はあ……。
県立蘇我高校。
私の高校だ。
春だから、私は今、ピッカピカの高校一年生って訳。
普通なら、恋の予感とか青春やら色々あるはずなのに。
それなのに……、この槻賀多村には何もない。
槻賀多村、山陰地方、京都の北の方の過疎地域。
人も少ない、自然がいっぱい。
外から来た人はとても良いところだと褒めるけど、私みたいな若者からすれば、何にもない、つまらない村だ。
変わったものといえば……。
「玲子ちゃん、心ここに在らずのプロセスですか?人生も何でも、前を向いて歩くセオリーこそが良いのですよ」
お隣に住んでいる、変わった喋り方をするおばあちゃんくらいのもの。
「凪おばあちゃん……、だって、この村、何にもなくて。凪おばあちゃんはよくわからないのかもしれないけど、都会はもっと凄いんだよ!」
「帝都などの都会ですか?昔、何度か、仕事の先輩と帝都に行ったことがありますが、帝都は色々なものがあったプロセスですね」
そう、帝都……、東京にはいろんなものがあるはずだ。
こんなつまらない過疎地域なんかより、面白そうなものがいっぱい。
この村の言い伝えなんて、昔は、槻賀多家が暗殺者だった……、みたいな、荒唐無稽なものばかり。
変なわらべ歌とかがあって、嘘か真か、昔ここにあ、あばどん?しぬぁんど?が落ちただとか何だとか、そんな話があるけれど……。
基本的には何もない、過疎地域の一つだ。
蘇我高校も、この田舎村からバスで一時間先にあるからね。この辺には何もない。
こんな村で一生を終えるだなんて嫌だ。
今、高校の間にバイトしまくって、お金を貯めて、高校を卒業したら都会に行くんだ。
そして、デザインの専門学校に奨学金を借りて通って、将来は世界を股にかけるデザイナーになるの!
「良い目標のカテゴリーですね。ですが、辛いことがあれば、いつでもこの村に帰ってくると良いカテゴリーです。私ももう歳ですから、玲子ちゃんがビッグになる頃に生きていられるかどうか……」
「凪おばあちゃん、なんだかんだ言ってあと二十年くらい生きるでしょどうせ」
「あはははは!ナイスな予測のカテゴリーですね!そうなるように労ってほしいプロセスですよ!」
はー、ほんっとにもう……。
不死身の凪おばあちゃんはほっといて、学校行ってバイトして……。
そして夜中。
「うひゃー、もう12時だ!真っ暗だなあ、お化けとか出ないと良いんだけど……」
たまたま、今日はバイトが長引いて、たまたま、バスを一本逃して……、最後のバスに乗って、夜中の12時に村に帰ってきた。
「……ん?」
あれ?
こんな時間に人影?
誰かな……?
村の人達、お年寄りばっかりだからすぐ寝ちゃうし、街灯もろくにないから、この村の夜は本当に真っ暗……。
不審者……、もいないくらいに田舎だし、本当に誰だろう?
あ、もしかしたら、村の外から来た人かな?
たまに民族学者さんとかが来るらしいから、それかも?
「あ、あのー、すいませーん?」
「うぉ……」
「うぉ?」
「うぉまえは、誰だぁ?」
「えっと、設楽玲子です。この槻賀多村の者ですが、その、外から来た人ですか?」
「うぉまえは、人間だなあ?なあ?!」
「えっ、あっ、はい……?」
おかしい、ちょっとスマホのライトで照らしてみよう。
「うぉまえ、うぉれの、エサになれ!マグネタイト、寄越せえええ!!!!」
「は、ひ……?!!」
赤い、骸骨?!
剣を二本持ってる!!!
「がああああーっ!!!」
「きゃああああーっ!!!」
痛いっ!
腕を少し斬られた!
血、血が止まらない……!
に、逃げなきゃ!何だかよく分からないけど、逃げなきゃ!
「うぉまえ!待てえええ!!!うぉれのマグネタイトぉお!!!」
「ひっ、はっ、やだ、やだやだ、死にたくない、死んでたまるか……っ!」
走れ、走れ!
音がする。
後ろから音が。
金属の音、骨のカラカラとした音。
音が聞こえなくなるまで走れ、走れ!
