三月。
そろそろ寒さも落ち着いてきただろうか?
今年は暖かいのかもしれない。
二百階層まで行きたいとは言ったが、百六十階層までしか行けなかった。
理由は、研究所の方から任される仕事が多いから。
自衛隊様は未だに五十階層付近でウロウロ、トップ層も八十階層までいかないくらい。
そんな訳で、深層の素材を持ってこれるのは俺だけだから、引っ張りだこにされていて、深い階層に潜る暇がないのだ。
どうしたものか……。
さて、そんな俺の膝の上には杜和が。
両隣には日和と桐枝がいた。
杜和は元気一杯のアルビノ後輩。
日和は不思議ちゃん。
桐枝は正統派清楚美人。
それぞれ異なるタイプが揃っており、大変に満足している。
そして、そんな女を三人も侍らせている俺は、女好きということにされているらしい。
ムカつく話だが、女を差し出せば籠絡できるとも思われているように感じる。
なので、舐められないようにしっかりと教えてやらねばなるまい。
見合い。
そう、お見合いとやらだ。
政界の大物やら、大企業の会長やらの孫娘が、「是非愛人にしてやってくれ」と送り付けられる。
だが、生っちょろい女を連れてこられても、面倒は見れない。
ちょっとしたことでピーピー喚く女はお断りだ。
さあ、最終面談と行こうか。
まず最初に、杜和が書類を見て選ぶ。
書類の段階で、「お家の為」という嫌々さがありありと出ているような釣書は弾くそうだ。
あからさまに嫌そうな奴は来ない方がお互い幸せだろう。
そしてその次は、杜和が面談する。
杜和が嫌だと思った女は、俺も恐らくは気に入らないだろうからな。
ここでも弾く。
そして最後に、俺がこうして会う訳だ。
今日来たのは三人。
それぞれに自己紹介してもらう。
一人目。
振袖……、着物の礼装を着込んだ、京美人。
もちろん、白粉とまでは言わないが、薄いメイクの割に真っ白な肌と、所謂姫カットのロングヘアが特徴的な和風美人。
年齢は十七歳と、俺と同い年。
「時城紗夜(ときしろ さや)どす、よろしゅうお願いいたします」
時城、時城……。
旧華族だな。
平安時代にまで遡れるほどの歴史がある公爵家の家系だったか。皇室の血も流れているはずだ。
戦前日本にて与党をしていた『憲友会』の総裁だった『時城政玄』は、あの頃の日本で十年もの間、総理大臣を務めた伝説的な政治家の一人だ。
政玄がいなければ世界恐慌を乗り越えられなかった、とまで言われた辣腕だったらしい。
かなりの資産家で、親も政治家。
つまり、『政界のドンの孫娘』と言ったところか。
二人目。
紫味がかかった艶のある黒髪をバッサリとショートカットにした、巨乳のがっしりとした女。
女性用のフォーマルなスーツを着ているが、溢れ出るスポーツマン感が隠しきれていない。
年齢は十九歳と歳上で、体育系の大学に通っているとか。
「戦場茉莉(せんば まつり)だ。よろしく頼む」
戦場?
知らない名だが……。
どうやら、官界……、官僚の家系らしい。
戦時中は、戦場家は陸軍の大臣を輩出したこともある軍人一家で、今では官界で活躍しているようだ。
事実、親も三人の兄も全員がエリート官僚で、祖父に至っては警察庁長官だ。
つまり、『官界の大物の孫娘』だろう。
三人目。
いや……、これは……、良いのか?
年齢は十三歳。
中学生。
それも、国内最高レベルの一貫校の『私立陵桜女学園中等部』のお嬢様。
ハーフらしく金髪碧眼の、目鼻立ちがくっきりとしつつも柔らかで可愛らしい少女。
着ているワンピースドレスは、稀少なダンジョン産素材でできた超高級品。
「香月朔乃(こうつき さくの)ですわ!よろしくお願いします!」
香月……、俺は知らんが、財界では知らぬものがいないほどに有名らしい。
祖を江戸後期の舟問屋として、日本の物流界を長らく支配していた香月家は、明治時代の戦争特需にて造船などで大儲けし、その後も鉄道や海外貿易、近年ではIT分野に事業を展開している財閥なんだそうだ。
造船、海運、鉄道、IT以外にも、アミューズメント、製造、食品加工、銀行業と幅広く展開。
財閥のモットーは「爪楊枝から輸送船まで」……。
日本四大財閥の一つと海外でも名高い。
更に言えば、この子の祖父は、財閥グループの会長であり、更には経団連の会長でもある。
つまり、『財閥の大御所の孫娘』ってことだ。
俺みたいな戦狂いに、こんな上等なお嬢様を、愛人として押し込める?
「エライヒト」の考えることは分からんな。
とりあえず、名乗り返そうか。
「赤堀藤吾だ」
さて、では早速、試験をしようか。
はい、まず、別室で用意していた鶏を持ってきます。
「えっえっえっ、どう言うことですの?」
「撫でろ」
「え?あ、はい」
「お前も撫でろ」
「わ、分かった。おお、もふもふ……」
「お前も撫でろ」
「え、ええ、これでええどすか?」
「撫でたか?」
「「「は、はい」」」
ふむ。
「どう思った?」
「鶏に触るんは初めてどすなあ、と」
「もふもふだった」
「かわいいですわね!」
そうかそうか。
俺は、三人の女の目の前で、鶏の首を引きちぎった。
血液が、上等な畳張りの一室を汚す。
それどころか、俺にも、三人娘達にも血液が飛び散った。
三人娘は……。
フリーズしている。
だが、すぐに再起動した。
悲鳴は上げない。
「どう思った?」
順番に訊ねる。
最初は京女。
「試験、どすか?」
「何故そう思う?」
「血に塗れて帰ってきた旦那はんを見て、一々悲鳴を上げる女は要らへんゆうこっちゃあらへんどすか?」
おお、凄いな。
頭の回転が速い。
「まさにその通りだ。次、お前。どう思った?」
次はスポーツマン女。
「私は……、まあ、驚いたが」
「それで?」
「君の膂力が素晴らしいな、と。生き物を千切るとほどの力は頼もしい」
ふむふむ、この女もズレてんなあ。
「面白い。次、お前。どう思った?」
最後、お嬢様。
「え、えっと、びっくりしましたわ」
「それで?」
「そう、ですわね。食べもしないのに鶏を殺してしまうのは、勿体ないかと思いましたわ」
ふむ、こいつもおかしいな。
「良いな。よく分かった」
俺は、鶏の死体を捨てる。
そして、懐から鍵を取り出した。
うちの屋敷の鍵だ。
三本ある。
「気に入った、何時でもうちに来い」
「「「あ、ありがとうございます!」」」
スプリガン買っちゃっ……たあ!
銃夢とマスターキートンとスプリガン積んでます。
早う読まねば……。