ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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死にたい。


138話 獣人の弟子

私は、ヨアヒム・ゼークト。

 

栄えあるドイツの、伝統ある伯爵家の家系に生まれ、何不自由なく暮らしてきた。

 

ドイツに貴族制度はもうなくなったとは言え、両親は大学教授と政府高官であり、幼い頃から『ノブレスオブリージュ』を教えられてきた私は、まさに現代の貴族であろう。

 

私の家には資産も地位もあるが、私自身もたくさんのものを持っている。

 

見た目も、母親譲りの黒髪に、父親譲りの精悍な顔立ち。

 

そして、体脂肪率8%を切る絞られた肉体に、188cmほどの高い身長。

 

この肉体をもってすれば、どんなスポーツもすぐに上手くなった。

 

特に、得意なフェンシングでは、ドイツの全国大会で三年連続優勝している。

 

頭脳の方も素晴らしい出来だった。

 

十歳にして五カ国語をマスターし、ジュニアスクールの段階でドイツ最高の学府に主席で入学し、優秀な成績を残し続けた。

 

その上で更に、飛び級でアメリカの最高学府を卒業し、これから父の跡を継いで教授になろうか……、と言った時に。

 

「魔法学部……、だと?」

 

 

 

何度も言うが、私は、今までの人生で一度たりとて困ったことはない。

 

スポーツも少しばかり練習すれば簡単に全国一位になれたし、勉強も、少しばかりやれば飛び級で大学に行けた。

 

魔法とやらも、この私の頭脳をもってすれば容易いだろう……、と私は思っていた。

 

故に、と言う訳ではないのだが、国産魔法使いを増やすという祖国の方針もあり、私は魔法学部に志願した……。

 

 

 

当然、私は主席で合格し、魔法学部に入学できた。

 

まあ、主席合格は当然のこと。

 

大したことではない。

 

簡単に入学し、魔法とやらもすぐに……。

 

「………………何だこれは」

 

すぐに……!

 

「ぐ……?!なんなんだ?!この法則性は……、いや、こちらは……?!」

 

……できなかった。

 

私は、生まれて初めて挫折を味わった……。

 

 

 

分からない!理解不能だ!

 

どうしてここがこうなる?!

 

法則性も意味不明だ!

 

それに……。

 

「なるほど、分かりました!」

 

「うんうん、よく聞きに来たわねー、偉いわよー!ここは人間じゃわかりづらいみたいだしね!」

 

周りの凡人達は何故出来る?!何故、あのようなライカンスロープに教えを乞えるのだ?!!

 

我が国は、いつも外圧との戦いをしてきた!フランスと、オーストリアと、連合国と戦い、自分達の力のみでずっと戦い抜いてきたのだ!!

 

それなのに!それなのに何故!あのような得体の知れないライカンスロープ共に頼るのだ?!!

 

そう思い、私が打ちひしがれていると……。

 

「君は……、うーん?魔法学部に入学するまでの成績は良かったみたいだけど、魔法は大してできないんだね」

 

「なっ?!!!」

 

大してできていない?!

 

できていないだと?!!!

 

こ、この、私が、私がっ!!!!

 

ふ、ふふふ……。

 

「ははははははは!!!!」

 

「えっ、何?怖……」

 

こうなったらもう知らんぞ!

 

私のプライドを傷つけたな、貴様!!!

 

「教授、礼を言わせてもらいますよ」

 

「え、ええ?何故?」

 

「私はどうやら、少しばかり驕っていたようだ。だが……、これからは違うぞ!ドイツ人民の誇りにかけて、魔法とやらを即座に習得してみせる!もう二度と、私を蔑ませない!!!」

 

「そ、そう?が、頑張ってね……?あと別に蔑んでないわよ……?」

 

 

 

それから私は、下手なプライドを捨て去り、恥を忍んでライカンスロープ共に頭を下げた。

 

「すみません、ゾラ教授。ここが分からないのですが」

 

「多重詠唱?えっとね、多重詠唱って言うのは、言葉に込められた意味が多重に存在する時に、その別側面の意味合い同士を並列して使うことのことよ。例えば、アジル語では『ワスル』という一文字に『火』と『力』という意味があるのよ。多重詠唱は、『ワスル』の一言で『火』と『力』の両側面を引き出すってことね」

 

「なるほど、ではこちらの高速詠唱と圧縮詠唱の違いについては?」

 

「高速詠唱は声帯を魔力強化して詠唱そのものの速度を上げることで、圧縮詠唱は圧縮言語を使って詠唱することね」

 

「圧縮言語?」

 

