八階層!
八階層からは、ディアーが出る。
ディアーは……、鹿?
日本の京都にいる鹿みたいな、そういうのじゃなくって、海外の……、ヘラジカみたいなのだ。
強そう。
日本にいた頃の私なら間違いなく逃げてたけど……!
「今の私にはチートがある!!」
『ブォォ!!!』
突進してくるディアーを、真っ正面から切り裂く!!!
「お、ディアーか!こいつも美味いんだぞ!」
イザベルさんが素早く捌いて肉を取る。
「これ、昼飯な!」
「イザベルさんは……、食べるの好きですね」
「おうよ!冒険者の娯楽は飯と酒と女だぜ!……まあ、アタシも女だから、楽しみは半減だな」
「えっ、ほら、イザベルさんってモテそうですし」
「ははは、馬鹿言うなよ〜!アタシみたいなガサツな女はモテねえよ!男ってのはカリーナみたいなのが好きなもんさ!」
そんなことないと思うけどなあ……。
「抱かれたことなんて一度もないよ!」
えっ、イザベルさん処女なんだ。意外。
「冒険者だからね、ガキなんてこさえちまったら商売上がったりだよ」
あ、そうだよね、子供ができたら働けないよね。
気安くそう言うことはできない、んだね。
あ、いや、したい訳じゃないけど。
「にしても、そんなことを聞くってことは、そう言うことが気になる年頃ってやつかい?」
「い、いえ、そんなことないですよ!」
「ははは!恥ずかしがるなって!勇者サマくらいの年頃の女はみんなそんなもんさ!」
「い、いえ、ほ、ほら、私はもう、その、恋愛とかそういうのは縁がないものなので……」
「何でだ?勇者サマは可愛い顔してるじゃないか」
「そ、そんなことないですよ」
モテませんでしたよ、ええ。
因みに、シンシアさんもカリーナさんも男の人とは縁がないらしい。
シンシアさんは研究ばかりしてきたので、カリーナさんは僧侶だから、だそうだ。
悲しい……。
それで、次は九層だ。
九層は……、特に何もなかった。
ラスト、十層!
ボスは……、ブラックウルフとウルフの群れだそうだ。
まあ、この程度なら問題ないよね。
みんなも余裕そうだ。
イザベルさんも、私よりは弱いけど、普通の人と比べたら何倍も強いし。
その辺りは魔力が関係してるみたいだけど……、詳しくは分かってないみたい。
でも、イザベルさんは、さっきの、ヘラジカみたいな、ディアーってモンスターの突進を受け止めてぶん投げるとかできるからね。
シンシアさんもカリーナさんも、非力そうに見えて、杖でゴブリンを殴り殺したりする。怖い。
そう、それで、ブラックウルフだけど。
ブラックウルフは、ウルフより一回り大きい狼で、鼻先から尻尾まで160cmくらいはありそう。
目はギラギラしてて、牙も鋭い。
それが、素早く襲いかかってくる。
ただの村人なら、対処できないと思う。
でもまあ、私達からすれば、そんなに強い敵じゃない。
魔法で足を止めて、インドキロスを一閃。
それで決着だ。
よし、終わり!
帰ろう!
「次は二十層目指すか?」
イザベルさんが提案する。
みんなもそれに従う。
そうだね、結構楽勝だね。
血とか臓器とかで私の精神がゴリゴリ削れるのを抜きにすれば、ガンガン進むのは悪くないと思う。
取り敢えず、ダンジョンを使って、一年間は訓練をすることに。
まあ、ダンジョンなら、最悪はこの「アリアドネの糸」を使えばいいしね。
この、アリアドネの糸は、ダンジョン限定で使える転移アイテムで、これを使えば一瞬でダンジョンの外に出れるようになっている。
錬金術で作り出されるアイテムで、割とありふれているみたい。
ダンジョンを攻略する人なら誰でも持っていると言われる魔道具だ。
これは消費型といって、一度使うとなくなっちゃうタイプの魔道具なんだけど、銀貨一枚と比較的安く手に入る。
使い方は、棒に巻かれた糸を引っ張るだけ。
今回も、十層から戻る時はこれを使った。
このアイテムがあるからこそ、ダンジョンの生還率は高くなるらしい。
よーし、次は二十層だ。
この世界に来てもう二ヶ月。
もっと頑張ろう!
