楽しい幼稚園
聞いて驚け。
この世界の貞操観念は……、逆転しているッ!!
痴漢ではなく痴女、パンティを盗むのではなくトランクスを盗まれる、男性専用車両が問題になって、過去の偉人達はFGOよろしく性転換。
火影を目指す忍者も、海賊王目指す海賊も、死神代行も、地球育ちのサイヤ人も、みんな女。
ToLOVEるだってデビルーク星からやってくるのはお姫様ではなく王子様、ふたりエッチは冴えないOLが美男子とお見合い結婚する話で、けいおんは男子校の話。
ダーティーハリー?残念、ダーティーマリーだ。ダイハードもベリショの女警官、ランボーも癖毛の女兵士だ。
クソッ、なんてこった……!!
俺は燃えるのと萌えるの、両方を奪われてしまった訳だッ!!
その上で転生……、気づいたら三歳ほどの少年になっていたのだ。
ちょースピードとかそんなもんじゃ以下略。
よく分からんが、こうなったらやることは決まっている……!
例え貞操観念が逆転していようと、俺は楽しむだけだァ!!!
まず、成長を阻害しない程度に運動して身体を鍛える!前世では運動不足を取り返しがつかない歳になって自覚したからな。若い頃から運動しなきゃ駄目よ、人間。
そして、この世界になくなってしまった俺の燃えを取り戻す!同人活動で。実は趣味で同人音楽とか同人誌とか描いてた。
そして、そして……、前世じゃやりきれなかった趣味の数々!!
二週目プレイで極めてみせるぜぇーーー!!!
二年後。
はっはっは。
子供の脳みそに大人の学習のノウハウって本当にヤバい。
ってかそれ以前にこれ、俺の間違いじゃなければ完全記憶能力あるっぽいんだけど。
お陰で英語、ロシア語、フランス語、中国語、イタリア語をマスターした。
字幕付きで映画見るだけでスッと言葉が頭に入って来るんだもんよ。
発音も完璧だ。
ん?
あれ、つまり俺、所謂天才って奴なのか?
ギフテッドって奴?
ちょっとアレ?って思ったので、母親に頼んで(母親ってのは要するに、元の世界で言う父親の役割だ。娘=息子として、俺にはベタ甘だ)大きな病院でIQテストを行ったところ、ビンゴ。
俺氏、IQ200超え、完全記憶能力持ちの超天才であることが発覚。
やべぇよ、やべぇよ……。
母親は、やっぱりそうなんじゃ無いかと思ってた、うちの子は世界一。当然の結果とコメントを残し、高笑い。
その上、親父と母親の顔と体格を遺伝してんだろ?
親父はミュージシャンで高身長のテライケメン。
母親はモデルで今はファッションブランドのデザイナーかつ美女。
お互いテレビに出演した時出会って結婚したらしい。
そんな二人のガキである俺。
ガキなのに既にイケメン。
自分で自分にイケメンって言っちゃうくらいなので、どれくらいイケメンなのか察して欲しい。
つー訳で漫画アニメゲーム映画も全て既知ってか女版。俺からすればパチモンを見せられてるみたいな感じだ。
こりゃあつまらねー。
そんなこんなで、俺は自分を高めることに決定。
親父から音楽を、母親からデザインを学びつつ、天才の頭脳で勉強をやり直し、暇な時間は体力作り。
何だかんだでぶち込まれた幼稚園でも、俺はストイックに過ごした。
先生方はギターを弾き漫画を描き高校、大学レベルの勉強をする俺にドン引きしつつも。
「あ、あのね、風見君?お友達とおままごとはどうかな〜?」
と、俺を一般枠に抑えようと尽力して下さった。
「いや、今ちょっとフェルマーの最終定理の解き方について模索してるんで」
しかし俺は自分を高めるのをやめない。
それに何より、楽しいのだ。
一度覚えたことは忘れないから、まるでゲームのように、人としてのレベルが上がっていく感覚。
前世では理解できなかった、外国語で書かれた論文すら簡単に読めて、理解できる。
小難しい経済学、堅苦しい考古学、目が回る天文学……、全てを一度目にすれば忘れない記憶能力と、常人を遥かに超えた理解力で踏破していった。
気づけば俺は、学ぶと言うことにハマっていた。
うーん、このまま天才ルートを歩みたいぞ。
しかし、そんな俺は周りに目を配ることを忘れていた。
普通の男の子は、みんな揃っておままごとをやるところ、俺は体力作りがてら女の子と走り回ってばかりいた。
そして俺はそう、イケメン!天才!多彩なスキル!
