「玲子ちゃん、答えは決まったプロセスですか?」
「うん、私は……」
………………
…………
……
私は、嫌だった。
進んで戦うのは嫌だ。誰だって、痛いのは嫌いだ。
でも、悪魔とか言うふざけた奴らに、何もできずに食べられるのは、もっと嫌だ!
だから、私を、正義のデビルサマナーにしてください!
私は、凪おばあちゃんにそう頼んだ。
すると、凪おばあちゃんは、「何てヤングなカテゴリーなのかしらね」と短く笑った後に、それなら、私が訓練をすると言い……。
私はこの三年間、凪おばあちゃんの下で猛特訓した。
バイトもやめた。そんな暇はないから。その代わりに、凪おばあちゃんの伝手で、ヤタガラスの簡単な調査依頼をやっている。
まあ、コンビニバイトよりは稼げるから……。
そして……。
「行くのですか?」
「うん……。槻賀多村は、凪師匠が守ってくれるし、私は、都会に出て、都会で頑張ってみる。デビルサマナーとして……」
「辛かったら、いつでも戻ってきて良いプロセスですよ……」
「うん!師匠、行ってきます!」
バスに乗り、電車に揺られて、生まれて初めて新幹線に乗り、七時間くらい。
師匠の好きだった、ライドウって言う伝説のデビルサマナーは、金色の龍に乗って移動したらしいけれど、私は新幹線に乗り移動した。
いつか私も、ドラゴンに乗れるくらいのデビルサマナーになってみせる!
そんな決意も新たに、東京に来たんだけど……。
「ひ、ひぃ、人がいっぱい……!」
人の量、そして匂い。
頭がくらくらする。
人で酔う。
「都会に住むなら慣れないと……。あ、そうだ、ヤタガラスの石神稲荷神社に行かなきゃ……」
石神町……。
東京でも下町の方にある、小さな町だ。
だけどここに、ヤタガラスの人員が常駐する神社があるらしい。
「ここか……」
正直、ちょっとボロいけど……。
あ、巫女さんがいる。
話しかけてみよう。
「あ、あのっ!」
「はい?」
「私、設楽玲子って言います!新米のデビルサマナーです!」
「……ちょっとこちらへ」
「はい!」
神社の中に案内された。
「……私は、ヤタガラス東京支部の宗方薫です」
宗方さんは、私と同じくらいの年頃の、狐っぽい雰囲気の美女だった。
すらりとした身体と、狐のような目、優しげな雰囲気の女の人だ。
でも、なんだか、ちょっと怒ってる?
「あのですね、デビルサマナーは、秘匿されるべきものです。あまり、人前で大っぴらにデビルサマナーですなどと言ってはなりません」
「あっ、そ、そうなんですか……、すみません……」
「とは言え、新米さんだと言うのなら、まあ……、これから気をつけてくださいね?」
「はい……」
「ええと、それで……、どこから来ましたか?」
「京都の北の方の、槻賀多村からです」
「槻賀多村……?」
「はい、そこで、凪って名前の師匠から、デビルサマナーの稽古をしてもらって、一人前になったから、都会に来てみました」
「なっ?!!まさか、十八代目ゲイリンの新しい弟子とは……。分かりました、それで、帝都には何をしに?」
「えっと、槻賀多村は凪師匠が守ってくれるんで、私は、どこか別のところを守れたらなーって思いまして。折角なら、都会に行ってみたいと思って、東京に来ました」
少し頭を抱えるようなそぶりを見せる宗方さん。
「まずですね……、東京近辺には、今代の、十七代目ライドウが守護しています」
「えっと……、となると、私は要らない子……?」
「いえ、力を正しく使えるデビルサマナーならば、何人いても良いのです。しかし問題は……、我々、ヤタガラスには、貴女に報酬を渡すほどの余裕がないのです」
「あー……」
そう言えば、師匠も、ヤタガラスにはお金がないって言ってたなあ。
「……どうしましょう?」
「どうしましょうって……、はぁ。貴女は運が良いですね」
「はい?」
「丁度、去年の今頃でしょうか、デビルサマナー業界に、DDSnetという組織ができました……」
宗方さんの話によると、DDSnetは、最近できたデビルサマナーを援助する組織らしい。
異界アイテムの販売、オークション、オークションへの出品の補助、異界の情報提供、デビルサマナーの派遣の取りまとめ……。
DDSnetの力を借りれば、フリーのデビルサマナーもちゃんと活動できるらしい。
逆に、DDSnetの誕生以前は、安い賃金で働かされたり、逆にデビルサマナーがズルしたり、偽りの依頼で騙されて殺されたりとか、そう言うのが横行していたらしい。
その状況に待ったをかけたのが、DDSnetだったと言う訳だそうだ。
最初の頃はみんな警戒していたけど、この一年で業界からの信頼を着々と積んで、今や、DDSnetはデビルサマナー業界になくてはならない存在になっているみたいだ。
「とりあえず、今日はここに泊まっていきなさい」
と、宗方さん。
「ありがとうございます!」
そんなこんなで、しばらくはこの石神稲荷神社を拠点として、働くことになった……。
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