朝起きた。
適当に手持ちの食料で料理を作って食べる。少な目に10kgくらいにしておく。
俺は旅人、風の向くまま気の向くまま流離う旅人だ。
だが、本日は珍しく予定あり。
寺子屋へゴー、だ。
まあ、特筆すべきこと特になし。
算数とのことだったんで、普通に算数を教える。戦前レベルに合わせなきゃならないところは少し手間取ったが、それだけだ。
「算数ってこんなに面白かったんだね!」「すごーい!」「たーのしー!」
と大人気状態だった。
「旅人!素晴らしい授業だったぞ!どうだ、正式に寺子屋の先生になる気はないか?」
「いや、俺は旅人、いついなくなるか分からない身だからね」
「そうか……、これからはどうするんだ?」
「取り敢えず、色んなことやってみるかね。何か仕事があればまた連絡下さいよー」
「ああ。夜は屋台をやるのか?どの辺でやるんだ?」
「大通りの辺りでやりますわー。あ、あとこれ、良ければお弁当です」
朝、チャチャっと作った木箱のお弁当を渡す。
「良いのか?お金は……」
「構いませんって。慧音さんみたいな美人は腹一杯食べなきゃ駄目なんですよ、幸せじゃなきゃ駄目だ。俺が許さない」
「そう、か。有り難くもらおう。夜も行くからな」
という感じで、慧音さんを窓口として、依頼された仕事をこなしつつ、夜は屋台を。
食材は十分にあるし、足りなくても外の世界に買いに行けば良いしで、問題なし。
さあやろう青空食堂。
大通りの空いてる場所にキッチンを展開、テーブルと椅子をそこらに置く。
今朝書いたメニュー(写真付き)をテーブルに置いて、さあ仕事だ。
物珍しさに釣られて人が来る。
「おう、兄ちゃん、何やってんだい?」
「店」
「……何のだ?」
「メニュー見ろや」
男相手なんで塩対応っすわ。
「お品書き、これか。……ほおー?外の世界の食い物も出せるのか?珍しいなこりゃあ。よし、それじゃあ酒をくれ、外の世界のやつを」
「どれ?」
「オススメはあるか?」
「んあー?おっさんなら、ビールかハイボールじゃねえの?」
これなあ、顔や仕草でなんとなくその人の好物を当てるの。
一流以上の料理人なら誰でもできる。
俺もできる。
「ビールか?!聞いたことはあるが、飲んだことはねえなあ……、じゃあ、ビールをくれ!」
「あいよ」
値段は大体1銭……、今の時代で言う所の百、二百円くらいで良いか。安くね?と思うかな?でも人里では、蕎麦なら一杯一、二銭で売られてたぞ。
ここ、幻想郷では明治初期頃で文化レベルが止まっているからな。
貨幣価値も一円が一、二万円くらいするし。
じゃ、仕事しようか。
中ジョッキのよく冷えたビールを出す。アサヒスーパードライである。俺の趣味だ。
「おお!これがビールか!……くぁーっ!!効くなあこりゃあ!美味いぞお!」
「お通しに枝豆だ」
「おお、ありがとよ。さぁて、お品書きは、と……、んー、沢山あり過ぎて選べねえなあ。あー、兄ちゃん、俺ァ晩飯まだなんだ。麦飯と、それに合う外の世界の食いもんをくれ。ビールに合うともっと良いぞ」
米にもビールにも合う食い物。色々あるが、唐揚げかね。
唐揚げ……、揚げ物は江戸時代くらいからあったが、鳥の唐揚げは戦後以降に流行ったんだよ。つまり、幻想郷にはない、と思う。
キャベツを切って、唐揚げを揚げる。
俺のアイテムボックスには、下拵え済みの食材がたくさん入っているからな。うん千トン単位で。
「おお、揚げ物か!何を揚げるんだ?」
「鶏」
「ほおー?鶏を揚げるなんて聞いたことねえなあ。美味いのか?」
「不味いもん人に食わせるかよ」
当たり前だよなぁ?