モテるのは自明の理だった。
女の子の中には。
「わたしとかけっこでしょうぶしろ!」
好きな子に攻撃的になっちゃう子。
「いっしょにおひるねしよ?」
積極的に攻めてくる子。
「あ、あのね、しんくろーくん、あ、あそぼ?」
控えめに攻めてくる子と色々だ。
まあ流石に幼稚園児に欲情はしない。
モテてもあんまり嬉しくないのだ。
だから俺は、周りに目を向けるを疎かにしていた。
しかし、流石に、幼稚園からの知り合いが人生に関わり合いになることはまずないだろうと思いつつも、何となく、自分に近づいてくる女の子の名前を聞いてみたのだ。
「なんだと!わたしのなまえはきばまなみだ!よくおぼえておけ!わすれるなー!」
「ん、わくいるみ」
「えっと、わたしは、みふねみゆだよ?おぼえてくれるとうれしいな……」
あー?
あ。
モバマス……?
「君の名前は?!」
「はっとりとうこだよ?」
「さわだまりなー!」
「さとうしんだぞー☆」
「あべななでーす!」
「たかがきかえで」
「そうまなつみ!」
んんんんんー?
「わたしですか?わたしのなまえは、せんかわちひろです!しんくろーくん、よろしくね!」
んんんんんんんんんんんん?!!!
んんんーーーーー?!!!
俺氏、今世の名を、風見新九郎。
大困惑。
待て?
落ち着け?
おおおおおおちつおちつおちち。
いかんいかん、俺はイケメン、俺は天才。イケメンは狼狽えないのだ。天才は不慮の事故にも狼狽えない!
モバマスだと?
この世界はモバマスなのか?!
そんなわけあるか偶然の一致だ!
「ちィィっひ!!金だ!!」
緑の悪魔千川ちひろと言うのなら、例え年齢に関係なく、金に飛びつくだろう。
「おかね?」
「これが欲しいんだろ?」
「んー、いらない。そんなのよりいっしょにあそぼーよー!」
何、だと……?
ふ、ふふふ、つまりそう言うことか。
本物の緑の悪魔千川ちひろならば、金に飛びつくはずだ。
しかしこの子は俺と遊ぶことを優先した!
つまり、別人!
この世界はモバマスではない、偶然の一致!終わりっ!閉廷っ!
「良いだろうちっひ、遊んであげよう。やっぱりちひろは天使、やち天」
そんなこんなで幼稚園を突破。巻きで行こう巻きで。
特筆すべきこと……、そうだな、喧嘩空手の道場に通ったことかな。
最初は武神っぽい女(師範代)に、「うちは男のやるようなスポーツ空手じゃないよ」と追い出されたが、そこは男の子。「俺、強くなりたいんです!!」と訴えかけたところ、「うちは厳しいよ、覚悟はあるのかい?」と聞かれ、「ありまぁす!」と答えたところ、じゃあやるかって流れに。
ママンは大反対したが、俺は強行した。護身術にもなるしと言いくるめつつ、やらせてくれないとママンのこと嫌いになっちゃうなーと言ったところ泣く泣くといった感じで許可が出た。
ん?
道場?
中野道場ってんだけど。
中野道場の空手はそりゃあもう凄い。禁じ手なしの投げ技ありのガチガチの実戦派。師範代の中野来香さんは他流試合で無双、ボクシングのヘビー級王者とかプロレスラーとかとも積極的に戦い、勝利してきた天下無双のバーバリアンだ。
その技術を、この俺の天才ブレインで完全習得。まだ身体作りの途中だが、小学校三年生になる頃には下手な不良高校生を片手で捻り潰せるくらい強くなった。
瓦割りとかできます。
分身は三人まで、狼までなら素手で殺せる。
どうやら、俺は身体能力もチートらしい。
主人公はちっひ、美優さんと同い年。つまり最終的に26歳になる。