街では、俺達の噂がもう既に広まっていた。
そりゃそうだ、俺達は凄いペースで塩漬けにされている高難度依頼をこなしているからな。
特に、人口が少ないこの世界じゃ、ちょっとした出来事もすぐに広まる。
規模が違うからなあ。現代日本みたいに、国民一億人!戦争の時は何十万何百万人をうん兆円かけた兵器に乗せて大動員!とかじゃない。
街といえば一万人以下の人口で、歩って数日程度のところに人口数百程度の農村がポツポツと広がり、戦争でも動員されるのは農兵が百人かそこら。千人単位の軍は「軍勢」で、万を超す動員なら「歴史に残る大戦争」だ。
中世ヨーロッパ風ファンタジーだもんねここは。すぐに何万vs何万!とか言い始める人口バグのアジアとかいう地域を参考にするのは……やめようね!
それに、だ。
無敵の騎士とそのお供の美姫達ってのは、話題性も充分だからな。そりゃ、娯楽に飢えている市民からすれば、ネタにしたくもなる。
インターネットや漫画なんて当然なく、識字率も低いから、この世界の娯楽といえばちょっとしたボードゲームとか賭け事かとか、そんなもん。
そんな訳で、暇をしている市民は、話の種があるとすぐに食いつくものだった。
……まあ、暇と言っても、労働基準法もない世界なので、皆毎日休みなく仕事をしているが、それはそれとして、だ。
とにかく、街の住人全てに知られるくらいには、俺達は活躍していたってことだな。
「おお、おはようございます、騎士様」
「ああ、おはよう」
宿泊している宿屋の親父に挨拶をしてから、朝食だ。
朝食は、宿屋の設備を借りて、メイド長(一人なのに)のドロシーが作る。
設備と言っても、宿屋の一階部分の食堂にある、火を焚いている暖炉の熱でスープを煮ているだけだが。
無論、薪も鍋もこちらのものを使っている。
スープの具はトマトと玉ねぎ、セロリとキャベツ。オリーブオイルを垂らして油分を追加してあるので、濃厚な味わいだ。
そこに、白パンに焼いた鹿肉と葉物野菜を挟んだサンドイッチ的なものがつく。
それとチーズにゆで卵、ピクルスの類もだ。
「おはよっす〜」
「やあ、おはよう」
「おはようございますわ!」
仲間達がゾロゾロと、二階の寝室から降りてきて、好きなように食事をとる。
食後は、身嗜みを整えてから、傭兵ギルドへ向かう……。
「これは騎士様!先日はありがとうございました!」
「騎士様ーっ♡すてきーっ♡」
「おお、騎士様だ!」
すれ違う街人達に手を挙げて挨拶しつつ、傭兵ギルドへ。
ドアを開き、中へ入れば、木端傭兵共は慄きつつ道を譲る。
ギルドの受付の親父も、ピシッと身を固まらせる。
何故か?
俺が強いからだ。
強い上に、金にならないような仕事をやる、「騎士様」だからだ。
俺からすると、クエストをこなして街からの信用度を高めているだけなのだが、どうやら周りにはそう思われていないらしい。
ヴォルスランド、VRRPGの世界では、街の信用度と街人からの好感度のパラメーターにはある程度の相関性があった。
因みに、恩恵としては。
主人公が街の従士や騎士などの高い立場にあれば、街人からは無条件で尊敬されたし、多少の犯罪は見逃され、ともすれば街人を虐げたり殺しても理由があれば許された。
街人の好感度が高ければ、安値で物品を譲ってもらえたり、犯罪をした時に庇ってもらえたり、MODの効果だが性的な行為もできた。
そして、街人を助けて好感度を稼いで仲良くなり、その地の王の好感度を高めて、騎士に任命される、と。そういう成り上がりのプロセスがある訳だ。
だから俺も、ヴォルスランドと同じノリで、同じように人々の為に働いた。
我々、オープンワールドゲームのプレイヤーは、迷い猫探しからダンジョン攻略まで、クエストとあらば幅広くやるのが基本。そこに善意とかはほぼない。
しかし……、この世界では、どうやら勝手が色々と違ったらしい。
もっと、こう、常識に近い感じの世界っぽいのだ。
すると……、どうだ?
俺の行動は。
大体、箇条書きすると、こんな感じだ。
・街を脅かす盗賊団の討伐
・村外れのゴブリンの群れを討伐、しかも貧農の払った二束三文の依頼料で
・近隣の土地を呪うカタコンベダンジョンの浄化、間引き
・人喰い熊の退治、報酬は最低額
・逃げた家畜を捕まえる
・この辺りに足りていない鉄器を販売する
・子供達にお菓子をタダであげる
・少年に剣を教える
……聖人かな?
最低限の対価でどんな敵も薙ぎ倒し、かと思えば雑用のような仕事もこなし、人々に対して慈悲を見せる。
うん、聖人。御伽話の聖騎士様だ。
これを一週間でやったのだから、まあ、そうなるわな、と。
「騎士様、依頼なのですが……」
っと、そうそう、依頼だな。
依頼を受けに来たところなんだ。話を聞かねばなるまい。
「何だ?」
俺は、受付の親父の方を向く。
「本日は、同じ傭兵の一人が助力を求めているようでして」
「ふむ」
「その……、騎士様一人で来てほしい、と」
あはーん?
現実世界だから、クエストはないはずだ。
なのに、クエストが起きている……。
「それで?」
「傭兵団『蔓草の短剣団』が、騎士様一人を雇いたいと。カートマン村前を通る盗賊を退治するんだとか……。お受けしますか?」
「もちろん」
何事かは分からないが、クエストならばやるしかあるまい。
俺は手帳(ジャーナル)を開き、インクが湧く魔法の羽ペンで文字を書き入れた……。
×××××××××××××××
《怪しい依頼》
・蔓草の短剣団と合流する
・オプション:クエスト中、一人で行動する
×××××××××××××××
俺の金がないと、一般人の金がないはマジで格が違うからな。マジでないんだからな。
それはさておき、相変わらず書けない。
ダンジョンものをどうにか勇者編の大詰めまで書けたので、ここを抜ければあとは楽なんだがなあ。