俺はあらかじめ、暇な時間に安全っぽい魔法をちょいちょい試しておいた。
例えば、『召喚魔法』とかな。
正確に言えば、『移行魔法』なんだけどな。まあここは分かりやすく召喚と言っておく。
ヴォルスランドには、発現魔法、移行魔法、加減魔法、変性魔法の四種類で魔法は分類されているんでな。「回復魔法」だの「召喚魔法」だのは、俺が勝手に、便宜上そう言ってるだけだ。
まあ長い話は抜きにして結論から言えば、試した全ての魔法が使えた。
流石に、巨大な怪獣などは召喚しなかったが……、少なくとも、自分の『戦馬』くらいなら普通に、この世界に召喚できた……。
ぴい、と。
指笛を吹くと、ここに来るまでに乗ってきた馬が走ってくる……。
「ヒェッ」
貴族女の世話役、レオナの口から、死に際に出るような音が聞こえた。そんなに怖いか?まあ怖いわな、俺も若干引いてるもん。
現れたのは、この世界の馬の倍はある、大きな大きな黒い馬。
頭から二本の角が生え、ところどころに甲殻のような鱗のような器官があり、鬣や尾、足首などからは紅色の焔が噴き出して棚引いている……。
この明らかにヤバい、なんかラスボスが乗ってそうな馬は、『ネプチューン』。
俺の戦闘用の騎馬だ。
そんなネプチューンには、黄金飾りのついた馬鎧と鞍が装着されており、胴体の後ろ側には旅用の荷物も括り付けられていた。
『ヴルルルル……』
嘶きの声も低く、ひび割れており、馬というよりかはドラゴンの唸り声だ。
因みに雑食で、牙が生えていて肉も食う。と言うか人も食わせたことがある。
うん……、うん。
客観的に見るとまあ普通に怖いな!
しかし、弱い馬はすぐに潰れてしまう。俺の戦いについてこれないので無理なのだ。潰す前提で馬を買いまくるのは勿体無いし意味も無いので、騎馬というか騎乗動物はこう言うやつしか持っていない。
なので申し訳ないが、これに乗ってもらう他ないのだ。
「まあ!大きなお馬さんですね」
「おっ、おひっ、あ、アーデルハイト様っ、こ、これ、これは!」
なんかごちゃごちゃ言われる前に、俺はアーデルハイト姫とレオナを掴み、抱えて、ネプチューンに乗り込んだ。
「方向は」
「はっ、はいっ?!」
「アスレッド王都の方向は?」
「あっ、あちらです!」
レオナの言葉を聞いて、俺は手綱を操作し。
「行くぞネプチューン!」
『ヴガァァァ!!!』
アスレッド王都を目指した……。
……まあもちろん、本気で走らせたら同乗させている姫が死ぬので、普通の馬の駈歩程度のゆっくりしたスピードで移動していた。
しかしそうなるとやはり、こうして途中で野営をする必要がある。アスレッドは一日二日の移動で辿り着けるほど近くにはないからな。
野営では、レオナに小枝や松ぼっくりを拾わせて薪にし、俺はその辺の石を投げて鳥を仕留める。
で、鳥を解体して、干し野菜と煮込みシチューにし、そこにキノコのオイル漬けと乾燥ペンネで一皿主食を拵える。
カマンベールチーズとトマトのピクルス、チョコチップクッキーも添えて食わせるとしよう。
「ほら、毒見しろよ」
「あ……、ご配慮、痛み入ります」
レオナが何かを言う前に、鍋から直接匙で一口分掬って、食わせる。
アーデルハイト姫の口に入るものを毒味しないとかあり得ないもんな。毒味をさせろと言い出す前にさせてやる。
そして三十分後、レオナの体調に変化がないことを確認してから、アーデルハイト姫にも食わせる。
「あら……?!すごい、美味しいです!キノコのパスタと、鴨のシチューですね?」
「ああ」
「シチューは複雑な味ですね?これは何を?」
「デミ缶」
「でみかん……?聞いたことがない味付けですけれど、味わい深いですね!」
「美味しい食事もあることですし……、そうです!貴方、わたくしの視察について来てくださらないかしら?」
「視察?」
「ええ!わたくしは、民のことを知るべく、視察の旅に出ているのです!こうして地味な服を着て、最低限の供回りと共に各地を巡っていまして……」
最低限、ねえ。
シルクのドレスに高級馬車、騎士を六人も連れて?
