ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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メリークリスマス。


私ではお力になれません

異世界生活三日目。

 

洗ってない犬の臭いがするケモミミ美少女を森の外に捨てて、俺は逃亡した。

 

王族だとかなんだとか、冗談じゃねえ。

 

面倒事は他所でやってくれ。

 

いや、少なくとも、俺が国と交易できるくらいに力を得たら関わっても良いさ。

 

だが、今の段階で捕まれば終わりだ。

 

仮に、この世界の人間が、ワールドクリエイターのプレイヤーと同じようなクラフト能力を持っていたとしたら、世界は開拓され、このような人の手の入っていない森など存在しないはずだ。

 

あの、トロルから逃げてきたケモミミ美少女にクラフターとしての能力があれば、着の身着のままで放り出されてもピンチにはならないはずだ。

 

トロルは、MODが有効なこの世界においては雑魚の部類だ。それすら倒せないとなると……。

 

「この世界にクラフターはいない、か」

 

もしかしたら、もしかしたらだ。

 

俺だけがクラフターだとしたら……。

 

一瞬で食料を増産し、一瞬で家畜を増やし、小さな炉であらゆる金属を作り、果ては時空すら超えられるようになるクラフターは……、永遠に囚われの身だろう。

 

少なくとも、俺がこの世界の王族だとしたら、あらゆる呪いをかけてでも百パーセント制御下に置く。

 

決められた時に決められた仕事をして、風呂や便所すら監視して、少しでも反乱すれば鞭で打つだろう。

 

なんと恐ろしいことか。

 

俺は嫌だ、絶対に嫌だ。

 

強くならねば。

 

強くなって、誰にも指図されない存在になり、巨大な勢力を作らねば。

 

俺に服従するNPCは黒魔術MODと錬金術MODで、ゴーレム、オートマタ、アンデッド、ホムンクルスなどを増産すれば、マンパワーは確保できる。

 

マンパワーを確保して開拓をすれば、資材が集まる。

 

資材が集まれば、プレイヤーの強化と、自動化ができる。

 

そして、工場を作り、自動化を重ねていけば、最終的には、工場が工場の部品工場を作り移動工場が工場を作り、世界を作り変えることができる。

 

だが、そこまでやるにはそこそこ長い。

 

ゲームでは、一、二ヶ月もあればそれくらいはできたが、この世界でも同じことができるとは限らない。

 

年単位の話になるだろうと予測している。

 

 

 

東に向かって暫く移動して……。

 

「………………」

 

……生き物の気配がするな。

 

さっきから、後ろからついて来ている……。

 

数は少ない、と思う。

 

モンスターか?

 

少なくともトロルではない、あんなにデカイのが追っかけて来たら丸わかりだ。

 

俺について来ている何者かは、気配を消しながら追ってきている。

 

ゴブリンか?いや、ゴブリンなら複数の徒党を組んでいるはずだ。

 

ガイアウルフか?いや、ガイアウルフも群れで動く。

 

単体ならナイトストーカーか?いや、ナイトストーカーは確か夜行性だったはず。

 

ブッチャーモンキー……、も群れるしな。虫系か?とするとスカベンジングビートルとかか?

 

俺が死ぬのを待っている屍肉食いモンスター辺りだろうか?しかし、スカベンジングビートルのような屍肉食いはプレイヤーが死にかけの時に出るもんだろ?

 

荒野ならメンガッタやベノムスコルピオン辺りだと断定できるが……。

 

森の、姿を隠し追いかけてくるモンスターの内、森の浅いところにでるもの……?

 

思いつかないな。

 

ああ、ボイドパンサーか?!

 

参ったな、ボイドパンサーはすばしっこいぞ。

 

だが、攻略法がある。

 

ボイドパンサーは大きな音に弱いんだ。

 

クラフト、《木のホイッスル》と。

 

これを思い切り吹いてやれば、ボイドパンサーは驚いて姿を現し、吹くたびに三秒ほど麻痺するんだよな。

 

他にも軍事MODのフラッシュバンや、ハンターMODの音爆弾でも麻痺させることができる。

 

《上質なモンスター革》と《上質な獣の牙》《上質な獣の骨》《上質な魔石》、そして低確率で《キャッツアイ》という魔法触媒を落とすんだよ。強敵だが明確な弱点がある、オイシイモンスターだな。

 

とにかく、大きな音を出せばボイドパンサーはスタンする。

 

それ!

