流行れ。
私は忌み子だそうだ。
灰色の髪と青の瞳を持つ狼獣人の中で、私だけ、黒い髪と紫の瞳を持って生まれたから。
両親は、正常な狼獣人だった。
なのに、私は、私だけ、黒かった。
更に、瞳が美しいほど良いとされる狼獣人の中では特に、その紫の瞳が酷く忌避された。
色が違う、それだけだけれど、それが全てで。
私は、他の兄弟と違って、愛されることなく育った。
毎日、朝から晩まで働かされて、それでいて食事の量は他の兄弟の半分とない。
親兄弟だけではなく、村中の人々からいないものとして扱われ。
唯一、匿ってくれるおばあちゃんが、寿命で亡くなった頃、私は。
「もう成人だろう、出て行け」
家を、追い出された。
もちろん、行き先なんてものはない。
身内は頼れない、友人だっていない。
一人で生きる力も知恵も。
私には何もない。
そして。
「おい見ろ、黒毛の獣人だ!珍しいな、高く売れるに違いねえ!」
今は、尊厳さえ、なくなるところだ。
奴隷狩りに捕まった。
普通は、奴隷になれば、死ぬまで炭鉱送りか、性奴隷。
もちろん、数年で怪我や病気で死ぬだろう。
私の、人生。
なんだったんだろう。
私は檻に入れられて、鎖で繋がれて。
罪人のように運ばれる。
この森を抜ければ、街だ。
そこで、私は売られる。
嫌だ。
「たす、けて」
祈った。
私は祈った。
何度目かは分からない。
人生の中、何度も神様に祈ってきた。
それでも、救われることはなかったが。
けれど、私を救ってくれるのは、もう、神々しかいない。
他に頼るべき存在を知らない。
だから、神様。
助けてください、神様。
神様……。
「んん?おい、貴様!」
「え?何?」
それは、聖者だった。
男性。
長く伸びた金髪。
独特の模様……、後で聞いたものだが、歯車の形を象った黄金の瞳。
長身痩躯。手足はすらりと長いが、食べられないから痩せているのではなく、元から太らないから痩せていると感じる体躯。
見たことのない素材と作りの黒服に、白の外衣……、白衣を羽織る。
白金の腕輪は、木漏れ日を浴びてきらりと輝く。
噂に聞く、聖人というものだろうか。
いや、それにしたって、あまりにも神々しい。
神聖な気配が察せなかった奴隷商人は、愚かにも、目の前の白い聖者を害しようとするが。
「え?これ、殺して良いやつ?良いんだよねこれ?」
ぱん、と乾いた音が鳴る度、倒れ伏す。
あまりにも、簡単に振るわれる神威。
偉大な力。
奴隷商人は一人残らず、死んだ。
「あの、君は何やってんの?学校は?」
学校?よく分からないけれど……。
このお方はきっと、神様が私に遣わしてくれた聖者だ。
聖人様、どうか、私を。
「助けて、下さって、ありがとう、ございます。さぞ、力のある聖人様なのでしょう」
「は?いやいや……」
「わた、しは、親に捨てられ、故郷を追われた身、です。よろしければ、私を」
拾ってください……。
「……捨て子、か。スラムとか今時見ないからなあ、孤児なんて見たことねえわ。でも、そうか。君は一人なのか。じゃあ、分かった。ついておいで」
「俺はザンダー・ノーハートだよ」
私を救ってくださったのは、錬金神ザンダー様だった。
普通ならば、神の名を騙る冒涜者と謗られるだろう。しかし、その神威と、私の身体を作り変えた圧倒的な、それでいて不思議な力を見ると、その言葉は間違っていないと確信できた。
「ああ、神様……!!」
「え?俺神様なの?」
神様は、自分が神様であることを知らない様子だった。
なので、私は、錬金神ザンダー様の伝説を語り伝えた。
何千年も昔、人々は今よりも優れた存在……、皆が聖人だった。
聖人とは、丈夫な身体と、魔法を自在に操る魔力、高い身体能力、そして長い寿命が特徴の存在だ。神の祝福を受けるとなれるらしい。
そして、聖人達の中でも特に優れた存在を、神々と呼んだ。
神々はそれぞれ、『錬金神ザンダーの難題』を達成して、神器を得て、邪神戦役において邪神を討ち果たしたのだ。
「は?何それ」
順に話した。
錬金神ザンダーの難題、とは。
錬金神ザンダー様が、他の神々に神器を与えるために課した試練のことだ。
例えば、剣神アレスは、全てを斬り裂く剣を欲した。
すると、錬金神ザンダーは、世界の果ての何処かにあるという伝説の金属、オリハルコンを持って来いと言った。
詳しくは、英雄譚であり神話である『アレス・サーガ』にて語られるが、剣神アレスは、世界を巡る大冒険の末、オリハルコンを得た。
そして、錬金神ザンダーは、そのオリハルコンを使って、光り輝く剣を作った。
それこそが、伝説の神器、『カレイドヴォルフ』である。
カレイドヴォルフは最強の剣であり、金色に輝く刀身、紅い宝石の埋め込まれた鍔、黒革の巻かれた柄を持つ美しい見た目をしているそうだ。
そしてそれは、黒塗りの鞘と共にあり、一度抜き放てば空間や時間すらも斬り裂くと言い伝えられている。
「あー、カレイドヴォルフね。作ったわ。あれ、五重格子ゼラ・オリハルコニウム製の魔剣ね。あれは傑作だった。十階位魔法ディメンション・スラッシュをエンチャントして折れない曲がらないマジでなんでも斬れる剣なんだよあれ」
そして、邪神戦役では、そのカレイドヴォルフを使って、邪神を討ち果たしたのだとか。
「なんだそりゃ」
「ご存知、ありませんか?」
ザンダー様は、時を超えてここに来たと言う。
ならば、邪神戦役のことを知らなくてもおかしくない、のだろうか?
