ケンタウロスだ。
ケンタウロスがいる。
それも四体。
「はっ!お初にお目にかかります!我々は『エルダウン人馬族情報部』でございます!」
はあ、そうですか……。
「獣人族の姫君であるケイト様に御報告をしに、前線であるヤワン砦から馳せ参じました!」
「なんか、ケイトは泣いてるけど?」
「……無理もありません、ヤワン砦は陥落し、八百万の亜人は散り散りに、ケイト様の父君であらせられるサミュエル王も……」
ああ、死んだのか。
身内の不幸ってやつね。
「ですが!まだ希望はここにあったのですね!まさか大神ゼロの現し身が降臨なさっているとは!ケイト様のお話によりますと、この地で国家再建を目指すとのことで!」
「いや、違うぞ」
「こうしてはおれませんな!我々は、部隊に戻って報告をします!こうなれば、無駄に戦って兵力を消耗させるよりも、一人でも多くの民をここに集め、エルダウンの再建を目指すべきでございます!」
「やめろ!おい、おい!」
「すぐに皆を連れて戻ります!お待ちください、ケイト様、ジーク様!」
「待てよテメー!情報部の癖に話聞かねえってどういうこったよ!!コラ!!おいっ!!!」
行っちまった……。
「ケイト……」
「はい……、分かってます」
分かってんの?
なら今からぶん殴るけど。
顔をグーで殴るけど。
割と強めに殴るけど。
「私、これから頑張ります……!お父様が亡くなられたなら、獣人の王族は私だけ……。血を絶やす訳にはいきません!ジーク様、私に子種を下さい!最早、エルダウン王国の再建には、神の血を取り入れる他ありません!」
「なーーーに言ってんだてめえはよおおお!!!そうじゃねーんだよ!!!」
クソが!
この全自動面倒事収集機が!!!
全身にフックでも付いてんのか?!面倒事ばっかり引っ掛けてきやがる!!!
「は、初めてですから、できれば優しく……」
チッ!
身体が十代の頃に若返ってるから性欲が滾る!
クソ、毎日ちゃんと風呂に入れてるから、めっちゃいい匂いがする!
………………。
「うおおおおおお!!!やっちまったああああ!!!」
しょーがねーだろ!!!
今の俺は高校生くらいだ、性欲を制御しろとか言われても無理なんだよ!!!
クソ、畜生!
ケイトを抱いた以上、最低限の義理は果たさなきゃならなくなった!
だってケイト処女だったからな!
ばっくれられねえぞこれ!
クソ、クソが!
「凄く、痛かったですけど、段々気持ちよくなってきて……、その、良かったです」
「うるせぇバーーーカ!!!」
「な、なんでえ?!!!」
ピロートークをぶっちぎって、俺は《アダマンタイトのクワ》をクラフト。
《アダマンタイトの斧》で、夜通し木を切り、水源を設置し、畑を作り、木の長屋を建てまくる。
食料を山程用意して、家畜を増やし、下水を繋げて、服を用意する。
「オアアアアーーーッ!!!!」
異世界生活、二十六日目……。
「でき、た……」
俺は、完成した手抜き街のど真ん中でぶっ倒れた。
異世界生活、(多分)二十七日目。
俺は、ケイトのベッドの上で目を覚ました。
「ヤベ……、飢えと渇きがマックスだ……!」
飛び起きて、飯を食って、水で流し込む。
血を失いすぎた怪盗三世のような勢いで飯を食う。
満腹になった。
「ジーク様っ!」
あ、いたんだケイト。
「大丈夫ですか?!もう立ち上がって平気なんですか?!」
「ゲージは全快だ」
「げーじ?よく分からないですけど、もっと安静にした方が……」
「俺はな、嫌なことはすぐに終わらせるタイプなんだよ。夏休みの宿題は初日に終わらせたし、掃除はこまめにやって、免許の更新もすぐにやる」
「は?はあ?」
「まあいい、もう避難民は来たのか?」
「あ、はい、来てます。全員、お風呂に入れました」
「ふむ、そうか」
