ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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洋ゲーがモデルの話だから、洋ゲーっぽい雰囲気を出したい。


5話 アガートラム

女はそれから一晩眠り、次の日の朝に目を覚ました。

 

「私は……」

 

おもむろに起き上がる女。

 

ハッとした様に目を見開いて、自分の右腕を見た。

 

「……何だこれは?」

 

変わり果てた右腕に困惑する女。

 

「生体バッテリー駆動式レーザーブラスター内蔵型バイオニックアーム、名付けて……、そうだな、『アガートラム』でどうだ?」

 

「アガートラム……?」

 

「知らないか?古い神話に銀の義手を持つ神がいた。その銀でできた腕を、アガートラムと呼んだ……」

 

「知らない神話だ、私の国では聞いたことがない」

 

「だろうね、この世界の神話じゃあないからな」

 

左腕で髪をかきあげる仕草をする女。

 

「まるで、別の世界から来たかのような口ぶりだ」

 

「そう言ってるんだが伝わらなかったか?」

 

俺は、女の隣にある丸椅子に座り、足を組んだ。

 

「貴様……、何者だ」

 

「俺はザバーニヤ。こことは違う別のどこかで、世界の管理者をやっていた者だ」

 

「ハッ」

 

鼻で笑う女。

 

薄く見せる微笑みには、嘲りの色があったが、それでも、見惚れそうなほどに美しい。

 

女は、笑った後に言葉を続けた。

 

「神と嘯くか。神の声と騙る生臭坊主共は山ほど見たが、自らを神と騙る大胆な詐欺師は初めてだ」

 

「嘘だと?」

 

「目の前に自分は神だと抜かす男がいたら、そいつは気狂いだろう」

 

「あるいは、君がおかしいのかもしれない」

 

「そうかな、それもあり得るが……。だが、神にしては神々しさが足りないようだ」

 

「よく言われるよ」

 

ニヤニヤと、まるでチェシャ猫のように笑う俺を見て、女はどう思ったのか。

 

馬鹿にされていると内心いらいらした?

 

それとも、少しは信じたか?

 

それは分からない。

 

だが、女は、少し考えて口を開いた。

 

「だがまあ……、神の名を騙るクズ共より、神と名乗る狂人の方がよっぽどまし、だな」

 

「そうかい?」

 

「そうだとも」

 

女は、一呼吸置いて、それから俺をまっすぐに見据えた。

 

「まず、助けてくれたことに礼を言う」

 

「構わないさ」

 

「そして……、動く腕も……、まあ、大分変わっているが、取り付けてくれてありがとう」

 

「それほどでも」

 

「まずは名乗ろうか。私は、アーバン王国の公爵家、レーベリオン家のシルヴィアだ」

 

「そうか」

 

「私はな、戦いに敗れて逃げてきたんだ」

 

よくある展開だな。

 

亡国の姫君ってか?

 

それにしては厳ついが。

 

「へえ、それで?復讐でもする?」

 

「いや……」

 

シルヴィアは、遠くを見る。

 

「血が上っていた頭が冷えた。倒れるまでは、私一人でも復讐をしようと思っていたが……」

 

「あまりにも無謀だな」

 

「そうだ、無謀なんだ。アーバン王国を滅ぼしたミリシア教国は強大だ、私一人が剣を振り回しても、末端の兵士を十人も殺せばそこでおしまいだ」

 

いやいや、生身で兵士十人を相手できるのかよ。そりゃあ、中々に強くはないか?

 

「だが……、復讐はやめない。私の中の怒りは、未だに、砂をかけても消え切らない薪の熱のように、私の心を焦がしている」

 

「詩的な表現だな。それで?」

 

「これ以上の話は、貴様には関係がない」

 

「おいおい、そこまで聞かされてここでおしまい?オチのない話はよくないだろ、どこで笑えば良いんだ?」

 

「すまんな、笑わせてやりたいのは山々だが、戦争のせいで行きつけのバーは吹っ飛んだよ。あそこには中々に笑える漫才師がいたのだが」

 

暫し、二人で笑い合う。

 

公爵様とは思えないくらいに気さくだし、ユーモアもある女だ。

 

気が合うな。

 

俺は手を叩く。

 

ぱちん。

 

そしてこう言ってやった。

 

「よし、じゃあ、俺が手伝ってやるよ」

 

「何をだ?」

 

「シルヴィアの復讐を」

 

「……貴様、何を」

 

シルヴィアはこちらを睨む。

 

「良いか?俺は暇なんだ。いつものように、下界に降り立ち世界の管理をしようと思えば、違う世界に来てしまっていた。ここまではいいか?」

 

「神という設定は続けるのか?」

 

「正直に言おう、神ではない。だが、世界を八人の仲間と共に作って、運営していたのは本当のことだ。役割としては天使だった」

 

「なるほど、納得はできないが理解はした。それで?」

 

「あとは簡単、やることがない。自分たちの世界の秩序を維持するのが俺の仕事なのに、仕事の方がなくなったんだよ。会社ごとな」

 

「なら、休暇だと思って気ままに暮らせばいい」

 

「気ままに暮らしているとも。気の赴くままに行動しようと考えた結果、君の行く末を見てみたいと思ったんだ」

 

「ふざけた奴だな」

 

「ふざけたくもなる。俺の身になって考えてみろ、ある日、なんの前触れもなく、突然違う世界に連れてこられたんだ」

 

「それについては心中察するが、何故私についていくかのような話になる?」

 

「一つ、捨て鉢になった。二つ、折角だから美人な仲間が欲しい。三つ……」

 

「三つ目は?」

 

「亡国の姫君が、強大な征服国に対して、水面下で仲間を集め、力をつけ、反撃して、新たな王朝を作る……。それは新しい伝説になるはずだ。伝説の始まりから終わりまでを見てみたい!そして、伝説の中の登場人物としてどんな存在になれるか試してみたい!」

 

「酔狂なことだ……、だが、お前のようなおかしな男が言うと、不思議な説得力があるな」

 

ニヤリと笑うシルヴィア。

 

そのニヒルな笑みは様になっている。

 

「良いだろう、異界の神ザバーニヤよ、私に力を貸してくれ!」

 

「もちろんさ!」

 




しかし俺はそんなに洋ゲーをやったことがないのだ。

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