ツブヤイターにダイレクトメッセージが来た。
『こんにちは、ABC通信の者です。今最も話題の新規新鋭ユウチューバーであるレイレイさんにインタビューを行いたいと考えています。ご多忙かとは存じますが、どうにかお時間をいただけませんでしょうか。謝礼金に十万円と交通費全額支給を約束します』
ふむ。
ABC通信と言えば、ポップなネットニュースやコラムで有名なサイトだな。
返信しよう。
『基本的にマスコミを信用していないので、インタビューの最中にはこちらで動画を撮り、投稿します。出来上がった記事が実際のインタビュー内容と異なる場合、御社は批判されるでしょう。それでも構わないなら、インタビューを受けても構いません』
俺はマスコミを信用していない。
異世界のメディアには好き勝手言われて大変迷惑した経験がある。
自分で情報を発信できるシステムじゃなきゃ信用できない。
『了解しました。日時は今週の11月5日の午後三時から、場所はABC通信を運営している柳英社本社ビル(住所:東京都千代田区◯◯一丁目3番地)でよろしいでしょうか』
あ、良いんだ。
インタビュー会場の柳英社本社ビルに出向く。
受付に要件を告げると、内線で呼ばれた女性職員に案内される。そして、インタビュー用の部屋に入る。
「あ……」
「お」
こいつは……、俺の友達(?)の桐山だ。
そういや、大手出版社で働いていると言っていたな。
確かに、柳英社は業界でもトップクラスだ。
世界的に見ても、『少年ジュンプ』の名前を知らない人はあまりいないだろう。
「嶺二、俺は……」
若干暗い顔の桐山。
「どうした?」
「いや、俺、会社でつい、お前の友達なんだって言っちまったんだよ……。そしたら、今回の企画をやろうって上が言って聞かないんだ」
成る程。
「お前のことだ、ユウチューバーだって、金が欲しいのでも有名になってチヤホヤされたいのでもない、ただの遊びなんだろ?」
「ああ、よく分かったな」
「お前は昔からそうだったからな。お前は本当に頭が良いから、遊びだって言いながら凄いことを一杯やった。不良や暴走族を丸ごと更生させたり、馬鹿な生徒に勉強を教えてみたり、文化祭の喫茶店で三百万円稼いだりな」
やったなあ。
「でも、頭が良過ぎるからっていじめられると、いじめた奴を陥れて二度と学校に来れなくした。頭の良さを妬んで嫌がらせをしてきた教師は、何故か破産して首を吊った。お前は怖い奴だ」
んー?
あー?
やったな。
まあ、不幸な事故は稀によくあるからね、仕方ないね。
「俺は上に言ったんだ。嶺二は大切な友達だけど、嶺二を怒らせると酷い目に遭わされると。その上、嶺二は、異世界での戦いで、更に冷酷になり、その上、魔法という力も持って帰ってきたんだと。でも、上は聞いちゃくれない。それどころか、魔法なんて嘘っぱちだとすら言う奴もいる」
「で?」
「た、頼む!嶺二!柳英社を潰さないでくれ!」
「ふむ、俺はそんな酷いことはしないぞ。多分」
「いや、本当に頼む。柳英社で働くのが子供の頃からの夢だったんだ。潰れると困る。確かに、上は分からず屋もいるが、良い人だっているんだ」
「……良いか、桐山。日本くらいの小さな国なら、確かに、今すぐにでも地図から消せるさ。柳英社だって物理的に消せる。でも、そんなことはしない。俺にメリットがないからだ」
「イライラした程度では敵対しないってことか?」
「そうだ。俺もあの頃のような高校生じゃない。もう二十六歳だ。まあ、歳はとらないが。……兎に角、イライラした程度で潰したりはしない」
「そ、そうなのか?」
「まあ、そちら側が明確に敵対し、俺の穏やかな隠居生活に支障が出る場合には、いなくなってもらうが……、桐山がその辺りは頑張ってくれるんだろう?」
「あ、ああ、約束するよ。お前を貶めるような記事は書かないし、お前の生活の邪魔はしない」
「なら、それで良いんだ。良いか、桐山。俺はもう疲れたんだ。異世界では、嫌という程に人間の醜いところを見てきた。しばらく休みたいんだ」
「分かった、お前の隠居生活の邪魔はしない」
出版社ねえ。
俺の隠居生活の邪魔をしなければそれで良いよ。
「それじゃあ、インタビュー担当のライターが来るけれど、殺すなよ?」
「殺さん、殺さん。警察沙汰とかめんどくさいんだよ」
さて、撮影開始。
インタビュアーのライターと挨拶する。
「ライターの鹿島秀明です、本日はよろしくお願いします」
「レイレイです、よろしく」
握手をする。
「あの、そちらのカメラの方は?」
「うちのメイドです。気にしないでください」
「はあ……」
早速インタビューだ。
「まず、話せる範囲で構わないので、来歴を」
