ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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最初は気丈に振る舞っていた女の子が、心が折れて必死に慈悲を乞う姿が見たい。


56話 初めての野営

「おっし、今日はここで野営だ!」

 

野営。

 

キャンプ?

 

キャンプかー。

 

小学生の頃に、家族で一度だけやったかな?

 

その頃からオタクだった私は、外に出たくない気持ちが全開で、ノリノリで釣りに誘う父親がうざったかった記憶がある。

 

「勇者サマよお、落ち着いたか?」

 

「アッハイ、落ち着きました。ご迷惑をおかけしてすいませんでした」

 

「お堅いっての!勇者サマはもっとふてぶてしくしてろよ!」

 

「いや、その、ふへへ」

 

イザベルさん優しい、惚れそう。

 

イザベルさんに野営の基本を習いつつ、今日は休む。

 

外でおしっこしたり、地面で眠るのは辛い。

 

お風呂にも入れなかったけど、小まめに生活魔法のクリーンを使っているから、汚くはない、と信じたい。

 

それにしても生活魔法は便利だなあ。

 

火を起こしたり、水を出したり、清潔に保ったり、明かりを出したり。

 

生活魔法が使えなかったら、その辺の葉っぱでお尻を拭く羽目になっていたからね……。それは勘弁して欲しい。

 

 

 

焚き火をして、シチューと固く焼かれたパンを食べる。

 

おお、冒険者っぽい。

 

でも、美味しくないなあ……。

 

シチューって言っても、日本人が想像する、牛乳の白いシチューじゃなくって、塩味の野菜スープにベーコンを入れたもの、みたいな感じ。ポトフに近いかな?

 

うー、こんなことならお母さんに料理とか習っておけば良かったなー。

 

料理は正直、目玉焼きで精一杯だ。一般オタクJCに料理技能があると思うなよーっ!

 

料理が上手い女なんて幻想だーっ!

 

因みに、料理を作ってくれたのはイザベルさん。

 

凄いなー。

 

料理もできるんだ。

 

「ん?ああ、不味いか?」

 

「アッいえ、ダイジョブです」

 

「そうか?旅の最中は宮廷の料理みたいなのは無理だからな、悪いな」

 

「いえ、ホント、作ってもらえるだけありがたいんで」

 

「そうかい。いやあ、今回は途中途中で街や村に寄って食料を買う予定だからな。飢えて苦しむってこたぁねぇと思うぜ」

 

「アッハイ」

 

飢える、かぁ。

 

現代日本じゃ分からない感覚だよね。

 

……私、恵まれてたんだなあ。

 

 

 

「ごちそうさまです」

 

「それっぽっちしか食わねえのか?!大丈夫なのか?!ぐ、具合でも悪いのか?!」

 

「アッいえ、少食なんです」

 

「そ、そうなのか?!美味くはねえだろうけどよ、遠慮はすんなよ?!勇者サマくらいの歳なら、腹一杯食わねえと駄目だぞ!」

 

「アッ、善処します」

 

イザベルさん、うちのお母さんより優しい……。しゅき……。

 

女で良かった、男だったら恋してた!

 

……まあ、実際問題、あんまり美味しくないから、そんなにたくさん食べれない。

 

食事は1日2回みたいだけど、元々私は朝は食べないから、丁度良いくらいだ。

 

因みにイザベルさんは一人で三杯も食べていた。

 

うわあ凄い。あれだね、肉体労働の人はたくさん食べるもんね。

 

私の学校でも、柔道部の人とか、ご飯山盛り食べてたっけ。

 

「食える時に食っとかねえと駄目だぞ?」

 

「アッハイ」

 

うーん、スナック菓子とかならいくらでも食べられるんだけどな……。

 

 

 

「えっと、その、フェッソ伯爵?の領地に向かっているんですよね」

 

「ん?おお、そうだぞ」

 

「フェッソ伯爵って、どんな人なんですか?」

 

「んー、アタシは会ったことがないからなあ。ああ、でも、冒険者組合に寄付したり、教会とか魔法協会とかにも寄付したり、孤児院を建てたり……、兎に角、凄え人らしい」

 

へー。

 

「……ここだけの話、まともな貴族なんざ一握りだからな。フェッソ伯爵は、珍しい、ちゃんとした貴族なんだってよ」

 

あー、そうなんだ。

 

やっぱり貴族って悪い人が多いんだ。

 

テンプレだー。

 

「イザベルさん、ここには人がいないのでまだしも、人前で貴族の批判などは……」

 

とカリーナさん。

 

「分かってるって。アタシだって、そんなに馬鹿じゃねえよ」

 

ああ、貴族の悪口も駄目なんだ。

 

ナチスドイツみたいに秘密警察みたいのがいるのかな?

 

なんかこう、共産党?とかを捕まえたりするのかな?

