「こ、れは……!!!聖痕じゃないか!!!」
サルビアにナノマシンを注入した。
「わ、私は聖人になったのか?!」
サルビアは胸を見る。
この時代の人間が言う聖人とは、ナノマシン保有者のことで、聖痕とは、ナノマシン保有者の身体に浮かぶナノマシン企業のロゴと型番である。
これは、俺の特製のナノマシンなので、企業ロゴではなく、俺の研究所のマークである、『ピンクの機械部品でできたハートマークに黄色のイナズマ』というロゴマークである。
その下に、型番である、『Xander
model “EX_S” EX NUMBER 2 / EARTH 5579 08 17』の文字が刻まれる。
因みに、俺のナノマシンのロゴマークは左胸に出る。
ロコブ社の軍用ナノマシンは右手の甲に、エストニック社の医療用ナノマシンは右肩に、ノーザンウォード社の寒冷地仕様ナノマシンは左頬にロゴが出るぞ。
俺特製のナノマシン、『イクスエス』は、平均寿命千年(人間の場合)と、解毒作用、健康管理作用、超速再生作用、身体能力強化倍率十倍、魔力回路増幅十倍、思考力十倍、記憶ストレージ五十倍、カフェイン自動生成、半球睡眠可能などなど、汎用的だが高性能で知的階級には特に嬉しい内容になっている。
自慢じゃないが、『イクスエス』は、市場で買うと三千万ドグラマはする最高級モデルだ。
最も一般的なナノマシンである、パーセプター社の汎用型、『イージーエイト』では、平均寿命二百年、弱めの健康管理作用、身体能力三倍、魔力回路三倍ってところだ。
イージーエイトなら、ナノマシンアンプル一本で五万ドグラマくらいかな?
ロコブ社の軍用モデル、『アストレイ』で三十万、佐官用ハイエンドの軍用モデル、『カラミティ』で三百万ってところか?
とにかく、俺のナノマシン、『イクスエス』は超高級品の最高モデルだと思ってくれて構わないってこと。
そんな話をサルビアにしたら。
「????」
全く何も分かりませんと言わんばかりのアホ面を見せてくれたよ。
「はあ……、一旦、家に帰るぞ」
俺は、サルビアの腕を掴み、家に転移した。
「は……?こ、こは?」
「俺の家だ」
俺が言った。
「神殿です」
イリスが言った。
「イリス、サルビアの教育を任せていいか?」
「はい!神の使徒は、たくさんいた方が、良いですから、ね!」
俺は、サルビアの部屋を作ってやり、イリスに一週間、教育を任せた。
これは、イリスがどこまで教育ができるようになったかを見るためでもある。
そして、一週間後。
「教育はどうだった、サルビア?」
「はっ!偉大なる錬金神、ザンダー様の使徒にしていただけて幸せでございますっ!!!」
ふむ……。
洗脳されている……!
まあ、問題はない、か?
「跪かなくて良いよ」
「いえっ!まさか、私を救ってくださったのが、偉大なるザンダー様だとはつゆ知らず!今まで失礼を!」
「気にしなくて良いからね。えーとね、サルビア、君には、俺の国で教師をやって欲しいんだ」
「嗚呼っ!神の作る国の礎になれるとは!幸せでございます!」
うーむ、忠誠ゲージがビンビンだ、もっと緩く行こう。
「必要以上にへりくだらなくても良いって」
俺はサルビアの頭を撫でてみる。
「あっ……」
サルビアは、少し照れているが、されるがままだ。
「わ、私は、奴隷の身分から拾っていただき、その上、最上級の聖人にまでしていただき、そして、神にお仕えするという栄誉までくださったザンダー様に忠誠を誓います!」
うーん。
「お願いします、どうか、私を使ってください!」
まあ、そこまで熱心に言うなら……。
と言うか、元々、元冒険者としての立場からのアドバイスが欲しかったから買ったんだしね。
あと見た目が良かったから。
顔に傷があるところがチャームポイントだよね。こんな傷モノ美女を口説いて「私の顔、醜いだろう……?」みたいなことを言うサルビアに「そんなことはない、可愛いよ」とか言って優しく愛して……。
