セフィロトドライブを使うと、人間でも魔法生物でもない上位存在に変化して、膨大な魔力を湯水のように使った力押しができる。
しかし……、俺の練度では、一から十まである内、解放できるのは三つまで。
三つでも、相当な出力を得られるんだが……。
それでも、師匠には傷一つつけられなかった。
クソ、強えぞこいつ。
「まあ、多分、君のセフィロトドライブの四つ目以降が開いたら僕もちょっと本気出さなきゃならなくなるから」
との事だが。
んー、ムカつくな。
多分、ちょっと本気出すってのは、ギアを一段上げるくらいのもんだろう。
底が知れねえぞ師匠は。
「まあ、セフィロトドライブは、使っているうちに馴染むと思うよ」
そうか……。
「必殺技……、武器……、いや、妨害だな」
必殺技はまだ早い。武器は使いこなせる気がしない。なら妨害、デバフだ。
だか、師匠に負けっぱなしでは嫌だ。
俺は負けるのが嫌いだ。
新しい術式を練る。
師匠の城の地下室に篭って研究。
幸いにも、魔導書は基本的に読めば理解できる。
禁書とか禁術とか書かれている欄から読む。
ちょっとヤバいレベルの頭痛とか幻覚とかがあったが、その度に自分で治したり、気合いで耐えて、数百冊読破。
ん?
ああ、俺、英語とラテン語なら読めるぞ。魔導書は新しいものは大体英語、古いものは大体ラテン語だ。
もっともっと古いものは……、なんかよく分からん粘土板に、よく分からん絵文字みたいなの?シュメール?とかそんなのだ。それは流石に分からん。
何故、勉強してない俺が英語やラテン語が分かるのか?
俺の母親がな……。
熱心なキリスト教信者でな。聖書を英語版ラテン語版両方、丸暗記させられたんだ。
その上、怪しい宗教だったから、変なこと色々覚えさせられてな。タロットやらカバラやらに詳しくなっちまった。だから固有魔法にセフィロトとクリフォトの名をつけたんだが。
まあ、母親は結局、多額の負債抱えて自殺したんだけど。
今は親父の仕送りとカツアゲ、バイト(違法)で生活してる。
因みに親父はどこにいるか謎。
職業冒険家とか言って、世界を飛び回っているらしい。
まあ、金くれるんなら良いよそれで。
額は少ねえけどな!!!
その点、師匠はちょいちょい小遣いくれるから、一番好感が持てるな!
っと、こんなもんか。
「師匠ー!師匠ー!模擬戦の相手しろー!」
「はいはい、分かった分かった」
「じゃあ行くぞー」
「良いよー」
「『クリフォトファンクション』始動。『第十虚数セフィラ:キムラヌート』解放!」
「………………は?」
「続いて『第九虚数セフィラ:アィーアツブス』、『第八虚数セフィラ:ケムダー』解放!」
セフィロトドライブは、十、九、八がそれぞれ、概念的な身体能力、概念的な攻撃力、概念的な防御力を上昇させる。
クリフォトファンクションはその逆の能力低下を相手に与える。
「おかしい……、固有魔法を二種類持つだと?いや、違う、元々一つの機能を上昇と下降に分けて使っている……、のか?大元は概念の編纂だろうか……?なんてことだ、新しい導師の誕生じゃないか!あまりにも強力な固有魔法だ!」
師匠はなんか言ってるけど、今がチャンスだ!
「死ねー!!!」
「あ、いや、流石にその程度では負けないけどね?」
「へぶっ」
うーん、セフィロトドライブは自分の能力が上昇する。
クリフォトファンクションは相手の能力がどんどん下降する。
方向性は間違ってねえと思うんだけどな。
「間違ってないよ」
ほら、師匠もそう言ってる。
「でも、君の固有魔法はめっちゃレアだから気をつけてね」
「何に?」
「悪い人に捕まらないようにしてねってこと。助けるのめんどくさいし」
「え?何で悪い人に狙われんの?」
「固有魔法がレアだから」
ふーん?
固有魔法、その名の通り、そいつ個人が持つ魔法のことだな。
「単なるバフとデバフがレアなのか?」
「単なる……?」
普通だろ?
「いや、超レア」
「そうなのか?でもゲームとかじゃ普通に使ってるじゃん」
「まあ、君がそう思うならそれで良いけど……。見る人が見れば分かるから、外ではあんまり使わない方が良いよ」
ほーん、そうなのか。
「そうそう。危ない人に会ったら逃げようね」
「おう」
にしても……。
「危ない人ってどんな奴だ?」
「ちくわ大明神」
「……こんな奴かな」
……ん?
ん?!