×××××××××××××××
目の前の麻婆豆腐をレンゲで掬って、口に運ぶ。
ふむ、ジパングの柔らかい豆腐と、多めに入った挽肉、辛めの味付け。
これは美味いな。
向かい側に座るフルボがエビチリをスプーンで掬って口に運ぶ。
「んお、これは美味いですねえ!この辛さと、海老の甘さと、刻んだネギの風味が最高でさあ」
今日はビールと共に中華を楽しんでいる。
「で?どうだ?」
「いやあ、表の仕事の方はもう絶頂ですね。ただでさえ砂糖で儲けているのに、その上でダンジョンですからねえ」
ダンジョンができると、冒険者が集まる。
冒険者が集まると、武具や宿、飯屋、モンスターの素材を買い取る商人などが集まる。
人が集まると当然、金が動く。
つまり、ダンジョンは金になるのだ。
「あそこのダンジョンは百階層はあるぞ、まず攻略されないだろう」
「そいつは凄い。うちの表の兵隊の訓練にも使えまさぁ」
「裏の兵隊はどうだ?」
「旦那の人体強化術式で相当に強化されてまさぁ。ありゃとんでもねえ力がありやすね。その上、銃も持ってやすから……、冒険者ランクでBからAはあるでしょうねえ」
ふむ、そんなもんか。
担々麺を啜る。
ん、流石に美味いな。
わざわざシェオルの魔王城に、麗国の料理人を呼び出して作らせているからな。
俺が指導して、三十年間修行しただけあって、各国の料理人の腕は本格的だ。
材料の違いなどもあるが、この料理人の腕は本場の高級中華に勝るとも劣らない出来になっている。
餡掛け炒飯をスプーンで掬って食べるフルボが言葉を続ける。
「もぐもぐ……、でもまあ、人間の金なんてあっても使い道がないんですがねえ……」
「ふむ、そうだな、貴族相手に高利貸しでもしたらどうだ?」
「成る程!金を貸して、それで傀儡にするんでやすね!そりゃあ良い!面白そうでさ!」
フルボはこういう、『愉快な話』が好きだからな。
大変気が合う。
忠実な部下だよ、全く。
焼餃子をたれにつけながら、尋ねる。
「他の幹部連中は働いてるか?」
フルボは、シュウマイにからしをつけて、答える。
「ええ、みんなしっかり働いていやすよ」
ほう。
「風俗担当のベッラは、部下に公爵家の馬鹿息子をたらし込ませたらしいでさ」
「公爵家か、やるな」
「もぐっ……、ええ、まあ、公爵って言っても名ばかりの落ち目貴族ですがね。けど、その名前だけは有名ですから、せいぜい利用させてもらうとしやすか」
「もぐ……、そうだな、麻薬取引の隠れ蓑の一つにでもしておけ。そうしたら、バレた時にしょっ引かれにくいだろう」
「確かに、公爵家のスキャンダルなら、もみ消されるでしょうねえ、その案、いただきやす」
それで……。
「ヴィゴーレはまあ、傭兵としてそこらを回らせてやす。腕っ節は冒険者ランクでAを超えるくらいはあるんで、貴族の決闘だとかに使われてるそうでさ」
「まあ、あいつはそんなもんか」
「でもまあ、あいつはあれはあれで割とカリスマもありやすしね、傭兵共の中では最も有名になってやす」
「貴族は傭兵を使うことが多いからな。自分の兵隊を出し惜しみするんだよ」
「その分、ヴィゴーレが戦うんで、貴族共の武力はどんどん小さくなりやすねえ」
「貴族の兵隊は戦の経験も積めない訳だ。おまけに傭兵は談合もしている、と」
成る程な。
俺はビールを飲み干すと、給仕にもう一杯と頼む。
「で?金回りはどうだ?」
「コントが働いてくれてまさあ。会計は毎年の決算の度にデスマーチですからねえ……」
「休ませてるか?」
「ええ、この前はエデンにバカンスに行ったと自慢してきやしたね、あいつ」
「まあ、働き過ぎは良くないからな。他の連中も適度に休ませろよ」
「ええ、それはもう」
ふむ。
「技術の方はどうだ?」
「オペライオですかい?あいつはもう、休みを見つけてはエデンに行って勉強ばっかりしてまさあ。ま、仕事はちゃんとこなすんで文句はありやせんがね」
「ほう、そうか」
「この前は弩を作らせやした。うちの兵士に持たせようと思いやしてね」
「その程度なら構わん」
で、だ。
「賭博はどうだ?」
「ジョカトーレがかなり上手くやってやすよ。うちの領地の大カジノは連日馬鹿貴族共でいっぱいでさあ」
「そういやこの前、あいつとアルカディアの競馬場で会ったぞ」
「あー……、あいつはギャンブルとなると、胴元も客もどっちも喜んでやりやすからねえ。普段から仕事で賭け事をしてるのに、休みは人外国家でまた賭け事とは、よく分かりやせんねえ……」
「まあ、好きにさせておけ。あいつの賭け事の腕は確かだからな、負けて組織の金に手を出せば殺すだけだ。麻薬は?」
「ドローグがよく働いてくれていやすよ。あいつは熱意がありやすねえ。いやはや、若いって良いですねえ」
「暗殺は?」
「アササンもしっかり働いてまさあ。最近はアルカディアで狙撃を覚えてきたそうですよ」
「ほう、それは良いな」
「お、この杏仁豆腐、良いですねえ。コーンスターチでまろやかな食感になってるのが良い」
さて……。
「お前もたまには休めよ。何だかんだ言って、お前が一番働いてるんだからな」
「……ケケケ、ええ、休みやすとも。ありがとうございやす、旦那」
あー、あれだな。
現実世界にダンジョンが現れる話書いてます。
元経営者の喧嘩番長が、空間支配と物質コピーで無双する話。俺の大好きな人間の屑が無双する話になりそうです。
モンスターが溢れて崩壊した世界で、趣味でバイオハザード的な洋館を建て、美少女を可愛がりつつ、変なことを言う政治家をおちょくって、スローライフ兼バトル、みたいな。