「圧縮言語はまあ、色々あるけれど、使うなら『ヴィネス式』とか『バジラ』とかが実用的ね。最近は『デジン・ジラン』が流行ってるわ」

 

「圧縮言語……、それはどのようなもので?」

 

「んまあ、『ヴィネス式』なら、『Sya-rali-rara』で、初代残響のヴィネス・ミリオンの遺した聖句である、『天元は地にあり、深海は空にあり、叡智は残響にある』という意味になるわ」

 

「はあ……、何故そうなるか法則性が分からないのですが」

 

「んー、まあ、圧縮言語はもう、完全に暗記科目だからねー。そういうもんだ!って思って覚えちゃったほうが楽よ?詳しく知ると、本当に凄い完成度だってわかるんだけどね。あ、因みに、圧縮言語は単語が少ないから、一つの単語が持つ意味合いが多くて、多重詠唱がやりやすいのよ」

 

このライカンスロープ共は……、いや、獣人達は、確かに、相当な知識と実戦経験を持っている。

 

蔑み、侮って良い存在ではない。

 

例え、非白人だとしても、これ程の力を持つものを下に見てはならないな。

 

だが、今は獣人共の方が上かもしれんが、すぐに我がドイツが追い越してみせる……!!!

 

 

 

「君、属性魔法に向いてないわよ?」

 

「なっ……?!何故早く言ってくれないのですか?!」

 

「え?頑張ってるから興味あるのかなって……」

 

「そういう指摘はもっとしてください!!!」

 

「ええ、分かったわ。じゃあ、改めて言わせてもらうけれど、元素術に向いてないわ。やるなら創造術か変成術にしなさい」

 

「しかし、創造術は、地球人は魔力量が少ないので向いていないと先日仰られたはずだ」

 

「発想を転換しなさいな?魔力消費の少ない土塊を創造してから、それに変成術をかけて強化すればいいじゃない」

 

「ですがそれでは、即応性に欠ける上に、学習すべき分野が……」

 

「即応性?なら、他に別の即応力がある魔法を覚えれば?それに、学習分野が広がってもいいでしょ?ゆっくりやりなさい。君は普通の人間なんだからね!」

 

ふ、普通の人間……?!

 

こ、この私が、そんじょそこらの凡夫と同じだと?!!!

 

「ふ、ふふふ……、ゾラ教授。貴女は相変わらず、私を挑発するのが上手いようですね……」

 

「えっ?」

 

「良いでしょう!一年だ!この一年で、創造術と変成術を修め、即応性のある別の魔法も覚えましょう!貴女の挑戦状を受けてやりますよ!!!」

 

「別に挑発とかしてないんだけど……?おかしいよ君……」

 




もっとなろう向けの主人公をよーっ!

俺が書きたいものを書いても読んでくれる人は少ないんだ。なろう受けのものを書かなきゃ。

やっぱりこう、ハズレスキルから一発逆転のチート!戻ってこいと言われてももう遅い!とかやらなきゃ……。

やっぱりこう、主人公もさ、世界征服とか目指さないでこじんまりとした生活させよう。

主人公は四十代で派遣会社の技術者なんよ。回路設計とプログラミングがチョットデキルおじさんで、管理職になって責任が増えるのが嫌だから技術者をずっとやっているのね。

はい、トラック転生。

転生し、手にしたスキルは『多重起動』というありふれたクソスキルだった。あ、スキルは一人一つね。それで、魔法は魔法系のスキルがない限り、初級のものしか覚えられない……、みたいな。

しかし主人公は、初級魔法を工夫して使うことで、ものすごいことができるのだ!

例えば、最下級の火の玉でも、多重起動すれば高威力になるとかそんなん?

そして、最も簡単な魔法である『通魔』の魔法を使って、魔法で電子回路を再現する!

この世界のマジックアイテムは、魔力を流すと流した分だけ火が出る!とかのアナログなスイッチ式しかないので、電子回路のようなものはない。

主人公はそれで電卓を作り出して、冒険者ギルドの事務員をやる。魔法使いのくせに戦えないから、現場の冒険者には舐められて、電卓パワーでどんどん仕事をこなすから、職員達には目障りな奴扱いされる。

その他にも、近くの森の見回りとか機材の保守点検やらをやっていたんだけど、ある日、コストカットのためにクビになる。

主人公は、自分のスキルに自信ニキなので、クビになったら就活すっかー、みたいな感じであっさり消える。

そして、いなくなって初めてわかるありがたみ……!みたいな?

そういうあるあるなやつが受けるんやろなあ。

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