「それと、指示書通りに、備え付けの服を着せて、食料を食べさせて、家に入れました」
「上等だな」
「その、それで……、国の運営でお話があると、皆さんが……」
「分かった、すぐに行く」
面倒な仕事はすぐにやる。
残業はしない。
俺は《オリハルコンのロングソード》と《ミスリルの杖》、そして《魔導銃》をクラフトして、装備して、上質なモンスター革で《上質なアダマンタイトの鎧ジャケット》をクラフトし着込む。
さあ、面倒事を片付けるぞ。
俺は、木製の家に入る。
「……お待ちしておりました、ジーク様」
「ふむ……」
「人間……?」
数人の半人がいる……。
急拵えの円卓で、俺が作った民家の一つを会議室として使っているようだ。
「で?何の用だ?」
俺が尋ねる。
「これは失礼いたしましたな。自己紹介をいたしましょう。私は政務官のアープでございます。猿の獣人で、今年で36歳。武芸はからきしですが、記憶力には自信があります」
ふむ、毛深い茶髪の猿人間男、アープ政務官。
「俺は虎獣人のバーグだ。第三軍団の総督代理だったが、先の戦いで総督が死んだから、俺が総督をやっている」
白い虎の大男、バーグ軍団総督。
「私は第一魔導師団の総督、悪魔族のデーヴァよ。歳はヒ・ミ・ツ!デーヴァお姉ちゃんって呼んでいいわよ〜?」
青肌角羽尻尾の女悪魔、デーヴァ魔導師団総督。
「あ……、私は、エルフ族のしがない薬師です……。私、本当は全然ここにいるべき人じゃないんです。私のことは本当に、置物だと思ってくれて構わないんで……。ああ、名前はアウリスです」
金髪女エルフ、アウリス錬金術師長。
「儂はドワーフ族の親方、モーラトじゃ!お、お前さんの腰にあるそれ!オリハルコンじゃな?!オリハルコンじゃろ?!!み、見せてくれ!頼むぅ!!!」
髭もじゃ男ドワーフ、モーラト親方。
五人の男女の前に俺は立つ。
すぐ背中にドアがある位置に立ち、懐の《閃光手榴弾》を弄びながら話しかける。
「何の用だ」
と。
「何の用だ、ですと?聞くまでもありますまい」
アープが眉を顰めた。
「分からないから聞いてるんだよ。国の運営?好きにやれば良いものを、わざわざ俺の顔色を伺いにくるなよ」
「……運営権を放棄するのですかな?」
「そうは言ってない。お前らは全員俺に従え。しかし些事瑣末事はお前らが解決しろと言っているんだよ」
「責任はとらないが言うことを聞けと?」
「そう言ってるんだよ。通じなかったか?」
「「「「………………」」」」
黙り込む亜人共。
「俺が大体の方針を示す。お前らは身を粉にして働く。小さな諍いはお前らが解決する。その代わりに、ここに住む権利をやる。何かおかしいか?」
「大体の方針とは?それによっては、我々も協力できないでしょうな」
ふむ……。
「この森の広さは?」
「は?」
「この森の広さはどれくらいだ?」
「ええと、三十万平方キロメルト程と推測されています」
「1メルトはどれくらいだ?」
「貴方の身長が丁度2メルトに届かないくらいでしょう」
となると……、日本より狭いのか、この森は。
「小さ過ぎるな……」
「あの、質問に答えていただけますか?ジーク様の指示とは?」
「この森の全ての木々を倒し、全ての金属を掘り、あらゆる地下資源を手にする。もちろん、それだけじゃ足りないから、カストラ帝国を攻め落として、カストラ帝国の地下資源を全て奪う。恐らく、それでも足りないから、他の大陸の地下資源も奪う」
「はあ……?!そ、それは何故でしょうか?」
「俺の世界に帰るには、大量の資源が必要だからだ」
「ふむ……」
考え込むアープ。
「ジーク様は神界に帰りたい、帰るために下界で必要なものを集める、そう言うことでよろしいか?」
「ああ」
さて、どうだ?
え?笑ってはいけない黒井鎮守府を?!
やりません。