たった二人で三千ものモンスターの群れの二割を削り、大将のグレーターデーモンと三体のジャイアントを抹殺した俺とシルヴィア。
男は妖精憑き、女は火を噴く銀の腕。
話題にならない訳がない。
一晩もしないうちに、妖精の銃士と銀腕の剣士の噂が街を駆け巡った。
そんな俺達は、ギルドの職員達が事後処理をする中で、ギルドの建物の中で祝杯を上げていた。
「「乾杯!」」
俺とシルヴィアはアクアビットを煽る。
「おお……、これは良い!『効く』な!」
「因みに、これもじゃがいもから作られている」
「なるほどな」
「作り方は蒸留だ」
「蒸留だと?アルケイディアの秘術ではないか」
「アルケイディア?」
「ああ、この帝国の東側にある国で、錬金術によって財を成したものが作った国だ。そこでは、蒸留酒やポーションなどの薬品が特産品なのだ」
「なるほど」
「蒸留酒は、錬金術の秘儀で作られる高級酒でな。生産量も少なく、アルケイディア王国の他では作れないから、同じ量のエールの十倍ほどの値段で取引されているぞ」
「うへえ、ぼったくりだ」
「だが、貴重なものは高価だ。そして、高価なものを集められると喧伝することは、国威に繋がる」
「国威、国威ねえ」
「思えば、我々、アーバン王国には国威が足りなかったのかもしれんな。ただ、武力さえあれば良いと思っていた。貴き血の者達の瞳には、実際の武力よりも、国威の方が恐ろしげに映るのやもしれんな……」
「そりゃそうさ、強い奴より、強そうな奴の方が怖がられる。俺なんてこんなにハンサムだから、あっちの世界じゃ舐められたよ」
そんな話をしながら、チーズやピクルスをかじり、酒を飲み、報告を待つ。
もちろん、街の住人達は、スタンピードが発生したのに損害が出なかったから大喜びでお祭り騒ぎになっている。
しかし、冒険者達は、決死の覚悟をフイにされて、釈然としないと言った態度だ。
と、そこに、ギルドマスターのおっさんが現れる。
「ははははは!いやー、いやー!素晴らしかったぞ、お前ら!」
馴れ馴れしく肩に触ってくるのがうざったい。
俺の、とっとと出すもん出せよと言う視線を無視して、ペラペラと俺達を褒め称える。
「いやあ!あれは凄かった!冒険者としての実力はAランク行ってるだろうな!」
「あー、あー、もう良い。とっとと出すもんを出せ」
「出すもんとは?」
「報酬だよ」
「報酬……、か」
「報酬だ」
「い、いや、その」
「まさか出せねえってんじゃあないだろうな?たった二人で!命をかけて!街を救った!さあ、いくら出す!」
「だ、大金貨二枚!」
たったの二千万円だと?
「たったの大金貨二枚か!命をかけたというのにそれか!」
「ぐ、し、しかし」
「冒険者なんざいつでも辞めてやって良いんだぞ?俺達がその気になりゃあもっと良い働き口はある。もう一度聞くぞ、たったの大金貨二枚で本当に良いのか?」
「ぐ、ぬ……!分かった、大金貨三枚出そう」
「十枚だ」
「なっ……?!!!ば、馬鹿を言うな!!!」
「十枚だ」
「ぐ、四枚!」
「十枚だ」
「少しは譲れ!」
「では……、五枚と大幅なランクアップで手を打とう」
「そ、それならCランクに」
「Cィイ〜?俺の耳がおかしいのか?今、おかしな音が聞こえたぞ?」
「だ、だが、これ以上は!」
「三千のモンスターの群れをたった二人で片付ける奴らが街で暴れたらヤバいと思わないか?いや、仮定の話だが」
「わ、分かった!Bランクだ!これ以上は俺の権限では無理だ!ど、どうにかこの辺で!!!」
「よし、良いだろう。大金貨五枚とBランクへの昇格だ」
それから一ヶ月。
《万能》のザバーニヤと、《銀腕》のシルヴィアの名は、千里を駆けた。
三千のモンスター軍と、三体のジャイアント、そしてグレーターデーモンの討伐は、偉業として讃えられ、吟遊詩人達が各地でそれを歌にして歌った。
「夜空に〜煌く〜銀の腕〜、青き刃が〜敵を斬る〜。共に踊るは〜、万変の射手〜、空駆け〜、身を消し〜、敵を射る〜」
こんなような歌が、今や各国で歌われているそうだ。
俺達二人の生活に変わりはなく、堅実に依頼をこなして、適当に金を貯めていた。
二人では、森の奥に遠征に行くこともできない。
普通、冒険者は、パーティというグループを作る。
人数は四人から六人ほど。
それで、交代で夜の番をしたりして、遠征をしたりするらしい。
そして、もっと冒険者が集まると、クランという徒党を組むとのこと。
つまり、俺達には仲間が不足している訳だな。
だが……、俺達は、あまりにも派手に活躍したせいか、他の冒険者からは距離が置かれている。
もちろん、冒険者の中でもトップ層には結構話しかけられているが、一般の冒険者はビビって話しかけてこない。
そして、冒険者のトップ層は、ほぼすべからく、パーティやクランに所属している。
では、どうするか?
そうなった時に、選択肢としてまず出てくるのは……。
奴隷だ。
新作行こうかな?