ザンダー様は、その圧倒的なお力で、新たな世界を作り、神々の住まうような神殿を建てた。
その神殿の壁に手を翳すと、瞬きする間に扉ができていた。
「こ、れは?」
「ああ、君の部屋」
扉を開けると、見たこともないものが沢山ある部屋があった。
後で聞いたけど、冷蔵庫や電子レンジ、IHヒーター、エアコンと様々なものがあった。
「神殿に、私の、部屋を?」
「神殿ってほどでもないよね、歴史的価値はないし」
「それ、では、私は、巫女ですか?!」
神殿に部屋を持つだなんて、巫女様くらいじゃないと不可能だ。
と、言うことは、まさか、ザンダー様の巫女に選んでいただいた?
「巫女?うん?あー?ま、まあ、いいんじゃない?よく分からないけど」
その後、私は、神々の叡智、そして力、神器を授かり、聖人にしていただきました。
左胸に浮かび上がった聖痕は、聖者の証だと聞いたことがあります。
「いや、それ、聖痕なんて上等なもんじゃないよ。注入したナノマシンのタイプとバージョン、それと企業のロゴマークね」
その後は、ザンダー様の元で、修行に励んだ。
才のない私でも、ザンダー様の素晴らしい教えと、頭に直接送り込まれる叡智で、剣と魔法を自在に操れるようになっていた。
毎日の食事で、痩せ細った貧相な身体も大分肉がついた。
生活は素晴らしく、毎日三回、暖かなスープとふっくらしたパン、そして肉汁の滴る肉と新鮮な野菜と魚介をお腹がいっぱいになるまで食べられ、その上でさらに甘いおやつと言うものも食べさせていただいた。
ベッドは柔らかくて暖かく、寒い日は温風を、暑い日は冷風を出すらしいエアコンなる魔道具を私の部屋に置いてもらい、毎日好きなだけぐっすりと眠れた。
シャワーとお風呂と言う、暖かな水を贅沢に使って身を清めることも許され、空いた時間にはアニメやゲームと言う娯楽を楽しむこともできた。
偉大なるザンダー様は、私のことを可愛がってくださっている。なんとお優しい方なのだろうか。
「思えば、今まで助手を作ろうとは思わなかったな。ちょっと緊張するわ」
ザンダー様に何かお返しをしなくては……。
しかし、私は何も持っていない。
ザンダー様に捧げられるものなんて持っていない。
何も、お返しできない。
唯一、あるとすれば……。
「ザンダー様、私を抱いてください……」
「え?まあ、良いけど」
私は、ザンダー様にこの身体を捧げた。
神の巫女として、この身を捧げたのだ。
ザンダー様は、抱く前に、自分は神ではなくただの人間であることや、神々も元は人間であったことなどを説明して下さいました。
つまり、人から神へと転じたということ。
一体、どれ程の徳を積めば神に至れるのだろう?
私もあやかりたい。
「いや、徳を積むも何も……、神っぽいことなんてやったかな?」
「何もないところから物を出したり」
「物質生成でしょ?アース民なら誰でも物質生成装置持ってるってば」
「世界を作ったり」
「異次元生成なら軍の上層部とかも使ってたって」
「神器を作り出したり」
「魔道具でしょ?これくらいなら工学系の院卒なら誰でもできるよ」
「……何でもできます。ザンダー様は神様です」
「何でもはできないよ、できないことも多少はあるよ」
「あるんですか?」
「多少は」
私は、できないことの方が多い。
ザンダー様にはできないことの方が少ない。
やはり、神様……。
ザンダー様。
こんな私を拾ってくれた神様。
一生お仕えします。
最近SteamのMONMUSUって言う虚無エロゲやってます。