「『勇者ラディアス』が来たぞーっ!!!」
誰かが叫んだ。
それと同時に、アスレッド軍の兵士十四人と騎士三人が、十秒もせずに叩きのめされ、その死骸が転がってくる。
魔法を纏わせた光る剣が、瞬く間に七度も振るわれて、盾を構えた騎士の腕ごと肉体を両断していく。
その辺にいる雑兵なんて肉盾にもなりやしない。薄氷の如く叩き割られて、粉々にされる。
正にそれは、鎧袖一触、と言うやつだった。
「ここは僕が保たせる。皆は逃げてくれ」
癖のないストレートなブロンドの髪を、短めに乱雑に切ったナチュラルヘア。
引き締められた碧眼には、燃ゆる勇気と正義感。
鼻筋が通り、唇は薄く、エラが張っておらず顎先がすうっと細い……、中性的な甘いマスク。
背はこの世界の平均より少し高めで170cm程度、細身ながらもしっかりと筋肉がある、二十代程度の、貴公子然とした好青年。
それが、青い金属の鎧を纏い、カイトシールド(中型の盾)を構え、ロングソードを掲げて、逃げる味方を鼓舞している。
あれが「勇者」……、勇者ラディアスか。
面白い、どれだけやれるんだ?
俺が半笑いで勇者の方を見つめていると、勇者はこちらを強く睨んできた。
「はああっ!『ライト・スラッシュ』!」
おっと、飛ぶタイプの斬撃。
剣に纏わせた光……いや、雷光かな?
そんな光るエネルギーの塊を、剣の振りに乗せてぶつけてきた。
俺は首だけ逸らして避けたが、狙いはロザリアだったらしい。
ロザリアは今、覚悟もなく戦場に出て来た間抜けなガキを殺す為、締め上げていたところだったな。
その腕に、光の斬撃が飛んできて、弾いた。
……ああ、なるほど。
子供を助ける為、ってことか。
まあ、勇者ならそうかね。
今時の子は、バーバリアンの方のコナンとか出されてもついていけんもんな。
原義的と言うか、昔の勇者は上半身全裸のゴリマッチョが勇敢に雄々しく戦う!とかだったんだけど、この勇者ラディアスというのは、剣と魔法を使いこなすタイプの、今風の勇者だ。
この世界の文化だと、どちらかと言うと前者のバーバリアンタイプの勇者の方が『勇者』っぽいんだがなあ……。
おっと、思考が傍に逸れていた。
真面目にやろうか。
勇者。
金髪碧眼のハンサム。
年齢は二十代前半から半ば程度。
若く、肉体的な全盛期でありながらも、戦士としての技量も高まり、成熟しつつある年齢だろう。
先程も見たが武器は、右手にロングソード、左手にカイトシールド。身体は、金属と革を組み合わせた混合鎧。
動きは……。
「行くぞ……、黒騎士!『アクセル・スピード』ッ!!!」
———魔法で加速して三連撃!
「……悪くないな」
そう、悪くない。
先程の、メイスと大盾の騎士より、一回り……いや二回り以上は実力が上だな。
装備している武具も、十段階で六番目。『卓越級』の等級はあるだろう。
毎回この『等級』を、俺達ヴォルスランドの民は口にするが、これはTCGのレベル表記とか攻撃力の数値みたいなもんだから……。
『パワー◯◯以下のクリーチャーを全て破壊する!』みたいに、武具や魔法の等級での足切りとかがあるから、意外と気にしなきゃならない尺度だ。まあもちろん、プレイヤースキルで覆せる部分も大きいが……。
とにかく勇者は、装備もアビリティも、ヴォルスランドでも通用するレベルだと思って良い。
さあ、十等級で最も上の『神話級』の武器である、『龍帝の大剣』で攻撃だ。
叩きつけるような大振りの振り下ろし!
地面が抉れ、衝撃波で周囲が薙ぎ払われる!
「ッ!」
しかし勇者は、それを斜め前に、俺の懐側に擦り寄るようにして避けると同時に、間合いを潰してきた。
頭の高さを変えずに、すり足のような要領での接近は、遠近感を狂わせる。
よく練られた「武術」の動きだ。
俺の大剣は、刃の部分だけでも2メートルはある。衝撃波のインパクトも、先端側で発生している。
懐に入れば容易い……、とでも思ったのだろうか?
大剣と同じく『神話級』の鎧、『龍帝の籠手』の、尖った指先を揃えて、貫手。
俺の戦闘スタイルは、大剣と、その隙を潰す「格闘」なんだよ!
このレベルのステータスから放たれる貫手は、冗談抜きで、騎兵のランスチャージを遥かに超えるぞ?
カルバリン砲か何かのような、猛烈な風切音。
その貫手を……。
「はあっ!」
盾で凌ぐか!
確かにな。強烈な一撃だが、横から逸らすように盾を添えれば、身体捌きと合わせて回避は可能か。
まあ、『卓越級』の上質な盾も、たった一撃で表面が抉れてヒビが入ってしまっているが、それでも防げたのは防げたと言えるだろう。俺の一撃を、だ。
上手いなあ、流石は勇者だ。
感心するよ。
俺は所詮、VRゲームを十年やり込んでいるだけの中年日本人で、この世界で基礎からがっつり剣技を学んだ戦士には、技量では敵わないってことか?
いや、そう言うよりかは、俺がこの勇者みたいな「明確な弱点のないバランス型」みたいな敵NPCを苦手としているってだけか。
俺はご覧の通りパワータイプで、ゴリ押しと工夫でどうにか凌いできた。
あまり、ちゃんとした剣士と剣で戦うのは苦手なのだ。
常に敵の虚を突き、思いもよらない技術や環境を利用した戦闘方法で翻弄するのが俺のスタイル。
俺の戦い方は、厳密には「戦士」のそれではなく、「ゲーマー」のもの。
んん、それも違うな。
今となっては……。
「『どんな手段を使ってでも勝つ』、ゲーマーの作法こそが、俺の信じる戦士の作法だ」
殺害不可NPC?何とかして判定を騙して殺せ!
ムカつくクエストギバー?報酬だけ剥いで殺せ!!
高レベルエネミー?グリッジを利用してでも殺せ!!!
それが戦士(ゲーマー)だ!!!!
俺は素早く、勇者が守ろうとしたガキ……ロザリアが殺そうとしていた奴だ、そのガキに剣を振り下ろした。
「お、お前ッ!!!」
すると、勇者はそれを守らざるを得ない。
「致命的な隙だぞ、それは」
俺は、隙を晒した勇者に、反転して刃を振り下ろす……!
本当はバルダーズゲート3やりたいけど、パスファインダーキングメーカーもクリアしてないし……。
インプットを最近していないので創作意欲が湧かないねえ。
魔法チートものを書くか……?いや、ゾンビもの……需要が……。
やる気が出ないのは寒いからだと思うんだけどなあ、俺もなあ。
あっそうだ、バイオハザードヴィレッジを買ったんでやっていいすか?いやいかん、ゾンビ物しか書けなくなりそう……。
皆さんも一度作者になると、「作品に活かす」という観点で物事を見始るのでよくないですよ、気をつけてくださいね。