ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

835 / 1724
雨降ると寒いなあ。


35話 ヤマト帝国

しばらくは、奴隷の調整に時間を費やした。

 

いかに、エルフの頭が良いとは言え、商売をやった経験はないそうなので、その辺の勉強をする。

 

風香は資格マニアだそうで、日商簿記二級を持っているらしい。

 

もちろん、この世界には株式だのはないので、教えることは複式簿記のつけ方とアラビア数字の読み書き、それと電卓の使い方くらいのものなんだが。

 

他の奴隷達にも、最低限の読み書き計算を覚えさせる。

 

あとは思想面の教育や、政治や歴史についてなども。

 

ぶっちゃけた話、現代の道具が手に入る能力なんかより、『教育』を輸出する方がよっぽど効果的だ。

 

読み書き計算どころか、道徳心すらないこの世界の人間。こいつらに与えて一番為になるのは、高級なウイスキーでも霜降り肉でも銃火器でもない、『教育』なんだな。

 

すぐに完全に覚えられる訳ではないが、多少はものになった。

 

税の仕組みすら知らない奴もいたからな。教えてやれば、自分で考えられるはずだ。

 

「……とまあ、このように、女神マーシュリーを主神とする『白教』では、清貧の考え方が重んじられる訳だな。つまり、贅沢をせず、他人に分け与え、姦淫はしない、と」

 

「だがよ旦那、そりゃおかしくねえか?」

 

「どうおかしい?」

 

「俺は傭兵として、貴族のいる戦場にも出たが、あいつらは戦場でも美味い飯と酒をたらふく食って、女を侍らせていたぜ?」

 

「バイロン、良いか?世の中には本音と建前ってのがあるんだよ。清貧で誠実でと口では言うが、そんなことを守っている奴は一人もいない。民から過剰に搾り上げた税で美味いものを食い、妻ではなく愛人をたくさん作る……。そんなもんなんだよ」

 

「じゃあなんで、清貧なんて言葉があるんだよ?」

 

「その方が格好が良い、と言うのもあるだろうが……、まあ、宗教には色々理由がある」

 

「理由?」

 

「まあそうだな、ぶっちゃけた話、その方がウケるだろ?」

 

「ウケるって、あんた……」

 

「白教の聖典に、『汝、清貧であるべし』と書いた悪党は、そう書けば多くの人の支持を得られると思ったんだろう。当たり前だよな、世の中の大半のやつは、清貧どころか貧乏に生きてるんだから」

 

「それは……、まあ、そうだな」

 

「逆に、『金持ちしか天国には行けません、お前ら貧乏人は全員地獄行き!』なんて教える宗教を、お前は信じるか?」

 

「信じないな、そりゃ」

 

「まあだが、清貧であるべしってのは、金持ち以外にも金が回らないと、貧しい人が死にまくるから大変だよ、ということを遠回しに伝えているってのもあるだろうな」

 

「なるほど……」

 

こうして、思想面も現代人に近付けるように努力した。

 

そして……。

 

 

 

「な、なんだあれは?!」

 

「どこぞの騎士様か?!」

 

「す、すげえ!エルフの女が四人も!」

 

俺達は、完全武装して街へ帰ってきた。

 

奴隷兵士達は、鋼鉄のガントレットとグリーブにサーコートで身を包み、鋼の剣や槍で武装している。

 

女エルフは、絹の美しいドレスと、品の良い大粒の宝石で身を飾る。

 

その中心にいるのが、ブラックスーツの俺と、奴隷兵士達より更に数ランク上の武具を装備した転移者四人娘。

 

騒めく露店広場にて、俺は拡声器で呼びかけた。

 

『えー、我々は、遥か遠くの《ヤマト帝国》から来た商人です。この国では決して手に入らない特別な品々を売ります』

 

……え?ヤマト帝国?でっち上げだが何か?

 

「ヤ、ヤマト帝国……?!」

 

「き、聞いたこともないぞ、そんな国?!」

 

「聞いたこともないような遠くの国から来たってことか?!」

 

うーん、良いね。

 

評判は上々だ。

 

で、だ。

 

まず、俺は、なるべく消え物を中心に売り捌こうと思う。

 

異国の消え物で有名になったところで、釣られて出てきた金持ちに、奢侈品を売りつける訳だ。

 

とは言え、この街のギルドのものは売ってはいけない。

 

例えばパン屋とか。

 

パンは、商人ギルドのパン屋部門の専売なのだ。

 

だから俺は、この世界にないものを売る。

 

それなら、ギルドに掣肘されない……、いや、邪魔はされるだろうが、大義名分はこちらにあるはずだ。

 

つまり、「世界で俺しか売れないものに、俺が好きに値段をつけて何が悪いの?」ってことだな。

 

で、売るものは……。

 

『今回、我々は、我が国の料理を売ります!どうぞ、買って行ってください!』

 

コロッケだ!

 

 

 

この世界、どうやら、まだ新大陸が見つかっていないんだがなんだか知らんけど、芋類がない。

 

主食は麦の文化圏で、更に言えば、平民身分の人々はタンパク質や脂質に飢えている。

 

そこに、ひき肉入りのコロッケを持って来れば……。

 

「な、なんて美味いんだっ!!!」

 

「牛の肉が入ってる!これが銅貨三枚(300円)だって?!ありえない!」

 

「うめえええっ!!!」

 

この通りだ。

 

あ、因みに、コロッケは業務用のやつを揚げてるだけ。

 

他にも、フライドチキンやトンカツも売り捌く。

 

どれも、比較的安値にだ。

 

日本の物価からすれば高いが。

 

俺だって別に、商人ギルドを積極的に叩き潰そうとまでは思っていないからな。利益も出したいし。

 

だから、価格破壊レベルの安値にはしない。

 

こうしてしばらく、俺は、地球の料理をヤマト帝国料理と偽って売り捌いた……。

 




ラダーン、結局自力で倒しました。

霜なんて……必要ねぇんだよ!!!

やっぱり巨人狩りがナンバーワン!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。