俺は、大きな家のドアを叩く。
「長老ー!長老ー!」
「何じゃ?子供……?」
「こんにちは、長老様」
「お主は……、ああ、『口無しのアレックス』か!」
流行ってんのそのあだ名?
「おや、私のことをご存知でしたか?」
「お主は覚えておらんじゃろうが、お主の母親が、息子が全く夜泣きをしないと訪ねてきたことがあったんじゃよ」
「なるほど……」
「しかし、よくもまあ達者に喋るようになりおったわい!ワシも心配しておったんじゃぞ?」
「それはそれは、ご心配をおかけして申し訳なく思います。ですがご安心を、この通りですので」
「……にしても、あまりにも達者な言葉遣いじゃの。子供が敬語など使わんで良いぞ」
「そうか、じゃあ長老、文字の読み書きを教えてくれ」
「その歳から文字を習いたいとは中々に殊勝な心がけじゃな!良いじゃろう、二人とも来なさい」
ん?
二人?
後ろを振り返る。
「あれく……?」
あ、メスガキ。
よく分からん赤髪ショートカットのメスガキだ。
顔は良いんじゃね?ガキでもあからさまなブスはもうガキの頃からブスだからな。
何だこいつ、ついてきたのか?
「あれくは、おべんきょーするの?」
無視して長老宅に入る。
「あれく……?きこえないのかな……?」
え?
人間関係って……、めんどくせーよな!
同人エロゲ作家になったのも、ブラック企業ばかりの世の中に嫌気がさして、人間関係が嫌になってのことだもんな。
このガキもアホそうなツラしてるし、ロクな大人に育たねーだろどうせ。
俺は村から出て行って、大きな街で錬金術師になるんだ。
それなら、人里離れた場所で一人で暮らすと言う案もあるが、それは最終手段にしたい。
ネットもないこの世界で、人里離れたところで一人暮らしとか、流石に孤独で頭おかしくなる可能性があるからな。
今思い返せば、前世の俺は人生の後半がマジヤバかったもんな。
人里離れた埼玉の県北で一人暮らししてたけど、一人だから飯にも服装にも頓着しなくなっていき、部屋はゴミ屋敷、飯は一日一回カップラーメン、服はホームレスって感じだったからな。
俺は一人だとガンガン堕落するタイプだ。
だから、街で家を買って、そこそこ腕のいい錬金術師としてスローライフしてえ。
「では、早速文字を教えよう。地面を見ておけ、良いか……、これが『A』で、これが『B』……」
あっ、ふーん?
形が違うだけでほぼアルファベットじゃん。
「どうじゃ?覚えたか?」
「覚えた」「おぼえたー!」
「ふぉっふぉっふぉっ。なら、次は、ワシが言った文字を書いてみよ。まずは『A』」
俺は、地面に逆さになったAを書く。これがこの世界のアルファベットのAらしい。
「よしよし、次は『L』『X』『E』じゃ」
ああ、俺の名前の綴りか。
因みに、村人Aである俺に名字はない。
村の外で名乗るときは、エクレール村のアレックスと名乗る感じだ。つまり、レオナルドダヴィンチのダヴィンチの部分と一緒だよ。
「これは何と読むと思う?」
「俺の名前じゃね?」
「おお!よく分かったな!では、次は、お嬢さんの名前を書いてみよう!お嬢さん、名前は?」
「アイリンだよ!」
えっ、もょもと……?それとも西成?
「『Irene』と書いてみろ」
「こうか?」「こう!」
「おお!二人とも賢いのう!偉いぞ!」
頭を撫でられる。
「気安く触るな」「えへへ!アイリン、えらい?」
「えっ、あっ、その、すまんかった」
「あ、ああいや、すまん、大人はあんまり好きじゃないんだ」
つい癖で……。
コミュ障はこれだからいかんな。
「大人が嫌いじゃと?そうなのか……、ひょっとして、親と仲が悪いのか?」
「あー……、多分、前世で大人になんかされたんだろうな。若い女には触られても不快じゃないんだが、男はちょっと」
「ふぉっふぉっふぉっ、何じゃそれは、その歳でませておるのか?まあ、触られるのがあまり好きではない人間もおるじゃろう、おかしくはないぞい」
みんな違ってみんな良いよね、みたいな、ふわっとした善で受け止められた。
生姜焼きや煮物、ホワイトシチューみたいな、それ単品でご飯かパンがたらふく食えるおかず、なんかないですか?
できれば、作るのがそんなにだるくないやつで。
最近は、シチュー、カレー、ハヤシライス、チキンライス、生姜焼きなどを作りました。