アスレッド王都へ向かう道。
馬を待機させ、少し休憩。
「飲め」
「まあ、助かります」
アーデルハイト姫に水を飲ませ、倒木に腰掛けて少し休む。
「んくっ……、それでですね、騎士よ。わたくしは疑問に思うのです。何故、農民達に富はないのですか?何故、彼らは努力しないのですか?」
ごちゃごちゃ話しかけてくるなこいつ。
適当に返すか。
「農民は努力してるんじゃないかね。作物を売ったり、家畜を育てたりするのはそこまで儲からんから、頑張っても貧しいんだろうよ」
「なら、農民など辞めてしまえばよろしいのでは?」
「そうしたら、お前みたいな貴族も飯を食えなくなるだろうが。農業、畜産業、林業、鉄鋼業。この辺は国の基幹産業だぞ」
「……ああ!そうですね、わたくし達が食べるものも、農民が作っていますものね。あら?でしたら、そんな農民の方々から税を徴収するのは良くないのでは?」
「いや、税を徴収しなきゃ外敵から国を守れないだろ。農民は戦う力がないから、税を貴族に渡すことで守ってもらっている訳なんだから」
「なるほど、取引ということなのですね。わたくしは、農民は貴族の威光に自然と従うものだと効いていましたが……」
「威光?威圧の間違いじゃないのか?強い戦闘能力を持った貴族が出てくれば、戦う力のない農民は頭を下げて富を差し出し『殺さないでください』と言う他ねーよ」
「……そうだったのですね。これからは、贅沢を控えることとします」
「お前一人が贅沢を控えたところで、国家運営に差が出るほどの費用は浮かせることはできんだろうが。そんなことするくらいなら、新しい事業を始めようとする平民や、才気はあるが金がない絵師なんかの後援をして、雇用を作る方が良いんじゃねーの」
「雇用、ですか?雇用を作るとは?」
「そろそろ休憩は終わりだ。馬に乗れ」
「あっ、お待ちくださいー!」
適当に会話をして、アーデルハイト姫をあしらいつつ、先を急ぐ。
道中でモンスターが出たこともあったが、馬上から大剣を振るって両断する。
まあ、羆のモンスター位なら、一太刀で両断できるな。
大剣が余りにもデカ過ぎるので、片手で持って矛のような使い方をすることが可能なのだ。
因みに、大剣は、使わない時は馬体の横側にマウントできる留め具を付けている。
盾は使わないスタイルだ。
……さて、馬に乗りながら、頭の中で考える。
真面目な話だ。
事を整理しよう。
まず、この辺りは、大陸の北西部でアルザード地方と呼ばれるエリアだ。
東には大山脈、南には群島、北と西は海という土地で、気候は少し寒めであまり土地は豊かではない。
で、国関係だが。
この辺りは、ゾナ・アルザード大王国と呼ばれる、一つの国という扱いらしい。
アルザード大王という存在が王都アルザードにいて、そいつがここら一帯の盟主として君臨している、と。
そしてそれを、四つの王国が支えている……。
軍事国家のアスレッド。
貴族主義のグレイブルール。
重商主義のウィエローン。
中立国家のグリンバル。
そこに、アルザード大王国の属国として、三つの大公国がある。
差別主義のパップル。
階級社会のリンディコン。
資本主義のオーランゲル。
これら七つの国が、盟主たるアルザード大王を支えて、このアルザード地方に安定をもたらしていた……のが数年前までの話。
心臓病で急死した先代アルザード大王は、よりにもよって後継者を決めぬままこの世を去った。
慣例として、アルザード大王の息子である第一王子にアルザード大王の座が譲られたが……、この第一王子はあまり出来がよろしくない。
速攻で全家臣から見限られるような悪逆の大帝!とかではなく、ごく普通の暗愚、盆暗なのだとか。
だが、三つの大公国及び、アスレッドとグレイブルールは「どんな王であれど、誠心誠意仕えるのが臣下の役目!」とクソ真面目な思想でその盆暗第一王子に頭を下げている。
しかし、下げなかった奴らがいる。
有能と名高い第二王子が反旗を翻し、「盆暗第一王子にはついていけない」と判断したウィエローンとグリンバルが反乱を起こしたのだ。
つまり、このアルザード地方では現在、『内乱』が起きている……。
『反乱軍』は、間違った王政を糺すと息巻くが、先ほどご覧になった通り、女子供を暗殺して優位に立とうとするような連中だ。民兵特有の残虐さが出ているな。
しかし『正規軍』も、ばっちり腐敗しておりダメそう。アーデルハイト姫のお花畑加減を見ればよく分かる。
奇しくも、某社のオープンワールドゲーのような、どちらに味方をしても気分と後味が悪くなるタイプのアレだ。
やっぱり、母親の遺灰を持ってきたら十五分くらい待つべきなんだよな。
……まあだが、世の中ってそんなもんだろ?
フランス革命だって、「わるい王様をたおしてみんな幸せになったぞー!」なんて話じゃなかった。革命軍にも王党派にもそれぞれに正義があり、理があり、悪いところがあったはずだ。
アレは単に、革命勢力側が勝ったから、革命勢力側にとって都合がいいことを言っているだけで、「革命が起きたから何もかも幸せになった!」なんて、そんなアホなことはない。
要するに、この国は、大量の血を流して次のステップに進む時なんだろうな。そう言う時代だ。
どっちが勝ってもおかしくないし、どっちにも正義があるし悪意もある。
どっちの味方をするのも、俺の自由という訳だ。
ただ、俺個人の意見とするならば、『正規軍』に味方したいと思う。
『正規軍』は確かに腐敗しているが、それは逆に言うと、権力者側になった時には効率的に甘い汁を吸える立場になるということだからだ。
権力者の力を漸減させますよ、と。そんな事をマニュフェストに掲げる『反乱軍』に味方をすれば、苦労して『正規軍』を滅ぼしたとしても、得られるものは名誉だけ。
大体にして、貴族とその郎党が一手に握る官僚機構を破壊して、国家運営がまともにできるとは思わないんだよな……。
最悪、嫁らを連れて国外逃亡という手もあり得るので、とりあえず今のところはこっちに味方しておくか。
……はい、思考終了。
とっととアスレッド王都へ向かうぞ。
世界樹3が面白すぎる〜。
ダンジョンものが書けちゃうねえ!