春。
まあ、北海道の春なんで、まだ溶けていない雪が残り、その下から青々とした草花が顔を覗かせる……、そんな感じだ。
そんな中、魔法を使って撮影した映画、アドベンチャーズの公開に合わせて、世界が動き出す……。
国内外から多数のマスコミや野次馬が土井中村に押しかけてくる。
土井中村へ行くための電車は、無人駅、電車は三両、一日六本、現金決済のみという田舎の極みだ。
その三両しかない電車に、満員電車のように詰め込まれた人々が土井中村に現れる。
人が増えれば諍いも増える。
土井中村では、外から来た人々が横柄な態度をとったり、住人に絡んだりと、小さな諍いが見られるようになった……。
そんなある日、俺は散歩しつつ、動画のネタを考えていた。
「ん?」
おや、あそこのベンチにいるのは、土井中村の駐在さんだな。
明らかに元気がなさそうだ。
一体どうしたんだろうか。
「あの」
「………………鎧さん」
「はい?」
「鎧さんのバカーーー!!!!」
なんなんだ一体。
「おかしい、おかしい、手取り19万で休みなし、24時間勤務……!時給換算で最低賃金を割る……!」
あー?
「助けて……、助けてください神様……、もう三日も寝てないんです……」
成る程?
駐在さんは、嫁さんと子供の三人で駐在所に住んでいる。
土井中村は馬鹿みたいに平和、警察官なんていらないレベルだ。
だから、駐在さんが一人だけで勤務している。
それなのに、最近は、外からやってくる連中のせいで、駐在さんは休む間もなく働いている。
普段はのんびりとパトロールをするくらいのものだったし、駐在さんが警察として土井中村で働いていた期間の間、事件らしい事件は起きたことがない。
しかし、今は、村の住人と同じくらいの数の人間が、村の外からやって来るのだ。
駐在さんの仕事は倍なんてものではなく、毎日休む暇もなく走り回っているそうだ。
マナーの悪い観光客のせいで、夜中だろうと昼間だろうと、村中を駆け回る羽目になっているらしい。
かわいそうに。
「ぼ、僕は、頑張っているのに、観光客が、観光客が」
泣きながら神に祈る駐在さん。
「あいつら、駄目だと言ったのに、公園にキャンプを張って無理矢理滞在して、その上、夜中に獣に襲われたと通報してくるんだ。だから駄目だって言ったのに。この辺は田舎だから、そこら辺に野生の獣がたくさんいるんだ。注意したのに、山に行って動物に襲われたとか通報してきたり。山に入れば、そりゃあ、素人なら酷い目に遭うに決まってるじゃないか。ああ、嫌だ、もう嫌だ」
うーむ。
流石にこれは憐れだ。
原因は俺だしな。
よし。
『セロメイド長、戦闘メイドの内、手すきのものを三十人くらい断続的に寄越してくれ。そいつらに、土井中村の治安維持を任せたい』
『了解致しました』
増援を呼んであげた。
「駐在さん、うちのメイド、三十人くらいに警邏させるんで、使ってやってください。あと、この電話機に話しかけると、うちのメイドが出るんで、指示して大丈夫です」
「で、でも、僕は給料とか出せないし」
「ロハで良いですよ。原因は俺なんだし」
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます……!!」
「取り敢えず、今日のところは帰って寝てください」
かわいそうな駐在さんを駐在所まで送って、俺も見回りをする。
村には、そこら中に見ない顔の人間がいた。
そいつらは、ゴミをポイ捨てしたり、危険な山に入ろうとしたり、許可なく写真を撮ったり、列に割り込んだり、値切りを要求してきたり……。
歩きタバコ、トイレの使い方、道端で酒を飲むなど。
特に、アジア系の観光客のマナーは極めて悪い。
文化の違いもあるのだろうが、あまりにも酷い。
土井中村に来たら魔法の力が得られると思い込んだ成金が、偉そうに振舞って、住民に迷惑をかけている。
そう言う奴らはブラックリストにぶち込み強制退去させている。
そんなことをしていると、こんなことも起きる。
スマホが鳴って、出ると。
『……我々ハ、お前の家族を預かっている。家族を守りたケれば、魔法の力を全て寄越セ』
「ふーんあっそ好きにすりゃ良いんじゃね」
電話を切る。
こんな電話がかかってくるようになった。
再度着信。
『き、貴様、家族がどうなってもイいのか?!!』
「やってみろやカス。俺が余裕こいてる時点で気づけよ、対策済みなんだわ」
『……まずは妹を殺ス!!!』
切られた。
ん、妹に刻んでおいた防護術式が発動したな。
ミサイルの直撃でもビクともしない防護魔法と、大抵の毒物を無効化する魔法、害意に反応して戦うミスリルゴーレムを複数召喚する魔法を、家族全員にかけてある。
五分後、また着信。
『キ、貴様!!一体何をシタ?!!!』
「おっ、やっぱりしくじったか。はい雑魚ー。雑魚助ー。どうしましたかー?殺すんじゃないんですかー?」
『舐めてイルのか?!我々の総力を挙げれば、貴様程度簡単ニ!』
「んじゃさっさと総力でかかって来いよ。早く、早く、早く、早く!!!」
楽しみだなー、何やるんだろう。
『良いだろう!今、貴様の右足を狙撃スる!!!手足がなくなっても、魔法ハ使えるだろうカラな!!!後悔するなよ!!!』
おっ、良いねえ。
まずは弾丸をキャッチします。
そして弾丸を投げ返します。
狙撃手の右腕が吹っ飛びます。
やったね!
『な、何をシタ?!!!』
「何だと思う?俺と一緒に考えてみようか」
『何をしたのかと聞いテいる!!!』
「おいおい、俺はお前の親でも先生でもねえよ。聞けば何でも答えて貰えると思うな」
『チィッ!!お、覚えていろよ!!!』
「無理無理、これで四回目くらいだし」
一回目と二回目は中国共産党、三回目は中華系マフィア、今回は……。
「えーと、韓国の国家情報院の、キム・ヒョンス君?お前もう、殺人教唆とかで逮捕だから」
『な、何を……?!』
「まあまあ。今は渡海町の麻倉ホテル4階の408号室にいるんだろ?外見てみ?」
『……あ、ああ!!!』
あらかじめ、渡海町の警察署に通報しておいた。
「チェックメイト、ってね!」
渡海町の警察官は喜んでスパイ達を捕まえる。
渡海町は割と都会で、たまに窃盗なんかも起きるが、スパイを何人も捕まえたと言うのは初の成果だった。
警察も、言ってしまえば仕事だからな。
大きな功績を挙げれば、評価が上がる。
つまり、連続してスパイを複数人逮捕した渡海町の警察官達は、本庁からの覚えもめでたく、査定にプラスされたそうだ。
よかったな、ポリ公。
今作の帰還勇者君は黒い鎧と赤いマント。
黒髪ロング、日本人離れした顔。
肌は暗めで鋭い相貌。
見た目のモデル?ジョニーデップです。