「だ、誰だこいつ?!」
「アニマくーん?駄目じゃないかー、久し振りの弟子なら私達に見せに来るのが筋ってもんじゃないのかね?」
「だーから嫌だったんだよなあ……。何で出張ってくるかね、テンプス……」
「仕方がないじゃないか。私は最初からずっと見ていたんだから」
「いや分かってたけどさ……」
ぐちぐちと文句を言う師匠。
「で、誰なんだよこいつは」
俺が尋ねると。
「おや、口が悪い」
と言い返してくる。
師匠は、地面につく程長い金髪と胡散臭い微笑みが特徴で、「え?お前は魔法使いってかブラック◯ャックでは?」みたいな、黒尽くめのロングコートを着ている。ロングコートの下は洒落たカーキーのベスト、赤ネクタイ、黒いズボン。夏でもそんな感じなので見ているこっちが暑い。そして謎の材質のオシャンティーな杖?ステッキ?を持っている。
一方で、テンプスと呼ばれたこの男は、真っ黒い髪に真っ黒い縁の丸眼鏡、そして真っ黒ローブに真っ黒い魔法使いの三角帽子。ローブの裏地は紫で、他にも紫のリボンやら刺繍でローブや帽子が装飾されている。ローブの下は白いシャツと黒いズボン。キツネ色の旅行鞄を持っている。
さて、何者だろうか。
「私はテンプス。始まりの五人の一人さ」
「は?」
何それ?
「……あ!アニマ!君、話してないね?!」
「あーあーあー聞こえなーい」
「はぁー?君アレでしょ?!自分の事も碌に話してないでしょ?!」
そういや、師匠とプライベートな話はしても、あんまり自分のこと話さなかったな、師匠は。
「良いかい、志導君!こいつ、悪い奴だから!君の固有魔法は『概念編纂』。ほぼほぼやろうと思えば何でもできる万能の力さ。でも、このアニマって奴は、自分の後継者にする為に君を弟子にしたんだ!だから僕の弟子になろう!生命分野より私の時空魔法を習った方が絶対に良い!」
「お、おう」
そ、そうですか。
「いやいやいやいや!生命魔法の方が良いって!自分好みの美少女でハーレムできるし、めっちゃ稼げるし!」
「何言ってんの?!生命魔法なんて科学の発展で廃れていくに決まってるじゃないか!」
「そんなこと言ったら時空魔法なんて地味だし面白くないし!」
「はあ?!派手なこともできますけど?!」
何だこいつら。
訳分からん。
「志導君ー!私の弟子になろう!時空魔法は凄いよ!君なら一年も修行すれば時間の逆行と加速、空間転移くらいまで覚えられる!そうすれば凄いぞ!何処へでも行けていつにでも行ける!出来立てホヤホヤのエッフェル塔とか、未来の都市とか観光し放題だよ!」
ふーん。
「転移魔法は便利そうだな」
「教えるよー!ガンガン教えるよー!」
「いやいや、転移くらいなら僕が教えるから。君は帰って良いよ、マジで」
「狡いぞ!『概念編纂』持ちを独り占めするなー!他の三人にも告げ口するからな!……はい告げ口した!」
「あー!やったなー!」
さて……。
「で、何の話だ。最初から話せ」
取り敢えず落ち着いて一呼吸。
そして、話される衝撃の真実。
「良いかい、志導君。魔法使いの歴史の話だ」
「そういや聞いたことないな」
「まず……、地球で人間が文明を作る前の頃。最初に五人の知恵ある者達がいた」
「ふむ」
「五人は、それぞれの研究分野を、『元素』『時空』『生命』『運動』『器物』に定め、探究を始めた」
「うむ?」
「そうして探究の果てに、『魔法』を生み出し、世界で一番初めの魔法使いとなった」
「あー……」
じゃあ、つまり。
「そう。私達が、全ての魔法使いの原点。『始まりの五人』だ」
そう来るか……。
「それでね、それでね?基本的に普通の魔法使いは、私達五人のことを『導師』って呼んでめっちゃ尊敬してくるんだけど、基本的に、生命魔法の使い手は生命のことを何とも思ってない腐れ外道ばっかりで、人攫いして人体実験とかやってる奴ばっかりだからね」
「時空魔法使いは勢力としては一番小さい上にそんなに強くもないよ!やめた方が良いよ!」
「うるさいよアニマ!」
えぇ……。
ってか、人体実験否定しないのかよ。
「まあ、そりゃ僕も昔は大分色々やったよ。でも、基本的に悪い奴しか使ってないよ?」
怖。
「いや本当に!山賊とか殺人鬼とかちょちょっと捕まえてきてお腹ばさーってやるだけだから!」
「殺してるじゃん」
「極力元に戻すように配慮してるよ」
成る程、元に戻してない、と。
うーん、アニマの弟子になったのは失敗だったか……?
ああ、ジョジョ良い、めっちゃいい。