ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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電車内あついよー。



9話 エンプロイメント・レディ

「誰だよてめーは。いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ」

 

ダニエルは、適当な言葉を反射的に返す。

 

百年間も宇宙空間を旅してきたダニエルは、会話が得意ではない。

 

独り言や会話文にほぼ区別がなく、その時その時で適当な言葉を……、ネットスラングなどを返してしまうのだ。

 

「そこを何とか!頼むぅー!!!」

 

さて、「新しい廉価版グリムギアの製作」のプロジェクトに関わらせてくれと頭を下げるのは、金髪の少女だった。

 

少女と言い切るには少し大人だが、女と言い切るには幼い。そんな年頃の女の子で。

 

殆どの人間が地中海系であるこのヴェリタ王国においては珍しい、白肌、金髪、碧眼。これらは、北欧民族の特徴。

 

そして、ヨレた作業服に金紋のある白衣を羽織り、腰に工具ベルトを巻きつけたこの姿は、この時代の『錬金術師』の証。

 

女の、それも比較的小国の北方民族の出の錬金術師というのは、かなりの「レアキャラ」というやつだ。

 

女としての外見は、黙っていれば美しい妖精のような女性であろうと感じられる。

 

だが、狂気に満ちたぐるぐる目と、裂けたような笑み、ボサボサの髪に、機械油で薄汚れた身体。これらによって、妖精のような美しさは台無しになっている。

 

その表情は、まさに、古典SFのマッド・サイエンティストそのものだ。

 

更に、耳が尖っている……。

 

つまり、エルフだった。

 

「何を対価に払えば良い?!金ならあるだけやるぞ!処女か?!処女もやるぞ!」

 

早口で捲し立てる北欧女。

 

「あー、良いっすねー」

 

相変わらず適当に返すダニエル。

 

「そうか?!よし!じゃあ、契約成立だな!」

 

話がまとめられそうになったところで。

 

「お待ちください」

 

ニアが横入りした。

 

「まず、貴方の名前は?」

 

「ん?ああ、すまん。興奮していた。私は、イルヴァ・イェーデルホルムと言う」

 

「ご職業は?」

 

「ドレイク帝国のウェンブリッジ大学を出て、今はこの街で自動車整備士をやっている」

 

「何故、私達に雇われようとするのですか?」

 

「ふざけているのか?あんなに素晴らしい人型兵器を増産するプロジェクトなんて、錬金術師なら誰でも参加したいに決まっているだろう?」

 

「……そういうものなのですか?」

 

「ああ、もちろんだ。まあ、世の中には、真理の探究よりも金稼ぎの方が大事だという錬金術師もいるが、そんな奴らは私から言わせれば二流だ」

 

「理解しました。ですが、守秘義務が」

 

「当たり前だろう、そんなもの。知り得た情報は、生涯他所に漏らすつもりはないぞ。技術が陳腐化したとかでもない限りはな」

 

「理解しました。では、契約書を作成します」

 

「や、雇ってくれるのか?!」

 

ニアは、ダニエルの方に目配せする。

 

それを見たダニエルは……。

 

「ん?俺は実務は全くできないから、形だけ立ててくれたのか?ありがとうな、相棒」

 

と、正直に答えた。

 

「マスター、それを口に出したら無意味かと」

 

「んん?あー、そうだな!まあ良いじゃねえか!とにかく、人が必要なのは確かなんだし」

 

「肯定です。では、契約書を……」

 

「ま、待ってくれ!人が足りないなら、私の一族も雇ってもらえないか?!皆、優秀な錬金術師なんだ!」

 

再度、深く頭を下げるイルヴァ。

 

異国の地で錬金術師とは、かなり辛い日々を過ごしてきたのであろうことが窺える。

 

まさに、絞り出すような声だった。

 

「良いんじゃないの?当面は金出せないけど」

 

また、適当に答えるダニエルだが……。

 

