アソシアの森にて。
「リヒト、探知魔法よろ」
「分かった」
リヒトに丸投げする。
探知魔法レベル5とのこと。
つまりは人間レーダーだ。
「あっちにオーガらしき反応がある」
「良し、行くぞ」
「あ、待って下さい!」
疾風の翼だったか?Bランク冒険者の言葉を聞き流して先に進む。
「なあシグ、見てくれこれ、王都で人気の恋愛小説らしい。全部読んだんだが恋愛とは難儀なものだな。好いている相手に気持ちを伝えることができんものなのか、人間は」
「そこはほら、駆け引きとかさ、色々あるんだよ」
「私はシグのことが大好きだと正面から伝えられるぞ?何者にも憚る必要はないからな」
「世の中は力だけじゃどうにもならねえことが多々あんのよ。ヴィオラもいつか分かるさ」
「ふむ、そういうものか。……シグ、お前は私が好きか?」
「そりゃ、まあ、好き、だぞ?」
「……ふむ、参ったな。シグに好きと言われるとかなり嬉しいぞ。一日一回は言うようにしてくれ」
「そんなアメリカンな……」
ヴィオラといちゃつきながら森を行く。
うーん、こちとら学会の鼻つまみ者、異端者、奇人変人であるからにして。ストレートに好意を伝えられることは中々なかった。
こんな風に面と向かって好きだと言い合うのは気恥ずかしいし、慣れないな。
「ヴィオラちゃんは可愛いけど、僕は外見年齢にプラス十歳ほどしてもらえないと……」
「私は逆にマイナス十歳ほどしてもらえないと……」
黙れ熟女好きチスイコウモリとロリコン耳長。殺すぞ。
「お、おい!ここは危険度Bランク相当のアソシアの森の中なんだぞ?!もっと緊張感を……」
疾風の翼の剣士の男が口出ししてくるが……。
「この程度の森で警戒も何もあるか」
「っ、リヒト様……!貴方にとってはそうかもしれませんが、他の者は違うでしょう?!」
「いや、こいつらは私と同格だぞ?こんな森、その気になれば更地にできる」
「まさかそんな……!」
戦慄する剣士を横目に、俺達はずんずん進む。
やがて……。
「おっ、あれじゃね?」
「ああ、あれがオーガだ」
オーガを発見した。
「ま、不味い、逃げなきゃ……!!」
「は?いやあれターゲットでしょ、逃げちゃ駄目じゃん」
「何を言ってるんですか?!ここは、オーガの巣ですよ!!!」
だから何だってんだ。
「オーガが十数体に……、Aランク相当のオーガジェネラルまで!!僕達に手に負える敵じゃない!!!」
「ああそう、じゃあ下がってろ」
俺は一歩前に出る。
当然、格闘技やなんやは習得してないから、構えは適当だ。
でも流石に棒立ちは不味いだろうって事で、腰を軽く落とすくらいはしている。これで少し動きやすいかなあ、って感じかね。
あと脱力が大事だって宮本武蔵も言ってたような気がするし、肩の力は抜いている。
つまりは、両足を肩幅より大きいくらいに開き、腰を落とし、両腕を垂らした構え。文章にすると完全に怪しいやつだが、戦っているうちにこの形に落ち着いた。
そもそも、俺はエロエロの実の触手人間。態々人間の骨格でものを考える必要はないのだ。
格闘技というのは人間の技であって、触手人間は人間の技に倣う必要性がない。
さあて、行くか。
「そら」
振り子の要素で軽く腕を動かしたら、そのまま触手に変え、しならせ、鞭のようにオーガに叩きつけた。
先端の速度は軽く音速を超える。
その上、特殊合金をひん曲げるほどの筋力で放つんだ。
つまり、物理学的に何が起こるのか?
……爆音。
『ゲアッ』
「シグ、それうるさい」
「うるさっ!」
「む」
衝撃波だ。もちろん、触手の先端に触れたオーガは、大音量の爆発音とともに弾け飛んだ。
「な、何だあれは……?!」
驚愕する剣士を他所に、カインが出しゃばる。
「うるさいんだよね、それ。威力は中々だけどさー。僕がやるから黙って見てなよ、シグ君」
そして生き残っているオーガに手を翳すと……。
『ガ、カ……、オア……』
オーガはみるみるうちに痩せて、老いていき、やがて骨と皮だけになった。
エナジードレインレベル5、らしい。
「うええ、不味い、このエナジー不味い!ああ、三十代半ばくらいのお姉さんの生き血をちゅーちゅー吸って優しくエッチな事してもらいたい……、元気が出ない……」
自分でやっておいて何故かテンションが下がっているカイン。
「お前達、やる気がないなら私がやるぞ」
ヴィオラが立候補。
「やっちゃえヴィオラ」
「ああ、見ておけ、これが混沌の力だ」
混沌魔法とは、背反する光の魔法と闇の魔法の合成属性で、あのリヒトですら使いこなせない魔法らしい。
極彩色の光線がヴィオラの片手から放たれ、薙ぎ払われた。
『ギョエ!』『ギャッ!』『ギイッ!』
短い断末魔を上げて消滅するオーガ。
「原理が分からんのだけども何でこんな火力出んの?」
「私にも分からん」
分からんエネルギーをぶっ放すんじゃないよ物騒だな……。
ヴィオラは頭空っぽです。