「助けてっ!誰か助けて!!!」
大人を起こさなきゃ!
誰か、大人の人に来てもらわなきゃ……!
「おや……」
「あ……?」
「凪おばあちゃん……?」
は?え?
何で凪おばあちゃんが?
しかも、このご時世に刀を帯びて夜中に?
「まさか、ボケが……?」
「失礼なガールね……。私は生涯現役のプロセスですよ」
それと、小さな妖精さん。
「凪ー、この子、誰ー?」
「そうねえ……、玲子ちゃん、こんな時間にどうして……」
と、凪おばあちゃんが口を開いた時。
「うぉお?!おおお?!マグネタイト、増えたあ!!!マグネタイト、寄越せぇ!!!!」
「あら……?」
「ッ!!!凪おばあちゃん、危ないっ!!!」
赤い骸骨が襲いかかって……!!
もう駄目だ!と思って目を閉じる。
そして数秒……。
「がぎゃ……っ?!!」
「え……?」
緑色の光が迸ったと思ったら、赤い骸骨が縦に真っ二つに割れた……?!
そこには、刀を振り抜いた姿の凪おばあちゃんが。
「な、ぎ、おばあ、ちゃん……?」
「玲子ちゃん、夜中に出歩くのは危険なプロセスですよ」
「い、今の骸骨は……?」
「っ?!」
驚いた表情を見せる凪おばあちゃん。
「玲子ちゃん、貴女は、悪魔と出会ってしまったプロセスですね……」
「あ、くま……?」
凪おばあちゃんの家に呼ばれて治療を受けた私。
「『ディア』」
妖精さんが魔法らしき手段で、切り裂かれた私の腕の傷を塞いだ。
「す、凄い、跡も残ってない」
「傷が浅かったからねー」
自分の周りをふわふわ飛んでる妖精さん。
か、かわいい!
「さて……、玲子ちゃん。少々長い話になりますが、聞いてもらえますか?」
「は、はい」
凪おばあちゃんの話が始まる……。
「結論からお話しします。玲子ちゃんが出会ったアレは、悪魔と呼ばれる存在で……」
………………
…………
……
「なるほど……」
世界中に遥か昔から存在している『悪魔』と、それを扱うガイアーズやメシアンのような裏社会。
私達一般人が知らないだけで、この世界の裏側では、常に、人の世を脅かす悪魔や、それを悪用する悪党がいて、それと戦う正義のデビルサマナーがいる。
凪おばあちゃんも、昔は、日本政府直属の正義のデビルサマナーだったらしい。
今は、数年前の政権交代の際に、正義のデビルサマナー組織であるヤタガラスの予算が、事業仕分けで完全にカットされ……。
前政権のせいで、正義のデビルサマナーは大打撃を受けてしまい、今の日本の霊的な防備は非常に薄い状態にあるらしい。
やっぱり、人間って生き物は何かとお金が必要なんだなあ……。霞を食べて生きていける訳じゃないもんね。
だから、今、ヤタガラスを始めとする、正義のデビルサマナー組織は大幅に弱体化してるんだって。
ヤタガラスって言うのは、古来から日本を霊的に守ってきた秘密の国防組織だって。
凪おばあちゃんも、昔はヤタガラスで戦っていたんだってさ。
うーん……。
これさ、漫画とかであるあるな展開だけど……。
「私、巻き込まれちゃった、の?」
「そう言うセオリーですね」
「に、日常生活には戻れないのかな?」
「別に、全てを忘れて日常生活に戻っても良いセオリーですけれど……、また、次に悪魔に襲われた時に、今回のように助けられるかは分からないプロセスですよ?」
「……つまり?」
「セルフを鍛えるプロセスを希望するならば、また今度、答えを出してから来なさい。今日のところはお家に帰るべきですよ。明日一日、しっかり考えなさい」
「うん、分かった……」
何も見なかったことにして、日常に戻る。しかし、また襲われるかもしれないと怯えなきゃならない。
もしくは。
辛く厳しいけれど……、戦う力を身につけるか。
どちらかを選ばなきゃいけない。
なろうへの移動……、めんどくさいけどやってみたい感はある。