今いるここは草原のど真ん中、遠くに森が見える。
「アリス、人工衛星基地にアクセスしろ」
『了解しました』
「人里はどっちだ?」
『近隣の街と思われる領域までガイドします。網膜投射、許可願います』
「許可する」
『了解、網膜投射、開始』
すると、俺のマシンアイに網膜投射されるミニマップと道のりガイド。
『五百メートル、指定の方向に移動してください』
アリスのガイドに従って、移動する。
すると、何もない草原の中に、土の道が見えてきた。
恐らくは、この道に沿って歩けば、どこかしらの街にたどり着けるだろう。
そう考えて、道に沿ってしばらく歩く。
段々と日が落ちて行く。
夕日が綺麗だ。
そろそろ野営でもするか、などと思っていた時にミニマップに反応があった。
「おや、NPCと敵MOBの遭遇戦か」
ニュークリアデターランスシリーズあるある、敵MOBに襲われるNPCだ。
この時プレイヤーは、敵を蹴散らしNPCを救っても、無視してもよい。
救ってやった対価にNPCに何かを要求しても、NPCの身ぐるみを剥いでもよい。
全ての選択はプレイヤーに委ねられる。
つまりは、俺の選択だ。
俺はこう定めよう。
「美しくないものは死んでいい」
と。
さあ、どうだ?
襲われているのは……、女だ。
「美しいな」
襲っているのは……、醜い化け物だ。
「醜いな」
となると、そうだな。
「判決を言い渡す……、死刑だ!」
俺は、脳内コマンドでアリスに指示を出して、手元にアンチマテリアルライフルを召喚。
女を追いかける豚顔の化け物の頭を吹き飛ばした。
いやー、脆いな。
バニラのアンチマテリアルライフル『程度』で死ぬとなると、Ω鯖では紙装甲と罵られるぞ。
因みに、自慢だが、俺のこのレトロな探偵風のコートやベストは、『チェシャ猫』と言うコードを与えられた、Wonderland Systemのうち一つの道具である。
その名の通り、自由自在に姿が消せて、一定時間の間なら、所謂、『当たり判定』すら消せる代物だ。
防御力も、下手なパワーアーマーよりもずっと堅牢で、MODマシマシの核ミサイルの直撃にすら耐える。
などと考えていたら……。
「あ」
逃げていた女が倒れていた。
怪我は……、まあそこそこか?
右腕が食い千切られており、右目が抉られていて、背中も大きく切り裂かれている。
脳が無事なら全て軽症であるニュークリアデターランスの尺度なら、これも軽症である。
そうだ!
折角だから、少しいじらせてもらおうか。
「ハロー、レディ?調子はどう?」
「き、さま、は……?」
「俺のことは良い。今は君の方が、早急の問題を抱えていると思わないか?」
「ああ……、頼みが、ある……。このまま死ぬくらいなら、ここでトドメを……」
「パンパカパーン!チャンスタイムだ!怪我を治してあげよう!しかし、元通りには治らない、ひょっとしたら醜い姿になるかもしれない。覚悟はあるかい?」
「……よく、分からん。だが、治るのなら……、教国に復讐できるのなら……、どんな姿になっても良い……!」
「オーケー!契約完了だ!それじゃあ、しばらくお休み、良い夢を!」
俺は麻酔薬を女の首にぶち込んだ。
チューピー3分クッキング!
とりあえず、ハウジングMODで小屋を建てる。
おっと、その前に、女に人工呼吸器を取り付ける。
部屋を消毒して、無菌室を作る。
ベッドに女を寝かせる。
女の鎧と服を脱がせる。
女の見た目。
身長175cmほど、体重は割と重い。
それもそのはず、女にしては筋肉質で、そして豊満なオシリとオッパイ。そりゃあ重くもなるな。
金糸の様な明るい金髪は、程よくウェーブがかかっている。今は閉じているが、人を射抜く様な鋭い瞳を持つ、白人の美女だ。
所謂、女傑ってタイプかな?
「アリス、コード、『ハートの女王』起動!」
『了解しました。"Queen of Hearts" activate』
ハートの女王は、サーバーに干渉してアイテムを創り出すシステムだ。
チート?チートと言えばチートだが、Ω鯖で『ズル』は美徳だと言っておこう。
そもそも、サーバーに干渉できるほどのプログラムを作る方が難しいからな。
クラッキングできるもんならやってみやがれ、と言うのがΩ鯖の総意だ。
っと、よしよし、ハートの女王が起動したな。
「『義眼 AR照準』検索」
ずらりと義眼がAR表示される。
その中から、処理速度が速く、省エネルギーの義眼を選び、創造した。
「『義手 レーザー付き 生体バッテリー駆動』検索」
その中から、シャープな銀色のバイオニックアームを選び、創造した。
それを、アリスに命じて、女の身体に接続する。
ナノマシンにより神経が接続され、義眼がぎょろりと動き、義手がびくりと揺れた。
あとは輸血だ。
神作家になりたい。