・乗り越えなければこの学校はおろか卒業生も危ない」
「そ、それはどういうことですか?!」
卒業生が・・・私の生徒まで危ないだなんて。
「ホーは貴女の願い『卒業して欲しくない』を叶えようとしている。つまり・・・」
「自身を・・学校を壊すか生徒を消そうとしているということですね」
「そんな・・・」
乗り越えないといけない。そう思って学校までやってきたのに・・・私はまだ乗り越えきれてないってことなの。
「だがまぁ・・・もう大丈夫そうだね」
「えっ?」
私は矢的先生の視線の先・・・後ろを振り返るとそこには今日卒業してしまう3年B組、私の生徒達がそこに集まっていた。
「ここに来る途中、この学校の生徒の何人かに『朝比奈先生のところに卒業生を』と伝えていたのが功をそうしたようだ。流石にこの短時間で全員集まってくれるのは予想してなかったがね」
「デュァ!?」
矢的先生は羨ましそうにそう告げた途端、ウルトラマンオーブが防ぎ損ねた火球がこちらに飛んできた。
「みんな!!」
私は1人でも生徒を守ろうとみんなの前へと立った瞬間・・・
「80!」
目の前が光に包まれた。
「えっ?」
その光は赤と銀の巨人・・・ウルトラマンオーブとは別のウルトラマンが立っていた。このウルトラマンが攻撃から私達を守ってくれたんだ。
「もしかして・・・矢的先生ですか?」
私はそのウルトラマンが矢的先生だと直感すると・・・ウルトラマンは肯定するように頷いた。
「大丈夫だ。君を心配して生徒がこんなにも集まってくれたんだからな。君は生徒達にとって立派な先生さ」
そうもう1人のウルトラマンが告げると、ウルトラマンオーブは両手を平手のまま腕を十字に重ねた。
「サクシウムレクト」
十字に重ねた腕から放たれた光線がホーへと直撃すると、ホーの身体からは校舎から出ていたものと同じ黒い靄が散り出した。
「きっと朝比奈先生が乗り越えたおかげでホーの力が抑えられたから、オーブでも浄化できるようになったのです!」
「私が・・・乗り越えた?」
つまり私が・・・生徒達みんなの思い出の先生になれたからってこと?
「だけどまだもうひと押し足りないようですね」
私の負の感情を取り込み過ぎたホーはオーブの光線で浄化しきれなかったと思っていると・・・オーブが剣を持った姿へと変化した。
~~ガイ~
「サクシウムレクト」
完全には浄化しきれなかったが・・・ほとんどのマイナスエネルギーは削り取った。あとはあの技でイケる。
『目覚めよ!オーブオリジン!』
「オーブカリバー!」
オーブカリバーを手にした俺はオーブオリジンへと姿を変える。
「銀河の光が我を呼ぶ!」
そしてすぐさまオーブカリバーのリングを半回転させて『水』の力を解放した。
「オーブウォーターカリバー」
水を刃に纏わせて、その水でホーを包み込んで動きを止める。そしてオーブカリバーを横に振るってホーを切り裂くとマイナスエネルギーが完全に浄化されてホーが消滅した。
「・・・・ッ!」
ホーが浄化されたのを見届けた80さんは宇宙へと飛び去って行った。
~~音々~
学校から湧き出たマイナスエネルギーでホーが出現した翌日、昨日は結局中止になった卒業式が改めて行われました。既に卒業する皆さんの思い出の先生になれたと分かった朝比奈先生は涙を流しながらも笑顔で卒業する皆さんを送っていました。
「・・・たぶん矢的先生が『学校どころか生徒も危ない』なんて言っていたのは嘘だと思うのです」
「どうしてそう思うんだ?」
卒業式を無事に終えた後、私はガイさんに学校からは発せられていたマイナスエネルギーが断たれたときのことを話していたのです。
「朝比奈先生の気持ちに学校が答えたというのなら・・・学校がそんなことをするはずないからなのです。矢的先生はそれを分かったうえで朝比奈先生の気持ちを引き出すためにあんなことを言ったと思うのです」
確証はないのですが、なんとなくそう思うのです。
「ところでガイさん。やっぱりガイさんは矢的先生がウルトラマンだったことを知っていたんじゃないですか?」
「さぁ・・・どうだかな」
ガイさんは矢的先生がウルトラマンだと知っていたかどうかをはぐらかしたのです。前から思っていたのですが・・・この人は何処まで知っているのです?
「・・・聞いたところで、答えてはくれなさそうですね」
相変わらず謎は多い人ですがきっといつか分かる時が・・・話してくれる日が来るのです。だからこれからも先生みたいに色々と教えてもらうのです。
ウルトラヒーロー大研究
ウルトラマン80
属性・癒属性
ウルトラマン先生ことウルトラマン80さん。マイナスエネルギーの専門家としてマイナスエネルギーから発生する怪獣達が巻き起こす事件を解決したんだ。人間としての姿である矢的猛さんは半年という僅かな期間だが地球で中学教師をしていたこともあるんだぞ。
ホー
属性・闇属性
硫酸怪獣ホーはマイナスエネルギーによって発生しちまう怪獣だ。その別名の通り硫酸の涙を流すだけでなく口からはマイナスエネルギー波を吐いたり、尻尾からは毒ガスも出しちまう怪獣で、マイナスエネルギーが出続けるかぎり無尽蔵なエネルギーを宿しているんだ。
次回「Zのゲーム」