ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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ねむねむ。


145話 カナダの成果

カナダのアビゲイル。

 

見た目は、長い白髪に、死人のような白い肌、ブラウンの瞳の女。

 

服装は、死霊術師スカルの創立した学派である『骸派』の正装たる黒衣。

 

生物由来の黒革を、血液から作った溶液で着色するという『血染め』の赤黒いローブ。

 

それに、生物の血管から作られた青い糸で、『右掌に眼球』という骸派の紋章が背中の部分に刺繍されている。

 

これは、『サ・バラの瞳』という、冥府の神を表す紋章だ。

 

それに、骨を、毛で紡いだ糸で結んだネックレスに、大きな獣骨の脊髄から削り出したワンド。

 

オーソドックスな死霊術師のスタイルだ。

 

死霊術ってのは、如何に『死』に近付けるか?ってのを主題とした学問であるからして、『死』と『風化』の象徴である死骨は大変に死霊術と親和性が高い素材なんだよな。

 

遠い昔は外法として忌み嫌われていたそうだが、最近はそこまででもない。

 

アビゲイルが語り出す……。

 

「死霊術は、即応性が低く、試合形式の殺し合いでは大変に弱いです」

 

まあ、そうだな。

 

「しかし、戦略魔法としては極めて有用になります。何せ、戦場では、『材料がそこら中に転がっています』からね」

 

そりゃそうだ。

 

「今回はまず、材料がない時に何ができるかをご紹介いたします」

 

そうして、十秒程度の呪文詠唱……。

 

「黄泉路の旅路を流離う者どもよ。昏き道、禍時の者どもよ。刮げた肉を拾う黒い鳥、灰の髄液を啜る蛆、墳墓よ開け、『コール・アンデッド』」

 

『オ、オ、オ……!』

 

『アア……!』

 

『ヴァア……!』

 

ふむ、低級のアンデッドが五体か。

 

まあまあやるじゃん。

 

ゾンビドッグってのもチョイスが良いね。

 

まあ……。

 

観客席の首相やテレビ局員達はヒエッヒエだけど。

 

「そして、こちらが、儀式によって死者をアンデッドとして呼び出す魔法……、『サモンデッドマンズ』となります」

 

そう言って、血液をペッボトル一本分くらい使って、地面に魔法陣を書くアビゲイル。

 

一分ほどの呪文詠唱の結果……。

 

黒い靄から、三体のアンデッドが現れた。

 

一体目は、大きく裂けた口以外には、目も鼻も耳もない、白肌の頭部を持つ大男だ。

 

上半身全裸でジーンズ、肥大化した片手に巨大な斧、もう片方の手に剃刀を持っている。

 

「こちらは、『切り裂きジャック』『ニューオーリンズの斧男』『キングズベリーランの屠殺者』を混ぜ合わせて作りました。名前は『アンノウン』とでも呼びましょうか」

 

ふむ?

 

何故に『アンノウン』……、『不明』なんて名前に?

 

ああ、いや、そうか。

 

『切り裂きジャック』『ニューオーリンズの斧男』『キングズベリーランの屠殺者』……、全て、正体不明の犯人による未解決事件だからか。

 

「こちらの『アンノウン』は、その名の通り不明の存在です。このように……」

 

アンノウンの姿が消える。

 

なるほど、ステルスか。

 

「カメラにも、X線にも、熱源探知機にも映らなくなります。パワーはこれくらいですかね?」

 

すると、標的の10トントラックが横殴りされて三十メートルくらい吹っ飛んだ。

 

へえ、まあまあやるじゃん。

 

「次にこちら」

 

二体目のアンデッドは、鼻と口がない白い顔に、八つの赤い瞳が並ぶ。髪型は、黒の長髪を白い布でまとめていて、服装は袴。

 

腕が八本あり、腰に刀を八本佩びている。

 

「こちらは、『シンベエ・タナカ』『ゲンサイ・カワカミ』『イゾウ・オカダ』『ハンジロウ・ナカムラ』という、日本の殺人者四人を合成したアンデッドになります。名前は『リーパー』としましょう」

 

なるほど、幕末の四大人斬りか。

 

「こちらの彼は剣術が得意でして、これくらいのものなら簡単に斬ってくれるんですよ」

 

そう言って、その辺の鉄板を斬り刻むリーパー。

 

まあ、こいつは失敗作だと俺は思うがな。

 

腕の多さは手数に繋がるってのは浅い考えだし、生前に鍛えた剣術が活かしきれていない印象だ。

 

で、三体目は?

