ふぇえ……、一太刀で人間が弾け飛んで、世界そのものを切り裂いちゃったよぉ……。
と、子供のフリをして誤魔化そうと思ったが、まあ普通に無理だろうなと順当に悟り取りやめた。
一個人が剣を振り回しただけで壊れる世界の方が悪いのだ!と、逆ギレするのは楽だが、それは何も解決しない。
誰が悪いのかと必死に犯人探しをしようとする奴は、そいつに原因の過半数があるみたいなところはあるからな。やるべきことは八つ当たりではなく、建設的な意見を出すことだ。
さて、それで、その建設的な意見なのだが。
まずはこの、世界の修復だ。
現状、20m程度の裂け目が、空間そのものにある状態。
だがそれは、どうするか?と俺が頭を悩ませているうちに、じわじわと傷が修復されてきたので、ほっと胸を撫で下ろした。
どうせなら、バフ全開で、全力で剣を振るってみるか!などと思ったが、やはり思いつきで行動するのは良くないな。
ってか、俺悪くないんじゃない?バフ魔法やアビリティを使うほどの敵と出会えなかったのが悪い。つまり運が悪かった、誰も悪くなかった、はいこれでこの話はおしまい。
で、次。
蔓草の短剣団……とかいうテロリスト。
ばらけていたから全員は斬れなかったが、過半数は死体も残らずに爆散した。
斬撃と言うより、最早破壊レーザーと化していた俺の一撃は、人体程度じゃ何の抵抗にもならなかったらしく、有り余る威力で人体を消し飛ばしながら、世界そのものを破壊したのだ。本当に申し訳ない。
だが、俺が世界の傷跡を何とかしようとしている間に、カシュー団長含む生き残り達は逃亡してしまった。
まあ、テロリストの撃滅は俺の職務外なんで問題はないだろう。
「あ」
ってか、死体そのものが消し飛んじゃったから、戦利品を漁れないじゃないか!
ヴォルスランドでは、敵を消し炭にして灰にしても、何故かその灰からアイテムを漁れるのだが、この世界ではそうじゃない。
敵を消し炭にしてしまったら、何も得られるものがないのだ。
常識的に考えればそちらの方が正しいので何も文句は言えないが。
ヴォルスランドでは、ちょっとポーションを調合したり、ちょっとミスリルの鎧を拵えたりするだけで巨万の富を稼げたので、金銭面はあまり気にしていなかったのだが……。
この世界では、ヴォルスランドの金貨は使えないので、稼ぐ必要があった。
衣食住はMODの力でどうとでもなるが、土地と権利を買うためには金が必要なのだ。
……と、そんなふうなことを取り止めもなく考えてから。
世界のひび割れが半分ほど塞がったところで、俺は帰宅の準備を始めた。
もう大丈夫だろうからな。
「お、お待ちになって!」
おや?
……ああ、貴族の女か。
金髪碧眼、白肌の……地球で例えるならば北欧系に近い人種で。
髪を複雑に編んでいるのが特徴だな。
他人に髪を手入れされて編んでもらえる、金持ち貴族らしい、複雑な格好。
貧民は、男も女もシンプルなスタイルだもんな。身繕いをする時間がないから。
髪を何本にも分けて編み込み、まとめて、リボンと髪飾りで飾った綺麗な髪は、金持ちのステイタスってところか。
「助けてくださったのですね?!」
はあ?助けた?
「助けたつもりはない。俺は、戦士の風上にも置けないクズを殺したかっただけだ」
「それでも、わたくしは助かったので!よくやりました、見知らぬ騎士よ!」
え?礼を言うとかじゃなくて褒める感じなんだ。貴族だなあ……。
「そうか。俺は帰るぞ」
「お、お待ちを!」
お、今度はお付きの女か。
ブラウンの髪をした、シンプルなカーキーのドレスにエプロンを巻いた女だな。
更に、腰にレイピアらしき剣があり、それなりに剣の心得もありそうに見える。
護衛も兼ねているのかね?
確かに、クロスボウのボルトが飛来した時に、積極的に貴族女の盾になり、肩にボルトを受けていたからな。
出血した肩を押さえながら、荒い息を吐きつつ、お付きの女は言う。
「私は、アスレッド王家に仕えるレオナという者です!見知らぬ騎士よ、どうかこちらのアーデルハイト様を王都まで護衛していただけませんか?!」
あー?
あー……。
クエストギバーかこいつ?
いやまあリアル世界なのだろうからそう言うのではないんだろうが。
だが、クエストをくれる訳だろ?
そしてそのクエストは、アスレッド王家からの評価に繋がる。
すると、傭兵の等級も上がる。
……やっぱりクエストでは?
まあ良いや、ジャーナルを開いて、と。
×××××××××××××××
《怪しい依頼》
・蔓草の短剣団と合流する◯
・オプション:クエスト中、一人で行動する◯
・蔓草の短剣団と盗賊を退治する×
———クエスト失敗
《貴族の護衛》
・アーデルハイト姫をアスレッド王都まで護衛する
・オプション:世話役のレオナをアスレッド王都まで護衛する
×××××××××××××××
クエスト更新。
さあ、やるか。
「良いだろう。だが、報酬をもらいたい」
「もちろんです、理由を話せばアスレッド王は必ず報います。……ううっ」
そう言って、痛みに呻いて蹲る世話役のレオナ。
「大丈夫か?」
「わ、私のことは良いので、アーデルハイト様を……!」
「いや、この程度の傷なら、ポーションで治せるはずだ」
「ポーションをお持ちなのですか?!」
「ああ、治療しよう。まず、矢を抜くぞ。かなり痛いだろうが、我慢しろよ……」
「は、はい。……ゔうぅっ!!!」
レオナの肩に刺さったボルトを、ずるりと引き抜く。
すると、そこから大量の血が流れ出した。
俺はすかさずそこに水筒の水を流し込んで傷口を清めて、清潔な布を当ててから包帯を巻いてやった。
そして、効果が低めの回復ポーションを飲ませる。
もちろん、俺は回復魔法を使えるし、もっと良い回復ポーションも持っているが、手札を可能な限り隠す方針なので……。
「……ありがとうございます、とても良くなりました」
ん?ポーション、思ったより効いたみたいだな。
蒼白いを通り越して最早土気色だった顔に、朱色が差している。
ヴォルスランドの最低ランクポーションなのに、そんな効くのか……。
「それは良かった」
「それで、移動なのですが……」
数分後、立ち上がったレオナは、馬車の方を眺める。
……高価そうな馬車は見事に横転して破壊されており、馬は襲撃の際に驚いて逃げ出してしまっていた。
恐らくはポーションがあったのであろう、荷物入れも完全に投げ出され、破損している。
「どうしましょう……」
よし、なら、俺の馬を呼ぶか……。
世界樹2、クリアしました。
面白いね。