ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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チョコレートうめー。


閑話 サン=ウリエルの冒険者

フランス、サン=ウリエル……。

 

現在の人口は二万人。

 

主要産業は小麦の生産。

 

農作が盛んで牧場もあり、チーズを生産している。

 

マルセイユから車で一、二時間ほどの地にある、プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュールの、このサン=ウリエルは、広大な農地とチーズ工場がある、田舎町である。

 

私は、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュ……。

 

このサン=ウリエルにて、葡萄畑を経営している貴族の家系の男だ。

 

 

 

私の家系は、代々この葡萄畑を経営して、ワインを作っている家系だ。

 

世界崩壊時に色々と苦労はあったが、それでも、葡萄畑の経営とワイン造りは今も続けられている。

 

何せ、皆、逃げなかったからな。

 

どうやら、田舎にはあまり強いモンスターは現れないらしい。

 

パリは、もう二度と復興できない程に破壊されたが、この周辺はそこまでの被害はなかった。

 

しかし……、テレビで燃えるパリを見ていた私は、この美しいフランスをモンスターなどというふざけた存在に蹂躙されてたまるかと強く思ったのだ。そして周囲のモンスターを倒した。

 

短慮だったとは思うが、攻めてきたゴブリンの群れからこの葡萄畑と牧場を守るには、我々人民が戦うしかなかった。

 

フランスはフランス人民の国だ。

 

圧政や理不尽に対しては、我々自身が武器を手に取り戦うべきなのだ。

 

そうして、私が指揮をして周囲のモンスターを倒した後に、屋敷に残っていた、美術品の洋剣を手にして、皆でダンジョンを攻略していった。

 

そんな我々は、世間では冒険者と呼ばれる存在らしいと風の噂で知り、改めて冒険者と名乗り、ギルドを作り、この理不尽に対して抗っている。

 

 

 

フランスは現在、暫定首都をトゥールーズに置き、人民の保護を第一に行動しているようだ。

 

ならば、我々冒険者は、フランスの都市を奪還するために戦うべきだろう。

 

マルセイユはレベル五十帯のモンスターが湧いているようだ。

 

今、私もレベルは五十五あり、奪還するのも夢ではないと思える。

 

その為には、私が更なる研鑽を積み、他の冒険者の成長を待つ必要がある。

 

確かに私は、頭に血がのぼって、街に現れたモンスターを殺して回るような、いわゆる単細胞だ。

 

だが、自分一人で世界を救えると考えるほど自惚れてはいない。

 

それとは別に、私の中には焦りがある。

 

一刻も早くフランスを人民の手に取り戻したいのだが、モンスターはあまりにも強大な存在だ。

 

果たして、私が死ぬまでに、どこまでフランスを奪還できるか……。

 

いや、やめておこう。

 

私は、今私にできることを全力でこなすだけだ。

 

 

 

さあ、今日もレベル上げに励もう。

 

レベルは、上がれば上がるほど、上がりにくくなる。

 

一年で私はレベルを五十五まで上げたが、レベル五十から五十五に上げるまでに二ヶ月程かかった。

 

毎週のように、ほぼ自分と同等のレベルがあるモンスターと命懸けで戦って、それだ。

 

つまり、レベルは上がれば上がるほど、加速度的に上がりにくくなっていくということ。

 

もし、レベルの上限が百だったとしたら、そこまで上げるには、完全に人間をやめなければならないだろう。

 

人間の寿命ではレベル百まで戦い続けられないし、人間の力ではどう頑張っても最高レベルモンスターの狩りでレベル上げはできない。

 

まあ、できないならできないで、やりようはあるさ。

 

最低でも、私の代でマルセイユまでは奪還するぞ。

 

そんな思いを胸に秘め、私はモンスター馬に乗ってマルセイユ近辺まで来ていた。

 

モンスター馬……。

 

どうやら、モンスターとは、魔力の篭った魔石を食べるが、生態は基本的に動物に近いようだ。

 

よく、ファンタジー小説で語られるような、闇の眷属などと言った不明瞭な存在ではない。

 

一部、ゴブリンやオークのような、本当にヘドが出るような邪悪もいるが、レベルの低いモンスターは、こちらに攻撃せずに逃げ回ったり、懐いたりすらする。

 

この、モンスター馬も、普通の馬と同じような生態をしている。

 

これは、私の愛馬のユニコーン。

 

名前はエデンだ。

 

彼に跨り、ステラダイトのランスを持って駆け出す。

 

私は、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュ……。

 

聖騎士《ホーリーナイト》の冒険者だ。

 

 

 

「フォルジュ様!」

 

「お帰りなさい、ムッシュ・フォルジュ!」

 

「パラディンの帰還だ!」

 

全く……。

 

「やめてくれたまえ、閣下などと。確かに私は貴族の家系だが、フランスに貴族という身分はもうないとも」

 

街の住人にフォルジュ辺境伯などと持て囃されるが、私とて、単なる人民の一人。

 

確かに、いの一番に逃げたこの街の市長に代わって、行政の仕事を果たしてはいるが……。

 

「何を言いますか!世界崩壊の折、自らモンスターを倒すために先陣を切り、逃げた市長に代わって政をして、警察官をまとめ上げて騎士団をお作りになった!我々は国よりもフォルジュ様を信頼していますよ!」

 

「それにしたって辺境伯はないだろう……」

 

「それですがね、閣下。実は、フランス本国から、このサン=ウリエルを閣下の領地にしないかと内諾がありまして」

 

「領地だと?!」

 

馬鹿な、フランス革命はなんだったのだ?

 

「はい、それが、フランス本国は、もう既に、暫定首都であるトゥールーズを防衛する他に、アキテーヌ地方のいくつかの周辺都市をまとめるので精一杯なのです。ですから、こちら側の遠方の地方は、各地の有力者が自治と言う形にすべきだと言う話が」

 

「馬鹿な……」

 

私が領主だと?

 

「四月には本決まりだそうですから、閣下は名実共に辺境伯になるのですよ」

 

うーむ……。

 

「……分かった。人民がそれを望むならば、やろう」

 

「おおっ!フォルジュ様!」

 

私は、アベル・エドガール・テオフィル・フォルジュ……。

 

どうやら、辺境伯になる男らしい……。

 




ああ、そろそろ書き溜めが……。

次はクラフターかな。

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