まあ、そんなことも考えていた訳だな。
「サルビア」
俺はサルビアを抱きしめる。
おー、やっぱ結構胸あるなー。
「ザンダー様ぁ……」
うっとりしているサルビア。
頭を撫でながら、俺はサルビアに諭すように言う。
「サルビアみたいな良い子がうちの従業員になってくれて嬉しいよ。でも、あんまりへりくだり過ぎないでね、寂しいから」
「分かりましたっ!」
よし、じゃあ……。
「サルビアは、冒険者の時にどんな武器を使ってたんだ?」
「私は、槍と剣を使っていました。それと、二階位までの魔法も少々……。状況によっては、メイスと斧も使いました」
へー、それで銀級のベテランか。
にしても、メインが槍で他多数って……、ますますあのマゾ女を思い出すな……。
キチガイマゾ女、アルバトス。
三度の飯より殺し合いが大好きで、自分と戦った奴につけられた傷は治さずに痕をわざと残して、おまけに傷をつけた奴のことを一人一人記憶しているバトルジャンキーマゾの変態だ。
この茶髪と言い、顔の傷と言い……、サルビアはどことなく、アルバトスを思い出させる。
それはさておき。
「槍ってどんな感じ?十字槍とか?」
「ええと、両刃の、斬撃もできる槍と、剣はファルシオン、魔法の杖替わりに指輪を、鎧は革鎧でした」
ふーん。
「じゃあ、今日は、サルビアの装備を作るから調整に付き合ってね」
「ええっ?!ま、まさか、私に神器を……?!」
神器って程でもないけどねえ。
単なるCランク民間用魔導具を渡すつもりだ。
でも、俺の基準でのCランク民間用魔導具は、この時代では国宝級らしい。
俺は、サルビアと共に、家の庭に出る。
庭は、無限に広がる白い空間だ。
そこに、ターゲットドローンを配置する。
「まず槍ね、長いと邪魔だろうし、ステラ合金と魔化合成ポリマーで伸縮可能にして作るよ」
白銀の穂先に、電子回路のような青い線が走る高周波ブレード。青い合成ポリマーの柄は、二十センチから三メートルまで伸縮可能。石突には魔結晶を仕込み、省エネ化。
「す、凄い……!こ、これほどの物を私に?!」
「それと剣ね。こっちはヴェヌス合金製の高周波ブレードにしておいたよ」
ステラ合金に並ぶ超硬金属、ヴェヌス合金。金色の合金で、ステラ合金よりも重くて頑丈だ。重さを生かして叩き斬る武器に最適だな。このファルシオンは、金色に青のラインの走る、幾何学的な形状の剣になった。
「こ、これは黄金ですか?!」
「いや、ヴェヌス合金って言う、丈夫な金属だよ。まあ、黄金より高価だね。あと、この剣は柄のセレクターを回すと、メイス形態とアックス形態にもなるよ」
「す、凄い……!」
「次は、指輪の代わりにハンディパルスキャノン付けようか」
「は、はんでぃ……?」
俺は、ハンディパルスキャノンの実演をする。
ハンディパルスキャノンは、布のような柔らかさと超硬金属としての丈夫さを兼ね備える流体超合金、メルクーア合金でできている。
普段は、シンプルな金属製の青い腕輪の様な形をしているが、バックルの部分を九十度回すと戦闘モードに変形する。
戦闘モードでは、幾何学的な形状の極薄のガントレットになり、人差し指を向けた状態で親指を曲げると、指先から電磁パルスの砲弾を射出する射撃武器になっている。
実演して見せると……。
「な……、何ですか、それは?!」
「大体、四階位魔法に相当する威力の電撃の球を射出するんだよ。ガントレットとしても、民間モデルの刃物は防げる」
「こ、こんな素晴らしい神器を……、私如きに……?」
「良いよ別に、いくらでも作れるし」
「ありがとうございますっ!」
土下座された。
「いいよいいよ、頭上げて」
それと、服ね。
耐刃耐衝撃防弾の半袖シャツとズボン。
「これ、丈夫だから鎧はいらないよ」
「はいっ!ありがとうございます!」
よし、これでオーケー。
辛いものは、毒。