つまんないところをいかに面白くできるかが腕の見せ所なのかな?
ダルバ達は、宿に宿泊すると伝える。
すると奥から、宿屋の主人たる恰幅の良い男性が現れて、ダルバ達の宿泊についてを台帳に書き入れた。
「一人につき、一晩で銀貨三枚ですよ。食事付きなら銅貨を更に五十、風呂付きも銅貨を更に五十です。あ、酒代は別ですからね」
「食事と風呂付きで三十二人よろしくお願いします」
「はい、銀貨百二十八枚になります」
「これで」
金貨を三枚渡すダルバ。
「多いのですが……?」
「これから酒も飲むので」
「はい、分かりました。ですがそれでもお釣りは出ると思いますが?」
「その場合、釣りは要りません」
「分かりました!それで、食事にしますか?」
「お願いします」
「了解いたしました!おーい!コックさん達!作り始めてくれー!……量はやはり大盛りで?」
「ありったけ、頼みます」
「はい!コックさーん!ありったけ出してくれー!」
「しばらくかかるぞー!」
「……とのことですので、よろしければ先に風呂はいかがでしょうか?」
「分かりました」
そして、風呂で汗を洗い流して、垢と返り血を落としたダルバ達は、食事をしに食堂へ向かった。
空中に浮かぶこの都市に、どのようにして上下水道が通っているものかと頭を悩ませたが、それについては一旦置いておくことにした。
この宿は中級の宿で、三階建て。
一階が食堂兼酒場となっており、二、三階の客室は四十部屋ある。
一階には、宿屋の主人とその妻の部屋と、丁稚の子供達の部屋がある。
食堂は、三十二人のパーティが入ってもまだ余裕が残るほどに広い。
つまり、その規模は大きめと言うことだ。
このマイブリスは、多人数のパーティに対応するために、大きな宿がいくつかある、と言う形式になっている。
小さな宿を乱立させるのは効率が悪い。
なお、港のある中心地に近ければ近いほど地価が高いのだが、中心地に近い物件は基本的にほぼ全てが錬金王に抑えられている。
「はーい、料理はできてますよー!」
丁稚の少年少女達が料理を運んでくる。
「これは……?」
しかし、その料理は、見たことのない趣向のもの。使われている食材もまた、見たことのないようなものばかり。
「その、よろしいでしょうか?」
「はい?」
「見たことのない料理なのですが、どのようなものか教えていただけますか?」
それと並行して、毒があるかどうかを宮廷魔導師の二人が検査する。
「こちらが、紫芋のコロッケで、これが黒米入りのピラフ、これがローストビーフで、こちらがカボチャのスープ、そしてこちらがマイブリス野菜のコールスローになります!」
分からないということが分かった。
なお、毒はないようだ。
匂いはとても良いので、少なくとも食べれないものではないだろうと考えたダルバは料理に手をつける。
「ふむ……!これは、美味しいですね!」
ダルバは、最初は少し躊躇ったのだが、料理を口に運ぶとたちまち上機嫌になった。
食材と趣向は珍しいものの、味の方はとても良かったからだ。
西の料理は世界的に見て、お世辞にも褒められたものではない。
この世界の人間の特徴として、『発明が苦手』ということが挙げられる。
基本的にこの世界の人間は、バベルから得られたものを使って生きているので、自らの創意工夫で何かを作り出すということが不得手なのだ。
基本的に、料理なども、食材を煮込んだスープやパン、ただ焼いただけの肉などが基本で、高価な料理は技法ではなく材料に凝る。
なので、ダルバ達がこのように技法に凝った料理を食べるのは初めての経験であった。
「美味い……!!」
「これは……、凄いな!」
「このような値段の宿でこんなにも美味いものが……」
ダルバのパーティメンバー達も、驚きの声を上げている。
「はむ、もぐ、もぐ……」
いかに、この世界の人間が食事に頓着しないとは言え、ダルバ達はダンジョンで一ヶ月以上の時を過ごし、その最中にはビスケットと干し肉、ナッツとドライフルーツくらいしか食べられなかった。
ビタミン、脂質、糖分が、疲れた身体に染み渡る。
「はい、お酒でーす!」
「これは?」
「これは、ウォッカと言って、錬金術の秘術で酒精を高めたお酒です。酒精が極めて高いので、小さなグラスで飲んでください」
「ふむ……」
「大きなグラスで飲む場合は、こちらのスクリュードライバーをどうぞ!」
血色の液体を渡される。
「こ、これは……?」
「こちらは、ウォッカと、赤オレンジの絞り汁と混ぜたものです。オレンジの絞り汁と混ぜることで酒精が弱まり、飲みやすくなっています!」
「なるほど……」
ダルバは、スクリュードライバーに口をつける。
「……ふむ、美味しいですね!」
「ありがとうございます!」
そのようにして、酒宴を楽しみ、八時にもならない時間に部屋に入って、泥のように眠った……。
あー今日も料理してない。
暑くてキッチンに立てない。