テロリストがムカつくのは仕方ないか。
まあもちろん、俺としては、「権力者はそれ相応の生活をするべきだ」とは思っているが、テロリストになるような無学な人間からすれば、「貴族は我々から搾り上げた血税で遊んでばかりいる!」と、物事の負の側面しか見れないだろうな。
上流階級が上流の生活をすることで、雇用が生まれ文化が保護され国の格が高まり外交的に優位になり……、なんてことを、俺は地球人だったから考えられた。
あれだな、ほら……、人間の行動は、何が正しくて何が正しくないかなんて普通分からんからね。後世の歴史家が勝手にジャッジするもんだ。
結局のところ、やりたいことやったもん勝ちだろ。
「……ですから、わたくしはとても驚きましたわ。民は皆、貧しいだなんて!貧しいなら一生懸命に働けば良いのに、何故働かないのでしょう?」
「そーね」
「あ、そうでした。それで、わたくしの視察ですが……」
「ついて行くことはない。俺の仕事は、お前をアスレッド王都に送り届けることだ」
「ですが視察が……」
「じゃあ今すぐに対価を払えよ。金貨の詰まった袋でもくれりゃあ、すぐに視察とやらに連れて行ってやる」
「……?わたくしの供回りになれる名誉こそが報酬なのでは?」
おっと、ナチュラルに傲慢だなこのガキ。
「貴族家の当主でもないお前に仕えたところで、俺は何も得られない。家族を養うための金も、騎士の称号もな」
「ううん……、では、お父様から報酬を受け取ってくださいな?そうしたら、わたくしの供回りになってほしいです」
「それはお前の父親が決めることだろう。……だが、お前の父親がまともな頭をしているなら、強い戦士を娘の道楽に付き合わせようとはしないはずだ」
「なるほど……。そう言えば最近は、『反乱軍』?などと言うものが暴れているのだと聞きますね。お父様も、戦士は反乱軍との戦いに一人でも多く必要なのだとおっしゃられていました」
「そうだ、だから諦めろ」
「んん……、では貴方?その反乱軍と言うのを、早く倒してくださらないかしら?そうしたらわたくしと……」
「……対価を受け取れば戦うが。だが、反乱軍を皆殺しにするとなると、年単位かかるんじゃないか?」
「年単位……。それでは、遅いのです」
「はあ?」
「……わたくしも、そろそろ外国に嫁ぐのです。一度嫁げば、こうして自由に外を出回ることなんて許されませんから」
なるほどな。
人生最後のモラトリアム期間ってところか。
そりゃそうだ、こんな中世じみた世界で、貴族とは言え女に自由なんてある訳がない。
この貴族女のアーデルハイト姫も、そう思えば憐れな存在だ。
親の決めた好きでもない相手と結婚して子供を産み、それから一生、対等な友も真実の愛もなく、外国の城の中。籠の中の鳥になるのだから。
「わたくしは……、民がどう生きているかも、世の中がどのような仕組みになっているのかも、何も知りません。ですから、ですから最後に、知れることを知ってから嫁いでいきたかったのです……」
ふーん……。
「何にせよ、次はお忍びなどと言わずに、護衛をたくさん連れて行くんだな。死んだら自由もクソもねえぞ」
「ふふ、そうですね……」
世界樹2クリアしましたー!
早速世界樹3をやります。
軽く触った感じ、3はこれ、かなりやり込み要素ありますねえ!しかも俺がこの世で一番嫌いな周回プレイを要求されるとか?助けてくれ元老院。
でもこうしてやっていると、過去作のダンジョンものの続きが書けますねぇ!もう10話分書けたもん。
勇者編を終わらせたら、色んな冒険者と関わって、色んなクエストの様子とかを書きたいです!