気圧かなあ……。
冒険者専門学校だが。
俺は早速、サボっていた。
何せ、やることがないからだ。
まあ高卒の資格は一応持っておきたいので、単位を取る為の授業は受けているが……。
そうしたら今度は、教官としての仕事もやってくれと要請がきた。
教官とは何だろうか?
御影流を教えれば良いのだろうか?
それは、御影流が何なのか知って言っているのかねえ……?
俺はとりあえず、要請の通りに、武装させた生徒全員をグラウンドに集めた。
鎧を着込み刃物を帯びた冒険者のタマゴ、或いは現役の初級冒険者が集まる。
「赤堀さん!御影流を教えてください!」
そんなことを言われるが……。
「まあ別に良いけど」
と俺は返す。
教えろってんなら教えるんだよなあ。
別に一子相伝とかじゃないし。
うちは強ければ正義なので。
俺より強い奴がいるなら、御影流の看板を譲り渡しても良い。
だが……。
「でも何故か、殆どの人間は最初の訓練段階で音を上げるんだよなあ」
「当たり前っすよね?」
と、横から杜和。
「大体にして、このご時世に命懸けの修行やらせて、死んだら自己責任!みたいな形式の古武術が存続している方が奇跡なんすよ」
そんなこと言われても……。
「政府の支援とかあるしなあ」
「………………え?そんなんあるんですか?」
ん?
「ああ、俺も最近ジジイから聞いたんだけど、実は政府からの支援があるらしいんだよ」
そりゃそうだ、日光の田舎にあの規模の土地と道場を維持するには、百人に満たない程度の門下生の月謝だけでは到底足りないもんな。
俺は、親父達が仕送りでもしてるんじゃないのか?と思って聞いてはいなかったんだが、どうやら、ジジイには政府からの支援金が秘密裏に流されていたらしい。
「そして、うちの門下生だけど、アレは全部公安とか内調とかに所属してる養成中のスパイの人だそうだ」
「………………は?え?そうなんすか?!!」
「ああ。そもそも御影流自体が、剣に限らず、あらゆる手段を使ってターゲットとなる人物や国を破壊するテロリストを養成するための武術だからな」
「そうなんすか?!!?!!!?!」
そうだぞ。
知らなかったのかよ。
さてはジジイ、杜和に何も話していないな……?
「御影流はそもそも、厳密には武術じゃなくてな。ありとあらゆる手段を使って、ターゲットに最大のダメージを与えるための兵法体系なんだよ」
「は、はあ」
「自力をつける為に訓練するのは当然だが、国体にダメージを与える為に女子供を優先して殺せとか、水源を汚染し田畑を焼けとか、基本そう言うことを習う」
「外道じゃないすか」
「仕方ないだろ、外道ってのは強いんだもんよ」
御影流ってのは、生物の限界まで心技体を鍛え抜いた上で、更に人間の悪意を使い熟すのがメインだ。
なんで、武士道とやらがトレンドの江戸時代周辺では大いに嫌われており、表向きにはその頃に闇に葬られたことになっている。
……が、裏を返せば、たった一人で国家転覆すら可能とするワンマンアーミーを養成する流派だ、国がそうそう潰すわけがないんだよな。
だから、裏でこっそりと朝廷に直接仕えていたらしい。
それが今も続き、国家公認の暗部養成施設としてうちの道場は残っていたそうだ。
一応俺は、御影流の歴史と使い方は知っているから、朝廷に仕えていたこともまた知っていたのだが……。
まさかまだ朝廷の紐付きだったとは知らなかったな。
「そんな訳で、俺ができるのはテロリスト養成訓練だけだぞ?それでも良いなら訓練は手伝えるが……」
「「「「………………」」」」
総員、ドン引きである。
「まあ、その辺は良いか。とりあえず今回は、全員に身の程を知ってもらおうか」
俺は、魔力を押し固めて木刀のような形状に固定する。
刀を素人に振るうのは良くないからな。いや、御影流は素人から殺せとか人質にしろとか習うが、あくまでも一般論として。
「何かこう……、お前らは、冒険者学校に入学できたからと言ってその時点で満足して、図に乗っているからな。一つ、叩き直してやろうと思ったんだよ」
「何だと?」
「ふざけるな!」
「一位だからって調子に乗るなよ!」
野次を飛ばされる。
この中で即座に武器を構えたのは、キチレンジャーの四人と杜和、それと……、ひいふうみい、よぉの……、九人か。
うーわあ……、こんなもんなのか?
あまりにも酷過ぎないか?
試験ザルだろこれ。
説明しよう。
気当たり、だ。
要するに、殺気を飛ばして牽制するような感じだな。
俺は今、ここに集まった数万の生徒全てに気当たりをしたのだ。
それも、殺気を少し嘲りの意に隠してバレにくいように……。
具体的には、五十階層以降の隠密系モンスターに近い感じをトレースしての気当たりだった。
つまり、簡単に言ってしまえば、この場にいる奴らは五十階層に到達している奴が、キチレンジャーと他九人しかいないってことになる。
まあそうだな、確かに、この体たらくでは学校も必要になる訳だ。
殆どの奴らは、戦場に足を踏み入れて良い最低ラインどころか、手習いの領域、新兵にすら達していない。
次。
「なら、これはどうだ?」
「「「「ひっ……?!!!」」」」
今度は逆に、殺気の大きさはそのままで、偽装のベールを取り払う。
すると、およそ半数の生徒がそのまま気絶した。
即座に武器を抜けたのは、その中から更に半分、25%ほどか。
ふむ……、流石にその辺の最低限はクリアしてきているか。
素人以上、新兵未満ってところか?
見やると、気絶したのは魔法使い系や回復役と言えるような奴らばかり。
前衛の戦士系は、震えながらも不器用に武器を抜いたようだ。
逃げ出す奴もいたが、まあ、それはそれで良い。
勝てないと思って逃げるのは間違っていない。
……ただ、俺が本気で殺そうと思えば、そもそも逃げられないんだが。
「うん……、うん。まあ、とりあえずはこんなもんか」
「しゃあっ!!!」
背後から斬撃、刀、刀身62.2cm……。
踏み込み、素早い、声からして男。
地面の振動から伝わる感覚、体重74kg前後。
足音のタイミングから歩幅を割り出し、身長は175cm前後。
風切り音から筋力を、技量を。
相手の殺気、「意」から心構えを知る。
結論……。
「まあ、そこそこやるじゃねぇか」
「げ、はあっ……?!!!」
反転、腹に魔力木刀による突き。
振り返る間際に視線を交わす……。
同い年くらいの男だ。
「示現流だか、タイ捨だかって言うんだったか?初太刀に全てを込めて、一撃で殺そうというその意気や良し。……残念ながら、地力は足りんようだがな」
ついでに言えば、即座に殺しにかかり、更に後ろから斬りかかる思い切りの良さと非道さはかなり高ポイントだな。
うちの道場でも、初期段階からここまでできる奴は稀だ。
ナントカ流の段位を持ってます!と自慢げに入門してきた奴が三秒でボコられるなんて日常茶飯事。
若いのによくやるなあ、偉い偉い。
「お前、名は?」
「設楽……、設楽九郎(しだらくろう)じゃ!鬼怒八王流の、設楽九郎じゃああっ!!!」
おお、まだ来るか……。
これから十七話くらい田舎剣士を投げまーす。
満月狂人は六話くらい書けました。
書き溜めが全然ないよお……、助けて……。