 

『ピーーーッ!!!』

 

「きゃあ!」

 

………………?

 

「????」

 

????????

 

きゃあ?

 

………………おい、おい!まさか、この、畜生!まさか!

 

「あ……、その、私……」

 

「俺が捨ててきた洗ってない犬の臭いがする女……!!!」

 

「ええっ?!く、臭いですか私?!」

 

 

 

クソ、面倒なことになったぞ。

 

「私は、ケイト・カサドールです。あの、貴方が、トロルから私を守って、水と食料を分けてくれたんですよね?」

 

「いや、知らんな」

 

「え?えっと、あの、何で嘘つくんですか?」

 

「俺は知らない。お前のことなんて全く知らん」

 

「だ、だって、この鞄とか、毛布とか、貴方の匂いがしますし!それに、貴方がトロルを倒したところ、ちゃんと見てました!」

 

「気のせいだろ、早く帰れよ」

 

頼むから消えてくれ。

 

「……帰るところなんて、もう、ありません」

 

あっ。

 

俺は走って逃げる。

 

「まっ、待って下さいっ!」

 

「うおあああ!!!やめろおおお!!!絶対それ政争とか紛争とか絡んでくるやつじゃねーか!!!俺を巻き込むな!それと臭いから抱きつくな!!!」

 

クソ、不意打ち気味に唐突な自分語り始めやがって!

 

「くっ……?!お、女の子に臭いとか言わないで下さいっ!酷いですっ!」

 

「いやマジで臭いんだよお前!田舎の洗ってない犬の臭いがするんだよ!!!」

 

「だ、だって、私、エルダウン王国が戦争になって、水浴びなんて殆どできな」

 

「ヤメロォ!戦争の話とかするなぁ!俺は何にも聞いてないぞ!!!」

 

振り払って逃げようとする俺。

 

しかし、力が強いこの女は、俺をガッチリと掴んで離さない!

 

「ヤメロォ!ヤメロォ!」

 

「待って下さい!落ち着いて!」

 

「凄く落ち着いた」

 

「わあ?!急に真顔になるのもやめて下さいよ!」

 

よし、切り替えよう。

 

もう逃げられない。

 

ならば、ダメージを最小限にする方法を模索しようか。

 

俺は通知表にも、『武見晴嵐君は切り替えの早さが魅力です、サイコパスの恐れがあるので精神科に行ってください』と書かれた男だ。

 

持っている手札で勝負することと、あらかじめ手札を増やせること、それが俺の強みだ。

 

「ええと、ミス・カサドールでしたね?」

 

「あ、えっと、はい」

 

「何か辛いことがあったのかも知れませんが、私は、あえてお話を聞こうとは思いません。貴女のように美しい人に、辛いことを思い出させるなどと言う酷なことは私にはできませんから」

 

「は、はあ?」

 

「ですが私はご覧の通り無一文で、住むところもなく、あてもなく彷徨う旅人なのです。カサドール様の御身をお守りすることはできません」

 

「え?でも、家が……」

 

「は?家ですか?確かに、森にたまたまあった廃屋で休んでいましたが……?」

 

すっとぼける。

 

「そ、それに、トロルを倒して……」

 

「ええ、たまたまなんとかなりましたが、あれで剣が折れてしまいましたから、今はナイフしかありません」

 

嘘だ。

 

剣は邪魔だからインベントリにぶち込んである。

 

「畑も……」

 

「畑?森の中に畑なんてある訳ないでしょう?見間違いですよ」

 

「うう……」

 

「とにかく、私ではお力になれません。着いてこられても困ってしまいます」

 

よし、これでいいだろ。

 

「……それでも、私は、貴方に恩返しがしたいです!」

 

「うわっ、めんどくさっ」

 

「えっ、今めんどくさいって」

 

「ゴホン、んっん、いえ、そのですね、恩返しとは美徳ですが、貴女にできることはないのです」

 

「えっと、読み書きと計算と、礼儀作法と、身を守るくらいの戦いと……、あと、私は人間と違って鼻が効きますよ!」

 

「そうですか、ではここで別れましょう」

 

「何で?!」

 




実家にニンテンドースイッチが。

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