 

ギョロリと見開いた大きな瞳、鷲鼻、口は下顎がなく、長い舌がチロチロと動いている。

 

髪の毛は短めで、頭の上には山高帽。服装はスーツ。

 

両腕は地面に付く程長く、鉤爪を持っている。

 

やや前傾した姿勢で、背中にはびっしり、杭のようなものが刺さっている。

 

「こちらは、『アルバート・ハミルトン・フィッシュ』を使って作ったものです。名前は『マニアック』としましょうか」

 

ふむ……、歴代最悪と名高いシリアルキラーか。

 

見たところ、接近戦もこなせるようだが、一番優れているのは……。

 

遠距離攻撃だろうな。

 

マニアックの背中の杭が、鮮血を撒き散らしながら抜けて、宙に浮く。

 

それは、音速の数倍程のスロースピードで放たれて、標的のコンクリート塊を粉砕した。

 

威力は戦車砲ほどか。控えめだな。

 

 

 

なるほど、死者を意図的に冒涜し、恐怖という名の信仰を集め、それにより、死者を悪き英霊として強化するタイプか。

 

今回、テレビ放送で全国の人間にお披露目すると知っていて、わざとやったな?

 

この放送を多くの人が見て、これらのシリアルキラー達の悍しい姿を目にして、恐怖し、その恐怖心が術式を更に強化する、と。

 

その辺りの狡猾さはスカルの教えだろうな。

 

あいつ、マジで人の心はないが、その分効率的に動くからなあ。

 

人質とか、感染型アンデッドを街に野放しとか、疫病作戦とか平気でやるから、昔は死ぬ程恨まれてたらしいが……。

 

まあ、まともな人間の精神じゃ、死霊術師になんてなれねーんだわ。

 

「質問をしてもよろしいだろうか?」

 

おっ、カナダ首相。

 

「はい、何か?」

 

アビゲイルが答える。

 

「まず……、私の理解では、シリアルキラーを改造して呼び出す魔法という解釈なんだが……」

 

「合ってますよ」

 

「あー……、どうして、シリアルキラーを?もっと……、人類が誇るべき英雄がいるはずでは?」

 

「はい。次の目標は、もっと大規模な殺人指導者である『アドルフ・ヒトラー』や『ポル・ポト』などにするか、もっと古い存在である『エリザベート・バートリー』や『ジル・ド・レ』などにするかで迷っています」

 

うむ、効率的だ。

 

二の句を告げられなくなっているカナダ首相に、俺が助言しておく。

 

「死霊術に戦闘能力を求めると、どうしても、呼び出す対象は、邪悪で冒涜的な存在になりがちですね。仮に、死霊術で死したサッカー選手を呼び出したとして戦えるか?と言えば否でしょう?」

 

「し、しかしですね」

 

んー、なんか勘違いしてねぇか?

 

「ふむ。首相閣下は、魔法を、何でもできる夢の超技術だとでも思っていらっしゃるようだ」

 

俺は笑ってやった。

 

嘲笑ってやった。

 

それは、あまりにも舐めているからだ。

 

「言っておくが、魔法ってのは、亜人達が脈々と受け継いできた伝承であり、技術なんですよ。デイヅニーの魔法使いのように、星が舞うステッキを振るえば箒に足が生えて動き出す……、みたいなこともできると言えばできますとも。ですが、そこまで練り上げるのに、何十年の修練が必要なのか理解していらっしゃらないようだ」

 

ふざけんな、って話だ。

 

別に、このアビゲイルって女の肩を持つ訳じゃない。

 

だが、この女は、たった一年という短い期間でここまでやるとなると、相当な努力をしたはずだ。

 

努力をしたから尊重しろなんて事も言わんさ。世の中ってのは、努力した人間が良い思いをすることなんて少数なんだから。

 

俺が言いたいのは、魔法の「ま」の字も知らんど素人が、上から目線で手段を選べ見てくれを良くしろなどと、偉そうに指示するってのが気に食わないって事だよ。

 

いわばそれは、自分が大学生だとして、高卒の知らんやつに、自分の研究分野について意見されるみたいなもんだ。

 

俺も、一研究者の立場として、それはムカつく話だってことだ。

 

「言っておくが、たった一年という短期間でここまで練り上げるには、手段なんて選べないぞ。相当な努力をしたし、才能も当然、国で一二を争うほどにあるだろう」

 

あ、俺の嫁のオリヴィエが、「うわ、レイジが他人を褒めるとか珍しい」みたいなことを言いたそうな顔をしている。

 

「つまりは、素人が口を出すなって話ですな。首相閣下は、いわば、航空力学の何たるかを微塵も理解していない子供が、『球状の飛行機を作れ!』と駄々をこねているようなものだ」

 

と言ってやった。

 

さて、どうだ?

 

器が小さいやつなら怒るだろうが……?

 

「……なるほど。理解しました。正直に言って、私は、この魔法が『恐ろしい』と思いましたが……、専門家であるMr.レイジの目から見て最適であると言われれば、是非もありません」

 

ほう。

 

流石は、一国の首相と言ったところか?

 

器はあるようだな。

 

さあ、次に行こうか。

 




面白い話を書けなくて血を吐いてる。

次回作は金!暴力!SEX!ではなく、冒険冒険アンド冒険のファンタジーを書きたくて頑張ってるんですが、まあ盛り上がらねえですわね。

もっとノリノリでチートする話の方が、皆さんお好きでしょう。

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