 

うーん、政治とかは全然わからないけど、自分と違うことを考えていたり、自分よりお金をたくさん稼いだりしている人がいたら、邪魔したりしようと思うものなのかもしれないよね。

 

多分、その、フェッソ伯爵も、色々と大変な思いをしてるんじゃないかな。

 

 

 

×××××××××××××××

 

ブリッツが来た。

 

ブリッツは、レムリアの副王だ。

 

俺とブリッツは、食事をしながら、勇者を観察する。

 

「タコス?」

 

「タコスとは違うが。美味いか?」

 

「おいひい」

 

今回はチミチャンガを用意した。

 

揚げたブリトーだな。

 

俺はサワークリームやワカモレソースなどをたっぷりつけていただく。

 

ふむ、やはり美味いな。

 

辛党のブリッツはデスソースをたっぷりつけて。

 

「んー!ピリ辛!」

 

相変わらずおかしな味覚をしている。

 

一度、ハーピィ系に健康調査を行なったが、あれだけ辛いものを食べても胃腸に異常は見られなかった。

 

平気らしい。

 

「辛辛!」

 

「それは良かったな」

 

 

 

さて……。

 

「人間の野営だそうだ」

 

「ふーん」

 

ブリッツは、あまり興味がないらしい。

 

「なんだ、興味ねえのか?」

 

「そーだねー、興味自体はあるよ?」

 

ふむ。

 

「けど、まだ盛り上がりに欠けるよねー。ゆーしゃちゃんがある程度強くなった頃が面白そう」

 

「今はお話にならない、と?」

 

「そんな感じー。だってあんなの、私一人で皆殺しにできちゃうよ?」

 

「そりゃそうだろ。お前だって、腐っても世界最強の一角だ。『あの魔法』も習得しているしな」

 

「あー、あの魔法ね。あの、正確には魔法じゃないやつ。あれは辛かったよー」

 

「それに、各国の指導者クラスは、肉体改造や魔力増強の魔法で更に強化されているからな」

 

「まあ、そうだよねー、ゆーしゃちゃんじゃ逆立ちしたって勝てないかー」

 

と、カシスオレンジを一口飲むブリッツ。

 

「にしても、野営?アイテムボックスもなしに?」

 

「確かに、魔族の軍人は、その教育課程で必ずアイテムボックスを覚えるが……、まあ、人間には無理だ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。人間の魔法の理解度や、術式の誤りから見て、アイテムボックスを使えるのは人間全体の1割以下だな」

 

「でも、間違った知識を流してるのはご主人様の差し金なんだよね?」

 

「ああ」

 

「酷いなー」

 

「まあ、今は調節中なんだよ。一旦、人間のレベルを地の果てまで落として、今回の勇者の件から適当に調整する予定だ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、なにせあいつは、『インドキロス』の勇者だからな。クハハ」

 

「ふーん。じゃあそのうち、楽しい戦いができるかもしれないってこと?」

 

「ああ、そのうちな。それに、考えてもみろ。俺がいた世界があって、この世界があるんだ。他にも面白い世界があるかもしれないだろ?暇になったら、他の世界を侵略すりゃあ良い」

 

「へー、他の世界かー。なんだか楽しそう!」

 

 

 

「にしても、フルボはよく働いてんな」

 

「あー、フルボ?黒骸骨の?」

 

「ああ。今は伯爵だが、近いうちにフルボの息子に王族の姫君の一人を嫁がせて、侯爵に陞爵されるらしい」

 

「え?息子?あの人、子供いたっけ?」

 

「いや、いない」

 

「……?」

 

「フェイスチェンジの魔法と、一時的に外見年齢を変化させる魔法を駆使して、偽の息子を作り上げたんだよ」

 

黒骸骨のメンバーが偽家族を作っている。

 

「ほー。でも、嫁いできたお姫様はどうするの?」

 

「洗脳してこちら側の駒にする」

 

「一生飼い殺しかー」

 

それはそうだろう。

 

都合が悪くなれば病気ということにして毒殺すればいいしな。

 

「うーん、人間はかわいそうだね。人間ってだけで、ご主人様のサンドバッグになるんだもん」

 

「そうでもねえよ。人間国家でも、本当に有能な奴はフルボが拾ってくる」

 

「そうなの?」

 

「ああ。王家や、冒険者ギルド、教会、魔法協会、どこも上はクズばかりだ。そういうのは、フルボが上手い具合に傀儡にして、都合が悪くなれば処分する。そうやって運営してるんだよ」

 

「ふーん」

 

「……まあ、クズかどうかを裁定するのは俺なんだがな」

 

「それじゃ、気に入らない奴は皆殺し?」

 

「そうだな」

 

「わー、皆殺しだー」

 

しかし、そうだな。

 

「お前は嫌いか?人殺し」

 

「別にー?ご主人様が殺せって言うなら殺すけど」

 

そうか。

 

そういや、こいつらは別に人を殺すことが好きとかじゃねえのか。

 

だが、必要以上に嫌がることもねえな。

 

根本からして、人とは違う生き物ってことだ。

 

まあ、今や俺も人外だ。

 

「楽しい殺し合いはそのうち、だな」

 

「うん、楽しみにしてるね。……でも、今日は、ね❤︎」

 

食事を終えて、俺にしなだれ掛かるブリッツ。

 

「ああ、良いぜ」

 

楽しもうか。

 




魔剣の勇者は多分可愛らしい命乞いを見せてくれるでしょう。

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