「ふん、冒険者か。モーントリヒト様は兎も角、貴様ら賎民はこの俺様、ゲド・ワルバッドに会えたことに感謝するんだな」
「ご主人様は、会えて嬉しいですと仰っていますにゃ」
おぉう。
これまた濃いキャラ。
金髪の、少しばらけたオールバックに貴族然とした服に金糸飾りの黒マントの青年。
これがワルバッド卿の息子、ゲドだろう。
そして、魅惑の猫耳ミニスカメイドちゃん。
「にゃ、申し遅れました。私、ゲド様の愛人のシンシアですにゃ」
可愛い……。
「貴様、いつから俺様の愛人になった……?」
「いやーん、ですにゃ。昨晩も愛していただけたのににゃあ」
「……黙っていろ馬鹿者」
抱いたのか。
さて。
「ゲド、お前は夏休みで実家に帰ってきている訳だ」
俺が確認を取る。
「口の利き方がなっていないな、賎民」
「そうです、とご主人様は仰っておりますにゃ」
「じゃあこうしよう。俺達がこの夏休み中に、お前がグリーンドラゴンを倒せるようになるまで特訓する、と言うのはどうだ」
「……愚かな、そんなこと、できるはずが」
「いや、不可能ではない」
リヒトが口を挟む。
「ゲドよ、貴様が研究していたあの術式を完成させれば、単身でグリーンドラゴンと互角に戦えるだろう」
「ッ、リヒト様、あれはまだ未完成で」
「ならば、この休暇中に完成させるぞ」
「そ、それは……」
うーん、そのね。
まず、俺達は別に貴族様にお仕えしたりなんてしたくない訳よ。でも、やらないと勧誘がうるさい。そこで、貴族でもまともな方のワルバッド卿の下で仕事する。
とっととSランクになって、やめたいところ。
しかし、やめるにも、最低限の義理は果たすべきだ。
ワルバッド卿の頼みは、現地人の強化。
ならば、その中でも一番見込みがあるゲドを強くすることが近道じゃないかな?
と、そう言うロジック。
いやね、本当に為になるのは講習会とか開いて、ワルバッド領の冒険者の平均レベルを上げることだろうけどさー。
戦闘能力の平均レベルを上げるってどうやるんだ?
そんな都合のいい話はないよな?
じゃあ、現状で一番見込みがあるゲドにブートキャンプするっきゃないでしょ。
と言う訳。
「まず、手っ取り早く人を強化するなら、武器だな」
俺がリヒトに告げる。
「ふむ、道理だな。それと、身体能力を上げる装備などが候補に上がるだろう」
リヒトが助言。
ヴィオラとカインは生産的な話は基本的にできないので、そこら辺で駄弁ってる。
まあいいよ、できないことを無理にやることはないからな。
それで、武器や装備を作る話だが。
「ふむ、ミスリル……、欲を言えばオリハルコンの剣なんてどうだ?」
「何を……、ミスリルなら千万ゼニー、オリハルコンなら一億ゼニーはしますよ!」
と、ゲド。
俺は脳内を検索する。
『オリハルコンソードフィッシュ』Sランク海獣。全長5メートル、剣状のツノにオリハルコンを含む金属片を纏う。ソードフィッシュの超希少個体。
成る程。
ならば、このオリハルコンソードフィッシュのツノを出せば良いのか。
「リヒト、オリハルコンはこれで良いか?」
「……ふむ、十分だ。これを錬金術で成形する」
リヒトが手をかざすと、オリハルコンソードフィッシュのツノは形を変え、ロングソードに形を変えた。オリハルコンの金色が眩しい。
「それと、高濃度の魔力が篭った魔石だ」
うーん?
「具体的にどんなのが良いの?」
「ふむ……、貴様が水に関わるものしか出せないのならば……、水属性の龍の宝玉が良いだろうな」
宝玉……、ああこれか。
「ほらよ」
「上々だ。これを鍔に埋め込み……、魔剣にする」
すると、無骨なロングソードがうねり、形を変え、豪華な装飾の魔剣になった。
いや、魔剣とか別に見たことないけど、目の前のこの剣はあからさまに魔剣だ。魔剣ですと主張してきている。
「柄と鞘の皮」
脳内検索。
『ライオット・モビーディック』Sランク海獣。全長100メートル。アダマンタイトに匹敵するほど硬い皮が特徴。
これだな。
「はい」
「ふむ、良いぞ。これを錬金術で加工して、柄と鞘に貼り付ける。ついでにベルトも作ろう」
「錬金術って便利だな、加工の概念ぶっ壊れる」
「お前のスキルには負けるぞ」
そう?
さて、五分で出来上がった魔剣の説明をしてもらう。
「これは魔剣だ。常に刀身から水が湧き出ていて、斬れ味も鋭い。魔力を込めれば水を纏う」
ふむ。
「錆びねえの?」
「オリハルコンは錆びない」
「剣の名前は?」
「……考えていないな、何か案はあるか?」
じゃあ……。
「デュランダルなんてどうよ?」
「悪くないな、ではデュランダルだ。ゲド、振ってみろ」
「な、そんな高価なものを!」
「見ての通り元手はタダ同然だ、良いから使え」
「……はい」
ゲドは、問題ないとのこと。
「では調整の必要はないな。次、鎧か何かの装備品を作るぞ。シグナル、素材を。オリハルコンと皮を」
「まあ待てよ、貴族様が鎧なんて早々着ないんじゃねーの?」
「ではどうする?」
「俺はさ、子供の頃変身ヒーローが好きでな」
「変身ヒーロー?」
つまり、だ。
「例えば、ベルトか何かを触媒にして、一小節の詠唱で全身鎧を展開する、とかできるか?」
「……ふむ、貴様の発想は面白いな。それならば、場所も手間もかからない。やるか」
「あと、それと強化外骨格だ!」
「強化外骨格?」
「つまりさ、鎧側に筋肉をつける、みたいな」
「……機構は少々複雑になるが、不可能ではないな。成る程、それで変身ヒーロー、か。言い得て妙だな」
そして作られた強化外骨格。
オリハルコン製。クラーケンロードの筋とライオット・モビーディックの皮、水龍宝玉も使った。
「ゲド、このベルトを巻いて、ベルトの宝玉に触れ、変身と言え」
「はい……、変身……」
するとみるみるうちに姿は変わり……!
『?!!!』
変身ヒーローになった。
やったぜ!
ライダーとか、好きです。