「マスター、無給ではいけません。健全な経済活動は重要ですよ」

 

「でも、実際、金なんてこの前貰った百万リールしかないだろ?」

 

「エスポジートファミリーの方に事情を説明して、融資を受けましょう」

 

「融資……ってのは、アレか!借金!」

 

「まあ、大体はそうですね」

 

「そ、そこまでせずとも、食事と寝床があれば私達は別に……」

 

イルヴァは、縮こまってそう言うが、ニアがそれを許さなかった。

 

ニアのデータベースには、無給で労働をさせることがどれほど非効率で無意味なのかを示す資料が山ほどあるからだ。

 

古のスパルタカスに始まり、近世の労働組合と続く、虐げられて、無理やり働かされてきた者達が最後はどうするか?と言うデータが。

 

故に、雇うのならば、借金をしてでも賃金を払う必要があると考えたのだ。

 

 

 

ダニエルとニア、そしてイルヴァは、エスポジートファミリーの館に入り、スパーダを呼び出した。

 

「よう!スパーダ!」

 

「こんにちは、シニョール・ダニエル。何用かな?まだ、ヒル・ジャイアントの解体は終わっていないが……?」

 

「ああ、それなんだが、ヒル・ジャイアントの死体で、何機か人型兵器を造ろうと思ってな!」

 

「なっ……?!!!」

 

「ん?どうした?」

 

「つ、造れる、のか?!軍の最新兵器である、マギアメイルを?!」

 

「んー、うちのは魔力ってのを使ってないから、正確にはマギアメイルとは違うんだが……、人型兵器が造れるのかって問いにはイエスと答えるぜ。あっ、この国だとスィ、と言うべきなのか?」

 

スパーダは眉間をぐっと押さえて、目を強く瞑る。

 

そして、しばらくの時が過ぎてから、再度口を開いた。

 

「……分かった。我々の業界では、人の過去を詮索しないのが暗黙の掟だからな。貴方の過去については何も聞かない。だが、いくつか質問しても良いだろうか?」

 

「構わんよ」

 

「まず、マギアメイルを作って、貴方は何がしたいんだ?」

 

「えー?うーん、傭兵団?」

 

「何故そんなことを?我々としても、そこまで組織を拡大しようなどと考えられると、警戒心を抱かなくてはならない」

 

「え?別に逆らわんよ?俺はただ、組織を拡大して生活基盤を盤石にしたいだけだし。俺以外にも人型兵器で周辺の資材回収をやってくれる部下がいると助かるじゃん?」

 

「貴方と奥方だけならば、充分な生活基盤を築けているだろう?人の一生は、そう長いものではない」

 

ダニエルは、「は?」と言った顔をして……、思いついたかのように、言った。

 

「あー!そっかそっか、この世界はサイボーグとかいないもんな!すまんな、スパーダ!俺達は人間じゃないんだ」

 

「人間、では、ない?」

 

「ああ、俺はこう見えて百歳は過ぎてるぜ。人間と生殖は可能だが、中身は人じゃなくてな」

 

「ハーフエルフ、か?」

 

「いや、サイボーグだが」

 

「すまない、サイボーグ?とは、どう言う種族なんだ?」

 

「うーん、そうだな。肉体の殆どを機械に置き換えた存在ってところか」

 

スパーダは、再び頭を抱えてしまった……。

 




実力隠しものなあ……。

ナーロッパでやるのと、現代日本でやるの、どっちが好き?

ナーロッパなら、チート能力で隠れて悠々生きよう!とするも、なんだかんだで貴族学校にぶち込まれてどうするか?みたいな話になる。

現代日本なら、異世界転移してチート能力を得たけど地球に強制送還!異様な力を隠しながらも上手く使って隠居生活をしよう!とするも、実は主人公が知らないだけで、地球でも裏社会でメガテン系やる夫スレみたいなことになっているぞどうすんだ?みたいな。


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