さあ、できた、食えやオラ。味噌汁と麦飯と漬物も食えや。
「おお、これが、唐揚げ……。いただきます、と」
二度揚げして、外はサクサク中はジューシーの唐揚げだよ。美味いに決まってる。
「……おおおー!!なんて美味いんだこりゃあ!!」
その声を聞きつけて、辺りで見ていた人々も次々と来る。
「ゲンさん、何食ってんだい?」
「やらねえぞこれは!俺んだからな!」
「い、いや、取らねえよ……。そんなに美味いのか?」
「美味えぞぉ!酒も唐揚げも最高だ!おお、この黄色い果実を絞るともっと美味え!」
「むむ……、おう大将!俺も飯まだなんだ、なんか作ってくれ!」
適当にメンチカツを揚げる。
「大将って柄じゃねえよ、旅人と呼べ。ほい、メンチカツ」
「お、おう。それじゃ、いただきます。ざくっ……?!!な、何だこりゃあ!なんて美味えんだ!!」
「そんなに美味えのか?」「いい匂いだ」「お、俺も!」
適当に在庫の食材を捌く。
「はい、ライスカレー、オムライス、エビピラフ、醤油ラーメン、肉じゃが、生姜焼き……」
五人くらいに分身して作る。
「おおー!」「妖術だ!」「すげー!」
不思議な妖術を使う、美味い、外の世界の酒と料理を出す飯屋。
雨天中止、開店時間は俺の気が向いた時。
屋台の名前は外来屋。
流行った。
それはもう、流行った。
「あっ!旅人が来たぞ!」「旅人さんよ、今日は店を開くのかい?!」「三日ぶりだ!」
「あー、はいはい、やるよ、やるから」
まあ、屋台の仕事で大人気で、一躍有名になれたしな。
それで、仕事の依頼も来るようになった。
順調、だが忙しい。
まあ、そんな訳で、噂の何でも屋旅人。
屋台には沢山の人が来る。
「あんた……、何やってるのかと思えば。随分な人気じゃない」
「おー、ここが噂の屋台か、霊夢?屋台ってか、青空食堂って感じだな。この音がする箱は分からないけど、これは電球で……、この椅子の材質も分からないなあ」
「魔理沙〜?キョロキョロしないの、みっともないんだから」
霊夢ちゃんと……、お友達かな?が来た。
「こんにちは霊夢ちゃん。お友達かな?」
「ええ、そうよ」
「は、はひ?」
ん?どうした?
魔理沙と呼ばれた金髪の女の子は、霊夢ちゃんを連れて離れた。
聞き耳<80>っと。
……「れれれ、霊夢!なんだあれ!物凄くハンサムじゃないか!」
……「そうね、顔も性格も良いわよ。女には弱いけど」
……「カッコ良過ぎだろ、反則だ!」
……「もう、だからどうしたのよ」
……「あんなカッコいい人初めて見た……、緊張する……」
……「平気よ、すぐ慣れるわ」
ふむ、そんなにイケメンか俺?APP18くらいだぞ?まだ人の領域のハンサムさだ。俺の知り合いにも俺と同じくらいのイケメンは多々いるしなあ。
「こんにちは、美しいお嬢さん。お名前を教えてくれるかな?」
「あっ、あ、き、霧雨魔理沙です❤︎」
「そうか、素敵な名前だね。本当に可愛いね、君は。好きになっちゃいそうだ」
「も、もう、そんな」
「俺は新台真央、旅人さ。君とは、仲良しになりたいな」
「ほ、本当?」
「もちろんさ、美人には嘘をつかない主義でね」
ちょろい。
「魔理沙ー、騙されちゃ駄目よ、女には誰にでもこう言うんだから、こいつ」
「そ、そうなのか?で、でも」
「ソンナコトナイヨー」
いや、美人にしか言わないから。
「さあて、お昼ご飯はー、と。うわ、お品書きが分厚い!あら?値段は?」
「俺の気分で決める。定食なら4銭くらいかな」
「いい加減ねえ……。ま、それくらいならまあ、懐も痛まない、か。さて、どうしようかしら」
霊夢ちゃんは写真付きお品書きを見て、熱心に選ぶ。
どうやら、大体どれでも4銭くらいと言う言葉から、なるべく高そうな料理を選ぶつもりらしい。
魔理沙ちゃんは、俺のことをチラチラ見ながら頬を染める。が、俺が見つめると慌ててメニューの方を見る。
「え?これ……、ビフテキ?!こ、これも4銭で売る気?!あんた馬鹿でしょ?!どう考えても採算取れないわよ?!」
「いいよ別に。霊夢ちゃんがお腹いっぱい食べられればそれで良いじゃん」
「ほ、本当?!後から値段を変えるのは無しよ?!」
「そんなことしないさ」
霊夢ちゃんはビーフステーキ、と。
「魔理沙ちゃんは?」
「えと、私はお刺身で」
「了解、と」
目の前に鉄板を出して肉を焼く。
刺身を切る。
「「おお〜!!」」
「お待たせしました」
「「早っ!」」
料理スキルやぞ。
「「いただきます!!」」
さあ、どうだ?
「んん〜!!おいひい!!こんな牛肉がたったの4銭だなんて!!」
「海の魚なんて久しぶりだ!幻想郷に海はないからな!!」
そうかそうか、美味いか美味いか。
二人はほぼ同じタイミングで食べ終えた。
そこに。
「デザートのアイスクリームです」
「こ、これって、あいすくりんじゃない!!こんな高級品……!!」
「サービスなんでタダで良いよ」
「流石に悪いわよ!」
「外の世界ではね、アイスクリームなんて一銭もあれば食べられるもんだよ。俺の懐は痛まないさ」
「う、本当?本当に良いの?」
「食べろ食べろー」
「じゃあ……、うわあ、甘くて美味しい!」
「あいすくりんなんて食べたことないぞ私……、お、おお、美味しい!」
あー。
美少女に美味いもん食わせるの好き。
楽しい。
生き甲斐。
シャオラ、明日も屋台やるかァ……。
明治の物価分かんねえええので適当。