「東京のとある高校の一年生だった。一年生の終わり頃、学校から帰る途中に、異世界に誘拐された。十年間、勇者として戦い、魔王を倒した。その後、魔王より強い化け物である俺は、政治的に邪魔になったから、異世界から日本へ送り返された。十二人の嫁と、俺の城と一緒にな」
「大変興味深いお話です。そうですね、まず、何故、異世界に誘拐されたのがレイレイさんだったのですか?」
「人間の中では、この世界でも異世界でもいないくらいの膨大な魔力と、それなりに高い身体能力、そして高い知能を持っていたからだと思われる。勇者召喚の術式は、最も優れた人間を呼び出すものだからな」
「成る程、レイレイさんは世界一優れた人間だったと」
「そう言うことになるな。おそらくだが、これは魔力量が一番重視されているからだと思う」
「魔力とは?」
「物質、生命、空間、ありとあらゆるものに宿るエネルギーのことだ。魔法を使うための燃料として使われる他、高ければ高いほど、身体能力や知能が強化される」
「となると、この世界の人間には魔力がないのですか?」
「いや、違う。魔力は万物に宿る。この世界の人間にも魔力はある。ただ、この世界の人間は、魔力を使う文化がないから、魔力を使いこなせないだけだ」
「眠った力だと言うことですね」
「そうだ。だが、魔力をある程度使える奴はそれなりにいるぞ」
「そうなんですか?」
「良いか?人間が気合いと呼んでいる力は大体魔力だ。魔力とは精神力であり、超自然的なエネルギーであり、生命力である」
「つまり、気合いでパフォーマンスを上げられるスポーツ選手などは、無意識に魔力を使っていると言うことですか?」
「そうだ。だがしかし、独力で魔力を使いこなすには、想像を絶する修行が必要だ。それこそ、人生の全てを使うくらいのな」
「成る程……。では何故、レイレイさんは魔力を使えるのですか?想像を絶する修行をしたのですか?」
「いや、していない。裏技があるんだ。他人の魔力に干渉できるくらいに魔力操作が上手い奴に、体内の魔力を弄ってもらうんだ。そうすると、すぐに魔力操作のコツを掴める。魔力を使うってのは自転車みてえなもんでな、一度感覚を掴めば後は独力で訓練できる」
「となると、魔力を弄ってもらえば、誰でも魔力を扱えるようになり、魔法も使えるようになるのですか?」
「魔法は無理だ。魔法は独自の論理で成り立つ、ある種の学問なんだよ。魔法を使うには、術式を覚えなきゃ駄目だ」
「では、魔法は誰にでも使えるものではないと?」
「ところが、それもそうじゃねえんだよなあ。初歩の魔法なら、習えば子供でも使える。それに、魔法にも裏技があってな。読んだだけで魔法が覚えられる書物があるんだ」
「では、誰もが、魔法使いになれる可能性があると?」
「そうだな。でも、桶一杯の水を出すとか、火の玉一つで息切れするような程度の魔法しか使えない奴を魔法使いと呼べるのか?って話になるがな」
「成る程、成る程……。では、まとめると、魔力は誰にでも使えるものだが、この世界の人々の魔力は眠っている……、と言った感じですかね?」
「そんな感じだ」
「仮に、この世界の人々が魔力を扱えるようになったとすると、どれくらい変わりますか?」
「そうだな、俺は、暇なんで、近所の子供や住民に魔力操作と魔法を教えてみたんだ」
「何ですって?!」
「そうしたら、皆ある程度は使えるようになったよ。魔力の平均レベルは、異世界の人間の平均レベルより上だな」
「具体的に、どのような変化がありましたか?」
「あくまで本人へのインタビューでしかないが……、老人はある程度若返り、人々の知能と身体能力は大体、1.5倍くらいにはなってるんじゃないか?」
「そんなに!」
「実際、異世界の人間の中には、魔力が多いからと言う理由で五百歳まで生きている魔法使いがいたからな」
「五百歳!」
「まあ、本格的に訓練させれば、知能と身体能力は十倍までは伸ばしてやれる自信があるが、やるつもりはない。面倒だからな」
「十倍!で、では、レイレイさんの知力と身体能力はどれほどありますか?」
「さあな、一万倍くらいはあるだろうが、計測する手段がないからな」
「一万倍もですか!素の筋力が大体片腕10kgくらいだとしても、一万倍となると100tは出せますよ」
「マジな話、パンチ一発でこのビルをぶっ壊せるな。まあ、やらねえけど」
「それは……、なんとも……」
「そんなところか」
「分かりました、では次に……」
インタビューは続く……。
最近めっちゃアジフライにハマってる。
それはさておき、これからどんどん酷いネタをやっていく予定です。
僕はついて行けるだろうか、読者のいない世界のスピードに……。
今は女王陛下に謁見するシーンとか書いてる。
これからどうなるんだ、どこに向かってるんだこのssは?!